有珠火山関連情報

有珠 火山研究最前線

topic: 3/31日には4〜6万トンのマグマが噴出していた


| 噴火情報 | 活動履歴 | 研究最前線 | リンク集 |

地質・岩石・地球化学的手法で明らかになりつつある 3月31日噴火
 〜3月31日噴火で噴出した 火山灰/軽石の正体〜

                2000年4月19日 地質調査所

★はじめに★

有珠山2000年3月31日の噴火では、噴火前から地震・地殻変動量が観測され、ま
た噴火の一部始終が撮影され、さらに既に噴出物の分布や量が特定されている。
これら数々の独立したデータと併せて、3月31日の噴出物構成物質の岩石学的特
徴を加味した総合的検討を早期に行うことは、今後の有珠山の活動予測をより確
実にする。とりわけ噴出物中の本質物質の量は、現在のマグマ活動を理解するた
めの重要な情報である。そこで、地質調査所は、顕微鏡(光学・走査電子)観察、
化学分析(ガラス化学組成・磁鉄鉱化学組成)、および同位体比分析(酸素)結果に
基づいた検討を行い3月31日の噴火で放出された降下火山灰構成物質の起源を明
らかにした。
有珠火山噴火チーム速報 (地調)
噴火開始後1分毎の連続写真(PDFファイル) (by 風早@地調)
サイロ展望台からみた噴火推移の画像 動画あり (by 川辺@地調)
サイロ展望台からみた噴火の30倍速動画 (撮影 風早@地調)
★結論★

有珠山2000年3月31日の噴火で放出された降下火山灰の約半分と降下軽石は、現
在有珠山の地下で活動中のマグマに直接由来した、すなわち本質物質である。
3月31日の噴火は、比較的多量のマグマ成分が関与するタイプのマグマ水蒸気爆
発であった。


★根拠★

3月31日の噴火では降下軽石(Us-2000pm)および火山灰が噴出した。顕微鏡(光学・
走査電子)による観察の結果、火山灰の構成粒子には、既存の山体由来と思われ
る岩片・結晶片に加えて、二種類の火山ガラスが含まれることが、既に判明して
いる(既に報告済み)。以下、火山灰中の火山ガラスのうち比較的微結晶に富むも
のをUs-2000g、微結晶を含まずより珪長質なものをと呼び、T、Us-2000pm、
そしてUs-2000gが本質物か否かを検討する。
火山灰の実体顕微鏡写真と走査電子顕微鏡写真(二次電子像) (星住@地調)
火山灰の走査電子顕微鏡写真(反射電子像) (宮城@地調)
まず、本火山灰中に少量含まれるガラスは、洞爺火砕流の組成と一致する(既
に報告済み)。有珠と洞爺の2つのマグマ系列は化学組成から明確に識別可能で
あり(添付資料1を参照)、有珠火山噴火において洞爺火砕流と同一組成のマグ
マが噴出する可能性は、過去一万年以上続いてきた有珠火山のマグマ系列(供給
系)が1977-78年噴火以降のわずか20年程度の間にまったく作り替えられない限り、
考える必要が無い。よって、Tは洞爺火砕流軽石の破片である可能性が高い。
火山灰構成粒子のガラス化学組成 (宮城@地調)
次に、Us-2000pmおよびgのガラス化学組成の分布を調べると、Us-b, Us-IIIa,と
は明確に区別できるものの、Us-1977-I, Us-1977-IIIとは重なり合う(既に報告
済み)。酸素同位体比でも、Us-b, 洞爺軽石、Us-2000pmは明確に区別できるが、
Us2000pmとUs-1977-II, -IIIは類似している(既に報告済み)。一方、磁鉄鉱化学
組成をみるとUs-2000pmはUs-1977を含む1663年以降全ての有珠噴出物と区別でき
る(報告済み資料に情報を追加 添付資料2)。したがってUs-2000はUs-1977とよ
く似るも非なるものである。また、Us-2000pmとUs-2000gは、鏡下における特
徴とガラスおよび磁鉄鉱の組成も互いに一致する(添付資料3)。
軽石中の磁鉄鉱の化学組成 (東宮@地調)
火山灰中の磁鉄鉱の化学組成 (宮城@地調)
噴出した軽石と他の噴出物の酸素同位体比比較 (リンク先準備中) (by 佐藤@地調)
有珠では地質調査が良くなされているので、現在把握されていない1663年以降の
降下火砕物は存在しないと考えてもよいだろう。すると、Us-2000pmおよび
Us-2000gは、既存の軽石とは性質を異にする、すなわち今回活動中のマグマに由
来するものであると結論される。

