非ホロノミック系操作のためのヒューマンインタフェース

はじめに

車輪型移動体や宇宙ロボットなどの非ホロノミック系の制御は,線形近似系が不可制御で,系を平衡点に漸近安定化する時不変の状態フィードバック則が存在しない,などの困難を伴う.むしろ非ホロノミック系のこうした難しさが,実用的な要請というよりも挑戦的な制御問題として研究者の関心を集める大きな理由になっている.

さて,ロボットあるいは計算機にとって非ホロノミック系の制御は難しい問題だが,人間にとってそれがすべて困難かは議論の余地が残る.ほとんどの人間は,多少の訓練により自転車,自動車,手押し台車などの非ホロノミック車両を容易に使いこなせる.一方で,宇宙ロボットなどの操作は,通常の生活において接する機会が皆無で,非常に困難な作業となると予想される.このように,非ホロノミック系の中にも,人間にとって操作が易しいものと難しいものの二通りが存在する.

ここでは,人間が非ホロノミック系を操作するためのヒューマンインタフェースを提案する.具体的には,人間にとって操作が難しいタイプの非ホロノミック系を,直観的に操作しやすいタイプの非ホロノミック系を扱う能力を利用して操作するための手法について述べる.

系の変換によるインタフェース

提案する方法では,操作が困難な制御対象を,座標変換と入力変換により操作しやすい等価な仮想系に変換する.仮想系への操作者からの入力を制御対象への入力へ変換する一方,制御対象の座標を仮想系の座標に変換して操作者に提示する.二つの非ホロノミック系G,Hが,座標変換および入力変換相互に変換できるとする.

ここで,系Gは人間にとって操作が容易で,系Hは操作が困難とする.このとき,系Gを人間による実際の操作対象として,これを目標状態に到達させる問題を考える.系Hの現在の状態および目標状態をそれぞれ仮想的な系Gの現在の状態および目標状態に変換し,操作者に提示する.一方,提示された状態に基づく操作者から系Gへの入力を,入力変換によって系Hへの入力に変換する.そうすると,操作者からはあたかも仮想系Gを操作しているような感覚で,実際には系Hを操作することができる.

操作実験

単車輪および宇宙ロボットという二つの典型的な非ホロノミック系に対して,提案するインタフェースを構築し,シミュレータ上で人間が操作する実験を行った.人間による操作が難しい宇宙ロボットを操作対象とする.操作しやすい仮想的な単車輪との間で変換を行い,これを人間に対するインタフェースとする.

宇宙ロボットとして,下図左の平面モデルを考える.アームは回転と直動の2自由度で,アームの回転軸は本体の重心と一致する.初期角運動量は零と仮定する.また単車輪は下図右のように車輪方向に支持棒を取り付け,その先端のピボットに並進速度入力を与えることにより一輪の手押し台車のように車輪を操作する.

これらの系はともに非ホロノミック系の正準系であるChained Formに変換できるため,それを介して前章で示した座標変換・入力変換を容易に求めることができる.これにより,操作者はあたかも単車輪を操作しているような感覚で宇宙ロボットを操作できる.宇宙ロボットのアームを直接操作する場合と比べ,操作が直観的に理解しやすく,位置決めに要する時間が短縮されるなど,操作性が改善されることが確認できた.

[操作実験の動画]
 ・単車輪
 ・宇宙ロボット(直接操作)
 ・宇宙ロボット(提案手法)
(単車輪のピボットまたは宇宙ロボットのアーム先端(黒)をクリックすれば,マウスの運動にしたがって系が運動する.目標位置(赤)に一致するように操作する.ダブルクリックで終了.)

[参考文献]
 (和文) (英文)


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