地震計に記録された噴火現象

北海道大学理学部有珠火山観測所

西村裕一

 火山近傍に設置した地震計には,火山の活動に関係して様々な波形の地震 (振動)

が記録される.表面現象の有無で分けてみると,

  (1)表面現象を伴う

       爆発地震,一部の低周波地震,噴火微動,(火砕流,泥流の記 録)

  (2)表面現象を伴わない

       高周波地震,低周波地震,火山性微動

発生メカニズムを考える場合,(1)については,まさに火口や火道の形状や 噴火の

ダイナミクス,さらに噴出物の特徴を説明するモデルを,一方(2)について は,地下でのマグマの動きや火山体の構造を反映したモデルを構築することになる.

−高周波地震(A型地震)の発生の場
「地震=断層運動」で説明できるのは(2)の高周波地震だけだ.1977−82 年の有珠山の噴火活動期に発生した地震の多くは,通常の断層運動で説明される.武 尾(1983)は,比較的規模の大きな地震について断層パラメータを決定し,それらが 観測された地殻変動と調和的なことを示した.また,原田(1980)はより小さい地震 群について調べ,断層面に沿って地震の巣(クラスター)が存在すること,各クラス ターの平均的発震機構は断層運動と矛盾しないことを示した.有珠では,このクラス ターの微細構造についても調べられ,一般の群発地震や構造性地震の余震群にはない 性質を持つこともわかってきた(西村,準備中).高周波地震といっても「普通の地 震が火山で起きた」のではなく,火山特有の構造や高い歪速度の変形の結果として独 特な起こり方をした例といえるだろう.これらの発生場所を正確に決めたり起き方を 詳しく調べることは,発生の場としての火山の理解につながる.

−震源分布の見方
話は標題からそれるが,震源分布について.火山性地震には初動の不明瞭な ものが多く,一般に震源は決まりにくい.よって「震源分布」に現れる地震は全体の ごく一部である.特に,浅い地震や低周波地震ほど震源は決まりにくくなるため,ラ ンダムなサンプリングではない.このような場合,活動度を評価する際には注意が必 要である.上記の有珠山群発地震について,震源が決まらなかった地震は波形から震 源を推定し,ある時期の地震活動度について検討したことがある.その結果の一部を 紹介する.

−爆発地震と空振の観測
 浅間山,桜島,十勝岳といった安山岩質火山では,爆発的噴火に伴う爆発地 震が観測される.爆発地震の震源は地表ではなく,火口から数kmの深さに決められる ことが多い.従来から,全方位で押し波が観測されることが多いことから,球状圧力 源が考えられてきた.その後,爆発地震は基本的にシングルフォース,もしくはそれ プラス他の成分の力で説明できると報告されている(例えば,Uhira and Takeo, 1994).シングルフォースならば,その力の大きさと向きが決められることになる.  一方,爆発地震は空振を伴う.空振は普通の地震計にも記録されるが,空振 計が設置されていれば,走時や大きさ,波形をきちんと見積もることができる.桜島 や十勝岳の噴火では,空振の発震時(火口からものが出た時刻)は爆発地震の発震時 より1〜数秒遅れることが調べられた.すなわち,爆発地震はの噴火のトリガーとい うことになる.爆発地震の大きさと空振の大きさに比例関係はない(例えば,井口・ 石原,1990).

−表面現象を伴う低周波地震
 爆発的噴火でなくても,例えば小規模なストロンボリ式噴火はそれなりの空 振を伴う(井口・石原,1990).十勝岳でも,1989年の活動最盛期に発生した低周波 地震の一部は空振を伴っていた(表面活動は不明).この場合も,地震の振幅と空振 の大きさは比例しない.
有珠山でも,1978年のマグマ−水蒸気爆発期には,一つの噴火の終わりかけ に低周波孤立型微動が何回か発生することがある.圧力が弱まって噴出物が火口を閉 じかけた際に,それを一時的に吹き飛ばす現象に対応すると考えられている(西村・ 岡田,1987).同じような現象はメキシコのコリマ火山でも観測された.

−噴火微動と火道の形状
 火口から連続的にものを出す噴火は,微動(噴火微動)として地震計に記録 される.
このような微動の周波数成分は火道の形状を反映していると考えられている (笛のようなもの).十勝岳や駒ヶ岳でも噴火微動は観測されたが,周波数成分は変化 していない.一方,1978年の有珠山のような激しい噴火では,しばしば噴火中に卓越 周波数が変化する.高周波卓越から低周波卓越と連続的に変化するケースが多い.有 珠の噴火微動については,微動の消長と噴出物の産状の変化が検討されつつある(吉 田,1996).

 今回は,「地震計に記録された噴火現象」の例を,有珠や十勝を中心に示し ます.

火口や火道の形状や,噴火のダイナミクスとの関係についても触れるようにし ます.なお,私の話はこれらの火山の観測研究の紹介も兼ねています.



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