英語でスピーチ・口頭発表の仕方

東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程1年
中田 亨
1998年6月5日

即戦力英会話のコツ

  1. 英語を喋るときは、まず I か You か We を言う
    または、“Let's —,”     “Suppose —” などの命令文を使う
  2. 次に動詞を言う
  3. 以降の語順はなんでも適当に
  4. 「あ〜」とか「え〜」を絶対に言わない
図

§ 序:そもそも“英語ペラペラ”とは何だ?

簡単に、コストがかからず、かつ即効で、日本人の英語プレゼンテーション能力を上げるテクニックを紹介します。

私のような理系で語学嫌いな者でも、一年ほど米国での市民生活と大学生活を経ると日本人の発表の下手さに対して一言を持つようになります。かく言う私も留学前は、英語の発表は自信が全くありませんでした。いろいろその手の本を買って読んでみたものの、今思えばそれらの本はいずれも「守るべきルール」の羅列に終始し、覚え切れませんでした。

実践的英会話のためのシンプルな原則があればなぁと、考えるに至りました。

米国に来ている外国人の多くは、めちゃくちゃな文法と、貧しい語彙だけで普通に英語を話して生活しています。それでも彼らは、会話の中で発言権を握れるのです。教養やら学歴などとは全く関係がないのです。

何か秘訣があるはずだと、思案した結果がこの文章の内容です。

【後日注記】東大の研究室の引っ越しの際にサーバが止まったので、このページ( http://www.lssl.rcast.u-tokyo.ac.jp/~shizuka/howeng.html http://www.ics.t.u-tokyo.ac.jp/~shizuka/howeng.html )もWeb公開を止めたままにしていましたが、某語学出版社の依頼により再掲しました。結構評判がいいらしいのです。

§ 必殺!「1・2人称発話法」!

私は「1・2人称発話法」と呼んでいます。 (命令文でも対象は you なのだから1・2人称の一種として考えます。)

することはこれだけです。

日常生活の会話から学術講演まで、これだけを守ればいいのです。自分の英語表現能力に自信のない人ほど、多用すればいいのです。それだけで“相手にわかってもらえる英語”になります。

¶ よくある言い出し例

かなりの場面で、次の語句から文頭を選べます。

  1. “I believe —,”     “I think —,”     “I would say —,”     “I/We used —.”
  2. “You can —,”     “You cannot —,”     “You might say —.”
  3. “Suppose —,”     “Imagine —,”     “Let's —,”     “Let's take an example: —. ”, “Let me understand this."

★例文1「非正則行列には逆行列は存在しない」

直訳: “For any singular matrix, its inverse matrix does not exist.”

本手法:
1) “You/We cannot get any inverse matrix of a singular matrix.”
2) “You/We cannot make any inverse matrix of a singular matrix.”

このように学術的な内容や客観的事実であっても、主語をYou/Weにして発言できます。この方法は、大学の講義でも多用されていて、例文1)も大学院の講義で筆者が実際に耳にしたものです。

★例文2:「この温度は温度補償器によって補償される」

直訳:” The temperature is compensated by the thermal compensator.”

本手法: “You can control the temperature with the compensator.”

少し意訳のようですが、かえって本質を突いている言いまわしではないでしょうか。

★例文3:「東京では滅多に雪が降らない」

本手法: “We rarely have snows in Tokyo.”

学校で習う例文も “We have —” 式ですよね。

★例文4:ダンシング・クィーン

ABBA DANCING QUEEN LYRICS を検索してみよう。冒頭からいきなり “You can dance!” です。歌い込めば英語も上手くなるかも。最近の曲では Fiona Apple の “Fast As You Can” もお薦め。

¶ 特長

私がこの手法を気に入っている理由。それはこんな利点があるからです。

  1. 使う単語が簡単。イメージに基づいて表現するから。
  2. 構文が簡単。三単現のSも出ない。
  3. 発音が楽。主語と動詞がわからない発音が一番まずいが、最初に言えば安全。
  4. 相手の注意を得ることが楽。「あなたは〜」と話しかけるから。
  5. 話し言葉なので、討論でも使いやすい。
  6. 忘れにくい。ルールが少ない。
  7. 意見なのか事実なのかが、自然に言い分けられる。
    意見は “I believe —,”     “I think —,”     “I would say —” など “I” で始まる。
    真理は “You can —,”     “You cannot —,” “You have to —” で言う。
    事実などは “We found —,”     “We used —” などと言えばよい。
    こうすると言いたいことが正確に伝わるし、相手からトンチンカンな質問をされずにすむ。
  8. しっかり伝わる。話し合いでは “You can/cannot/must —“ で伝える内容が一番大事。この文だけは、ハッキリ言おう。

