物理学的問題としてのショットキー障壁問題 〜 半導体物理分野半世紀の重要問題

ショットキー障壁研究の長い歴史経緯は、以下のように区分すると理解しやすい。

黎明期:界面の電荷蓄積分布と電位分布のモデルの提案 (1874〜1942)
表面・界面準位概念の提案(1947)
界面準位の起源モデルの時代(1965〜1984)
実験の時代(1984〜2001)
制御の時代へ(現在〜)

黎明期:界面の電荷蓄積分布と電位分布のモデルの提案 (1874〜1942)
「整流作用の発見とダイオードの発明」 の項で触れた1874年のFerdinand Braun(独)による整流性の発見後長い間、その整流性の原因は不明のままであった。 鉱石検波器として利用されはしたが、比較的短期間で真空管に取って代わられ、時代ニーズはすぐに消滅した。 そのような時代に理論モデルの発表が相次いだ。 詳細は、年表にまとめてあるが、解説すると、黎明期の理論展開は次のような経緯になる。

物質内部から外への電子の飛び出しにくさを表す仕事関数(work function)の値の違いにより、2種類の物質の接触で接触電位差(Contact Potential Difference)が生じることは、Voltaが接触電位差を発見し、その後1898年にKelvin卿が仕事関数測定装置を発明して (Phil. Mag., 46. 82) わかっていたので、金属と半導体の界面でも、接触電位差による電位障壁が生じていることは1930年頃には自明であった。 一方、この頃、半導体は不純物原子の導入量(doping density)で、伝導性(抵抗値)が大きく変わることがはっきりしてきており、また、電子が多量にあって自由に動き回る電荷(自由電荷)として電流の主たる部分を司るn型とホールが自由電荷となっているp型の2種類あることがわかっていた。 金属同士の接触では接触電位差により生じたプラスとマイナス電荷は、引き合って界面に張り付くように分布するが、半導体の場合、不純物原子が半導体内部に分布しているので、プラスとマイナスの電荷分布がそれぞれ空間的にどのようになっているのか、がわからず、物理学上の問題となっていたのである。

W. Schottkyは、金属/半導体界面(M/S界面)には、界面中間層はなく、両者がダイレクトに接続しているという考えを打ち出し、中間的絶縁層を介した平板コンデンサの考え方を否定した。 その後、半導体内部での電荷分布と電位分布が問題となり、N. F. Mottは、ポテンシャルが変化する領域内は空乏であって、電荷はない、というMott障壁モデルを提案した。 これはとりもなおさず、不純物原子がイオン化してもその場に動かずにいるという現在では当たり前の事実が、当時常識ではなかったことを意味している。 それに対して、Schottkyは、不純物原子は半導体中に均一に分布しているので、その電荷を考慮するべきであるというモデルを提案した。 この場合、電位分布は2次曲線になる (H. A. Bethe, 1942)。実際には、Schottkyのモデルが正しく、現在では、M/S界面の電位障壁をSchottky障壁と呼んでいる。

Schottky model
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SchottkyとMottは、半導体内の電荷分布の考え方に違いがあったが、ショットキー障壁の高さに関しては、同じメカニズムを提案していた。 金属同士の接触では、仕事関数の差が接触電位差になるが、半導体では、電子を半導体の外にとりだすのに必要なエネルギーは、電子親和力(electron affinity χ)と 名付けられていたので、半導体-金属間の接触電位差は、金属の仕事関数φmとχの差になるはずであるが、それこそが、界面電位障壁(ショットキー障壁)の高さに対応する、 すなわち、ショットキー障壁高さφbは、接触電位差に他ならない、という以下の式で表されるモデルである。
φb = φm - χ

今日では、このモデルは、ショットキーモデル(またはSchottky-Mottの関係)と呼ばれる場合が多いが、あくまで単純なモデルであり、現実のほとんど全ての界面では、このような形で障壁高さは決まらない。

表面・界面準位概念の提案(1947)
surface and interface states 第二次世界大戦が終わる頃、「工業的課題としてのショットキー障壁問題」の項で触れたように、 AT&Tのベル研究所では、半導体増幅器の動作に本質的に関わる物理問題として、ショットキー障壁に蓄積する電荷の原因を調べていた。 この仕事に中心的に関わっていたJ. Bardeenは、界面に電荷が蓄積するということは、そこに電荷をためることのできる状態が沢山あるのだろうと考えた。 それは物質内部の3次元的な状態に対して、表面・界面特有のもので、表面準位(surface states)と言う。 当時は物質の表面と界面の区別が明確ではなく、表面準位と呼ばれていたが、現在では、界面の準位を表面のものと区別するために界面準位(interface states)と呼ぶのが一般的である。

