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キーワード: コヒーレンス理論,統計光学,波面制御,イメージング,生体医用光学,量子ミメティクス
1.量子ミメティックイメージングの研究
量子もつれ光子対などの量子光を利用した量子イメージングでは,物体が存在しない場所にその情報が転送されるゴーストイメージングや,古典的な限界を超える分解能で断層像を取得できる量子OCT(光コヒーレンストモグラフィ)など,これまでの常識を覆す機能や性能が実現されます.しかし,一般に量子光は微弱であり,かつその発生と制御は容易ではないため,これに代わり通常の古典光を使って同様のイメージングを実現できれば,その波及効果は極めて大きくなります.本研究では,量子光学に基づく量子イメージングを古典光学の枠内で再構築し,その優れた特徴を広く利用される古典光により実現/模倣する量子ミメティックイメージングの研究開発を進めています.例えば,量子ミメティックOCTのひとつとして,通常の広帯域光源を使っても量子OCTと同様の分解能および耐分散性を獲得できるスペクトル強度干渉断層イメージング法を提案しています.
2.光波面の制御技術とその散乱イメージングへの応用
光の波面歪みを実時間で検出し補正する補償光学技術は,主に大気ゆらぎの影響によりぼやけた天体像を改善する技術として注目を集めています.しかし,その典型例である波面センサーと形状可変鏡に基づくシステムは,天文学の分野では実用化されているものの,大型・高価・波面の高精度制御が困難・計算機による膨大な演算が必要などの理由により,広く一般には普及していません.本研究では,これらの問題を解決し,各種工業計測や医療計測機器に容易に適用できる汎用的な補償光学システムの実現を目指しています.さらに,この技術を進化させ,光の多重散乱の影響により光波面に不連続性が発生する状況であっても,それを適切に補正する波面制御技術の研究開発を行っています.一例として,上述の量子ミメティックOCTと考案した光波面の制御技術を組み合わせることにより、光路中にランダムな散乱性の媒質が存在してもその影響を効果的に排除し、高い分解能で被測定対象の断層イメージングが可能となることを実証しています.
3.コヒーレンス理論の基礎と応用に関する研究
光のコヒーレンス,特に空間的コヒーレンスの概念は,結像系の特性や太陽電池の効率など,光を利用した多様な応用分野において重要な役割を果たしています.そのため,一般に光学機器の性能を十分に理解し,さらにその性能を制御するためには,光のコヒーレンス特性を精密に把握する必要があります.本研究では,DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)による光波の時空間制御技術を活⽤して,⾼速で信頼性の高い光の空間的コヒーレンスの測定技術を研究開発しています.さらに,光リソグラフィー装置において微細回路パターンの忠実な描画を妨げる要因となるスペックルについて,その挙動をコヒーレンス理論に基づき解析することにより,スペックルの影響を効果的に低減する方法の研究開発も行っています.
1.コヒーレンスに関する国際会議での招待講演
2024年6月にフィンランドで開催されるコヒーレンスとランダム偏光に関する国際会議より招待講演の依頼を受けました(招待講演者のリスト).本国際会議は2014年に第1回目の会議が開催されて以来,3回目の開催となります.コヒーレンスと偏光に関する古典論および量子論をベースとする専門家が集結し,基礎から応用に至る最新のトピックスを単一セッションにてじっくりと議論する会議となります.口頭講演は招待者のみですが,ポスター講演での参加も可能です.ご興味のある方はご一報ください.
2.JOEM技術講座でコヒーレンス関連の講義を担当
JOEM(日本オプトメカトロニクス協会)技術講座「照明光学系の基礎と設計法」 の講義のひとつとして,「光源のコヒーレンスと放射特性」を担当しています.コヒーレンスの概念とその考え方をわかりやすく説明した上で,照明光学系の基礎となる光源のコヒーレンスと放射特性との関係を例を示しながら紹介します.その中には,インコヒーレント光源として扱われてきたランバート光源が,実際にはインコヒーレントではなかったことなど,少々意外な研究結果も含まれています.次回は,2025年8月に開講予定です.2024年開講の情報は下記となります.