¶ 心配御無用

この方法を使うと、英語表現能力のいろいろな欠点を克服できます。

「発音・抑揚が下手」

ネイティブの発音を目指すのは難しいし、会話経験を積んでからのできることです。

要は、発音・抑揚は誤解が起こらない程度でいいのです。また、日本人は抑揚と流れを軽視する傾向にありますが、これも改善できます。

発音による誤解の原因は、

  1. 文の主語がはっきり聞きとれない
  2. 言いたい専門用語がはっきり発音できない

といったところでしょう。

この方法を使うと、1番目の問題は解決されます。というのは、 主語として、おなじみの I, You, We を使うからです。 聞き手は Iや Youという発声は聞きなれているし、予想もしています。 そして、その次に動詞がくるのは当たり前なので、ぐっと誤解されにくくなります。

また、一般に避けるべきと言われている受け身文を自動的に排除できます。 2番目の問題は次項で解決します。

「適語を探すのに苦労する」「とっさに答えられない」

主語を I や You にすると、自分の言いたい(でも抽象的で言いにくい)概念が、自動的に、ある人物の行動という具体的なイメージとして噛み砕かれ、頭に浮かんできます。そうすると単語選びと言い方選びが単純・簡単になります。

学術的内容であっても言いたいことは単純な言葉で充分言えるものです。例文2では、動詞に compensate という難しい単語を使わずに、「結局あんたは何ができるのか?」、「私はこうやりました」という単純なイメージから文を組み立てたものです。

長い単語はたいてい発音が難しく、たとえ発音が正しくても多義語・希用語で分かりにくいことが多々あります。また、とっさに出てくる性質の言葉ではないです。ありふれた単語を使いましょう。

「読み上げ原稿を暗記できない(T.T)」「練習時間がない」

本手法は単語や構文を無意識的に単純化する性質を持っていますので、読み上げ原稿作りも楽になります。

しかも言いたいことは、「結局あんたは何ができるのか?」、「私はこうやりました」のイメージを伴っているので忘れにくいです。とっさの事態への対応能力も自然とつきます。

ここまで練習すれば、原稿の暗記にハラハラすることなく、言いたいことのイメージを覚えられます。

発表練習は早めに始めて、細く長くやるべきです。「昨日の自分」ならわりと客観視できます。発表の粗、改善案を見つけるには、どうしても「寝かし」の時間が必要です。

「声が小さい」

声が小さくなるのは、

  1. 読み上げ原稿を読んでいるから(文字を追うことに神経を使ってしまう)
  2. 読み上げ内容を間違えるのが怖い
  3. 強調のしどころがわからない

ということが原因です。

1と2は、本手法で練習して克服しましょう。本手法なら、三単現のsを気にしなくてもいいですし。

3は、文頭の You, I, We という言葉は、自然に言葉に力が入るので、解決です。

「メリハリがなく、聴衆が飽きる」「説得力に欠ける」

You とは聴衆のことを指しています。講演者は You と言うことによって聴衆との繋がりを持てます。You の時に客席を見ながら発言するとさらに効果的で、説得力が増します。

聴衆も「あなたは○○できます/できません」という風に言われると、「なるほど」とか「ああ言っているけど、そうかな?」と興味を持ちます。

「思わず、アー、エーと言ってしまう」

米国のテレビ番組や映画を見ると気付きますが、彼らは時間稼ぎの「あー」や「えー」を言いいません。

確かに “Well —” という言葉は時間稼ぎに使えるが、それは文の途中ではまず言いません。語尾を延ばすという流儀もありません。

英語で、「アー」や「エー」を言うと、文全体のアクセントとイントネーションが壊れて、聞き手は文の構造が分からなります。

一方、日本人は、「あー」「えー」を、発言権を保持するために言います。 わかっちゃいるけど言ってしまいたくなるのが日本語化した脳の持ち主の辛いところである。

そんな時は、開口一番 “I think —,”     “I believe —,”     “I found —,”     “I've done —,”     “You can —,”     “You cannot” と言ってしまいましょう。ここまで言ってから言いたいことを考えはじめてもOK。幸い文節の切れ目なので、多少間が開いてもいいのです。黙ってイメージを思い浮かべて下さい。相手の目を見ながら、声を出さず黙って考えると、真剣に見えます。

つまり、主語と助動詞・動詞を発言することで発言権を表明するのが、英会話の流儀なのです。

§ その他、お役立ちテク

¶ ストーリー構成

中国文化圏では、話の流れは、核心を周りから包むようにして説明し、最後に核心を言います。また、言わなくてもわかる程度まで周辺を説明することで終わるのが、風流です。

セム文化圏(アラブなど)では、「千一夜物語」のように、複数の話をパラレルに走らせ、最後に最大公約数的な結論を出して締めくくるのが風流です。

米語のプレゼンテーションや論文では、「刑事コロンボ」のように、まず核心を言います。いきなり「犯人は誰」と言ってしまいます。

日本でも、テレビ番組などのプロが作ったプレゼンでは、核心最初主義です。

¶ 緊急造語法

質問されると即座に答えなければいけません。答えを頭の中で日本語で作ると、どうしても訳語がわからない単語が出てきてしまいます。単語を必死に考えると、つい「エー」と言ってしまうもの。