準位(level)と状態(state)は、同じ意味に使われる場合もあるが、 正確には、電子を収容する対象が状態(state)であり、その状態に入る電子にはエネルギー準位(level)があり、その状態の持っている空間的広がりが軌道(orbital)である。 電子状態(electronic state)のエネルギーは、固体のような密集状態でなければ、離散的(discrete)で、levelと呼ぶのが適当であるが、固体のように凝縮され(condensed)沢山の状態が集まってくると、 そのエネルギーは広がってバンド(band)を作る。表面・界面に存在する電子状態が、離散的(level的)かバンド的か、自体が物理的テーマである。 日本語では、曖昧に表面準位・界面準位という呼称が定着している。

彼の仕事以前にすでに、主に2種類の表面状態のモデルが提案されていた。 一つは、表面付近ではポテンシャルの変化があるだろうから、それによって電子状態も変わり、表面特有の状態が発生するはず、という理由で、 これによる状態を提案者のI. E. Tammの名前をとりタム準位(Tamm state)と呼ばれた。 タム準位は、表面でのポテンシャル変化に基づいて形成した準位であるから、必ずしもバンドギャップ中に準位が形成するとは限らない。元々結合準位の表面での変調であるから、準位位置に大きな変化はなく、バンド内に発生する場合が多い。一方、表面では固体内部と違って、そこで原子配列の周期性がとだえるので、周期配列に起因して発生していたバンドギャップももやは電子状態の存在を許さないという意味の禁制帯ではありえなくなるはずである。 物理用語を使って言い換えるなら、固体内部の原子配列周期性によって発生するブロッホ状態が、表面・界面において、破綻し、新たな状態を作るということである。 これによって発生する状態はやはり表面準位であり、現象の提案者のW. Shockleyの名前をとり、ショックレー準位(Shockley state)という。 ショックレー準位は、その表面での周期性破綻メカニズムから自明で有るが、バンドギャップ内に準位を形成する。Bardeenは、金属/半導体界面においても、ショックレー準位の物理モデルが成立するはずであると考え、ショットキー障壁の電荷蓄積メカニズムを、 表面準位を基礎に説明することに成功した(J. Bardeen, Phys.Rev. 71, 717 (1947).)。 具体的に説明すると以下のようになる。 Shockleyの論文(W. Shockley, Phys.Rev. 56, 317 (1939).)の段階においては、 原子一つ一つの化学結合のイメージと表面準位の定量性の議論は全くなかった。 Bardeenの論文において、表面原子は、片側は真空であって、未結合の軌道、すなわちダングリングボンドが原子の数分だけ存在すると明言し、 軌道には片側の原子に由来する電子だけが入っているので、半分満ちた状態(half-filled)になっているはずであり、 であるから、表面準位は、エネルギー的には、価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップ内に位置することになると予言した。 表面準位が、バンドギャップ内にエネルギー的に連続な準位であること、その総量は、表面原子の量〜1015個/cm2の分だけあること。 また、表面準位に入る電荷は、金属表面電荷と、ショットキー障壁内でポテンシャル変化が起こっている半導体内部の空乏層内に発生する不純物イオンの2つと共に電荷中性条件を満足すること。 これらの基本的な条件から、ポワソン方程式を解き、バンドの曲がりの大きさ(すなわちほぼショットキー障壁高さに相当)と、表面準位密度との関係式を導き出した。 それによれば、バンドが大きく曲がって1V程度の大きさになるには、

