1.3 誘電率と界面準位発生の相関

picture: ionicity vs S-factor
epsilon-0 and epsilon-inf
graph: ionicity vs S-factor
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Tersoff: epsilon-inf vs S

★ポイント:
・半導体中の静的誘電率ε0は、S値(=ピニングの強さ -1)とおおまかには逆比例の関係。
・半導体中の動的誘電率ε も、S値とおおまかには逆比例の関係。
・界面の静的誘電率は、これまでのところ真空の誘電率で近似されている。
・誘電率は、界面準位が内包しているイオン性依存性として理解される。

■ はじめに
ショットキー障壁と誘電率との関連性については、以下の理由で非常に重要である。
(1) ショットキーの研究について過去へ遡ってゆくと、誘電率とショットキー障壁の制御性(S値, ピニングの強さ -1, 金属の仕事関数への障壁高さの依存性)との関連の議論が出てくる。
(2) 金属と半導体間は、(半導体内では電荷分布は複雑で幅を持っているが)電気的2重層と見なされる一種のコンデンサであり、誘電率がその電荷量という基本性質を決めている。
(3) 工学応用的には、最先端の集積回路の微細トランジスタにおいて、制御電極(ゲート)直下の絶縁物を現状の酸化珪素膜から高誘電率のいわゆるhigh-k材料へ変更しようとする技術開発が世界的に進行している。 このhigh-k開発では、界面準位はどうなってくるのか?などわからない点も多い。ショットキー界面での誘電率と界面準位の関係は、類似な系の物性として重要である。
そこで、本節では、誘電率とショットキー障壁の関係、それに誘電率と界面準位との関係について解説する。

■ J. C. Phillipsによる静的誘電率に関する指摘
誘電率との関係に最初に言及したのは、J.C.Phillips [1]である。 当時、フェルミ準位のピニング、すなわち、金属の仕事関数の変化に対して、ショットキー障壁が変化しなくなることの原因は何かということは、ホットトピックであった。 このトピックは、本来金属の仕事関数と、半導体の電子親和力の差がバリアハイトになるのを、じゃまするものは何?という問題と言い換えることが出来る。 この邪魔が入る行為を物理学者は、しばしばscreening(遮蔽)という言い方する。 要するに金属と半導体のEfの差に起因するダイポールを何がうち消す(screenする)のか、ということを当時物理学的に問題にした。

Phillipsのモデルに先立ち、すでに半導体のイオン性が、スクリーニング定数であるSとおおまかな傾向として比例関係にあることがわかっていた[2]。 一般論としてイオン性が大きいほど、化学結合力は大きくなるので、結合力を反映しているバンドギャップは大きくなる傾向になる。 この時から、バンドギャップが大きいほどピニングは弱くなる(S値が大きくなる)ことが実験的にわかっていた。 Phillipsは、イオン性を低周波の誘電率すなわち静的誘電率ε0で置き換えた。 実際、イオン性の指標として取り上げたε0は、1-Sと良い関係にあることが見いだされた。 イオン性が高ければ、化学結合に関与している電子は、陰イオンに局在して分極しにくくなり誘電率は低くなるのであるから、 イオン性を誘電率に置き換えても、ある物理量(ここではS)との関係性の強さが変わらないのは当然のことである。 (ここで言う誘電率とは、金属と半導体の僅かな間の界面誘電率ではなく、あくまで半導体中の誘電率であることには特に注意が必要である。) では、何が主張したかったのかと言えば、先に述べた、界面のスクリーニングが起こっているに違いないということを物理的に明らかにしたいという動機があり、 その点で、誘電率がピニングと関係づけられたことには意味がある、ということが考察の成果であった。 さらに言えば、スクリーニング効果という考え方が有効であるということになる。 これは、とりもなおさず、界面準位の重要性を否定する(ピニングは、界面準位でなくスクリーニングの変化によって起こるということ)ことであり、 イオン性とピニング率との関係を説明出来ていなかった、Bardeenが提案した表面準位によるピニング機構[3]を否定するものであった。

■ J. Tersoffによる動的誘電率に関する指摘
Pillipsの時代からさらに10年の歳月を経た80年代半ば頃までには、界面準位というものが物理機構として否定できないとする考え方が強まっていた。 何故なら、量子力学的基本現象として、金属の波動関数は、半導体と接すれば、そのバンドギャップ中へ波動関数がどうしてもしみ出して、界面準位を形成するからである。 このシミだしは、金属誘起準位(Metal Induced Gap States: MIGS)[4]と呼ばれている。

もし、金属誘起による界面準位(=MIGS)が重要であるなら、 実験的事実としてのスクリーニング定数Sとイオン性との関連性を、MIGSを基礎として説明する必要がある。 ただし、金属誘起準位は、文字通り金属的性質を持っているはずであって、イオン性で説明するのはおかしいのではないか?という視点が発生する。 従って、イオン性をやはり別の物理量で置き換えて説明する方が、reasonableである。 そこで、Tersoffは、金属的性質を表す一つの指標である動的誘電率εという物理量を持ち出してきた[5]。 (注:静的誘電率ε0はイオン性と共有結合性の程度を表す指標である。) 現に動的誘電率の逆数がS値とある程度の比例関係にあることが示された。 しかし、肝心な彼のカノニカルピニング理論[6]の基本をなす物理量:ブランチポイントエネルギー と動的誘電率εとの関係については、論文中で全く言及することが出来なかった。 従って、この理論的考察論文は、金属誘起準位モデルを支持するために、イオン性でなく金属性とピニングとの関係を論じたことに価値があり、 カノニカルピニング理論を側面から補強することに留まった。