3月31日のマグマの総噴出量は、火山灰の総噴出量75,000トン(地調見積)〜
110,000トン(火山灰合同観測斑見積)の半分、4〜6万トン程度と考えられる。
火山灰の降灰分布 降灰量 (地調 北海道支所)
火山灰の降灰分布 と 降灰量 (有珠山噴火火山灰合同調査斑)

  補足:
    本報告で観察した灰(水洗により約>0.03mm部分のみ)では、Us-2000g含有率
    は約五割だが、この比率が必ずしも細粒部分で保たれる保証はない。また
    Us-2000pm量の見積もりも不十分であり、現段階では、おおまかに噴出物の
    約半分程度と見積もるのが妥当だろう。


★今後の課題★

Us-1977とUs-2000の化学組成と酸素同位体比組成が似ていることは、今回の噴出
物が先の噴火の出残りマグマに由来する可能性を示唆している。さらに詳しく研
究する必要がある。

本質物にはよく発泡したものが多く、マグマは地下水に接する以前に自ら破砕し
ていた可能性が示唆される。マグマの破砕上昇過程について更なる分析検討を行
う必要がある。

また、3月31日以降放出された火山灰および今後の噴出物についても、本報告と
同様の調査を行う必要がある。それによって、地下のマグマ活動状態の時間変化
を推定するための糸口がつかめる可能性が期待できるからである。



★添付資料:観察事実およびその帰結のリスト★


----1----
観察手法:
文献調査

観察事実:
有珠火山の全岩化学組成(Oba et al., 1983)と洞爺火砕流の全岩化学組成
(Ikeda et al., 1990)とを比較すると,両者が異なるマグマ系列であることが
分かる.有珠火山マグマは日本の火山の中でも最もK2Oに乏しい系列に属してお
り,同じSiO2量で比較した時,洞爺火砕流の半分程度しかK2Oが含まれない.

結論:
有珠と洞爺のマグマ系列は明確に識別可能である.

  補足:
    1977-78年噴火以降の20年程度の間に地下のマグマ供給系がまったく作り替
    えられない限り,有珠火山噴火において洞爺火砕流と同一組成のマグマが噴
    出する可能性は考える必要が無い.



----2----
観察手法:
Us-2000pmの磁鉄鉱組成のEPMA分析

観察事実:
Us-2000pmの磁鉄鉱組成の範囲は,1663,1769,1822,1853年のいずれの軽石中の磁
鉄鉱の組成とも重ならない.一方,1977-IIおよび1977-IIIの範囲に近いが,こ
の2つはバイモーダルな組成分布をするのに対し,2000pmはユニモーダルである.
更に,Us-2000pmの磁鉄鉱組成のzoning profileは1977-IIおよび1977-IIIのもの
とは一致しない.

  補足:
    1977年軽石には,Us-1977-I,II,III,IVの4つのユニットが知られている.
    しかし,3/31噴火火口付近ではUs-1977のうちIIとIIIが厚く,I,IVはほとん
    ど無い.また,Us-1977-I〜IVの化学組成(全岩組成)はかなり均質であり,
    色(白〜灰色)や発泡度に関わり無く,SiO2量にして1%程度の範囲内であ
    る.ゆえに,2000pmが1977のリワークであるかどうかの検証には, 
    1977-IIと1977-IIIのみを調べれば十分である.

結論:
Us-2000pmは,有珠で知られているいずれの軽石とも異なるものである.

----3----
観察手法:
2000年3月31日の降下火山灰中の磁鉄鉱組成のEPMA分析

観察事実:
Us-2000gガラスに取り囲まれた磁鉄鉱の組成はUs-2000pmのそれと一致する。
Us-2000gガラスに取り囲まれた磁鉄鉱に比べて、単独で存在する磁鉄鉱は
組成のばらつきが大きく、Us-b降下軽石中にみられる苦鉄質包有物中の組成
ににている。

  補足:
    これらは1663,1769,1822,1853年のいずれの軽石中の磁鉄鉱の組成とも重な
    らない。一方、1977-IIおよび1977-IIIの範囲に近いが、この2つはバイモー
    ダルな組成分布をするのに対し、2000pmはユニモーダルである。


結論:
Us-2000gとUs-2000pmは同原であり、かつ1663, 1769, 1822, 1853, 1977年いず
れの軽石とも異なるものである。

推論:
Us-b噴火時珪長質マグマの下部に存在していた苦鉄質マグマは外輪山熔岩の組成
トレンド延長に存在する(Tomiya 1995 PhD)。もしかすると31日火山灰中に単独
で存在する磁鉄鉱は山体を形成している外輪山熔岩に由来するのかもしれない。


試料の採取 = 宝田、吉岡、広瀬、川辺、山元、東宮 分析・観察・データ処理 = 星住、東宮、佐藤(久)、金子(克)、宮城 文書作成 = 宮城、東宮、篠原、星住、宇都

If you have any questions about this page, contact Isoji MIYAGI