3.JOSA A 特集号「100 Years of Emil Wolf」刊行
2022年は,コヒーレンス理論をはじめとする物理光学分野で顕著な業績を収められたウォルフ教授の生誕100年目でした.これを記念して,Optica発行のJournal of the Optical Society of America A(JOSA A)誌において同教授の足跡を回顧する特集号が企画されました.そのゲスト編集委員の一人として,本特集号が刊行されましたことをお知らせします.本特集号のイントロ記事は下記となります.
→ https://doi.org/10.1364/JOSAA.481695
4.Progress in Opticsに解説論文を出版
ハンブリー・ブラウン-トゥイス効果の新しい定式化,古典光を利用したゴーストイメージング,量子光OCTの特長を古典的に実現する方法など,古典光を利用した強度干渉法に関する最近の話題をレビューしています.印刷・製本された書籍版の他,ScienceDirect にて電子版もご利用頂けます.
→ https://doi.org/10.1016/bs.po.2017.01.001
5.翻訳書の出版
Wolf教授の著書 Introduction to the Theory of Coherence and Polarization of Light (Cambridge University Press, 2007) の翻訳書を出版しました.コヒーレンスと偏光の概念が,初学者にも理解しやすいようにコンパクトにまとめられていますが,理論の厳密さは失われていません.これからコヒーレンスと偏光を学びたい方にも,これらの概念を復習および手早く参照したい専門家の方にもお薦めです.
1.最近の論文
- T. Shirai, M. Arakawa, Y. Fujimaki, T. Kumazaki, and K. Kakizaki, ''Simulating temporal speckle with prescribed correlation properties in optical lithography,'' J. Opt. Soc. Am. A 41, 1923-1931 (2024).
→ https://doi.org/10.1364/JOSAA.530912 (Open Access) - 白井智宏, ''量子ミメティック強度干渉イメージングとその耐擾乱性,'' 光学 第52巻 第2号, 67-73 (2023). 【解説記事】
→ 日本光学会「光学」第52巻 第2号のページ - T. Shirai and A. T. Friberg, ''Fast and reliable technique for spatial coherence measurement with a temporally
modulated nonredundant slit array,'' J. Opt. Soc. Am. A 39, C105-C115 (2022).
→ https://doi.org/10.1364/JOSAA.472836 (Open Access) - 白井智宏, ''補償光学の役割と最近のトレンド,'' 日本眼光学学会ニュースレター 2022年1号, 3-4 (2022).
- T. Shirai and A. T. Friberg, ''Spatial coherence measurement via digital micromirror device based spatiotemporal light modulation,'' Opt. Lett. 46, 4160-4163 (2021).
→ https://doi.org/10.1364/OL.436339
2.最近の講演(予定を含む)
- 白井智宏, ''光源のコヒーレンスと放射特性,'' 日本オプトメカトロニクス協会・技術講座「照明光学系の基礎と設計法」(オンライン/ 2024年8月1日), 依頼講義.
- T. Shirai, M. Arakawa, Y. Fujimaki, T. Kumazaki, and K. Kakizaki, ''Simulating temporal speckle in optical lithography", 3rd Joensuu Conference on Coherence and Random Polarization: Current Paths and New Horizons (Joensuu, Finland/ 2024年6月11日), Invited Talk.
- 白井智宏, ''時間的スペックルの可視化シミュレーションとその応用,'' 2023年度 計量標準総合センター成果発表会 (産総研/ 2024年2月2日).
- 白井智宏, 荒川正樹, 藤巻洋介, 熊崎貴仁, 柿崎弘司, ''時間的スペックルのコントラストの時間発展シミュレーション,'' Optics & Photonics Japan 2023 (札幌/ 2023年11月28日).
- 白井智宏, Ari T. Friberg, ''非冗長配列スリットと時間光変調を利用した高速かつ信頼性の高い空間的コヒーレンス測定法,'' 第70回応用物理学会春季学術講演会 (東京+オンライン/ 2023年3月17日).