単粒子解析

電子線単粒子解析法はタンパク質の様々な向きの電子顕微鏡像から3次元構造を再構築することにより、その3次元構造を決定する。元々はウイルス粒子、リボゾーム等の比較的大きなたんぱく質に関して行われてきた方法である。しかし、近年その適用できる下限は徐々に下がって来ている。我々は、100kDa程度のより小さな膜たんぱく質の解析も可能にした( Nature 2007 )。同時に、その分解能も高くなり、3Å程度にまで達している。この程度の分解能ならば結晶解析には及ばないと考えられる方も多いであろう。確かに結晶ができるものに関してはその通りである。しかし、前述のようにタンパク質には結晶を作り難いものもあり、結晶ができた時ですら、余り良くない結晶ができてから原子座標を求めるまでには時間がかかることが多い。すなわち、小さい結晶や、内部に配向の不揃いがある結晶から、原子座標レベルの解析が出来る良い結晶を作る条件に達するまで、10年以上の年月を要することもありうる。そのため結晶を作らなくて良いこの方法は魅力的で、応用範囲は広い。

Naチャネル

Na channel reconstruction
脊椎動物の電圧感受性チャンネルも結晶をつくり難いタンパク質である。このチャネルはシグナル伝達を可能にする興味深い機能を有する。電圧感受性イオンチャンネルは、隣接したイオンチャンネルが開くと自分自身も開く性質がある。その性質によって次から次へと神経細胞上において刺激を伝達する。電圧感受性イオンチャンネルの隣が開くと自分自身が開くという機構は、実際には近くのチャンネルが開いて生じる正イオン流入による膜の内外の電位差変化、即ち電圧変化を感受することにより行われる。この時の開く速度は、1ミリ秒以下の世界である。電圧感受性チャンネルには主にNa+チャンネル、K+チャンネル、Ca2+チャンネルの三種類が存在する。そのアミノ酸配列は良く似ており、高等生物の神経細胞内では電気信号を増幅し、伝達し、そして新たに電気信号をつくるために、これらの3種類が協調して働く。その中のNa+およびCa2+チャンネルは細胞の興奮、神経伝達、筋肉収縮などの多くの機能に深く関係している。Na+チャンネルは糖鎖を含めて平均分子量300kDaの膜蛋白質であり、神経情報の伝導、増幅を担っている。それらは一部の遺伝的心臓疾患や痛覚変異など直接人間の病気を引き起こす機構とも深く関わっている。同時に多くの種類の神経毒や、麻酔薬の標的の一つでもある。その構造を解明したところ、2重の層構造からなるベル構造であった。表面の殻と内部の密度に大きく二分される。殻側面には細胞の外部と内部に、それぞれ4箇所の孔が見られる。細胞質側の内部構造は低密度領域である一つの中心空洞を4つの周辺空洞が取り囲む。周辺空洞の高さと幅はおよそ15 Å程度であり、大きな細胞質側開口部へとつながっている。細胞外の4つの小さな穴は膜表面近くで外殻を貫通しており、その内部の大きな空洞を細胞外液へとつないでいる。


細胞の内側と外側の大きな空洞はその間をつなぐ4つの狭い通路状の低密度領域によってつながれている。この細長い空洞はチャンネルの軸を中心として約45度、ねじれている。さらにこの低密度領域には、膜貫通部位内に極端に狭い部分が存在する。これが電圧変化の感知に関連するのではと議論されている。また、チャンネル分子の中心部には細長く密度の高い、外殻構造から離れた中心構造が見られる。その構造体の高さは約40 Åで直径35 Åである。イオン選択装置ではないかと我々は推測している。

Abstract from: Nature 409, 1047-1051 (22 February 2001)

 

The voltage-sensitive sodium channel is a bell-shaped molecule with several cavities

Chikara Sato*, Yutaka Ueno*, Kiyoshi Asai*, Katsutoshi Takahashi², Masahiko Sato³, Andreas Engel§ & Yoshinori Fujiyoshi║

* Supermolecular Science Division, Electrotechnical Laboratory (ETL), Umezono 1-1-4, Tsukuba, 305-8568 Japan ² School of Knowledge Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology Hokuriku (JAIST), Asahidai 1-1, Tatsunokuchi, Ishikawa, 923-1211, Japan ³ Central Research Institute, Itoham Foods Inc., Kubogaoka 1-2, Moriya, 302-0104, Japan§Maurice E. MuÈller Institute, at the Biozentrum, University of Basel, Klingelbergstrasse 70, CH-4056 Basel, Switzerland ║Department of Biophysics, Faculty of Science, Kyoto University, Oiwake, Kitashirakawa, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8502, Japan

Voltage-sensitive membrane channels, the sodium channel, the potassium channel and the calcium channel operate together to amplify, transmit and generate electric pulses in higher forms of life. Sodium and calcium channels are involved in cell excitation, neuronal transmission, muscle contraction and many functions that relate directly to human diseases. Sodium channels--glycosylated proteins with a relative molecular mass of about 300,000, are responsible for signal transduction and amplification, and are chief targets of anaesthetic drugs and neurotoxins. Here we present the three-dimensional structure of the voltage-sensitive sodium channel from the eel Electrophorus electricus. The 19 Å structure was determined by helium-cooled cryo-electron microscopy and single-particle image analysis of the solubilized sodium channel. The channel has a bell-shaped outer surface of 135 Å in height and 100 Å in side length at the squareshaped bottom, and a spherical top with a diameter of 65 Å. Several inner cavities are connected to four small holes and eight orifices close to the extracellular and cytoplasmic membrane surfaces. Homologous voltage-sensitive calcium and tetrameric potassium channels, which regulate secretory processes and the membrane potential, may possess a related structure.

PubMed Link

タンパク質構造決定技術、膜タンパク質精製技術、情報技術、電子顕微鏡技術、神経細胞の培養技術等.