再び登場
納子
こんにちわ、納子でーす
米子
まいど。米子でんがな
納子
今度は、有機薄膜のおはなしでーす
米子
ハクマクって、薄い膜ってことかいな? 薄いゆうても、どれぐらい薄いん?
納子
いろいろあるけど、一番薄いのは分子1個分の厚さ(単分子膜)だから、 1〜2 ナノメートル、だいたい100億分の1ミリメートルってとこかな
米子
ひゃーっ、そりゃ、べらぼーにぺらぺらやんか。 そないな薄い膜、この世のものとも思われへんな
納子
あら、米子ちゃんの身体だって、細胞でできているわよね。

細胞を包んでいる膜は、分子の二層膜なのよ

細胞

米子
なるほど、生き物はみんな薄膜のお世話になっているんやね。 けど、その薄い膜、どないして作るんやろ。 自分の体の中にあっても、作り方はわからしません
納子
実験室ではいろいろな方法で薄膜を作っています。 まず、自己組織化膜(Self-Assembled Monolayers, 略してSAM)という方法だと、 金属の表面に分子がくっつくのと同時に、分子同士の相互作用が働いて、分子が自発的に規則正しく配列した単分子膜ができちゃうの。 金をチオール化合物の溶液に漬けておくだけで、表面に単分子膜ができるのよ

セルフアセンブル膜

ジェット風呂

米子
分子が自分で並ぶんでっか。分子の考えることは、ようわからんわ。なんせちっこいからな。
ところでチオールって、なにもんやねん
納子
分子の端に、イオウ原子と水素原子のつながった部分のある分子よ
米子
ああ、イオウって、あの温泉なんかでくさいやつか。 お肌にも膜がついてるんと違うか
納子
じゃあ、次いくわね。 ラングミュア膜(Langmuir膜)というのもあるわ。油みたいな分子を有機溶媒に溶かして水面にそっと垂らすと、分子1層の厚さで水面上に広がるの。 これをラングミュア膜というのだけど、これをガラスなどの基板にすくい取ってできたものを ラングミュア=ブロジェット膜(Langmuir-Blodgett膜、略してLB膜)というの。 何度もすくい取ることによって、分子がきれいに並んだ多層の膜にすることもできまーす
米子
ラングミュアとかブロジェットとかって、なんやねん。 こないだ行った温泉のボコボコ泡のでる風呂のことかい (註:「ブロジェット」とジェット風呂のシャレらしい。べたやな〜)
納子
いつまで、お風呂につかっていないで、そろそろ出てきなさーい。 ラングミュアとブロジェットはこの方法を見つけた研究者の名前。アービング=ラングミュアは1932年にノーベル化学賞を受賞した研究者で、キャサリン=ブロジェットはその共同研究者。この人は女性よ
米子
うちらと大違いやね
納子
私たちだって頑張れば名を残すこともできるかもよ。 LB膜の研究では、他にも女性が重要な役割を果たしているの。まず、最初にこの分野の元になる実験をしたのが、アグネス=ポッケルスという若い女性だったのよ。彼女は台所のシンクで膜に関する実験を行ったの。それから忘れてならないのは、元英国首相のマーガレット=サッチャーさん
米子
元祖コウテツの女ですな
納子
彼女はオックスフォード大学で化学を専攻していたの。そこでラングミュア膜での反応速度に関する研究を行ったの
米子
さっちゃん、なかなかやるやんけ
納子
それから、蒸着膜といって、分子を少しずつ蒸発させて、別のところに置いておいた基板の上に少しずつ堆積させていく方法もありまーす

