須藤定久は地圏資源環境研究部門に所属しています。
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骨材情報誌アグリゲイトに掲載されました。
2007年(平成19年)5月14日
『砂を考え直す』

本年3月から、いよいよ中国砂の輸出が全面的に禁止され、西日本を中心に良質な砂が不足する状況に陥っている。基幹的な資源が輸入されなくなると、大きな影響が出ることをまざまざと見せつけられている。これを機に、砂について考え直してみてはどうだろうか?

1.砂ってなんだろうか?
砂とは、「細かい岩石の粒の集合。主に各種鉱物の粒子からなる2ミリメートル〜1/16ミリメートルの粒子を言う」(広辞苑)である。日本では誰もが知るもの、しかしその実あまり知らないものである。
日本では浜は白砂青松で砂があり、河川を覗けば砂利がある。どこにでも、いくらでもあるものの代名詞であるように思われているが本当にそうだろうか?
大陸地域の大都市を訪ねた時に、砂や砂利を見たことがあるだろうか?
川には濁った水が満々と流れ、海岸は泥の世界であることが多い。
砂はどこで、どんなふうにでき、どんな所にあるのかから、考え直してみよう。

2.砂となる岩、ならぬ岩
山や丘をつくる岩が崩壊し、礫(れき)となり、砂利・砂・泥となる。しかし、砂や砂利になる過程やなりやすさは岩石が置かれた自然環境によって千差万別である。岩石別にその特徴について考えてみる。
安山岩は、崩壊して砂利となるが、すり減りやすく、分解しやすい。砂岩・頁岩は硬いものは砂利となるが、あまり硬くないものは分解しやすい。チャートは砂利となるが、硬く、摩耗されにくいため球形になりにくい。花崗岩は砂利となりにくいが容易に砂となり、石英は硬く、良質の砂をつくるが、長石は分解しやすい。結晶片岩は砂利となるが、扁平に割れ、分解されやすい。石灰岩は溶食される部分が多く、砂や砂利になりにくく、なっても溶解されやすい。

3.砂のある場所、ないところ
山や丘でつくられた砂利や砂は川によって運ばれながら磨かれる。海に運ばれた、あるいは海岸でつくられた砂利・砂は波で磨かれ、不安定な粒子・もろい粒子は急速に細粒化して泥になる。川の上流部では砂利や砂が盛んに流下するが、川の下流で流れが穏やかになると、運ばれるのは細目砂や泥のみとなる。しかし、日本の河川は急流で、大陸地域の河川の上流部に相当し、下流に相当する部分はない。このために、どこでも砂利や砂が見られる。大陸では川の下流部が長く、広い平野がつくられている。大都市の多くは、平野部の細目砂や泥しか見られない地域にあることが多いのである。
世界の大河、例えば中国の「長江」や「黄河」の下流部は砂利・砂がいくらでもある場所ではなく、それらがない場所なのである。

4.中国に砂はあるのか?
中国の地家や地質から考えてみよう。
華北の山や丘は黄土高原の黄土が黄河に流れ込み、流下して黄土の河北平原をつくっている。華中は長江下流の大平野、川は細目砂と泥の世界である。華南の中心は珠江デルタ、泥と水の世界である。中国の内陸部は堆積岩と石灰岩の世界。堆積岩は古い割に固結が進んでいない。石灰岩は砂をつくらない。山があっても良い砂利は少ない。
このように中国の地形や地質から考えると、中国は決して砂利や砂の宝庫というわけではなく、もしろそれに乏しい、細目砂と泥が卓越した国なのである。
それでは中国で砂利や砂が分布するのはどこであろうか?それは北朝鮮に隣接する東北地方、山東半島、浙江から福建・広東・海南省、そして広西壮族自治区にまたがる南東海岸地方である。なぜならば、この地域は山や丘陵からなり、砂をつくりやすい花崗岩が広く分布しているからである。

