日本ファジィ学会誌 (1996.8月号) 用語解説記事 区分: 解説 表題: Focal Point 著者名: 本村 陽一 所属: 電子技術総合研究所 情報科学部 情報数理研究室 連絡先: 〒305 茨城県つくば市梅園1-1-4 電子技術総合研究所 情報科学部情報数理研究室 Focal Point(焦点)とはその場の状況, 文脈のもとでなんらかの合理的理由に より顕著に他と区別して選ばれる点である. 社会的環境を共有する複数の主体 の間で選択が一致することから共同注視点を意味する場合もあり, Shellingの "The strategy of Conflict"(1963)において紛争の解決のために合意が達成で きる点という意味で用いられた. 例えば利益を配分するのにどう分けるべきか, ある地理的領域(駅, 街など)においてどこで待ち合わせるべきか, などといっ た例がよく挙げられている. Shelling, 松原らの様々な場面の社会的意志決定 の事例調査から, 順序性, 期待効用最大性, 期待損失最小性, 対称性, 数学的 優美性などの原理が場面に応じて適用され, またそれは社会の構成要因によっ ても異なってくることが報告されている. こうした決定方式をFocalPointアル ゴリズムということもあり, 場面や文脈, 集団の構成に応じてこのアルゴリズ ム自体を選択するメタアルゴリズムの解析も重要になっている. 最近では多量 の環境情報のもとでの知的システムにとっての注視点制御という情報工学的な 意義も大きく, 特に明示的な通信を用いない場合に複数の知的エージェント間 で整合をはかり協調動作を実現するための合意形成や, より柔軟にユーザーと のコミュニケーションをはかるための文脈, 状況共有への応用などが期待され ている. また情報処理主体だけではなく環境や場の状況, 文脈との相互関係に よって決定されるというFocal Pointの思想的な背景にはGibsonのAffordance にも通じる部分があり, 環境や問題領域, 他の構成要素との相互作用を含めた 複雑で開放的な系全体を対象とした研究が重要と考えられる。