■ 界面の誘電率はどう働くか?
上では、半導体内の誘電率の影響について述べてきた。 それでは、金属と半導体の界面の誘電率はどのように扱われているのであろうか。 それには界面付近の構造や電荷分布をまず定義する必要がある。 広く一般的に用いられているモデルでは、以下の2つを仮定する。
(1) 金属と半導体の界面は、電子に対して透明(transparent)な原子スケールの界面層を有している。
(2)半導体側界面にある界面準位は、金属(種)とは独立に存在している。
(1)の仮定より、界面層の誘電率は真空の誘電率とすることになる。 また、(1)、(2)と矛盾しないように、界面付近の電荷として、金属側界面の電荷Qm、 半導体側界面準位Ditに収まっているイオン化したQit、 半導体内部の空乏層のイオン化固定電荷Qscを、電荷中性条件以外にはそれぞれ独立した量として扱うことにする。 これらのチャージ分布から、ショットキー障壁高さを求める。そこから、SとDitとの関係を導くと以下のようになる[7]。

S=ε0/(ε0+q2*d*Dit)

ここでdは界面層の厚さである。 この式は、界面準位密度の導出に用いられる基本式である。 ところでこの式では、ε0が大きくなると、Sが1に近づいてしまう。 これは、半導体中のε0やεの傾向とは逆になっていることには注意すべきである。 また、上式では、半導体中のε0やεなどイオン性や金属性を表す指標が露わに含まれていない。 このことは、半導体中のイオン性や金属性が実際には、界面準位密度の変化や界面誘電率の変化として現れていることを意味している。 本式の有用性は、誘電率に多少の変化があっても、界面準位密度のオーダは変わらないことから、傾きSから界面準位を求めるのには適していることにある。 界面誘電率を、"透明な"真空誘電率と見なさずに、化学結合の観点から見直そうという問題意識については、最近、R.T.Tungが新しいモデルを考案している。 (この新モデルについては、界面準位がエネルギー的にどこに位置するのかについて、本質的な解答を与えていない欠点も併せ持っており、 今後のさらなる考察が必要であろう。)

以上の議論解説から最も重要な結論は、界面準位密度自体がSと直接的関係を持っていることである。 この式は、昔Phillipsが考えていたような遮蔽効果を考慮せずとも、界面準位がありさえすれば、ピニングは発生するということをダイレクトに示している。 遮蔽効果と界面準位という2つの物理現象は、その特徴を以下のように表現できる。 遮蔽効果の場合、固体内を自由に動き回るチャージが界面ダイポールに近寄ってきて遠くから見えなくしてしまうということである。 それに対して、界面準位は、そこに固定されて存在する電子状態に電子が収容されてきて、界面付近の電荷分布を大きく変化させる、ということである。 遮蔽という物理現象は、元来、移動可能なチャージがある媒体中で電場を作ろうとする時に、その電場の作用でチャージの移動が起こり、はじめの電場の作用が遠方まで及ばなくなる現象を指している。 従って、もし、金属と半導体の間のフェルミ準位の差に起因するダイポールとは関係なく界面準位が発生しているなら、これを遮蔽効果と見なすことは誤りである。 元々Bardeenが提案した界面準位は、この観点から遮蔽効果とは区別されるべきものである。 シリサイド/シリコン界面の膨大な研究などから、界面準位がピニングの主因であることがわかっており、 さらに、その界面準位は、シリサイド側(金属側)に原子配列上構造的に存在する多量のダングリングボンドであることがわかっている[9]。 このようなことから、現在では、遮蔽でなく、界面準位がピニングの主因であることに疑念を抱く必要は無くなっている。 このテーマに関する残された課題は、(誘電性に固執せずに)Sのイオン性依存という基本実験結果を、界面準位のイオン性との関係という形で最終的に物理学的に説明することである。 なお、MIGSについては、バンドギャップ(イオン性)幅との関係は明瞭であるが、 シリサイド/シリコン界面系の研究や、筆者らの実験[10, 11]で明らかとなっているように、MIGSは界面準位密度の点で必ずしもメジャーな量を占めていない場合があるという問題点を抱えている。

以上をまとめると、最初の★ポイントとして列挙できる。

[1] J.C.Phillips, JVST, 11, 947 (1974).
[2] S. Kurtin, T. C. McGill, and C. A. Mead, Phys. Rev. Lett. 26, 1433 (1969).
[3] J. Bardeen, Phys. Rev. 71, 717 (1947).
[4] V. Heine, Phys. Rev. A138, 1689 (1965).
[5] J. Tersoff, Phys.Rev. B32, 6968 (1985).
[6] J. Tersoff, Phys.Rev.Lett. 52, 465 (1984).
[7] A. M. Cowley and S. M. Sze, J. Appl. Phys. 36, 3212 (1965).
[8] R. T. Tung, Phys. Rev. B64,205310 (2001).
[9] 注意深い読者であれば、金属側のダングリングボンドは、金属側の多量の電子で、遮蔽されてしまうのではないか?と気づくであろう。 しかし、実際には、金属側のダングリングボンドは、それが半導体側へ向いていることもあり、強いピニングの原因になっていると見なされている。 このように、金属側と半導体側にある、厚さが無限小の平行平板上に、QmとQitを配置して考えることは、第一義的に問題を考える上でのシンプルモデルである。 その観点からは、ref[8]にある、連続した界面電荷分布領域を考える界面条件設定は、その精神として、より現実を反映しやすい点で妥当である。
[10] S. Hara, Surf.Sci.Lett. 494, L805-L810 (2001). [PDF] (249kB)
[11] T. Teraji and S. Hara, Phys.Rev. B70, 035312 (2004). (19 pages) (direct to APS), or [PDF] (version with high-quality images 6.3MB)

平成17年7月8日

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Last updated: July. 8, 2005. Shiro HARA's Web Site