ORCID iD https://orcid.org/0000-0003-1222-2578
E-mail:otsubo-m*aist.go.jp(*を@に変更してください)
解説記事 ふしぎのひみつきち 62 大地のズレを起こす力が毎日小学生新聞に掲載されました.
コラム 断層粘土で作ったお猪口たち(Fault gouge Cups)をアップしました.
コラム 学会で観てもらえる・聞いてもらえるポスターを作るには?をアップしました.
- 構造地質学・構造物理学・ジオダイナミクス
- 1997年3月 福岡県立八女高等学校 卒業
- 2001年3月 琉球大学理学部物質地球科学科 卒業
- 2003年3月 琉球大学大学院理工学研究科物質地球科学専攻 博士前期課程 修了
- 2006年3月 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻 博士後期課程 修了
- (指導教官:山路 敦教授,web)
- 2006年3月 博士(理学) (京都大学)
- 2006年4月〜 産業技術総合研究所 研究員
- (2009年10月〜2011年3月まで経産省原子力安全•保安院放射性廃棄物規制課に出向)
- 2011年10月〜 同研究所 主任研究員
- 2017年3月〜2017年12月までアメリカ地質調査所 (メンロパーク,米国)で在外研究)
- 2022年10月〜 同研究所 上級主任研究員
- 2022年4月〜 同研究所 地質変動研究グループ長(現職)
- 2021年4月〜 日本大学文理学部 非常勤講師
- (集中講義:茨城大学,高知大学,静岡大学)
- 私たちが生活している地球では,絶えず地震活動や火山活動が活発に起こっていて,その結果地盤は隆起したり沈降したりしています.地殻変動の結果である自然に対して,「なぜそこに山があるのか?」,「なぜそこに谷ができるのか?」,「なぜそこに川や海があるのか?」「目の前の地形は今後どうなっていくのか?」等の素朴な疑問を持つことを大事にしながら,断層活動,火山活動,隆起沈降などの地殻変動に関する研究に取り組んでいます.アプローチとして野外調査と数値解析をメインとしてます.特に... A 地表と地下の地質環境の統合的理解 >> 地表と地下をつなぐ
B 現在の変動場を過去にふり返る >> 現在と過去をつなぐ
C 長期的変動と短期的変動をつなぐ >> 地質学的情報と地物学的情報をつなぐ
を問題意識として以下の研究テーマに取り組んでいます(活断層・火山研究部門ニュースレター vol.2 no.1 (2015年4月発行)で一部を紹介).
- 沈み込み帯でのダイナミクスの統一的理解
- 長時間スケール(10万年〜100万年)での変形場の移動の理解
- 既存断層の再活動性の評価
- 応力テンソルインバージョンにる地殻応力場の理解 (露頭,コア,地震メカニズム解)
- 地形データを使った地殻変動による地形発達の理解 (e.g., DEM)
- クラック解析による断層帯周辺での強度不均一性の理解
- 断層帯周辺での応力-亀裂-流体移動の理解(学術変革領域A「Slow-to-Fast地震学」に参加)
- 掘削科学への参加(IODP Exp. 348, 358, NanTroSEIZE)
- 断層粘土でお猪口作り(トピックスとして紹介)
1. Stress tensor inversion (Geological and seismological fault data)
「地震メカニズム解からの逆解析による地殻応力場の時空間不均一の検出手法の提案(Otsubo et al., 2008, Tectonophysics)」PDF
応力逆解析は,多数の断層データから逆問題で解くことによって,それらを動かした地殻応力を求める方法です.地震学分野では,発震機構(focal mechanism)から断層データを得ることができます.これらのデータを逆問題で解くことで,現在の地殻に働く応力状態を推定することが可能です.近年,広帯域地震波形を使ったモーメントテンソル解析がルーチンワークとなり,中規模地震の発震機構も比較的容易に得ることができるようになってきました.ここでの研究では,近年発展してきた地質学分野での応力逆解析に関する成果を用いることによって,発震機構(focal mechanism)から得た断層データを用いて現在の地殻応力の時間的もしくは空間的な不均一を推定できる手法を示しました.この応力逆解析手法は,京都大学山路研究室からダウンロードできます.応力逆解析を学びたい時は以下の文献を読むことをお勧めします.
