柔軟形状モデルによる複数種胃X線画像の統合的解析

       

概要

右図は集団検診で撮影される複数種胃X線画像である。各画像から得られる情報を相互に利用し複数画像の処理を統合的に進めると、より効率良く信頼性の高い自動解析を目指すことができる。このためには、画像間の部位の対応を把握する必要があるが、胃が柔軟な組織でX線画像間で大きく変形するため難しい。そこで、胃の3次元柔軟モデルでこの変形をシミュレーションし、画像間の胃の形状差のギャップを埋めて対応関係を求め、対応する部位の形状情報を利用する。この手法により、多様なX線画像に対して自動胃領域抽出、画像間での胃の対応付けが頑健に行なえるようになった。

処理例

下左図(a) の二重造影正面像 と(b) の立位充満正面像 は同方向から撮影されたものであるが、(b) の撮影時、胃内部のバリウム造影剤の重さで胃が鉛直下方向に引かれているため、両画像間で胃領域形状が異なる。(b) の胃領域形状から自動生成される下左図(c)に示す柔軟モデル(この場合同方向からの撮影なので2次元モデル)を用いて、バリウムの重みの影響を取り除くように力を加えて変形させることにより、(a)の二重造影正面像撮影時の胃形状を予測する(下左図(d))。二重造影像単独からの胃領域輪郭抽出は非常に難しいが、この予測形を画像から得られる輪郭特徴に基づき、下右図のように修正していく手法により、輪郭が正しく抽出され、同時に各部位の画像間での対応付けが、図中アルファベットで示すように得られる。


3次元柔軟モデルによる変形のシミュレーション例を右図に示す。腹臥位充満像は、立位充満正面像を撮影後、被検者をあおむきに寝かせ、その後左回りにうつぶせにして背中方向から撮影される。この時起こる、胃が内部のバリウムの重みにより左半身方向へ引かれた後、腹膜の上で押し潰れる変形を、立位充満正面像の胃領域形状から自動生成される3次元柔軟モデルでシミュレーションする。変形後の3次元モデルを、撮影方向から投影すれば、胃領域輪郭が予測され、前例と同様に予測形を画像特徴と組み合わせて修正することにより、右に示すように、胃領域輪郭が対応関係とともに得られる。

参考文献

1) Y. Kita: "Elastic-model driven analysis of several views of a deformable cylindrical object", IEEE trans. Pattern Anal. & Mach. Intell., Vol.18, No.12, pp. 1150-1162, 1996.

2) 喜多 泰代: "複数種胃X線画像の統合解析のための画像間胃領域対応付け", 信学論(D-II), J76-D-II, No.2, pp. 268--278, 1993.

3) 喜多 泰代: "立位充満正面像からの予測形を利用する二重造影正面像の胃領域輪郭抽出", 信学論(D-II), J74-D-II, No.7, pp. 873--886, 1991.

4) 喜多 泰代 , 白井 良明: "胃X線立位充満像からの異常候補の検出", 信学論(D-II), J71-D-II, No. 11,pp. 2370--2380", 1988.