1.研究テーマ:
鉄・マンガン水酸化物中の希土類元素の局所構造解析
風送ダスト(黄砂)中の重金属元素が長距離輸送途上に受ける化学反応の解明
環境中のクロムの価数変動と存在形態の解明
2.研究背景と目的:
1.希土類元素の局所構造解析
ランタニド収縮のため,ランタノイドイオンはシリーズを通して一定の結晶構造・配位構造を持たないことが多い。たとえば,水溶液における希土類元素の水和数は軽希土類元素側では9配位であるのに対し,重希土類元素側では8配位をとる(例 Habenschuss and Spedding, J. Chem. Phys. 73, 442, 1980, ; Rizkalla and Choppin, Handbook of the Physics and Chemistry of Rare Earths, 15, 393, 1991)。この水和数の変化に伴うエネルギー変化については,Kawabe (Geochem. J. 33, 249, 1999) によってですでに定量的な議論が行われている。鉄・マンガン水酸化物と水溶液間の希土類元素の分配係数にはこの水和数の変化だけでなく,沈殿側での構造変化も見られている。(Kawabe et al., 1999a; 1999b, Ohta et al., 2000a; 2000b)。特に,Ohta et al. (2001)は2酸化マンガン中の軽希土類元素側に,鉄水酸化物では見られなかった大きな構造変化が見られることを報告した。この実験結果は天然系の深海底マンガン団塊にも確認される点で大変興味深い。鉄・マンガン水酸化物は非晶質な構造を持つことや,そこに含まれる希土類元素は1000-10 ppm程度であり,通常のX線分光法では構造解析を行うことは非常に困難が伴う。そこで,高エネルギー加速器研究機構のPF放射光を用いて,XAFS測定を蛍光法で行う事を試みている。
最近の研究結果
1.ランタニドLIII吸収端EXAFS解析時における多電子励起 (Multi-electron excitation: MEE)の補正について
X線吸収端の微細構造は、一つの電子がX線のエネルギーを吸収して空の軌道へ遷移することで生じる。ランタノイドのLIII吸収端の場合は、2p軌道から5d軌道への遷移に該当する。ただし、EXAFS領域は、もはや原子の束縛を離れた光電子の振る舞いを見ている(空軌道への遷移を見ているわけではない)。
これに対し、多電子励起とは、X線のエネルギーを吸収して2個以上の電子が空軌道へ遷移することを言う。ランタノイドのLIII吸収端EXAFSには、2p軌道と4d軌道の二つの電子が同時に5d軌道へ遷移した結果、小さな吸収端(小さなピーク)がLIII吸収端の120〜150eVほどエネルギーの高いところに現れる。多電子励起の吸収端はLIII吸収端に比べ、面積比でわずか1%未満の小さなものであるが、わずかな振動から構造を解析するEXAFSにおいては、時に大きな分析誤差を与える。
これまで、多電子励起の報告例は数多くなされているが、実際の補正方法については、研究者ごとに異なっており統一性がない。Ohta et al. (2008) Am. Mineralo. 93, 1384-1392 では、比較的シンプルな構造を持つ希土類元素の水和イオンのEXAFSを用いて、多電子励起の補正法を確立した。その結果、水和イオンについては、多電子励起の存在は解析結果に大きな影響を与えないことが判明した。 しかしこの解析法を、鉄マンガン水酸化物中の希土類元素の局所構造解析に適応した場合、決して無視できない誤差を与えることが分かってきている (Ohta et al., 2009. Am. Miner., 94, 467-475.)。

2.風送ダスト中の元素形態分析
風送ダストの研究ページを参照。大陸の乾燥・半乾燥地域から風によって大気中に舞い上がる風送ダストは、発生域の農業生産や生活環境に影響を与えるばかりでなく、全地球的な気候にも重大な影響を及ぼしている。しかし、自然起源の風送ダストについてはまだよく分かっていない部分が多い。そのため、特に微量元素の化学形態を把握することができれば、風送ダストによる物質移動の解明に非常に大きな貢献が行われることになる。本研究は、輸送途上における風送ダストに起きる化学形態の変化をXANES解析により解明すること目的とする。
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黄砂に含まれる鉄が飛来途中で光還元反応を受けて、二価鉄が増えることが期待されたが、実際には価数が変動することはなく、ほぼ全て3価の状態で存在する事が明らかとなった。 |
黄砂が発生する前の時期の大気中ダスト中の亜鉛の存在形態を調べた結果。粒径が大きいダストは鉱物粒子中の亜鉛と硝酸亜鉛の混合物として存在しているが、2μmを境に細粒ダストでは硫酸亜鉛の存在度が著しく増加する事が分かる。この変化は、ダスト粒子中の硝酸イオンと硫酸イオン濃度の増減とよく対応する。 |
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いずれも Ohta et al. (2006) Geochem. J. 40, 363-376. より引用(図は新たに作成したもの)。 |
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3.環境中のクロムの価数変動 と存在形態の研究
土壌中の有機物や2価鉄などによって、有害な6価クロムが無害な3価クロムへ還元される反応は環境化学的に重要な反応である。これまでの研究では6価クロムの還元反応速度の決定そのものが主要な研究対象であり、反応後のクロムの化学形態についてはほとんど着目されてなかった。しかし、6価クロムが還元反応によって消え失せてしまうということは、過去の汚染の記録が時間とともに失われることを意味する。本研究は、状態分析法(BCR法とXANES法)を用いて、6価クロムの還元反応機構の解明や、汚染6価クロムが還元されて生じた3価クロムと自然の3価クロムを区別することなどを目指す。
3.研究内容の補足:
4.共同研究者:
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所属:東京大学大学院理学研究科付属地殻化学実験施設,助教授 | |
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主な研究テーマ:地球内部の化学,高圧下での水素結合の挙動,結晶(鉱物)の成長と微量元素との関係 |
5.研究業績:業績一覧のページへジャンプ
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