火山ガスの種類と災害

1997年の日本国内の火山は比較的おとなしく,大きな噴火は起きませんでした.しかし火山の近くで火山ガスによる死亡事故が3件立て続けに起き,計9名の方が亡くなった年でもありました. このように火山ガスによる災害は火山の活動が活発な時はもちろん,比較的穏やかな時にも起こりうる災害です.このページでは火山ガスの種類とそれによる災害,注意点を紹介したいと思います.


火山ガスとは

火山ガスとは「火山の噴気孔から噴出するガス」(松尾,1995)のことです.この中にはマグマに溶けこんでいた揮発性成分が分離したマグマ性ガスや,マグマ性ガスが地表に達するまで付加されたガス種も含みます.主な火山ガスの成分は,H2O(水,水蒸気),CO2(二酸化炭素,炭酸ガス),SO2(二酸化硫黄,亜硫酸ガス),H2S(硫化水素),HCl(塩化水素)などがあります.
これらの火山ガスは,噴火時に噴煙や噴気に伴って放出されるほか,噴火時以外でも常に火山の噴気孔や温泉噴気帯から噴出しています.通常火山ガスは風によって拡散されますが,気象条件と地形によっては高濃度の火山ガスが滞留し,動植物の死亡・枯死,火山登山者・観光客などの中毒死事故,大気・水質汚染を引き起こすことがあります.

火山ガスによる災害の例

1971年12月27日 草津白根山
振子沢スキー場内ロープウェイ駅上方約600mの地点で,温泉造成のためのボーリング孔からのH2Sガスにより,スキーヤー6名が死亡.

1976年8月3日 草津白根山
本白根山頂北西約600mの白根沢で,登山中の高校生2名と引率教師1名がH2Sガスにより死亡.

1997年7月12日 八甲田山
訓練中の自衛隊員3名が山麓の窪地で火山性のCO2ガスにより死亡.

1997年9月15日 安達太良山
沼の平火口内で登山者4名がH2Sガスにより死亡.

1997年11月23日 阿蘇山
中岳火口観光中の観光客2名がSO2ガスによる,喘息などの発作で死亡.

海外では1986年のカメルーン・ニオス湖で火口湖から噴出したCO2ガスにより,谷沿いの住民1700名余りが死亡した事故があります.
このほか火口から放出されるSO2ガスによって,農作物への被害や健康被害が引き起こされることもあります.

人体に及ぼす影響

火口近くや噴気帯などで死亡事故を引き起こす火山ガスとして,H2S,CO2,SO2が挙げられます.それらの濃度と人体に及ぼす影響の関係は以下の通りです.
#なおここに示したのは急性毒性であり,慢性毒性,環境基準値ではありません(2000.9.16補足)

H2S(硫化水素)

硫化水素ガス濃度
(体積比ppm)
生理作用
1−2かすかに臭気を感じる.
臭気(卵が腐ったような臭い)が著しい.
5−8非常に不快な臭気を感じる.
10許容濃度
50気道が刺激され,障害が起こる.
100臭気はあまり感じなくなる.5−8分ほどすると目・鼻・咽粘膜に強い痛みを感じ,暴露が長引けば激しい中毒になる.
800直ちに急性中毒を起こして失神,呼吸麻痺により即死する.
温泉地帯でよく感じられる匂いの元です.実際にはかなりの低濃度(敏感な人は0.1ppm以下)で匂いを感じ取ることが出来ますが,危険な濃度になると逆に匂いを感じなくなるので注意が必要です.

CO2(二酸化炭素,炭酸ガス)

炭酸ガス濃度
(体積比%)
生理作用
0.5許容濃度
1−2数時間の吸入では症状はない.不快感.
3−4呼吸の深さが増す.粘膜に刺激,頭部に圧迫感.数時間経つと頭痛・耳鳴り・血圧上昇・めまい・吐き気が起こる.
呼吸困難.
7−10数分以下で意識を失い,チアノーゼを起こして死亡する.
無色,無臭のため事前に感じることはまず不可能です.窪地に溜まっていることが多いのでそのような 場所に近づかないのが一番です.

SO2(二酸化硫黄,亜硫酸ガス)

亜硫酸ガス濃度
(体積比ppm)
生理作用
0.5-1臭気が感じられる.
2−3刺激臭による不快感.
許容範囲.
10鼻・咽を刺激され,せきが起こる.
20目を刺激する最低量.せきがひどくなる.
30−40呼吸が困難になる.
50−100短時間耐えられる限界.
400−5001−2分で皮膚を刺激し,気道・気管支が犯され,生命危険となる.
非常に刺激性が強く,喘息の持病がある方,心臓が弱い方などは10-20ppm程度のSO2ガスでも発作を引き起こし,危険な状態になることがあります.
#0.1ppm程度でも発作の引き金になりうるそうです(2000.9.16補足)
アメリカ労働省Occupational Safty and Health Administrationの,労働環境におけるSO2濃度制限は,8時間平均(TWA:Time Weighted Average)で2ppm以下,短時間(分析時間から見て15分間)で5ppm以下(STEL:Short-Term Exposure Limit)となっています.(2000.11.2補足)

火山ガスの危険から身を守るには

まず登山や観光の前に,自分たちが行く火山にどのような場所があるかがあるかを知っておきましょう.例えば○○地獄などの地名は噴気帯を示していることが多いです.事前に登山ガイドや地形図などで噴気帯の位置などを確認しておきましょう.
噴気帯や火口周辺にはたいてい火山ガスなどに関する注意があるはずです.また火山ガスの監視を行っている観光地もあり,規制が行われることもあります.これらの情報に常に注意を払ってください.
火山ガスは空気より重く,谷沿いや窪地に滞留していることが多いので,特に無風状態の時にはできるだけそのような場所を通らないようにしましょう.鳥や小動物が死んでいたり,植物が立ち枯れていたりしている場所は特に気をつけましょう.
立ち入りが規制されている場所にはけして近づかない,登山道や遊歩道を離れることはやめるという基本的な注意を払うようにするだけで,かなり危険を防ぐことができるはずです.

もしH2Sの臭いを強く感じたり,気分が悪くなったりした時はすぐに高いところに移動するようにしましょう.SO2ガスは薄い青白色の煙状に見えることがありますから,刺激臭を感じたりや咳き込んだりした時には風向きを見て移動するといいでしょう.H2SやSO2は水に溶けますから,濡れタオルで口や鼻をおおうと応急的なガスマスクになりますが,過信は禁物です.

H2SガスやCO2ガス中毒では,倒れてからではまず手遅れです.防ぐには危険な場所には近づかない事しかありません.もし不幸にして同行者が火山ガスで倒れたりした場合,あわてて助けに行くと同じようにガス中毒になる場合がよくあります.SO2ガスで喘息発作などを起こした場合は,速やかにガスの区域から離れて医者の手当を受けてください.

残念ながら日本では温泉噴気帯や火山周辺のガスの危険性はあまり一般には認識されていないように感じます.火山ガス災害は火山ガスの危険性を知っていさえすれば,かなりの程度防げる災害だと思います.火山は確かに美しい風景で心を和ませてくれますが,同時にある程度の危険性も伴っていることを頭の片隅に入れておくことが大切ではないでしょうか.
正しい知識を持って,正しく注意して,火山・温泉を楽しみましょう.


参考文献

松尾禎士(1995)火山ガス.火山の事典,朝倉書店.p155-163.
気象庁地震火山部(1997)週間地震火山概況(解説)火山ガスによる災害について.1997年No.38.