そんな時に効くローテク。

  1. -wise を使う。例えば「金銭的に・経済的に」と言いたい場合、expensive, inexpensive, economically などと言うのがかっこいいのかもしれませんが、money-wise(ly)と言えば済みます。
  2. ハイフネーションを使う。たとえば米国の「食べ放題」の店の看板には “All-You-Can-Eat style” と書いてあります。こうすれば、わざわざthat節を作らなくてもstyleを修飾できます。ハイフネーションの時は抑揚を下げたりや話の速度をゆっくりにしたりして、ハイフネーションなんだよと表現します。

§ 英会話の道、先は長い

「多くの」を英語で言うと、“many” か “a lot of” を思い浮かべるでしょう。

ところが、“a lot of” は辞書を見ると口語であるとされています。つまり、「いっぱい」という語感なのです。 したがって、公式なスピーチで “a lot of” を使うと変です。

思えば、中学校の英語の試験で、 “many” と “a lot of” の置き換え問題をずいぶんやらされたものです。ペーパーテストという競技化が著しい受験英語は、実用面で有害なことがポツポツあります。

結局、下手な段階で英語圏に突入するしか、その人の職業や環境に合った実践的な英会話能力は身に付かないと思います。「英語をマスターしてから英会話をする」のではなく、「英語社会で生活しながら腕を上げる」という方が、実態に合っています。

§ おすすめの本

¶ 文の接続方法カタログ

金出先生は「副詞句からしゃべられるとかったるい」とおっしゃられるが・・・。

1. 追加

  1. S V, and S V. (等位接続詞)
  2. In addition, S V. (文修飾)
  3. Moreover, S V. (文修飾)
  4. S also V. (文修飾)
  5. Furthermore, S V. (文修飾)
  6. In addition to N, S V. (従属接続詞)

(N = 名詞・動名詞。 例えば the fact that S V などとしてS Vを入れることもできる。)

2. 強調

  1. Not only S V, but S also V. (等位接続詞)
  2. Furthermore, S V. (文修飾)
  3. In fact, S V. (文修飾)
  4. As a matter of fact, S V. (文修飾)
  5. S actually V. (文修飾)
  6. Besides N, S V. (従属接続詞)
  7. S V, not to mention N. (従属接続詞)

3. 対比

  1. S V, but S V. (等位接続詞)
  2. S, however, V. (文修飾)
  3. On the other hand, S V. (文修飾)
  4. S, in contrast, V. (文修飾)
  5. While S V, S V. (従属接続詞)
  6. In spite of N, S V. (従属接続詞)

4. 譲歩

  1. S V, yet S V. (等位接続詞)
  2. Even so, S V. (文修飾)
  3. Nevertheless, S V. (文修飾)
  4. Although S V, S V. (従属接続詞)
  5. Even though S V, S V. (従属接続詞)
  6. In spite of N, S V. (従属接続詞)
  7. Despite N, S V. (従属接続詞)

5. 理由と結果

  1. S V, for S V. (等位接続詞)
  2. S V, so S V. (等位接続詞)
  3. S V, thus S V. (等位接続詞)
  4. S V; hence, S V. (等位接続詞)
  5. Accordingly, S V. (文修飾)
  6. S consequently V. (文修飾)
  7. As a result, S V. (文修飾)
  8. S therefore V. (文修飾)
  9. S V, due to N. (従属接続詞)
  10. Because S V, S V. (従属接続詞)
  11. Since S V, S V. (従属接続詞)
  12. As a result of N, S V. (従属接続詞)
  13. S V, so that S V. (従属接続詞)
  14. In order to V, S V. (従属接続詞)
  15. Because of N, S V. (従属接続詞)

6. 条件

  1. S V, or else S V. (等位接続詞)
  2. Then S V. (文修飾)
  3. Under such circumstances S V. (文修飾)
  4. S V, providing S V. (従属接続詞)
  5. S V, if S V. (従属接続詞)

7. 列挙

  1. S V , and S V. (等位接続詞)
  2. First S V. Then S V. Eventually S V. (文修飾)
  3. First S V. Secondly S V. Thirdly S V. (文修飾)
  4. S V after S V. (従属接続詞)
  5. S V after N. (従属接続詞)
  6. S V before S V. (従属接続詞)
  7. S V before N. (従属接続詞)

8. 類似

  1. Similarly S V. (文修飾)
  2. Likewise, S V. (文修飾)
  3. S V, and S V likewise. (文修飾)

¶ あいづちの言葉

伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』(文春文庫)より

  1. “ Really?”
  2. “ Not really!”
  3. “ Quite.”
  4. “ Exactly.”
  5. “ Certainly.”
  6. “ Indeed.”
  7. “ Must be.”
  8. “ I can't belieave it!”
  9. “ No!”
  10. “ Isn't it?”
  11. “ Did you?”
  12. “ Have you?”

最終更新:2005年5月2日