工業的課題としてのショットキー障壁問題 〜 古くて新しい課題

工業上の利用の歴史

整流作用が発見されてからほぼ30年を経て20世紀初頭に、ショットキー障壁デバイスは、鉱石検波器を用いた鉱石ラジオにその心臓部として利用されるようになった。一方、ショットキーダイオードが製品化された頃の1904年にJ. A. Flemingは内部が真空の二極検波器、すなわち二極真空管を発明していた。その後真空管は技術的にも産業的にも順調に発展し、ショットキー型鉱石検波器特有の整流性能の不安定性がなかったこと、そしてさらに、1907年にL de Forestにより発明されていた信号の増幅作用を有する三極管が発展して、大きなアンテナをつける必要がなくなり、次第に鉱石ラジオから、真空管式ラジオに取って代わっていった。

オーミックとショットキー

オーミックとショットキー

その後半導体型デバイスが復活するのは、皮肉にも、真空管式ラジオの欠点を克服しようとする試みがきっかけとなっている。真空管("球"ともいう)はサイズも大きく、ヒーターが暖まるまで電流の元となる電子が出てこないのできちんと動作しないという欠点がある。また、ヒーターであるから、良く切れ球(たま)の交換が必要であった。半導体で、三極真空管のような信号増幅作用が出来れば、ほぼ理想的である。 AT&Tのベル研究所では、W. Shockleyの指導のもと、半導体増幅器の開発プロジェクトが始まっていた。彼らは、電流を流れるメインストリームのその両側に金属電極を配置しその電場で電流の流れを制御しようという、基本的には真空管と同じ原理の半導体デバイスを考えていた。しかし、このデバイスはうまく動かなかった。 同グループメンバであったJ. BardeenW. H. Brattainは、動作しない原因が、制御金属板と半導体の界面に存在する表面準位(現代用語では界面準位)とそれにとらえられた電荷であることを突き止めた。 そこでその界面準位を徹底的に調べる必要が生じ、ショットキー界面の研究を始めたのであった。 1947年には、光の影響でゲルマニウム半導体表面の仕事関数の測定値が変わることに気づきそれにヒントを得た彼らは、電気的に空乏層の変化を作り出すことも可能と考え、基板電極の他にテスト用電極として様々な形の制御用電極と出力用電極を使い、増幅作用確認実験を繰り返した。電流制御用のゲートとしての空乏層は極めて薄いことはわかっていたので、2つの針電極を用いた構造にたどり着き、2電極をミクロンスケールまで近づけると、増幅作用が発現することを発見した。彼らは、この構造のものを点接触型トランジスタ (Point contact transistor)と名付けた。点接触型Tr.は鉱石検波器すなわち点接触型ショットキーダイオードと同じように不安定であり、その後、p層n層を積層してゆくタイプの接合型(プレーナー型)Tr.に取って変わることになった。歴史的経緯として、ショットキー界面の本格研究が結果的にはトランジスタを生み出したのである。

トランジスタの発明により、小型でポータブルなラジオが可能になった。1959年にソニーが世界初のオールトランジスタラジオを発売したことは、日本国の飛躍時期と重なる象徴的な話として語られる場合が多い。

その後、微細加工技術の要として、写植技術(Lithography)が発展し、周辺技術も整うと、集積回路が実用になってきた。単体のトランジスタや集積回路においては、ショットキー接合は、全てのトランジスタのオーミック電極として無くてはならないものであった。整流性のショットキー界面を抵抗性のオーミック界面に変化されるには、半導体表面への不純物の高濃度の拡散・注入を行い、半導体表面を金属化すれば良かった。金属と金属の接触なら、電気は簡単に流れる。この方法は、現在でも有効である。

集積回路を論理演算に使う応用はすぐさま実用になってきた。論理演算を行う基本論理素子(代表的なものはTransistor Transistor Logic:TTL)は、トランジスタが5〜6個程度の集積度で済んだが、スピードの改善のために、入力部分等、トランジスタにたまった電荷を論理反転時にすぐに放電するために、ショットキーダイオードが組み込まれた。ショットキー型デバイスでは、電荷はマイナスの電子かまたはプラスのホールのどちらかしかないユニポーラデバイスであってお互い引き合うことが無いのでたまりにくく放電しやすい性質があり、そのため、プラスとマイナス電荷両方を使うバイポーラデバイスに較べ、原理的に高速である。

その後、Shockleyの失敗したオリジナルデバイスの欠点である界面電荷の問題を克服した、ユニポーラの一種である MOS型電界効果トランジスタ(Metal-Oxide-Silicon Field Effect Transistor: MOSFET)が、表面洗浄技術の進歩により実用化され、集積回路はバイポーラTr.からMOSFETに移行した。現在主流のMOSFETにおいても、電極はオーミック性のショットキー界面であることに変わりはない。

ショットキー界面は、他の素子でも多用されている。代表例は、ガリウムヒ素(GaAs)系のMESFET(Metal-Semiconductor FET)である。GaAsでは、シリコンのように安定で界面準位のない界面の形成が技術的に難しく、制御電極(ゲート電極)としてショットキー界面が利用されているのである。GaAsは材料特性として電子やホールが高速に移動できるので、高速素子に向いている。現在家庭でよく見られるパラボラアンテナの受信素子ヘムト(High Electron Mobility Transistor: HEMT)のゲート電極はショットキー界面である。言い換えれば、GaAsでは良質な酸化膜がなかったので、より技術的には難しいショットキー型のデバイスが発達したのであった。

