研究情報基盤研究開発プロジェクト中間報告書

1. タイトル

離散化数値解法のための並列計算プラットフォームに関するソフトウェア開発

2. 代表者所属・氏名・連絡先

機械技術研究所,手塚 明,e-mail akira@mel.go.jp

3. 研究計画概要

 計算科学のアプリケーションの並列化のためにMPI等の機種依存性のない並列計算インタフェースが提案されているが,MPIに則ったプログラムの書き換えにも多くの労力を要し,計算力学研究者にとって並列計算の敷居が依然として高いのが現状である.

 従来,並列計算機で高速な計算を行うためには,数値解法ごとに専用にプログラムを書き換えて,高速な並列処理を実現していた.しかし,高い並列化効率を得るためのプログラムの書き換えには,数人・月の工数を必要とすることがほとんどである.また,その作業は,プログラムのアルゴリズムと並列計算のアルゴリズムおよび並列計算機のハードウェアを理解したソフトウェア技術者にのみ実現が可能である.また,研究者により簡単に試行することのできるコンパイラによる自動並列化では,高い並列化効率を得ることができるとはいえない.

 また,数値計算自体は一日で終了しても,離散化領域データの作成には長時間を要している.並列計算による高精度化,大規模化を活かすためには,数値計算に先立つ離散化領域のデータ作成の自動化も重要である.  更に,離散化数値解法の特質として,応力集中部位,熱源近傍などの特異的な挙動を示す部分に対し,メッシュ/格子を集中させたり部分的に細分化するなど,分割に特別な工夫が必要とされている.これらの解に適応した配置をどのような指標に基づいて行うか は研究的要素であり,個々の数値解法,一般には個々の現象で異なるアルゴリズムの形態を取る.しかし,指標が与えられた時の制御方法は共通的汎用的である.

 以上の理由により,本課題では,有限要素法,有限差分法など,個々の数値解析手法の種類によらず,汎用的に用いる事のできる並列計算のための共通プラットフォーム群の開発を行っている.

 本研究で行うソフトウェア開発は大別して,次の3つの部分より構成される.

(1)離散化数値解析のための汎用的並列計算プラットフォームの開発 ドメインデコンポジション法(領域分割法)に対するマトリックスソルバーエンジンの開発を行う.

(2)並列計算プラットフォームでの解析に必要な離散化領域データを生成するプリプロセッサーの開発 任意領域形状に対応する均質六面体メッシュ/格子全自動生成ソフトウェアの開発を行う.

(3)メッシュ/格子形態制御プラットフォームの開発r法(節点移動)及びh-mesh refinement(要素細分)による非均質メッシュへの制御ソフトウェアの開発を行う.

 1999年度は主にマトリックスソルバープラットフォーム,2000年度は主に三次元六面体自動要素分割プラットフォームの開発を行う.開発に際しては,プログラムの基本となるサブルーチン等を委託先の富士総研に供給し,富士総研側でシステム化したものを,研究グループで使い込み適宜フィードバックをかけるというスタイルを取っている.当該課題で開発されるプラットフォームは並列効率等の機種依存性のある個別的な性能の高さを追求したものではなく,離散化数値計算手法の種類によらない汎用性を追求したものである.ゆえにこれから並列計算手法を導入しようとする者は,まず,このプラットフォームを利用する事で容易に並列計算プログラムの雛型を得る事ができる.ユーザー定義サブルーチンに開発した非並列解析プログラムをはめ込むだけで並列計算が実現するのが特徴である.手法の特徴を活かした並列化アルゴリズムのチューニングを行いたい場合にはこの雛形を基に局所的な改良を加えるだけで良い.PCクラスターの高速化・低価格化により,中小企業でも並列計算のハード購入自体は可能であるが,ソフト開発基盤がないために並列計算を行えないのが現状である.このプラットフォームの利用により,日本の基盤産業を支える中小企業での並列計算の利用が促進さ れる.

 また,3Dスキャナーからの六面体要素モデル生成機能及び並列計算プラットフォームの利用による並列解析を駆使する事により,例えば,手術前に術後状態のリアルタイムシミュレーション等が可能となる.

4. 研究の位置付け

 近年,国内外で,PETSc(1), Aztec(2), GEOFEM(3)等,並列マトリックスソルバーが開発されているが(4),並列計算の経験を前提としており,並列書き替え用途には向いているとは言い難い.このような背景のもと,数値解法に依存せず,ソフトウェア毎にチューニングする必要のない,高速化可能な,汎用的並列処理プラットホームのニーズは非常に大きい.

備考
(1) http://www-fp.mcs.anl.gov/petsc/index.html
(2) http://www.cs.sandia.gov/CRF/aztec1.html
(3) http://geofem.tokyo.rist.or.jp/index_jp.html
(4) http://www.netlib.org/utk/people/JackDongarra/la-sw.html

5. 研究分担概要

添付図参照

6. 研究成果

7. 学会発表(発表予定も可)

[1] プレス発表(2000.9.20 予定)
[2] 手塚 明,松原 聖,離散化数値解析のための並列計算プラットホームの開発,日本機械学会茨城講演会,茨城大学工学部(日立市),2000.9.22(予定)


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