表面:1012 states/cm2
界面:1013 states/cm2

の状態密度があることになると、算出された。この数字は、ショットキー障壁を工業的に利用する上で、極めて重要な値である。 固体表面・界面の原子密度は、1015 個/cm2程度であるから、界面の場合、100個に1個の原子が界面準位形成に関与しているだけで、ショットキー障壁高さは1Vにもなってしまう、ということを言っているからである。 ショットキー障壁高さを0.1V以下に抑えるようなオーミック性接触であれば、界面準位関与原子は、1000個に1個以内に抑制する必要があるのである。 ショットキー障壁高さをエンジニアリングの観点で大幅に制御するには、1:1000程度の精度の精密で清浄で理想的な固体原子の制御技術が必要になる。 これまで百年以上に渡って、制御を行うことは事実上不可能であった根本的理由はこの点にある。 このように実用技術として障壁高さの制御は極めて難しいので、オーミック電極は、障壁高さを低くすることは諦め、半導体に高濃度ドーピングを施して事実上金属化し、かつ界面障壁の幅は同時にトンネリング出来るまでに薄くすることにより、オーミック性を確保してきている。 ただし、この数量関係は、これだけの精度で原子配列の制御を行えば、ショットキー障壁高さが完全に制御出来ることを暗示しているのであり、現代において生きてくる技術目標の基本指針でもある。 このBardeenの業績によって界面準位が理解され、それに続くトランジスタの発明によって電子デバイス時代到来したことにより、ショットキー障壁の制御は技術課題となり、その非制御性の原因としての界面準位の起源が、今日まで続く半世紀の物理問題となった。


界面準位の起源モデルの時代(1965〜1984)
graph: ionicity vs S-factor
Click to see a summarized page on S-factor.
Fermi level pinning
・理論モデル提案を触発した、フェルミ準位ピニングの実験的検証
Bardeenが界面準位の考え方を提唱してからほぼ20年もの長い間、ショットキー障壁に関する研究に進展は見られなかった。 物理学的には、界面準位の発生起源を解明することは物理問題とされたが、その後実験的な進展が得られず、界面準位は表面準位がそのまま残って形成したものとBardeenが単純に仮定したその考え方が、正しいのかどうかさえ不明であった。 新たな段階が訪れたのは、1960年代に入ってからである。 この頃には、シリコンその他の半導体材料で結晶品質の良いものが得られるようになり、それを使って沢山の種類の金属に対して、ショットキー障壁高さの測定が行われるようになった。 C. A. MeadとW. G. Spitzer(Phys. Rev. 134, A713 (1964))は、14種類の半導体に対して、7種類の金属を堆積したショットキー電極を形成して、全体の傾向を調べた。 その結果、3種類の半導体(InAs, GaSb, InP)を例外として、他の全ての半導体のショットキー障壁高さは、その半導体のバンドギャップ(大きさEg)の価電子帯の底から2/3の位置にフェルミ準位がくるような高さになる、ということが結論づけられた。 ショットキー障壁高さが一定であると、バンドギャップ内の対応する特定の位置にフェルミ準位が来ることになる。 そこで、このような障壁高さが一定になってくる傾向はフェルミ準位のピニング(pinning:ピンで止められた状態)現象と呼ばれるようになった。 上記論文の時点では、そのような表現はなかったが、1年後、A. M. CowleyとS. M. Szeが測定データを詳しく解析した論文(J. Appl. Phys. 36, 3212 (1965.)の中で、"pinned"という言葉が使われた。 Meadらの実験では、おのおのの半導体に対して、金属を換えてもさほど障壁高さに変化がなかったことから、その平均値(と想像される値)とバンドギャップの大きさを関係づけたが、 Cowleyらは、一つ一つの半導体において、金属それぞれに対する障壁高さの傾向をグラフ化した。 金属の仕事関数に対してショットキー障壁高さの変化する割合〜現在ではS値と呼んでいる物理量〜が、半導体によって異なることが見いだされた。 S値は、以下のように定義される。
 S-factor
S値は、0〜1の間の値をとる。ここで、φbはショットキー障壁高さ[eV]、φmは、金属の仕事関数[eV]である。 S = 1の場合は、金属の仕事関数が変化した分だけ、障壁高さが変わる特別な場合で、Schottky limitと呼ばれ、フェルミ準位のピニングは全く起こらないことに相当し、金属を換えれば自由に障壁高さをコントロールできる場合である。 一方、対極のS = 0である時は、Bardeen limitと呼ばれ、完全なるピニング状態を意味し、金属を換えても障壁高さは全く変化しない状態を指す。 すでに説明したように、Bardeenは特にS = 0になるはずと予言したわけではないことは注意すべきである。 1969年には図にあるように、Kurtinらによって、S値は半導体のイオン性と非常に強い関係があることが示された。 このグラフにはかなり仮定的な値も含まれており、のちにM. Schlüter (Phys.Rev. B17, 5044(1978))がより正確な関係図を示したが、基本的傾向は変わりはなかった。