5.福建省の砂を考える
日本に輸出されていた砂はほとんどが福建省産、しかも「みん江」の下流部で採取されたものであった。「福建省の砂は無尽蔵」といった評価を目や耳にしてきたが、果たしてそうなのだろうか? 福建省周辺の地形・地質は、日本の中国地方とよく似ている。日本の中国地方の砂利事情は、福建省付近のそれを考える上で参考となるのである。
日本の花崗岩地帯を流下する河川の代表は島根県の斐伊川。多量の砂がこの川を流下し、出雲平野をつくっている。確かに砂の流下量が多く、流路にも多量の砂がたまっている。しかし、この川でも砂がいくらでも採取できるほど流下量が多いわけではない。
みん江の流域面積は斐伊川の約20倍に及ぶので、砂の流下量も20倍程度はあるだろう。「川の下流部で採取すると上流からいくらでも流下してくるから、無尽蔵である」といった説明もなされていたようである。しかし、砂の形成には長い時間が必要である(地質学的には短時間であるが)。流下してくる砂は、新たにつくられるわけではなく、上流部にあった砂が流下してくるだけであり、それがなくなれば終わりである。下流部で採取すれば、上流部の川の状況は変化し、橋脚の洗掘などが問題になる。「河川のしゅんせつは河川交通に貢献」との説明もあったようだが、中国にもモータリゼーションの波が確実・急速に押し寄せており、小型舟の航路より橋の確保が優先となりつつある。
砂が豊富な河川といっても、多量に採取すればたちまち影響は出るのである。福建省の人口は約3500万人、1つの省で日本の30%近い人口がある。日本の骨材使用量を考えると福建省でさえも砂利・砂は決して豊富とは言えないのではないだろうか?

6.中国の海砂資源
中国を取り巻く渤海湾、黄海、東シナ海、南シナ海の海砂資源はどうなのだろうか?
黄河や長江、それに珠江などの大河が運んだ砂が大量に堆積していると考える方も多いはず。しかし、大河を流下して海に達するのは細目砂や泥、中国周辺の海の堆積物は、ほとんどが細目砂や泥、である。砂利や粗目の砂は台湾海峡の南西側や海南島周辺にあるのみである。しかも、温暖水域のため、珊瑚礁でできたもろい砂も少なくない。

7.中国の砂需要急増の理由
中国の経済成長に伴いセメント消費量は急激に増加し、年間10億トンを超えた。中国の砂需要急増の理由は、経済成長による建設ラッシュにあることは間違いない。そして、もう1つ重要な要素としては、中国におけるセメントの用途がモルタルからコンクリートへと変わったことがあげられるだろう。
中国の低中層住宅はレンガ積み。細かい砂を使ったモルタルを接着剤として利用してきた。地方都市においては、このような建築物がまだまだ多い。しかし、鉄道や高速道路など社会資本の整備、大都市の高層建築物に、鉄筋コンクリートが使われるようになり、骨材需要は細目砂から砂利・砕石・粗目砂へとシフトした。日本が輸入していた粗目の砂は、中国で日本以上に需要が拡大し、ひっ迫しているのである。

8.中国には頼れない
今回の禁輸の表向きの理由は「砂の採取により、みん江の自然破壊が進んだため」のようだが、真の理由は中国国内の砂利・砂需要が急速に伸び、日本への輸出余力がなくなったためである。砂の採取でみん江の自然破壊が進んだのならば、みん江の採取を規制すればよいはずである。全面禁輸としたのは、中国国内の砂利・砂需要をまかなえないことがはっきりしたからである。もはや中国には頼れないのである。
今後、中国でも砕砂への依存が急速に高まるであろう。早く砕砂の生産を増やし、天然砂を有効に利用をしていくことが大きな課題となるだろう。

9.西日本の砂需給を考える
砂資源に乏しい西日本にとって、瀬戸内海の海砂資源は天の恵みであった。採取効率の良さ、運搬の利便性など、これ以上は望めない資源であった。戦後、骨材需要が拡大する中で、海砂の優位性の故に、西日本の海砂への依存度は高まり、海砂依存体質が形成されることとなった。
海砂の採取禁止の進行とともに伸びたのが中国砂の輸入だった。採取場所が国内から国外へと異なるだけであり、よく似た砂が海上から同じように供給される。海砂に代わって中国砂依存体質となるには時間はかからなかった。
陸域の砂利・砂に乏しい西日本。海上交通の利便性からこの上なく効率的ではあるが、もろい骨材供給体制となっている。