お台所で実験よ

米子
へえ〜、いろいろあるんやな。 作り方はだいたいわかったけど、そないな薄い膜作って、 なにかいいことあるんかいな
納子
ナノテクノロジーの研究では、原子や分子を一つずつ動かしたり、分子の集合体の性質をコントロールしたりする技術を見つけて、科学のいろいろな分野に応用していくことを目指しているでしょ。こういった薄膜は、分子が寄り集まってきてできたものなの。だから、どんな風に分子がならんでいるかとか、どうしたら並び具合が変わるかとかを調べているわけ
米子
いろいろな並び方いうたら、麻雀の役みたいやな。 同じ種類で集めたり、二個ずつやったり。中途半端はあきまへん。 バラバラなら全部バラバラでないと、、、
納子
まあ、それに似てないともいえないわね。 分子の並び方を工夫すると、すっごい機能が出てくることもあるかもね
米子
分子麻雀の役満でんな。いっぱい点数がつくんやろな
納子
分子によって、電気を通しやすいとか、光を吸収し易いとか、といった膜の性質が変わるでしょ。いろいろな種類の分子を組み合わせて電子部品を作ろうという研究もされているわ。薄膜の機能っていうのは、外から電場とか熱とか化学物質を加えた時に、その膜がどのように応答するかということです。 それから薄い膜をただ作るだけでなくて、その膜を加工したり、構造を変化させたりする技術なんかも研究する必要があるの。たとえば、薄膜の中の望みの位置から分子を抜き取ったり、分子の位置を移動させて新しい構造を作ったりすることもやっているわ。
米子
いらんのを捨てたり、動かしたり、ほーんま麻雀の手作りと一緒や。自己組織化膜なんて、なーんもせんでも揃っている天和みたいなもんやし 麻雀大好き
納子
それに、パソコンのモニターなどに使われている液晶と呼ばれる分子も、普段は分子の大きさから考えれば十分に厚い層の中で働かせているんだけれど、1分子の厚さの膜にして研究してみると、いろいろとおもしろいことがわかるのよ
米子
液晶って、携帯のあれのこと?
納子
コンピューターのモニターにも使われているわ
米子
そっか、ぺらぺらの膜も、研究してると、いろんなことがわかったり、応用したりできそうやな。 ところで、膜作ったはええけど、そんな薄いもん、どうやって調べるんやろか。どんな膜ができたか自分でわからんかったら困るやろ?
納子
表面の凹凸や、分子の並び具合などを見るには、この前勉強したプローブ顕微鏡が役に立つわ
米子
ああ、あの盲牌のワザを応用したという、、、
納子
(とほほ。まあ、そういうことにしとくか)そうそう、その通り。 他にもいろいろあって、分子1層分の膜でも、紫外光や赤外光をどれだけ吸収するか、測ることができるのよ。これで分子の向きや種類が判るわ。 それに、膜の一番外側の層にある分子は、ある波長の光を吸収した時に、少しだけだけどその半分の波長の光をだすんだそうよ。それを使って、表面の分子の状態だけ感度良く測ることができるわけ
米子
何じゃそれ
納子
まっ、一言で言えば「非線形光学効果」
米子
専門用語はわからせんもん
納子
光学顕微鏡を使う手もあるわ。ものの表面から反射してくる光の強さは屈折率によって変わるから、これを利用して、薄膜からの反射光を光学顕微鏡で観察して、分子の集まり具合や傾きの方向を知ることもできます。これも、分子1層分の厚さの膜でも観察可能なんでーす
米子
やっぱ盲牌よりも、目で見た方が確かや 夜更かし米子
納子
違うのよ。盲牌、じゃなくて、プローブ顕微鏡を使うと分子の一個一個が見えるって言ったでしょう。光学顕微鏡では、そこまで細かいことは見えないのよ。たとえて言えば、プローブ顕微鏡を使うとあなたのクラスの一人一人がどこにいるかわかるけど、光学顕微鏡では高いところから撮った航空写真みたいなものしか見えないの。おっきな建物が見えるかどうか程度ね。 研究するときは、こういった方法をいろいろと組み合わせて、 分子一個一個を見たり、分子の集まり具合を調べたりするわけね
米子
なるほど、遠くから見たり、近づいて分子を見たり、膜を調べるいうてもいろいろあるんやな。 細胞膜の分子を一個一個調べても、うちの美貌はわからせんもんな〜
納子
でも米子ちゃん、
近くで見ると、お肌、荒れてるわよ。 また徹夜で麻雀してたんでしょ
納子&米子
しっつれいしましたー ちゃんちゃん
光学顕微鏡で単分子膜を見る
多辺由佳研究員のサイトに 液晶分子のラングミュア単分子膜の研究が紹介されています。 波のように見える分子の動きは光学顕微鏡で観察されたものです。

非線形光学効果で表面の性質を調べる
納子ちゃんが紹介している非線形光学効果については、宮前孝行研究員のサイト測定原理研究例が書かれています。 「ある波長の光を吸収した時に、少しだけだけどその半分の波長の光をだす」のは、光第2次高調波発生(Second Harmonic Generation, SHG) と呼ばれています。これは、和調波発生(Sum Frequency Generation, SFG) の特別な場合です。 詳しいことは論文に書かれていますが、わからないことはメールで問い合わせて下さい。 他にもたくさんのグループが研究していますので、準備が出来しだい紹介していきます。

スタンプで有機薄膜をパターンニングする
パターン化したSAM膜を作る方法として、マイクロコンタクトプリント法の研究を行っています。 活性な分子の膜を作った上に、他の分子を蒸着して表面で反応させ、さらに複雑な分子膜をつくる手法も研究しています。

変わった分子を使ったL膜、LB膜の物性
池上敬一研究員のサイトでは、メロシアニン色素や電荷移動錯体といった 特殊な分子を使ったL膜、LB膜の研究を紹介しています。 このような分子を並べることで電気的・磁気的に面白い物性や機能が期待できます。

産業技術総合研究所

ナノテクノロジー研究部門

W.Mizutani

Illustration by Yurika, 2002
2002.5.27.