山路 敦 (2001) 新しい小断層解析. 地質学雑誌, 107, 461–479. PDF
キーワード:地震,応力テンソル,断層,クラスタリング
「断層条線から読み解く地震時での断層すべり方向の変化(Otsubo et al., 2013, Tectonophysics)」PDF
2011年4月11日に福島県いわき市で発生した地震(福島県浜通りの地震,マグニチュード6.6)は2011年東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)の発生の一ヶ月後に発生した正断層型の内陸地震でした.この地震では地表に2mほどの食い違い(地表地震断層)が露出しました.この地表地震断層に関する緊急野外調査の結果,私たちはこれらの断層の断層面には,断層すべりの痕跡である断層条線(Slickenline)が「逆くの字」に曲がっていることを複数露頭で認めました.一般的に直線状となる断層のすべりの痕跡が逆くの字に曲がることは珍しく,これは断層のすべり方向が途中で変化したことを示します.この原因として,(1)断層すべりが高速であったたための擾乱によるもの,(2)もともとの地殻応力レベルが小さい(差応力が小さい)ために断層活動時の応力解放による応力擾乱が勝ったためによるもの,などが考えられます.今回のいわきの地震以外にこのような断層のすべり方向が途中で変化したことの報告は,
- 1995年兵庫県南部地震(兵庫県淡路島野島断層,横ずれ断層)
- 2008年Wenchuan地震(中国四川省龍門山断層,逆断層)
などがあります.
キーワード:断層崖,正断層,条線,内陸地震,応力変化(擾乱)
「地形発達度合いから推定される歪み集中帯での短縮変形場の移動(Otsubo et al., 2016, Quaternary International)」PDF
新学術領域研究(平成26〜30年度 領域番号 2608)「地殻ダイナミクス-東北沖地震後の内陸変動の統一的理解-」(http://cd.dpri.kyoto-u.ac.jp)の一環で得られたものです.日本列島で有数の活動的な地域である,活褶曲が認められる日本海東縁地域を含む歪み集中帯に対して,その地域での褶曲地形の発達度合い(稜線と褶曲軸の位置のずれ量)に注目しました.この地域の標高500m未満の丘陵は活褶曲の成長によるものです.褶曲地形が発達中であれば稜線と褶曲軸の位置のずれはほとんどありませんが,褶曲地形の発達が低調になると,侵食作用が優勢となって,稜線と褶曲軸の位置のずれが大きくなります.この発達度合いの空間的な分布から地殻短縮場(褶曲発達場)の移動を明らかにし,この地域では千年~1万年スケールにおいて地殻応力の場が一定においても断層活動場が移動する(褶曲発達場が移動する)可能性を示しました.つまり,地下の断層の活動場も規則的に移動していると考えると,それら断層の将来の活動場を推定できる可能性があります.このことは断層活動場の長期的な安定性を評価するためにも重要です.
キーワード:侵食,活褶曲,逆断層,断層関連褶曲,東北日本
「プレート境界付近に存在する水は地震後も高い圧力を保持(Otsubo et al., 2020, Scientific Reports)」PDF
アメリカ地質調査所(USGS)に2017年に1年間留学した際の研究成果です.プレートの境界付近に存在する水圧の上昇は地震に直接繋がることが知られています.ひとたび地震が起こると,岩石に形成される亀裂を通じた排水でプレート境界付近の水圧が低下し,その後,亀裂が閉じると水圧が徐々に上昇すると考えられます.再び水圧が上昇するまでに一定の時間がかかりますが,地震後に下がる水圧の実際の変化量や,次の地震に向けて再び水圧が上昇するまでの時間はよく分かっていませんでした.宮崎県延岡市の海岸で露出している延岡衝上断層は,巨大地震が発生すると考えられている地下約8 kmの南海トラフのプレート境界付近の様子に類似しているとされています.この延岡衝上断層周辺で800枚程度の石英脈(過去の岩石内の流体移動の化石)の向きや長さと幅を測定しました.なお,これらの石英脈が埋めている亀裂はずれを伴わない引っ張り亀裂でした.今回,地下深部の水圧の時間変化を,引っ張り亀裂の向きのばらつきや亀裂の長さと幅の割合(亀裂の縦横比)が亀裂中へ流れる水圧と相関がある亀裂モデルで計算した結果,地震後の水圧は従来のモデルよりも減少しておらず,その後,時間をかけて上昇することが明らかになりました.この成果は巨大地震の発生予測におけるプレート境界付近の水圧状態の長期モニタリングの重要性とその調査の枠組みを示すものといえます.関連する先行研究としては,
- Sibson (2013, Tectonophysics)
(海溝型地震前後のプレート境界での流体圧の時間変化について)
- Saishu et al. (2017, Scientific Reports)
(地震発生深度での石英脈の析出時間について)
- Gudmundsson (1999, Geophys. Res. Lett.)
(亀裂の縦横比と亀裂中へ流れる水圧の相関について)
などがあります.
キーワード:石英脈,応力,亀裂,間隙流体圧,海溝型地震