火山の精密構造探査とその時間変化の検出への挑戦
-精密制御定常震源(ACROSS)の開発-
発表者:名古屋大学理学部 中野 優
ACROSSとは
我々のグループ(名古屋大学)では、新しい考え方に基づく人工震源を開発中である。その特徴は、1) 放射する地震波を精密に制御する事により、高精度のデータを得る(精密制御)、2) 弱い地震波を非破壊的に放射するので、定常的に観測ができ、弾性波速度などの時間変化をモニタすることができる(定常)、事である。我々はこれを「精密制御定常震源(Accurately Controlled Routine Operated Seismic Source、略してACROSS)」と呼ぶ。
地震波による地下構造探査を模式的に書くと次のようになる。
ここで、入力 :X は自然地震なら断層破壊、人工地震ならその震源(ダイナマイト、エアガン、バイブレータなど)、伝送システム :H は地下の地震波速度などの構造、出力 :Y は地震計での観測波形である。周波数領域ではX,H,Yの間には、XH=Y の関係がある。Y(観測データ)は既知の量であり、H(地下構造)は未知の量である(当然 (^_ ^)! )。残りのX(震源)はどうか。自然地震の場合はXは既知ではない。これまでの人工地震探査でも正確に分かることはなかった。そのためHを求めるにはXに適当な仮定をおかねばならなかった。ACROSSのミソはこのXを精密に制御することによってHを正確に求めることにある。
X(震源) × H(地下構造) = Y(観測データ)
ACROSS known unknown known
他の人工地震 unknown unknown known
自然地震 unknown unknown known
Xを精密に制御するのに一番簡単な方法は、偏心した重りを一定の周波数で回転させることである。回転の周波数を変えて色々な周波数についてXとYの関係を調べてやれば、実用上必要なHを求めることができる。右に震源装置の模式図を示す。
ACROSSは弱い振動しかおこさず、波形データはスタック(位相を合わせて波形を足し算する)によって得るので、震源の周りを破壊しない。そのために同じ条件で長期間の構造探査が可能である。したがって、地下構造の時間変化をモニタすることができる。
定常シグナルから走時を求める
地震波速度を求めるには走時を調べる必要がある。エアガンなどの瞬間的に波を放射する震源では、パルス状の観測波形の初動から波の到達時刻を読みとればよかった。ACROSSの場合は放射する波が定常なサイン波なので、どの位相がいつ放射されたか区別ができなくて、波の伝達時間を調べるのは不可能のように思える。
この問題は次のようにして解決できる。震源からτ秒遅れて到達したパルス波形(デルタ関数:δ(t-τ)で表される)は、次のようにcosの重ね合わせで表される。
δ(t-τ) = 1/π �cosω(t-τ) dω
したがって、いくつかの周波数の波について調べてやれば、パルスの場合と等価にでき、走時τが求まりそうである。実際の解析では次のようにする。
δ(t-τ)をフーリエ変換して周波数領域で表すと、exp(-iτω)=cos(τω) - i sin(τω)となるが、ACROSSによる地震波はこのうちの震源の振動周波数の成分だけを持つ。ACROSSの観測波形をフーリエ変換すると、その周波数における実数、虚数成分が得られるので、いろいろな周波数について観測して、その実数成分と虚数成分をωを横軸にとってプロットすると、それぞれ走時τに比例した振動数のcosとsinになる。この振動数から、走時τを求めることができる。
下に自然地震や他の人工地震での観測波形と、ACROSSでの観測の対応を示す。上の図が波の到着が速い場合で、下の図が遅い場合である。
ACROSSに何を期待するか
時間変化の検出ができる点に注目しよう。火山ではマグマの移動などの構造変化のタイムスケールが比較的短い。マグマの移動によって、地震波、特にS波の速度や応力場の変化が起きることが予想される。応力の変化は、地震波速度の変化やS波のスプリッティングとして検出可能である(例えばReasenberg and Aki,1974; Crampin, 1996)。
ACROSSを火山の構造探査に使用すると、マグマの移動による地震波速度の変化や、応力の変化などが検出できることが期待できる。