産総研-篠崎健二

産総研
研究紹介
ガラスを中心とした無機材料の開発を行っています。主にフォトニクスとナノ力学に注力していますが、これ以外にも様々な研究を行っています。詳細はお問い合わせください。

光機能ガラス及び透明ナノ結晶化ガラスの開発と応用



(K Shinozaki, et al., ACS Applied Nano Materials 2022)

 ナノ結晶や量子ドットは優れた光機能を示しますが、透明なバルク体として利用するには凝集させずに透明な媒体中に分散させることが必要です。ガラスは容易に様々な形状の部材を作ることができます。ガラス中に量子ドットやナノ結晶を析出させることで、耐候性などの問題をクリアしながら、透明性や形状自由度、加工性などガラスの長所を生かしたままガラスにはない機能を付与できます。
 ガラスは準安定状態にあるランダム構造ですが、熱や光などの刺激によって安定状態にある秩序構造、すなわち結晶に転移します。その構造と形態を制御することで、見た目はガラスなのにナノ結晶の機能性も保有した新規材料を合成することができます。
 これを用いて、太陽電池で利用できない未利用の赤外線を可視光線に変換(小さなエネルギーの光を大きなエネルギーの光に変換)するアップコンバージョンガラスや、レーザー、センシング、イメージングなどに適した材料を開発しています。
 また、材料開発だけでなく、材料設計指針を明らかにするため、SPring-8などのシンクロトロン放射光を利用した材料構造解析、シミュレーションによる構造モデリングなどを通して、結晶化、特に核形成のメカニズム解明にも取り組んでいます。
  (keywords: アップコンバージョン、蛍光、量子ドット、ナノ結晶、センシング、イメージング)

アップコンバージョンデバイスの開発


 ナノ結晶化ガラスは、従来、ガラスを作製した後に数時間の熱処理を経て製造されてきました。我々は、材料構造を設計することで、原料を溶かして冷やすだけで透明ナノ結晶化する、革新的な新材料・それを用いたプロセスの開発も行っています。例えば、左の図はガラスの融液を引き上げるだけで透明なナノ結晶化ガラスファイバーを合成した例です。このように、熱処理をすることなく直接デバイスを得ることができます。
 このような技術を適応することで、太陽光波長変換に好適な波長変換デバイスや、アップコンバージョンレーザーなどを目指したファイバーや微小球、複合構造部材などの提案なども行っています。材料開発だけでなく、計測に必要な装置開発や光波シミュレーションなども行っています。
  (keywords: 太陽光発電、アップコンバージョン、レーザー)


高輝度高効率の新規酸フッ化物ガラスの開発

 
 ガラスの原子配列のコントロールによる機能性発現に取り組んでいます。特に、アニオンを混合することで、従来にない新しいガラス構造の発現を目指しています。
 これまでに、希土類イオンの添加により高い蛍光量子効率と高輝度を示すガラスや、紫外域で高い透明性を示す新規酸フッ化物ガラスを報告しています。また、良好なシンチレーション特性なども実証するなど、様々なセンシング素材として利用可能性があります。
  (keywords: ガラス構造解析、蛍光、シンチレーター、ドシメーター)

高強度なガラス素材の開発

 
 ガラスの割れは実用上重要な課題です。ガラスの構造制御や微粒子分散、結晶化などのアプローチによりガラスの脆さ低減に取り組んでいます。
 例えば、左図は石英ガラスにわずかな添加物を加えるだけで強度をおよそ3倍向上させた例です。ダイヤモンドの針(ビッカース圧子)を押し込んだときに発生するき裂も大幅に低減できます。割れにくいガラスは利用時の破壊だけでなく、加工時の不良なども減らすことができるので産業や生活の様々な所で貢献します。
 
  (keywords: ナノ力学、材料力学、脆性―延性転位、MEMS、残留応力評価、ナノインデンテーション)