高妻山の地質 (暫定版)


 高妻山は長野-新潟県境の山で,地層に貫入したマグマが固結した「ひん岩」と呼ばれる岩石からなっています.高妻山のくわしい地質については現在報告書(5万分の1地質図幅「戸隠」)のなかで執筆中です.出版されるまでのあいだ,高妻山の地質について簡単に紹介します.(文責:古川 竜太)


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高妻山の概略
 高妻山は長野-新潟県境にそびえる標高2353mの山です.北西側のピークは乙妻山(2318m)で,両者はゆるやかなコル(馬の背状の稜線)で結ばれています.周囲には戸隠山,飯綱山,黒姫山などが並び立っているため,平野部からはからはなかなか望見されません.近づいて見ると,三角形にそびえる立派な容姿を持ち,登るには意外に時間がかかります.山頂に立つと,妙高山,火打山,焼山,雨飾山,そして北アルプスが望めます.
 

地質の概略
すでに刊行されている20万分の1地質図「高田」にもとづいて説明します.
高妻山は中央部のピンク色(記号P)で表現された「ひん岩」の部分です.ひん岩はマグマが地層に貫入して固結したもので,安山岩の性質を持つものです.ひん岩の周囲は第三紀の堆積岩で,黄色(Ua)は砂岩,青色(Nm)は泥岩,模様付き青色(Nv)は火山岩で,三者はいずれも海底で堆積したものです.右端の茶色(Vm)は第四紀火山の黒姫山火山の一部です.
登山道に沿って歩くと,高妻山のひん岩は標高2180mより上から現れます.とくに山頂部一帯は緑がかったひん岩が一面に露出しており,荒涼とした雰囲気になっています.乙妻山まで足をのばすと,途中の二重稜線となった部分に湿原と池塘があります.乙妻山頂は植生に覆われており,篤志家向けです.

地質図から読みとる高妻山の生い立ち
 高妻山を含む長野県北部の地質をひもとくと,はなしは新第三紀(約1000万年前ごろ)までさかのぼります.当時この地域は海底で,泥が静かに堆積していました.約400万年前ぐらいになると,海底で火山活動が始まり,荒倉山や戸隠山を構成する火山岩が堆積しました.火山の一部は海面上に顔を出したため,火山のまわりには砂浜や三角州が形成され,カキなどの二枚貝が群生していました.そうして厚く堆積していた堆積岩にマグマが貫入して固結しました.その後の地殻変動で長野県北部は著しく上昇し,地層中に貫入したマグマが固結した部分が地表に現れました.それが,高妻山です.こうしたマグマが固結した岩石はしばしば数cm大の角閃石・斜長石・石英などの結晶を多く含んでおり,白っぽいことから花崗岩と間違えられることもあります.専門家はこれを「ひん岩」(porphyrite)と呼びます.火山から噴出した場合,安山岩からデイサイトの性質を持つマグマに相当します.第四紀(170万年前以降)にはいると,佐渡山,黒姫山,妙高山,飯縄山などの火山が活動を開始して,現在に至っています.これらの地質について詳しく検討した結果は5万分の1地質図幅「戸隠」にまとめられて,平成14年度に出版される予定です.


高妻山の写真,調査風景などはこちら


[Ver.1.1 (2002.8.16)
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