・金属誘起準位モデルの提唱(1965)
MIGS Bardeenの表面準位モデルでは、S値に見られるイオン性と障壁高さの関係は説明しきれない。 以上の実験的努力に呼応して、1965年には、V.Heine("Theory of Surface States," Phys.Rev. 138, A1689)により、ピニングのメカニズムが提唱された。 彼のモデルを簡単に言えば、次のようになる。金属と半導体では、バンド構造が違うが、その界面では、両者の接続はどのようになっているか、ということを物理的に表現することが重要である。 これを具体的に言うと、両者の波動関数の界面での整合性("matching")が重要であり、エネルギーバンド的に言えば、両者のフェルミ面の整合性が重要である。 金属の波動関数は、半導体のバンドギャップとの非整合性から、バンドギャップ中で、減衰する。 これは、ポテンシャル障壁があると、正弦波がその壁中へ指数関数的に減衰する基本的物理現象そのものである。 であるから、比較的単純な境界値問題となる。運動量の保存性なども考慮した彼の単純な計算では、半導体ギャップ中の金属の波動関数のしみだし状態は、エネルギー軸でU字型になることが予言されている。 ただし、算出した状態密度のエネルギー分布は、正弦波の位相の関数にもなっていて、U字の底がバンドギャップの中心にくるとは限らないので、安易にバンドギャップの中心付近がしみだし状態が最も小さいとは言えないことは注意すべきである。

この金属波動関数の半導体ギャップ中へのしみだしの考え方は、のちに、金属誘起準位理論(Metal Induced Gap States:MISG)と呼ばれるようになった。 Bardeenの提唱した表面準位起源の界面準位の検証がなされていなかったことに加え、 Heineがフェルミ準位のピニングの現象を、量子力学的境界値問題として捉え、波動関数の整合性というわかりやすい考え方で説明したことで、このモデルは広く受け入れられるようになった。 しかし、非常に重要なことは、MIGSモデルでは、定量性の見積もりが極めて難しいことである。 量子現象の基本として、高いポテンシャル障壁への波動関数の侵入長さは、その障壁の高さのルートに比例して短くなる。 本問題として言い換えれば、バンドギャップが大きい程、侵入長は短くなるので、ピニングは弱くなり、S値は増大する。 しみだした波動関数による界面準位の量が、フェルミ準位のピニングに十分な量かどうかについては、検証する必要があった。

・計算による金属誘起準位モデルの検証(1976〜1977)
コンピュータの発達を背景に、1976年には、S. G. LouieとM. L. Cohen(Phys.Rev.B13, 2461)は、殻ポテンシャルを簡略化した計算方法(擬ポテンシャル法)を用いて、Al/Si系界面の電子状態を実際に行った。 計算結果として、界面に多量の界面準位が現れた。 翌年発表したより広範で詳細な計算(Phys.Rev.B15, 2154 (1977))では、Si, GaAs, ZnSe, ZnSにおいて、界面準位は、14乗states/cm2/eV台に達することが示された。 この一連の計算では、Bardeenの提案にあるような表面ダングリングボンドを仮定せず、界面準位はいわば自動的に現れたのであり、彼らの主張に沿って言えば、これは、MIGSがピニングの主たる原因であることの強い証拠となり得た。 これはとりも直さず、界面準位は界面に必ず存在することを意味していたので、ショットキー障壁の界面準位の人為制御は不可能であるということを言っているのと同義であった。 ここで注意すべきことは、Louieの計算では、金属側では、電子は金属原子を原子と感じると言うより海のように広がった均一な電荷を感じるとするジェリウム(Jellium)モデルポテンシャルを用いており、半導体側では、殻ポテンシャルは局在しているとして近似(擬ポテンシャル)している、という大変単純なポテンシャルモデルを用いていたことである。 また、界面での原子位置は動かしていなかったので、(Jelliumモデルであるから、動かすこと自体無意味であるが)、ダングリングボンドの無い界面の計算であるというこの研究の前提が、事実上正しくないことである。 何故なら、ダングリングボンドは、原子間距離が離れていると発生する準位であり、原子位置に極めて敏感であるからである。 それにもかかわらず、ピニングをはずすことが実証されていなかったことが主な原因で、これ以降、MIGSモデルへの信奉はさらに深まった。

