研究内容人を見守るデジタルヒューマン

Learning by Doing: センサ化環境を用いた行動体験型語学学習法

>> English

概要

体験による学習(Learning by Doing)は、古代から使われている極めて自然な学習方法である。心理学の分野でも、体験が記憶に及ぼす効果は、例えば、エピソード記憶として知られている。最近のセンシング技術の発展によって、我々を囲んでいる環境が人の位置を計測したり、人の行動を認識したりすることが可能となりつつある。筆者らは、こうした環境センシング技術をベースとして、人の空間的な位置や行動を把握し、行動データを利用することで、人を賢くしてくれる知能空間の構築を目指している。本研究では、語学学習の支援に焦点をあて、実世界で行動を起こしながら第二外国語の学習する人を手助けするLearning by Doingシステムを提案する。開発中のシステムの技術的側面と、実際に効果を確証するために英会話教室で行った実験の結果について述べる。


Learning by Doing システム

筆者らは超音波三次元タグシステムを開発してきた。このシステムは位置センサの一種であり、三辺測量(trilateration)の原理を用いて、下図で示されている超音波タグが取り付けられている人やモノの三次元位置を計算することができる。

この技術をもとにLearning by Doingシステムを構築した。 下図はシステム構成を示している。本システムは三次元タグシステムと教育コンテンツサーバから構成されている。また、超音波三次元タグシステムは部屋の天井に埋め込まれた80個の超音波受信器と物と人につけるタグで構成されている。

Learning by Doingシステムは物と人の位置を追跡し、発見された位置に基づいて教育コンテンツを提示することができる。例えば人がワインボトルを持ち上げた時にシステムは"spill"、"stain"という音声を出力する。人が暖炉に近づいた時には、システムは"burn"または"You are burned"という音声を出力する。また、下図のようにプロジェクタのスクリーン上に教育コンテンツの映像をみせることも可能である。


英会話教室での検証実験

本研究ではLearning by Doingシステムの教育効果を検証するために22歳から24歳の7人の日本人に次のような実験とテストを行った。

下図は3つのテスト(学習方法)の中での想起率を比較している。この図はどんな被験者によっても自由再生テストでLearning by Doingシステムが効果的であることを示している。想起率の平均は文字のみで学んだ場合が30.4%で、絵と文字で学んだ場合が28.7%で、Learning-by-Doingシステムの場合が51%である。

結論

本研究では第二外国語の習得するために新しい方法としてLearning by Doingシステムを提案した。Learning by Doingシステムは、人やモノの位置を計測するための超音波位置計測システムと教育用コンテンツを行動に随伴させて出力させる教育コンテンツサーバから構成されている。Learning by Doingシステムによる語学学習支援における教育効果を検証するために、実際の英会話教室に検証システムを構築し、検証実験を行った。7人の日本人に行った実験から、本稿で提案したシステムを用いた学習は、文字のみで学習する場合と絵と文字で学習する場合と比較して、英単語の想起率が70%上がることを確認した。今後の課題として、小中学生といった今回の実験で行った被験者(大学生)以外の年齢層での教育効果の検証をはじめ、提案したLearning by Doing学習法による第二外国語取得メカニズムの解明研究があげられる。

参考文献