整流作用の発見とダイオードの発明

・整流作用の発見
電気の整流作用は、百年以上前の1874年に、Ferdinand Braun(独)によって発見されている。彼は論文[1]の中で、

「大きさも様々なおびただしい量の天然及び人工の金属硫化物、それに、私が見つけることができた最も完全な結晶、それから未精錬の試料、それらについて、私は、電流の方向と電流の大きさそれに電流を流した時間によって、それらの抵抗が変化するのを発見した。その変化量は全量に対して、最大30%変化する。」

と述べている。金属硫化物は、現代的な用語を使えば、その性質は半導体である。彼はその半導体に、様々な金属針を突き立てて、抵抗値の変化を測定していて、以上のような結論を得た。現在の技術では、電流の方向を逆にすることで、たとえばシリコンの場合簡単に7桁以上もの抵抗値の差を得る高い整流作用が得られる。

この整流作用を持ってすれば、交流を直流に変換することができるので、飛来する電波(交流)を整流してプラスだけとかマイナスだけのエネルギーとして取り出し、イヤホンに伝えることで、人間の耳に聞こえるラジオを実現することができる。ラジオ回路での整流作用を、特に検波作用と言う。
(ラジオ電波は人間の可聴周波数を1桁〜2桁も超えているので、交流の振幅の大きさを音声として聞き取れない。放送局では、電波の振幅の大きさ自体を音声に比例して増減するような方式(=AM)を採用している。それで、直流分だけを取り出せば、その直流振幅の時間変化が音声振幅に対応していて音声として聞き取ることができる。)

・整流作用を実現するデバイス〜ショットキーダイオード
ラジオへの応用ニーズを背景に、検波作用を実現するために半導体に金属を接触させて部品化したのが、最初の実用整流器である。固体半導体を利用した整流器は一般にダイオードと呼ばれるが、ショットキー障壁を利用しているのであるから、正確にはショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier Diode, またはショットキーダイオード Schottky Diode)である。世界で最初の電子デバイスであった。厳密には、コヒーラー(coherer)と呼ばれる避雷器(サージアブソーバー、主にバリスターと呼ばれる種類:一定電圧以上で抵抗が激減するもの)が19世紀半ばには電信線の雷対策に使われていたので、それも電子デバイスと呼ぶべきかもしれないが、その重要性に於いて、ショットキーダイオードを最初の電子デバイスと呼んで差し支えないと思われる。

・整流デバイスを巡る特許戦争
鉱石検波器 ショットキーダイオードでラジオが実現されると、瞬く間に、世界中に商品として広まっていった。 それに伴い、より良い性能のダイオードが次々開発され、開発者には巨額の富がころがりこんだので、熾烈な特許戦争を繰り広げた。 何も特許戦争は1世紀を経た現代の専売特許ではなかった。 初期AT&Tに勤務していたG. W. Pickardが1906年にシリコン結晶に金属針(cat whisker)を突き立てて検波器として使うことで特許を取得したものが有名。 結晶(crystal)が検波(detection)に有効ということを彼が示して、crystal detectorという言葉が使われるようになった。 日本では、逓信省電気試験所(現在の独立行政法人産業技術総合研究所)の鳥潟右一がほぼ同時期の1909年に「鉱石検波器」を発明している。 その後日本では、シリコンだけでなく、ゲルマニウムや鉱石を使った検波ダイオードもひっくるめて総称的に「鉱石検波器」呼ばれている。 その後整流デバイスとして2極真空管("Fleming device" by J. A. Fleming@1904)が発明され、動作・性能の不安定な鉱石検波器は、主役の座を降りることになった。 その後のショットキーデバイスの歴史的発展については、「工業的課題」で述べる。

・何故"結晶"に"細い針"を差した構造が良いのか?
Pickardが示した結晶に金属針を立てた構造は広く利用されるようになった。では何故、単結晶でなく多結晶(結晶の方位が微視的に勝手な方向を向いている微細結晶の集まり)ではいけないのか。 また金属も平面で押しつけたモノでなく、何故針が良いのだろうか。ショットキー障壁の簡単な説明の所にある解説図にもあるように、電流の流れ具合は電気的崖の高さに相当するショットキー障壁の高さに大変敏感である。その高さがほんのちょっと、例えば0.1Vでも低くなると、電流は1桁も増加してしまう。その高さは結晶と金属の接触具合で決まっている。であるから、原子レベルではデコボコの表面を持つ多結晶のでたらめな沢山の位置に金属が接触していると、その金属の圧着具合で、実効的障壁高さが変わってしまい、大変不安定になる。少なくとも単結晶を使うことは、安定性を向上させる。 また、シリコンや鉱石など半導体の表面、そして金属の表面は酸化しやすい。平面的に金属と半導体を押しつけても、間に酸化膜が出来ていると、酸化膜は絶縁物であるから、電気は流れなくなる。 金属の先を尖らせれば、人間が針をガリガリとこすって半導体に押しつけることで、酸化膜がはがれて、金属/半導体界面が再生するので、整流作用が回復する。鉱石検波器の場合には、ラジオユーザーが針先をいじれるツマミがついているのが普通である。もう一つの理由は、針で半導体表面を傷つけると、半導体結晶中の傷ついた箇所付近に欠陥が大量発生し、大抵の場合n型であれば、そこがp型に変わってしまう。それはとりもなおさず、傷つけたことにより、単純な金属/n型半導体接触のショットキー障壁から、金属/p型/n型半導体の2重界面に変質することを意味している。p/n接合は内部にあってその分安定なので、単純なショットキー界面より安定になる傾向が出てくる。この性質は別項に説明している後の点接触トランジスタの発明(Click 工業的課題としてのショットキー障壁問題)に繋がった。 だだ、どのような場合でもこのような変化が起こるとは限らないし、傷つけ具合で状態が大きく変化するという問題がある。

このように、ショットキー障壁は作り方が難しく、製造後も不安定な物理現象であり、この問題克服が、発見から100年以上経過した今日においても未解決の課題となっている。

[1] F. Braun, "Über die Stromleitung durch Schwefelmetalle," 「金属硫化物の電気伝導について」 Ann. Phy. Chem. 153, 556 (1874).

平成15年8月29日 (9/3改訂, 11/21一部改訂)

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Last updated: Nov. 21, 2003. Shiro HARA's Web Page