・正準ピニング理論モデルの提案(1984)
CNL 真実の界面準位を求めるには、近似を極力廃した、膨大なコンピュータパワーが必要になる。 そのようなアプローチよりも、界面準位の起源を理論的に考察することの方がより重要であるかもしれない。 また、フェルミ準位の位置を決定することは、界面準位密度を求めることよりずっと複雑なる。 そこで、J. Tersoffは、Heineのモデルを精神的("in spirit")には受け継いで、フェルミ準位がバンドギャップのどの位置にピニングされるのかについて、 一つのモデル(正準ピニング理論 canonical pinnig model)を提案した。 MIGSの性質を著す物理量としては、MIGSの全密度の他、その密度のエネルギー分布 Dit(E)と、電荷中性点(Charge Neutrality Level, CNL, φ0)があり、その特徴を捉えてフェルミ準位の位置を予測するのが好ましいであろう。 彼のモデルに先立ち、電荷中性点について説明する。 MIGSのように、周期性の界面での破綻が原因となり発生するギャップ内電子状態においては、一般的に、価電子帯上端付近の界面準位は、価電子帯の性質を受け継いで、普段は電子が詰まっているのが安定で、なんらかの励起により電子を放出するドナーライクな状態が多いはずである。 逆に、伝導帯下端付近では、伝導帯の性質を受け継いで、アクセプターライクな界面準位が多いはずである。 従って、ギャップ中のどこかに、価電子帯と伝導帯の性質の相半ばする、アクセプターライク準位とドナーライク準位の境界レベルがあるはずである。 このレベルが電荷中性点である。界面において、このレベルにフェルミ準位が位置した場合には、電荷の放出・吸収がなく、2種類の準位ともイオン化せず中性である。 なお、表面の場合は、金属中の電荷が関係しないので、中性条件は図にあるようによりシンプルになり、フェルミ準位がCNL位置にくることはありえない。電荷中性点は実験的に観測されたことがなく、長い間仮想的なものであったが、2001年には筆者らによって実際に実験的に観測され、その物理的挙動が明らかになりつつある。 Click S. Hara, Surf.Sci. 494, L805 (2001) [PDF](249kB)), 表面科学, 21(12), 791(2000)[PDF] (1.2MB)

MIGS and branch point Tersoffは、このCNLに着目し、界面でのCNLは、固体内部(バルク)のブランチポイント(branch point)と同じものだと主張したが、これ自体が彼のモデルである。 バンドギャップ中といえども、普通は露わにならないだけで、価電子帯近くは価電子帯の性質を、伝導帯近くは伝導帯の性質を受け継いでおり、なんらかの原因でギャップ内準位ができれば、その性質を受け継いだ準位が出来るはずである。 ブランチポイントはまさに、その両者の相半ばするエネルギーレベルである。 基本的には、界面でのCNLと全く同じ成因を持っている。 周期的境界条件とブロッホ(Bloch)の定理(数学的にはFloquet's theorem)から求められるバンドギャップは、虚数部分として(実数解が無いとして)求められるバンド間間隙であるが、複素空間上では決して価電子帯と伝導帯両バンドは不連続ではなく、 計算上虚数解(Kramers plotの極大値)があり、それがブランチポイント(W. Kohn, Phys.Rev. 115, 809(1959))である。 Tersoffは、グリーン関数を用いて、いくつかの半導体のブランチポイントを計算し、それが、界面でのショットキー障壁のピニング位置と対応関係があることを示した。 実際のバリアハイトは界面の様々な要因によって大きく変わってくるので、このモデルは、MIGSの性質をより良く理解するのに役立つに留まった。

上述のように、どの程度ダングリング的(未結合的)なダングリングボンドがどのくらいあるのかは、本質的視点であり、界面準位密度のエネルギー分布の正確な計算には、界面の原子位置を最適化〜すなわち界面再配列(interface reconstructuion)〜させた原子配列を求めることが前提となる。 しかし、分子動力学計算が発展しつつある現在においても、界面原子再配列をきちんと求めた上で、界面準位密度のエネルギー分布を求める計算は、全く見あたらない。 現実のコンピューターパワーがこれを実行するに足るレベルに至っていないことと、界面原子の再配列が実験的には極めて検証しにくいことが、その原因である。

