高温超伝導体の研究
高温超伝導体が発見されて10年以上たちますが高温超伝導はまだ解決していません。
解決していないと言うのは、高温超伝導体を説明するような描像がかけていないとい
うことであり、それらしい描像があってもそれが本当に正しいかどうかがわからない
ということです。なかなか描像がかけないのは、これまでの物理学の知識では説明し
にくいことが起こっているからです。超伝導臨界温度Tcが高いことからそうですが、
超伝導ペアーの対称性が異方的であること、Tcより高い温度で電気抵抗が温度に比例
する領域があること、などいろいろあります。
高温超伝導の研究において解決すべきこととして
超伝導のメカニズムは何か、
異常金属相とはどういうものか、
低ドープ域での相図はどうなっているか、
電子ドープ高温超伝導体の相図はどうなっているか、およびそれがホールドープ
系と異なるのはなぜか、
などがあげられます。
超伝導のメカニズムに関して、Copper pairの対称性がd波である、と確立しているこ
とは重要です。d波の超伝導を与えるようなクーパーペアーに対する引力のメカニズム
を考える必要があります。高温超伝導に対する引力の起源として最有力であるのが、
短距離のクーロン相互作用です。クーロン相互作用は斥力であるにもかかわらず電子
間に引力が働くのはどうしてかという疑問が生じますが、d波の対称性をもつクーパー
ペアーに対してはオーダーパラメーターの符号が変わることにより、クーロン相互作
用が引力として働きます。この考えにより、ハバードモデルや三バンドのハバードモ
デル(d-pモデルとも呼ばれます)に対して、実際にd波のペアーに対して引力的であ
ることを示すと良いのですが、これがなかなか難しいことであります。多くの研究が
あるにもかかわらず、例えば「三バンドハバードモデルではクーロン相互作用Uにより
d波の超伝導相が存在する」と認知されるような状況にはなっていないようです。例え
ば、量子ホール効果で有名なLaughlinなどは「ハバードモデルではまだ超伝導になる
ということがestablishしていない。だから、私は有効 Hamiltonianを考えてその物理
的性質を議論しているのだ。」と言っていました。
それでは(三バンドの)ハバードモデルで超伝導は可能でしょうか。それを研究するために我々が考えている方法は二つあります。一つは相互作用Uが非常に小さい極限における計算であり、もう一つは中間の大きさのUに対するモンテカルロ法による計算です。ハバードモデルに対して相互作用Uが小さい極限では摂動論により厳密に基底状態について議論することができます。Uが小さい極限の計算は、しかし、それほど簡単ではなく普通にギャップ方程式を解いて臨界温度Tcを求めようとしてもうまくいきません。Tcが小さいために数値計算の誤差から解が求まらなくなります。ある程度Uが大きい場合にはTcを求めることができますが、Uが大きいために摂動論が正しいのかどうかわからなくなります。この困難は絶対零度T= 0で弱結合のギャップ方程式を解くことにより回避されます。この計算は一バンドのハバードモデルに対して最近になって近藤先生によってなされ驚くべき結果が得られました。ハバードモデルはUが小さい極限において基底状態はd波対称の超伝導的であることがわかりました。Uがある程度有限の値になっても正しいと考えると、何らかの長距離秩序がない限り基底状態は超伝導的であることになります。われわれの最近の計算によると、三バンドのハバードモデルに対しても同じことが言えます。すなわち、クーロン相互作用がある系ではd波の超伝導になり易く、実際に超伝導になるかどうかはほかの秩序状態との競争で決まることになります。したがって、可能な秩序状態との比較をモンテカルロ法で行なえば超伝導相が存在するかどうかがわかる、ことになります。