棚橋 薫彦(たなはし まさひこ)

     
  写真左:本人  中央:コクワガタ幼虫  右:コクワガタ成虫

2017年度~現在 台湾交通大学博士研究員
2014年度~2016年度 日本学術振興会特別研究員(PD)
課題名「クワガタムシ・コガネムシ類における昆虫―菌類の共生関係の解明と保全生物学的応用」
2010年度~現在 産業総合技術研究所特別研究員

主な研究テーマ
「クワガタムシ類における共生微生物叢とその伝播機構の解明」
「ホソヘリカメムシにおける環境獲得型共生細菌の選別に関わる分子機構の解明」

研究内容説明
 昆虫類が持つ多彩な環境適応能力は、その共生微生物の多様性と密接に関係しています。 木材は動物が利用する食物の中でも最も消化や利用が困難なもののひとつですが、 実際には多くの昆虫が木材を直接または間接の栄養源として生活しています。 そのような昆虫では、共生微生物がきわめて重要な機能を果たしていることが知られています。

 木材の中で生活する昆虫としては、シロアリ類とキクイムシ類が代表的なグループです。 これらの昆虫は、それぞれ異なる方法で、しかしいずれも微生物を利用することで、 木材を巧みに消化吸収しています。シロアリは木材を直接の餌とする(真の)材食者ですが、 その消化管内には著しく多様な共生微生物が存在し、それらの働きによって 木材からの栄養摂取を可能にしています。一方でキクイムシ類は、木材の中で生活していても、 実は木材を食べてはいません。例えば、アンブロシア・ビートルと呼ばれるキクイムシのグループは、 木材の中で共生菌(カビ)を栽培し、その菌体を食べることで間接的に 木材から栄養摂取を行っています。彼らは実質的には菌食者と言えます。

 クワガタムシ類の幼虫は、木材腐朽菌(キノコ・カビ)の菌糸が蔓延した木材、 いわゆる腐朽材を食べます。私は、このようなクワガタムシの栄養摂取や微生物との関係が シロアリとキクイムシの中間に位置すると考え、それらについて研究を行っています。 例えば、クワガタムシのうちおそらく最も馴染みの深いオオクワガタやコクワガタの幼虫は、 消化管内に共生微生物がいなくても菌糸さえあれば成長発育が可能です。 このことから、これらのクワガタムシはキクイムシと同様に菌食者としての性質を持っていると 言えるでしょう。一方で、クワガタムシの雌成虫には、共生微生物を保持して次世代に伝播するための 器官「菌嚢」があり、その中にキシロースの資化能力を持つ酵母を蓄えています。 キシロースは木材を構成する糖類のひとつで、多くの生物にとって利用の困難な物質です。 クワガタムシは、キシロースを資化する酵母と共生することで、木材の消化効率を高めている可能性があります。 また、クワガタムシの菌嚢の中には酵母の他にも、かなり多様な共生細菌が存在していることがわかってきました。 クワガタムシは菌食者として腐朽材中の菌糸から栄養摂取を行う一方で、 材食者であるシロアリのように多様な共生微生物を持ち、 残りの木材の部分をきわめて効率良く消化吸収しているのかもしれません。 このようなクワガタムシと微生物との複雑な関係がどのように進化してきたのかを明らかにすることで、 その他の材食性昆虫における微生物との共生関係とその起源についても、より深い理解が得られると考えています。

ひとこと
 クワガタムシは身近な昆虫でありながら、その「体の中のこと」や「微生物との関係」 については意外にもわかっていないことだらけで、きちんと調べていくと 面白い発見がたくさんあります。

関連研究業績
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