今後の応用分野

新しい半導体材料、たとえば、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)が開発されるたびに、良好な絶縁膜が得られにくいことから、絶縁膜を介さないショットキー型のデバイスの可能性が必ず検討されてきている。また、電極としてオーミックは不可欠であるが、新材料に対しては、高濃度の不純物注入は非常に難しい場合が多く、歴史的には、新材料に対するオーミックの開発は必ず世界中で問題になり、たった電気を流すだけのことであるにもかかわらずオーミック電極実現には世界中の多大な努力が必要となる。

現在オーミックの問題を抱えている代表例は、緑色発光ダイオードが実現して話題を呼び今後は高周波デバイス応用にも有望な窒化ガリウムと、有機ディスプレイ等に利用され始め今後重要分野になって行く有機半導体である。 有機半導体はそれ自体が脆弱であり、安定した電極形成は至難の業である。安定電極の開発は有機半導体デバイスを制することになる。 また、ナノテクノロジーを様々な製品開発に応用しようとする大きな流れが加速しているが、ナノテクを直接応用しようとすると、機能として電気的なものか発光として発現させることになる。 その場合、微視的材料に電気を流す必要があり、必ずオーミック電極が必要となる。微視的なだけに、ショットキー障壁高さの制御と安定形成は極めて技術的に困難な課題となる。 ベル研の努力を振り返り、基礎に立ち返った取り組みがなされるべきであろう。

もう一つ、重要なオーミック問題を抱えている分野として、実は、電子デバイスの本流たる現在の大産業を抱えたLSI微細加工技術それ自体があることを銘記しておく。集積回路が発明されて以来長い間、イオン注入(ion implantation: I/I)技術による、半導体への不純物原子の高濃度ドーピングにより、オーミック性を確保してきた。 しかし、微細加工技術が進展した現在、微細加工の基準微細サイズ(=最近はxx-nm世代という表現を使う、DRAMの1/2ピッチに対応)が益々縮小されていく中、当然、各トランジスタの電極面積も小さくなってきている。 簡単に言えば、世代がk分の1に縮小する(1世代進む毎に、縦・横・高さ全部を1/kにするのが原則=scaling則の前提)毎に、各トランジスタの電流値は1/kになるが、接触抵抗(コンタクト抵抗)に比例する電極面積は、1/k2になるので、接触抵抗はk2で増大する。 世代が進む毎に、電源電圧と電流は共に1/kにする予定となっている。電源電圧と接触抵抗は、デバイス設計で決まってくるので、(オン)電流が求められる結果となる。電圧1/kを抵抗k2で割ると、1/k3となり、電流の本来あるべき1/kよりもずっと加速してオン電流が激減してしまうことになる。電気の流れにくい(=電流駆動力が低い)トランジスタは意味を持たないので、重大な問題である。抵抗の増大は素子スピードにも関係する。寄生容量はスケーリングされにくいので、接触抵抗がk2で増大すると、その部分のRC時定数による遅延は〜k2で増大する。 ここにきて、技術者の間に限界が見えてきている状況になってきている。 I/Iによるハイドープには限度があり、ついには、基礎・原理に立ち返った取り組みが必要になってきている。

以上では、主にオーミックが重要課題になってくる分野について記したが、ショットキー壁を電流のコントロールに使う用途については、あらゆる電子デバイス(あるいは発光デバイス)が潜在的には応用分野として想定される。 ナノテク分野では、ダイレクトにそのファンクションを利用するものも出現しうる。

2つの技術的課題

長いショットキーデバイスの歴史を通じて、

・不安定性
・障壁高さの非制御性

の2つが問題必ず問題となってきた。 不安定性とは、この場合、熱的不安定性、量産時の個別電極の特性(障壁高さ・耐圧)の不均一性、製造後の経時変化などである。 ショットキー界面は加熱により金属原子と半導体原子が界面を通り越して拡散する界面化学反応を起こすので、高温加熱は言わずもがな、室温で放置していても、原子が少しずつ拡散するので、場合によってはそれにより電気的特性が変わってしまうという根本的問題を抱えている。また、作った障壁の高さが電極ごとにかなりばらつきやすいという困った性質もある。 障壁高さが制御しにくいことは、オーミック電極を作りにくいことを直接意味している。また、障壁高さが一定になりにくく、逆に界面の作り方によっては局所的に大変低くなることも多く、そこから堰を切ったように電流が流れてしまう。これはマクロ的に言えばいわゆるリーク電流を発生しやすいということに対応するので、工業製品としてはやっかいである。

以上、今後も不安定性と障壁高さの非制御性が問題となることは歴史の暗示しているところである。従って、個別半導体材料・個別デバイスへの対症療法ではなく、根本的な問題可決のための研究が、その成果を多くの人が享受できるという意味で極めて重要である。

今後の先端技術開発のポイント

上述のような不安定性・非制御性は、根本的には、界面の原子配列をきちんと制御していないことで、不必要な界面準位とそこにたまる電荷が発生し、 それらが野放し状態だからである。今後は界面電荷を精密に制御すると言う意味で、チャージエンジニアリングの考え方が重要となる。 そうなると固体物理が開発の強力な武器となりうる。 関連項目Click 「物理学的問題としてのショットキー障壁問題 〜 半導体物理分野半世紀の重要問題」

平成15年9月3日 (9月8日, 18日一部加筆)


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Last updated: Sep. 8, 2003. Shiro HARA's Web Site