・乱れ誘起準位モデルの提案(1986)
Tersoffまでは、界面準位の起源として、主にダングリングボンド起因の表面準位とMIGSが提案されてきた。 その他にも現実の界面では、界面化学反応も起こっており、様々な原因で界面準位が発生する。 1986年には、長谷川と大野が、統一乱れ誘起準位モデル(Unified disorder induced gap state model: DIGS model: H. Hasegawa and H. Ohno, J. Vac. Sci. Technol. B4, 1130)を提唱した。 界面では界面化学反応や固体の非結晶性などが原因で、原子配列に乱れ(disorder)が生じている場合がある(あらゆる系では多かれ少なかれdisorderは存在する)。 disorderは、orderによって形成された原子配列の周期性を乱れさせているのであるから、周期性の結果として発生するあらゆる物性に変化を及ぼす。 その結果、バンドギャップ中に準位が発生することになる。これが界面で起きる時、その状態はDIGSと呼ぶべきものである。 DIGSの検証に不可欠な、界面の原子配列の乱れと界面準位との因果関係は、これまで検証されてこなかったが、筆者らは、最近、DIGSが主たる界面準位の起源となる系を発見した Click 「研究でわかったこと 〜 どこまで問題解決したか」。 先にも述べたように、10の12乗states/cm2/eV程度、すなわち、界面原子濃度にして僅か1/1000の原子が乱れることで形成するその乱れた原子分のバンドギャップ準位数があるだけで、 ピニングは起こってしまう。DIGSは極めて日常的物理現象なのである。

界面準位の起源には上述のように様々な原因が考えられるが、どれが正しくどれが誤りという思考方法は議論が単純化されるので、わかりやすい。 しかし、MIGS, 表面準位, DIGSのどれにもそれぞれreasonがある。 どの原因による界面準位がどの程度の量存在するか、ということをきちんと検証して行くことが、最も重要である。

実験の時代(1984〜2001)、そして今後の制御の時代へ
理論モデルのところで述べたように、金属誘起準位については、フェルミ準位をピニングするに十分な量が存在するかどうかという、その定量性に疑念の余地がある。 Louieの最初の理論計算の論文の時から、MIGSの検証は、バルクバンドのテールをMIGSとしてアサインすることが通例となっている。 つまり、エネルギー軸の計算精度が悪ければ、それによるテールをMIGSと見誤る恐れがある。 厳密な界面の電子状態を、ピニングの有無判断に必要な10の11乗states/cm2/eVの超高精度で求めるにはコンピューターパワーは現在でも不足である。 一方、1980年代に入って、原子スケールで表面・界面を制御できる時代に入りつつあった。 ショットキー障壁は、その表面界面制御の格好のテーマとして、取り上げられ、 いくつかの優れた実験研究を生んでいる。ここでは、その詳細を述べることは、本項の物理学的問題の主題とはずれるので、避けることにする。 全体として言えることは、ショットキー障壁のS値の向上と、ショットキー障壁高さの界面原子配列制御による制御の2つの観点での実験が盛んに行われ、 MIGS理論に反駁する価値を持つ実験的反証が揃いつつあった。

その後、2001年には、筆者らが、シリコンテクノロジーを駆使することにより、シリコンカーバイドというワイドギャップ半導体において、S値をSchottky limitまで上昇させる、完全な界面コントロールを実証した。 Click T. Teraji and S. Hara, Appl.Phys.Lett., 71, 689 (1997). [PDF] (387kB), S. Hara, Surf.Sci. 494, L805 (2001)[PDF] (249kB), T. Teraji and S. Hara, Phys.Rev. B70, 35312 (2004). [PDF] (1MB) or [PDF] with high quality (6.3MB) これにより、少なくともワイドギャップ半導体においては、MIGSの量はピニング効力を持たない程度まで小さい値であることが、はじめて実験的に示された。 理論モデルについても、MIGSを脱却して、ダングリングボンドの考え方をずっと進め、界面化学結合の性質を電荷のたまりやすさと関係づけたtunable interfaceの考え方が現れてきている (R. T. Tung, Phys.Rev.Lett. 84, 6078 (2001)., R. A. McKeeら, Science, 300, 1726 (2003))。 McKeeらの主張においては、金属/酸化物/半導体積層構造のいわゆるMOS界面と、金属/半導体のショットキー界面での電荷は統一的に取り扱われている。 MOS界面の酸化膜が微細加工により究極的に薄くなってきた現在、もはや両者に物理学上の境界すらなくなりつつある。工学的にも、今後はチャージエンジニアリングを積極的に推し進めるべきであろう。

以上見てきたように、Bardeenが表面準位を提唱して以来の本半世紀問題は、ショットキー障壁が人為的に制御可能である、という新たな認識の元に、ナノテクを駆使し、制御の実証を行って行く段階に入った。

平成15年9月16日 (H15.9.18, H16.5.25 一部改訂)


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