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コンセプトconcept

 多くの動植物はその体内に共生微生物を持ち、緊密な相互作用を行っています。このような共生を一般に「内部共生」と呼んでいます。病原微生物が宿主に感染し病気を引き起こすメカニズムが広く研究されているのに対し、微生物による内部共生のメカニズムは未だによく分かっていません。本研究室では特に昆虫や魚類の内部共生現象にターゲットを絞り、さまざまな実験手法を駆使して以下のような課題に取り組んでいます。
(1)共生微生物の多様性を明らかにする
(2)共生微生物の機能を明らかにする
(3)内部共生の遺伝的基盤を明らかにする

具体的には以下のような研究を展開しています。
(1)ホソヘリカメムシ−Burkholderiaモデル共生系を用いた内部共生の遺伝的基盤に関する研究
(2)害虫の殺虫剤抵抗性に関わる共生微生物の研究
(3)メダカ等の魚類を対象とした腸内共生の遺伝的基盤に関する研究
(4)昆虫や魚類を対象とした腸内微生物叢の網羅的解析

上記以外の研究テーマについても、協議のうえ面白いと判断されたものについては研究に取り組むことができます。


ホソヘリカメムシとBurkholderiaの腸内共生

昆虫は100万種以上が知られる多様な生物群ですが、その半数以上が体内に共生微生物を持っていると言われています(多くは細菌です)。昆虫の体内においてこれら共生細菌は食物の分解や栄養素の補償を行っており、宿主昆虫の栄養代謝においてとても重要な役割を担っています。そして、昆虫はその生存と繁殖に必須な共生細菌を次世代へと母子間伝播することが知られています。 昆虫には実験室内で飼育がしやすい種類も多く、農業上重要な害虫も含まれることから、その共生細菌の研究が古くから行われてきました。最近ではシークエンス技術の発達もあり、これら昆虫共生細菌のゲノムが解読されつつあります。しかし、共生の遺伝的基盤や各遺伝子の機能についてはほとんど分かっていないのが現状です。その大きな理由は、共生細菌が宿主昆虫の体内環境に高度に適応しており、宿主体外で培養することができず、また遺伝子組換えが困難なためです。  ホソヘリカメムシはダイズの重要害虫として知られており、東南アジアを中心に広く分布しています。このカメムシにダイズの種子が加害されると、種子が矮小化したり変形したりして売り物にならなくなります。私達の最近の研究から、このホソヘリカメムシがとてもユニークな内部共生系を発達させており、共生細菌が培養可能で、遺伝子組換えも容易にできることが分かってきました。

ホソヘリカメムシはその消化管後端部に盲嚢(もうのう)と呼ばれる袋状の組織を多数発達させており、その中にBurkholderia属(β-プロテオバクテリア綱)の細菌を保持しています。ホソヘリカメムシは他の昆虫のように共生細菌を母子間伝播しません。そのかわり、孵化してから成長する過程で、ダイズの根圏などに生息しているBurkholderia共生細菌を獲得することが分かってきました。このBurkholderia共生細菌は培養が容易で、さらに遺伝子組換えが可能なことから、共生に関わる細菌側の遺伝的基盤を詳細に研究することができます。
昆虫における内部共生現象がどのようなメカニズムで成り立っているのか、その答えを見つけるためにホソヘリカメムシ−Burkholderiaモデル共生系を駆使して日夜研究に励んでいます。

※関連記事
産総研プレスリリース「害虫カメムシが共生細菌を体内に取り込む特異な仕組みを解明」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150901/pr20150901.html


害虫の殺虫剤抵抗性に関わる共生細菌

現在までに約500種類の農業害虫や衛生害虫において農薬への抵抗性発達が報告され、世界的な問題となっています。抵抗性のメカニズムは多様で、クチクラ層の肥大による農薬浸透性の低下、農薬の解毒・排出能力の向上、受容体等の農薬標的タンパク質の構造変化などが報告されています。従来、このような抵抗性は「昆虫自身の遺伝子によって決まる性質」とごく当たり前のように考えられてきましたが、最近私達は共生細菌が宿主害虫の農薬抵抗性に大きく寄与する事例を発見しました。
 ホソヘリカメムシとその近縁種は環境土壌中からBurkholderia共生細菌を獲得します。環境土壌中のBurkholderia共生細菌の性質を調べたところ、いくつかの菌株が有機リン系殺虫剤を分解できることが分かりました。驚くべきことに、そのような殺虫剤分解株を共生させたカメムシは瞬く間に殺虫剤抵抗性になってしまうことが分かってきました。
 害虫の殺虫剤抵抗性に共生細菌が関わることはこれまでまったく知られておらず、カメムシ体内における殺虫剤の解毒過程の解明も含め、様々な観点からこの現象の成立メカニズムについて研究しています。

※関連記事
産総研プレスリリース「害虫に殺虫剤抵抗性を持たせる共生細菌の発見」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120424/pr20120424.html