研究トピックス

DBDプラズマアクチュエータの研究開発

 DBDプラズマアクチュエータ(DBD-PA)とは誘電体バリア放電(Dielectric Barrier Discharge)を用いて巨視的流れを生成するためのデバイスであり、流体制御用の新しいアクチュエータとして期待されています。誘電体を挟んで表裏両面に電極を設置しただけの極めてシンプルな構造で、図1に示すようなフレキシブルなアクチュエータも作成できます。図2に示すようなx-y断面において非対称に配置した表裏電極間に高電圧高周波信号を入力すると、表面電極エッジの片側だけに表面プラズマが形成され、二次的に巨視的な流れが壁面に対して水平方向に誘起されます[1,2]。対称電極の場合は両方向に噴流が生成さえれますが、電極を非対称にすることで一方向の流れを誘起することが可能であり、これは流れを制御する上で大変有用です。例えば円柱や翼周りの流れにおいて剥離制御のためのアクチュエータと期待されています。
 翼周りにおける流れの剥離には図3に示すような「層流剥離」と「乱流剥離」に大別されます。「層流剥離」はReynolds数が比較的小さい場合に低迎角で起こり、前縁近傍から流れが大きく剥がれます。また、剥離直前もしくは直後に前縁近傍に剥離泡が発生します。よって図3左上のように剥離泡が現れる付近にDBD-PAを配置し、翼型表面に対して水平方向の流れを誘起することで、図3左下のような壁面へ沿う流れへと回復する制御法が有効であると考えられます。それ以外にもDBD-PAを流れに対して傾斜させることで、壁面から流れを吸い込むような流れを生成する手法、縦渦の生成により剥離抑制効果を持続させる方法などを検討しています。「乱流剥離」はReynolds数が比較的高く迎角が大きい場合に見られ、図3右上に示すように後縁近傍から流れが剥がれ、逆流が生成されます。よって、逆流をCancelするような流れをDBD-PAで誘起することで図3右下のような流れを回復するため、後縁近傍の適切な位置にDBD-PAを配置することが有効であると考えられます。現在は剥離泡や逆流を抑制した上で翼型性能(揚力や揚抗比)を向上するためのDBD-PA配置位置、誘起噴流速度、吹出し角度、吹出し時間、などの最適化を行っています。

     

   図1 フレキシブルDBD-PA          図2 非対称電極DBD-PA


  
                       図3 翼周りの流れに対する能動剥離制御 

 一方、電極配置を工夫することで生成する流れを合成し、様々な機能的な噴流を誘起できます。図4は表面にドーナツ型電極を持つDBD-PAの概念図を示しています。表面電極の内径と裏面電極の外径を一致させることで、表面電極の内側エッジに表面プラズマが生成されます。図2の非対称電極を用いたDBD-PAと同様に、まず壁面に対して水平成分が支配的な流れが誘起されますが、アクチュエータの中心近傍で流れが衝突し、結果として壁面に対して垂直方向に環状噴流(wall normal jet)が生成されます[3,4]。動画Aは生成されるwall normal jetのムービーです。流れが誘起される前に薄青色の表面プラズマが生成し、その後に中心に向かう流れ、垂直方向の流れ、と遷移していく様子が確認できます。Wall normal jetは壁面から遠方場への運動量輸送に有用であり、例えば燃焼器における燃料と空気の拡散・混合への応用が考えられます。




   

   図4 ドーナツ型電極DBD-PA          動画A  Wall normal jet



●DBDプラズマアクチュエータ誘起噴流のメカニズム解明に向けた研究

 DBD-PAを剥離制御や混合・拡散促進を行うためのアクチュエータとして発展させるために、誘起される噴流の高速化が求められています。DBD-PAに印加する電圧・周波数い対する誘起速度については、様々な研究グループにより明らかにされていますが、殆どの場合は正弦波入力が行われています[5]。私たちのグループでは入力波形の電圧立ち上がり速度(dV/dt)が誘起速度に与える影響について詳しく研究しています。正弦波入力は、(1)図5左上のように電圧振幅を固定して周波数を変化さえた場合、(2)図5左下のように周波数を固定して電圧振幅を変化させた場合、の2つのケースが考えられますが、いずれも周波数や振幅の変化とともにdV/dtも変化してしまいます。
 一方、矩形波入力の場合、図5右上・下に示すようにdV/dtを固定したまま周波数や振幅を変化することが可能になります。また、周波数を固定したまま、電圧立ち上がり速度を変化させることができます。図6は周波数7.5kHz、電圧振幅3kVの入力電圧に対してdV/dtを変化させた結果を示しています。私たちが現在開発しているDBD-駆動用電源を用いれば、矩形波の電圧立ち上がり速度を50≦dV/dt≦1,000 volts/μsecで設定することができ、電圧立ち上がり速度が噴流誘起速度に与える影響を詳細に調べることが可能です。 dV/dtが急激に変化する領域ではプラズマ発生に起因する特徴的な電流波形が見られます。よって、dV/dtを一定にすることで特徴的な電流波形をより詳細に解析することで、DBD-PAから誘起される誘起噴流の生成メカニズム解明することがきると考えています。


    
          図5 正弦波入力と矩形波入力の変化に対するdV/dt
      
          図6 同一周波数(7.5kHz)での様々なdV/dt

[1] Roth et al., "Boundary layer flow control with a one atmosphere uniform glow discharge", AIAA Paper 98-0328 (1998).
[2] Corke et al., "Application of weakly-ionized plasmas as wing flow-control devices", AIAA paper 2002-0350 (2002).
[3] 瀬川他, "DBDプラズマアクチュエータによる同軸環状噴流", ながれ, 27巻, pp. 65-72 (2008).
[4] Santhanakrishnan et al., "Flow control with plasma synthetic jet actuator", Journal of Physics D, Vol. 40, pp. 637-651 (2007).
[5] Forte Optimization of a dielectric barrier discharge actuator by stationary and non-stationary measurements of the induced flow velocity - application to airflow control", AIAA paper 2006-2863 (2006).