使用済み小型家電製品のリサイクル施設には、国内外のメーカーが長年にわたって生産した、種類、形状、寸法、材質、構造などが異なるさまざまな機器が集積しています。機器によって含有金属の価値、筐体の固定方法や電池の固定方法などの解体特性、リチウムイオン電池による発火などの取り扱い上の危険性が異なるため、まとめて一度に同じ処理を行うことは非効率であり、特性の近い機器を選別(グループ化)してそれぞれ異なる処理を施すことが合理的であると考えられます。こうした廃製品選別は従来から実施可能な範囲で行われていますが、現状は手作業による仕分けが主流であり、中間処理のコスト増大の一因となっています。
筆者らは2009-2012年に実施した科研費基盤研究(希少金属回収を目的とする廃小型電子機器の高度識別分離・選択粉砕システム)において、「廃製品自動選別」の概念を提唱し、当時開発していたARENNA(Appearance Recognition with Neural Network Analysis)ソータ (3D形状特徴量と重量をセンシングしてニューラルネットワークで種類を識別する自動選別装置)によって、使用済み携帯電話をレアメタル(タンタル)の含有量が異なる2グループ(「2004年度以前に発売された3G携帯」と「2005年以降に発売された4G携帯」。後者では原料コスト増によるメーカの設計変更によりタンタルコンデンサの使用数が大きく減少している)に自動選別可能であることを実証しました。
本研究では、このような廃製品(とその部品類)の自動選別をさらに高度に行う手段として、ベルトコンベヤ上を流れる廃小型デジタル家電6品目(スマホ、携帯電話、デジカメ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、小型タブレット端末)、解体後の部品モジュール(電池、基板、筐体等)、廃プラスチック、金属スクラップを対象に、3D画像、3D形状特徴量、2Dカラー画像、重量、近赤外吸収スペクトル、誘導起電力等をセンシングし、独自開発のAI解析によって品目、型番、部品種別等を識別し(型番情報に基づいてデータサーバにアクセスして登録情報から後段の自動解体工程を瞬時に選択する)、その結果に基づいて、電磁パドル、スラットコンベヤ、ロボットアーム等を動作させて振分・回収を行う、自動選別システム(ソータ)を開発しています。
こうした機械学習方式に基づくソータ開発では、識別用AIの汎化性能(訓練データに対してだけでなく未知データを上手く予測する性能)の最大化が高機能化の鍵と言えます。筆者らは複数種類センサの検知データを融合して対象物の特徴をより明確化した後、AIに入力するアプローチを取り、 選別目的に応じた必要最小限のセンサ構成及び効率的なデータ管理方法に関する知見の獲得と独自開発装置による実験検証を進めています。
開発装置写真 上左:廃小型デジタル家電製品自動選別システム(製品ソータ)、上右:廃部品モジュール自動選別システム(深層学習利用型モジュールソータ)、下左:廃部品モジュール自動選別システム(ARENNAソータ改良型モジュールソータ)下右:産廃プラスチック自動選別システム(フィールドピックアップ(FP)型AIソータ)
廃小型家電製品の選別工程を完全に自動化するには、識別用AIの構築の他にも解決しなければならない課題があります。現在、リサイクル現場で用いられている廃棄物ソータにおいて、識別後の機械的な振分機構については、搬送コンベヤの後端部にエアジェット(エアガン)や電磁パドルをベルト幅方向に複数台設置し、コンベヤ上を並列で流れる物体の進行方向に対して前後方向に2分割(もしくは前方に落下中の物体に追加の作用を加えた3分割)するのが一般的な形態となっています。一方、本研究の廃製品選別工程では、一度に少なくとも6種類以上に識別するため、廃製品群をコンベヤ上に「一列縦隊」で供給し、コンベヤ側方に多段に設置した電磁パドルを個々の廃製品に対して適切なタイミングで動作させて横方向に押出すことで、廃製品を異なる位置に落下させる振分機構を用いています。この「一列縦隊」については、飲料工場の生産ラインを流れるボトルなどを想像していただくとわかりいやすいですが、本研究で扱う廃製品は上述のデジタル小家電6品目に限定しても、大きさ、形状、厚さ、表面の凹凸などの特性が非常に多岐にわたるため、個々の製品の間隔を一定以上に保ちながら「一列縦隊」でコンベヤ上に自動供給することは容易ではありません。
本研究では、ホッパーに貯蔵した多種多様な廃製品(デジタル小家電6品目もしくは同程度の大きさの廃製品)を閉塞させることなく単品に近い状態で切り出してコンベヤに自動供給する「単品排出機構」、ならびに、コンベヤ上を流れる廃製品の「整列状態」を3D画像解析によりリアルタイムで判定し、後段の製品選別に適した配置になるように不適状態(重なり、間隔不良、倒立など)の廃製品をロボットアームの掃出し動作で排除するとともに、排除品を循環コンベヤを経て単品排出機構に再供給する「自動整列機構」を開発しています。
開発装置写真 上左:単品排出機構(非対称トレイ搭載振動フィーダ)、上右:単品排出機構(搬送路改良型ボウルフィーダ) 、下左:自動整列機構外観、下右:自動整列機構制御プログラム(PC画面)
この成果はNEDO委託業務「高効率な資源循環システムを構築するためのリサイクル技術の研究開発事業」、同「革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発」で得られたものです。
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