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凝着力と摩擦力の関係


 クーロンの摩擦法則によれば,摩擦力は摩擦面に働く垂直荷重に比例する.そのとき,摩擦力を垂直荷重で除した値は摩擦係数として定義され,空気中で金属同士が摩擦されるような場合では,通常0.4〜0.6程度である2).ところが,マイクロマシンが動作するように垂直荷重が極めて低い条件下では,非常に高い摩擦係数が測定されることがある.

 表面間にファンデルワールス力や凝縮水の表面張力に起因する凝着力が,どのように摩擦力に影響を与えるのかを調べるために,μNオーダーの測定分解能を有する往復動型摩擦力測定装置(図1)を用意し,銅とシリコンウェーハを摩擦し,摩擦力,垂直荷重,凝着力(引き離し力)の関係を検討した.

 実験に先立って,先端を尖らせた銅試験片をシリコンに押しつけ先端を平坦にする.つぎに,荷重の設定値をいろいろ変えて,一定荷重で摩擦を行い,そのときの摩擦力を測定する.また,摩擦力測定の前後に引き離し力を測定する.図2に,そのようにして求めたそれぞれの力の関係を示す.垂直荷重が小さくなると摩擦力も低下しているが,垂直荷重が0のときでもなお,70μN程度の摩擦力が作用している.さらに,銅試験片をシリコンに押しつけるのではなく,反対に引き離そうとする方向に力が働いている状態(外部荷重が負の領域)でも,摩擦力が測定されている.

 図3に,図2で示したデータから求めた摩擦係数と垂直荷重の関係を示す.で示す摩擦係数は摩擦中の垂直荷重に引き離し力を加え,その和で摩擦力を除して求めた摩擦係数である.は単純に摩擦力を垂直荷重で除して求めた摩擦係数である.図3で,引き離し力を考慮しないで算出した摩擦係数が低荷重で増加する傾向にあるのに対し,引き離し力を考慮した場合は,ほぼ一定になる.このことは,摩擦前後に測定した引き離し力と同程度の大きさの凝着力が摩擦中にも表面間に働き,それが垂直荷重と同様な働きをしていることを示唆している.

 図4は垂直荷重を減少させながら銅とシリコンを摩擦させたときの,摩擦力と垂直荷重の関係を示している.摩擦力は垂直荷重に対してほぼ直線的に変化しており,外部荷重が負に転じても表面間に働く凝着力のために両試験片は離れずに,摩擦力が0になるまで摩擦が続いている.このことは,凝着力が静止中だけでなく摩擦中にも作用しているということを直接的に示している.

 このような実験から,摩擦力が凝着力と垂直荷重の和にほぼ比例していることがわかる.この関係を式で表すと次のようになる.

Ff =μ(Fa+Ln) (1)

 ここで,Ffは摩擦力,μは直線の傾き,Faは凝着力,Lnは垂直荷重であり,垂直荷重Lnが負の値をとってもこの関係は成り立つ.また,μは(Fa+Ln)を垂直荷重と見なしたときの摩擦係数に相当する.


図1 摩擦力・引き離し力測定装置


図2 摩擦力・引き離し力の垂直荷重に対する変化


図3 垂直荷重(+引き離し力)と摩擦係数の関係


図4 漸減荷重に対する摩擦力の変化

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