紙魚子とクトルー

納子
こんにちは、古本の好きな納子です。今日のお題は「表面科学」よ

米子
テケリン・リン! の米子です。納子ちゃん、漫才でつっこむには、中身を考えな あかんやろ。物事の上っ面だけ研究しとっても、らちあかんとちゃうか

納子
米子ちゃん、それってとっても

表面的な意見だわ

世の中には表面科学の成果なしでは作れないものがたくさん あるのよ。電子機器に使われている集積回路とか、 車の排ガスフィルターだって、表面の状態や表面で起こる反応を使っています

米子
たしかに触るの見るのって、まず表面やな。 ほんでも、やっぱ見かけよりも中身の方が大事なんとちゃう? Application

納子
どちらも大切なんだけど、表面の科学は中身の科学よりも難しかったのです。 まず、表面の現象だけを検出する測定方法がなかったでしょ。 それに、例えば表面の反応を調べようとしても、小さな凹凸や汚れがあったりすると反応する面積が変わって、反応しやすさが毎回違ったりするでしょ。

表面の重要性が判ってきたのは1950年くらいからです。 ベル電話研究所でゲルマニウムを使ってトランジスタが発明されたのが 1948年で、その頃には半導体の中身の物理はだいたい判っていました

米子
それじゃあ半導体の表面の科学はいらへんの?

納子
そうはならなかったのね。 初期のトランジスタはすぐ劣化して性能が出なくなったのよ。 いろいろ調べてみると改善するために、純度の高い半導体結晶が必要だったわ。 それからクリーンなシリコン結晶の表面に酸化膜作ると、劣化しない ことも判ってきたの

米子
つまり、半導体がダメになるのは表面から、ってことね。 人間もダメになると服装が乱れる、ちゅうか ピン接触

納子
そのころ、日本でもトランジスタの研究をやっていました。ベル研の論文を 真似して、半導体の上に針を立てて実験したけれど、全然うまくいかな かったそうよ

米子
ふーーん、論文の通りやっても、結晶と表面がよくわかってないとトランジスタはできへんかったんね

納子
そういう苦労から表面科学の重要性がだんだんわかってきて、表面を研究する人が増えたので、1979年に日本表面科学会が創立されました。 実はね、表面科学はナノテクノロジーとも深い関係があるんだよ。 ものをどんどん小さくしていくと、表面と中身の割合が変わってきます。 ナノスケールの微粒子になると、中身よりも表面の原子(赤い丸)の割合が大きくなるの

微粒子

米子
なーるほど。ほいでちびっ子の方が見てくれにこだわりよるんか。 プローブ顕微鏡も表面のナノ構造を見る装置だったな

納子
そうそう。表面にはいろいろなナノ構造ができます。 結晶をつくる原子って、もともと周りの原子と手をつなぐのが好きで結晶構造をとっているのに、急に周りの半分がいなくなっちゃったのが表面でしょ。だから、表面では なるべくたくさんの原子と手をつなごうとして無理をするから、結晶の位置からずれてしまうわけ

米子
へぇ、さみしがり屋さんやったんねー。そんなら表面から手を伸ばして、 いろんなモンをくっつけてしまいそうちゃう?

納子
雲母みたいに一枚一枚層になっている物質は汚れが付きにくいけど、 金属や半導体で、なんにもついていない表面を作るのは、かなりたいへんよ。 表面を洗浄したり、汚れの付きにくい処理をする方法も表面科学の成果です。 表面にちょっとでも不純物が残っていると、表面処理がうまくいかなくなるのよ 表面原子

米子
逆にそういう性質をうまく使えば、いらないモンや毒になるモンをくっつけ て取るのに使えるんやね

納子
そのせいで表面の研究って難しかったの。ほんとうにきれいな表面が作れるように なったのは真空技術が発達したからよ。超高真空中で加熱して、表面にくっつ いている分子をガスにして取り除くの

米子
そうそう、温度を上げるとガスが出ていくって、みのさんがテレビでいっとったわ。 きれいにするゆうても雑巾かけて床をぴかぴかにするのとエライ違いや

納子
みのさん!?

米子
そや。女子高生の役に立つ知識の8割は、みのもんたから教わったもんなんよ

納子
知らなかったわ。おそるべし、みのもんた。 それはそうとして、超高真空にしないと、せっかくきれいにした表面にも すぐガスがくっついてしまうから、なかなか良いデータが取れなかったのね

米子
そりゃあきれいな面だとして考えた理論とは、合わないやろな

納子
理論でも、計算機でシミュレートするのにも表面は難しいのよ。 結晶の内部なら周期境界条件といって同じ構造が続いていると仮定して 計算量を減らす手があるのだけれど、表面の計算ではそれができないから

米子
ほんま、やっかいな代物でんな

納子
有名な物理学者だったパウリ先生は「表面は悪魔が創った」といって、 表面の研究には手を出さなかったそうよ

米子
へえ、へえ、へえ、へえ、へえ…

納子
はいはい…女子高生のムダ知識の8割はトリビアとネットで覚えるのよね。 今でもデリケートなところはあるけど、真空技術や顕微鏡などの表面分析技術が 進歩したおかげで、いろいろな謎が解明されてきています

米子
ほんなら、悪魔はどないしたん。うらんどるでぇ、きっと kawaiiakuma

納子
悪魔はあくまでたとえ話だから、心配しなくてもよろし。 それでも、ある表面では別の原子を真空蒸着すると、蒸着した原子がいろいろなパターンを作ったり、表面から中に潜り込んだりするとか、不思議な現象が見つかってきたわ

米子
ふーむ、そんなことも測れるんか。技術が発達すると、よう判らんことも 増えるみたいやな。むずかしいことが増えると悪魔もどっかで笑っとるかもしれんね

納子
謎を追究していくとかえって謎が増えるというのは皮肉だけど、 科学ではよくあることみたい。全部解決しちゃったら、おしまいよ

米子
いつまでたっても解けない謎ってでてくるわな。そやけど、もっと 実用的なこと研究したらどうやろ。たとえば〈裏面科学〉や

納子
〈裏面科学〉? 裏面科学

米子
そや。表面科学の暗黒面ともいえるやろうな。 麻雀牌やトランプも牌やカードより表面に書いてある模様が大切やろ。 でも、もっと大切なんは、裏の傷や汚れやね。牌の裏面を研究して表の 模様をあてるのが〈裏面科学〉なんよ。 さっそく裏面科学会を立ち上げて、会員集めよ。ウチが会長や。絶対もうかりまっせ…

納子
トンデモ科学みたいなこと始めるんじゃなーーい!

納子&米子
しっつれいしましたー Byebye.jpg

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松竹梅高校科学漫才部活動記録

産業技術総合研究所

ナノテクノロジー研究部門

W.Mizutani

Illustration by Yurika, 2003
2003.9.29.