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大木研究室
第8回

カオスを秩序化する ③

 

~物理選別技術開発の制約と理想形~

物理選別技術開発の制約と理想形

多くの科学技術分野では、まずは、コストや規模などは度外視してでも「不可能を可能にする」ことが、未来技術開発の出発点となるであろう。一方、物理選別は、あらゆる手段を駆使し、例えば膨大なコストをかけてすべて手作業で解体・選別すれば、ほとんどのことが現在でも実現可能である。したがって、単に「不可能を可能にする」というだけでは進歩にならない。初めから、「一定の制約の下で可能にする」という条件が課される。前述の例では対象物として、貴金属を多く含み最も高価値な部類に属する携帯端末を挙げたが、物理選別の対象は、アルミ、鉄、非金属など多様であり、原料価値しか回収できないため、処理コストを数円以下/kgに抑える必要があるものもある。現状の技術をもって資源循環の実現を優先するならば、高コストな選別技術を導入しても、税金や企業・市民の負担で補填すれば成立するであろうが、これらの負担が大きすぎれば社会に受け入れられない。できれば、補填なしに商業的資源循環を目指すのが科学の役割であり、未来の理想像である。

図1.2.3は、理想の物理選別装置に求められる要件と開発思想を示したものである。新規物理選別装置の用途・開発目的によって一概には言えないが、一般論でいえば、リサイクル工場では廃製品の組成変動の早さなどから、償却を短期間で済まそうとする傾向があり、イニシャルコストを抑える必要がある。高価なシステムを想定することは難しく、単純な原理に基づく安価な高性能装置であることが必要である。また、装置の償却を含め低コストに処理することが求められるので、ランニングコスト(処理コスト)も抑えなければならない。一般に、加熱や冷却、高度な排水処理などを伴うシステムは不適であり、省エネルギー・省コストな選別機構であることが求められる。3つ目は、導入した装置で、できる限り長く最適稼働状態を維持するため、廃製品の組成変動に対応可能な巧みな制御システムを備えていることが望ましい。イニシャルコストを抑えたとしても、対象物の組成が変わるたびに、装置の入れ替えが必要となれば、結局、コスト増につながる。

図1.2.3  物理選別技術に課される制約と理想形

以上の要件を満たすには、「単純な装置原理の下で原始的な作用力を最大限利用し、エネルギーやコストをかけることなく、巧みな制御によって高度選別を達成し得る装置」が理想の物理選別装置と言える。このように書くと、非現実な理想論と思われるかもしれないが、旧来の物理選別装置は、未だブラックボックスのままという点が開発の狙い目である。現在、様々な機構の選別装置が販売されているが、それらのどれをとっても、対象物に適した、あるいは(未だ認識できていない)理論限界に近い装置機構や制御機構を有してはいない。真理の追究がほとんどできていないため、科学的な伸びしろが最も大きい研究分野といっても過言ではない。ただし、他の産業技術のように機能を積み重ねて高度化する方法では、機構が複雑になり、リサイクル用途の物理選別装置は量産品でないためコスト増となる。未来の理想像となる物理選別装置を開発するには、過去の装置機構に囚われず、真理を追究して無駄を究極に削ぎ落とし、目的達成に過不足ない装置機構を見極めることが重要となる。

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