10.日本の海岸「総磯化」
全国の海岸線を歩くと、海側に張りだした堅固な護岸の下の砂はすっかり失われていること、手が加えられていない海岸は、浜がほとんど失われていない例を至るところで目にする。
漁港の拡張が、入り江の波の浸入方向を変え、浜の変形が著しい九州壱岐の筒城浜。瀬戸内海の最大の海砂採取地に面した手つかずの無人島・三原市の「雨竜島」には豊かな砂浜が残されているなど、列挙にいとまはない。
日本の海岸は、構造物によって変形され、多くの場所で磯化が進行している。護岸についた青ノリなどの海藻が磯化を端的にしめしている。護岸工事が、海浜を破壊しているのではないかとの疑いをもたざるを得ない。
瀬戸内海から採取された砂を作ってつくられた浜を守るための護岸が砂浜の流出、そして海岸の磯化をもたらしている(磯化が起こっても護岸をつくるべき所も多いことも事実だが)。ここにこそ最大の問題があるように思えて仕方がない。これが私が見た日本の海岸の現状である。私ひとりの杞憂であろうか?

11.海砂採取の功罪の評価を
瀬戸内海の海砂の代替資源としては砕砂が最も多く利用されているようだ。瀬戸内海の海底を掘削する代わりに山を崩すことになった。緑の損失、採掘・破砕エネルギーの消費、廃泥の発生など、海砂に比べて自然への負担は大きくなったのではないだろうか? 海砂から砕砂への移行は、環境にとっては悪いことだったのではないだろうか?
瀬戸内海での海砂採取禁止の最大の理由は自然破壊であった。海砂の採取は海底の地形を変え、自然の破壊を伴うことは事実である。しかし、その罪はどの程度だったのだろうか?
海砂の採取をやめたことで、自然は回復しているのだろうか? していないのならば、回復できないほどに破壊されてしまったのだろうか? それとも、海砂採取は自然破壊の主要因ではなかったのではないだろうか? 海砂採取の功罪をきちんと検証し、評価すべきであろう。そして結果を世界に示すことは、海砂を多量に採取した日本の義務であろうし、世界の海洋環境保全への貢献にもなることだろう。

12.国内の陸域砂利資源を見直せ
砂を輸入し、その結果、原産国で自然破壊が起これば、自然破壊を助長したとの非難を免れない。経済性第一で砂の大量輸入に走って良いのであろうか? もう一度国内の砂利・砂資源を見直し、活用することを考えてみることも重要ではないだろうか?
国内には無数の砂防ダムが造られている。多量の土砂の蓄積で、新しい土砂の収容力が無くなり、砂防ダムの嵩上げ工事に出くわしたことがあった。近くの砕石場で聞くと、河川砂利は一切採取禁止、申請しても許可されないとのことだった。たまり過ぎた砂を除去して、近くの砕石工場で処理して、砂利として利用すれば、嵩上げの必要もないのではないだろうか。現場の状況に即した管理が行われてほしいものである。
国内の砂利資源の中では、比較的狭い範囲の開発で量が確保されること、良質の砂も期待させる点からは、山砂利資源の見直しがまず必要かもしれない。ただ見直す上でのネックもある。地質調査では堆積物の粒度や構成粒子の種類など骨材用の砂利や砂として重要な情報は集められるが、それらの情報は地質図を編集するときにのみ使用され、実際の地質図に示されることがないのが普通である。このため地質図による見直しには限界があり、骨材資源の観点での最低限のチェックが必要となる。
各地域で資源の見直しが行われ、自然への環境負荷を抑えた活用が行われてほしいものである。
中国砂の禁輸を機に、中国の砂事情について考察し、併せて日本の砂資源の問題についても考えてみた。やはり最後に気になるのは、骨材資源の基礎的な研究や探査に対する投資の少なさ(無さかも知れない)、骨材資源の専門家の少なさである。

(全文掲載の許可を得ています)
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