双子の兄弟、オーミック接触

オーミックとショットキー金属と半導体の接触では、ショットキー障壁と表裏一体の関係にあるのがオーミック接触(またはオーム性接触, Ohmic contact)である。 オーミック接触とは、抵抗性の接触のことで、電流の方向と電圧の大きさによらず、抵抗値が一定の場合を言う。 完全なオーミック接触では、接触界面は純粋な抵抗(resistance:R)分だけを持つことになる。 これはとりも直さず、オームの法則、すなわち、電圧Vが係数Rで電流Iに比例する V=RI に従うことを意味するので、このような界面はオーミックと名付けられている。 実際の界面では、抵抗値は多少の電圧・電流による変動分があることがほとんどであるが、そのような実際の界面もオーミック接触と呼ばれている。

オーミック電極は1Tr.に3つある 現在社会においては、実は、オーミック性接触は極めて重要であり、ある意味で日常的であるといえる。 CPUやメモリ等、あらゆる集積回路内のあらゆるトランジスタは全て半導体で出来ており、 その一つ一つのトランジスタには電気を流すための電極(electrode)が複数形成されている。これらは、電気の流れを阻害しないために、 全て比較的低い抵抗のオーミック接触でなければならない。例えば1000万個トランジスタが集積されたCPUでは、その3倍くらいの 3000万個もの電極がオーミック電極としての役割を果たしている。 さらにわかりやすく言えば、日本人は、パソコンや携帯電話等、集積回路を使った電子機器を毎日使っているが、1000万個〜1億個ものオーミック電極がその一人一人の所有物の中にあって、きちんと動作している、と言うことができる。

オーミック接触には、下図に示す2つのタイプがある。

[1] ショットキー障壁の幅を非常に薄くする場合
障壁の幅が50nmを切ってくると、電子やホールは障壁内のバンドギャップ(界面付近の電荷の空乏層(depletion layer)になっている所)を透過できる。 これは、量子力学的なトンネリング効果と理解されている。イオン注入や不純物の熱拡散により、半導体中の不純物濃度を、たとえば10の20乗個/cm3(=原子濃度の〜1/100) 程度まで増加させてやれば、結果的に、障壁の幅が電子やホールがトンネリング出来る程薄くなって、事実上オーミック接触となる。 ショットキー障壁は、界面の電位の崖であって、それは、界面付近に電荷がたまっていることを意味している。 具体的には、n型半導体との接触では、界面の半導体側には電子が、半導体内部には不純物原子がそれを中和する役目を持つべくプラス化(イオン化)している。 界面の金属側にも電荷がたまっており、前の2つの種類の電荷と合わせ、3つの場所の電荷全体として電気的に中性を保っている。 従って、半導体内部の不純物濃度が高まれば、後の2つの電荷を中和するための不純物原子のイオン化をかなり薄い領域幅でカバーできることになるのである。 イオン注入技術の確立した現在においては、集積回路内トランジスタ構造への電極形成は、 イオン注入を用いてこの障壁幅を薄くする方法で行われる。 集積化されない大きなデバイス(ディスクリートデバイス)については、不純物拡散による方法が用いられる場合も多い。最初に堆積する金属にドーピングのための不純物原子を混ぜておいて、加熱で界面を合金化する方法は、かなり一般的である。ただ、実際には、不純物濃度の上限があるために障壁の幅が完全にはゼロにならない。そのため、この方法では、抵抗値はそれなりの大きさの有限のある値を必ず持っており、ゼロにはならないという欠点がある。

[2] ショットキー障壁の高さを低くする場合
もう一つの方法は、ショットキー障壁高さを低くしてやる方法である。 障壁が低くなれば、電子やホールは界面を通過しやすくなる。究極的には、障壁高さをゼロにしてしまえば良い。 ただ、この方法は実用になっていない。なぜなら、障壁高さを制御する一般的方法が見つかっていないからである。 この問題の克服は、ショットキー接触による整流性が発見された19世紀後半以来未解決の重要課題である。
(注: 最近、我々の研究グループでは、障壁高さの制御が可能であることを発見・実証した。 Click 「研究でわかったこと 〜 どこまで問題解決したか」)

なお、[2]の障壁高さ制御の一般的方法が見いだされていないことから、実際のあらゆる電極形成においては、 イオン注入技術が使えない場合、[1]の応用として、半導体表面をガリガリ傷つけて欠陥を多量に導入し、実効的に半導体表面を金属化する方法、 半導体にしみ込ませるための不純物を多量に含んだ金属などを堆積して加熱処理してやはり金属化する方法などを用いる。 さらには、もっとスマートbut手間のかかる方法として、別の小さなバンドギャップを持った半導体を元の半導体の上に堆積して、 トンネリングを促進したり、最大可能障壁高さそのものを抑えたりして、オーミックをとりやすくする最新の方法などもある。 総括的に表現すれば、半導体一つ一つに対して、個別のオーミック形成方法を職人芸的に編み出す必要があるのが現状である。


オーミック接触:2つのタイプ

平成15年9月12日

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Last updated: Aug. 29, 2003. Shiro HARA's Web Site