ハイパーミニプロセスシステム


ハイパーミニプロセスシステムとは

ハイパーミニプロセスシステムとは、人と生産品の雰囲気が一体となった従来の製造法とは全く異なり、両者を空間的に遮断して、生産に必要なミニマムな空間だけを清浄化するなど生産に特化した環境を用意して生産を行うという新しい生産技術を実現したシステムである。

クリーンな環境で物質や製品を生産することで、生産品の品質を上げられることは誰しも知っている。しかし、クリーン度を上げようとする程、生産工場全体を綺麗にしてゆく必要があり、究極的にはLSI(Large Scale Integrated Circuit:大規模集積回路)工場のようなスーパークリーンルームが必要となってしまう。ルームというとこぢんまりして聞こえるが、最新鋭のLSI工場には今や2000億円もの建設費がかかる。他の産業では、そのような単品の高コストに見合う収益をあげにくいので、結局クリーン化(清浄化)はほとんどされていない。見方を変えれば、これは実にもったいない話である。クリーン環境での生産があらゆる業種に広まれば、生産品の品質向上・歩留まり向上と結果的なコストダウンにより、競争力が非常に強まる可能性を秘めているからである。 従来は、清浄化には、工場全体を清浄化する必要があると信じられてきたので、半導体以外へのクリーン化の適用は事実上不可能であった。しかし、つい最近になって、これを打破する革新的生産要素技術が登場してきた。ミニエンバイロンメント技術である。これは、部屋全体を清浄化するのではなく、生産品に必要な局所的な空間だけを隔離して清浄化する要素技術である。より広い一般的な用語として、局所クリーン化技術という呼び方もある。局所クリーン化技術は、実用技術であって、実際に半導体工場の建設コストと運営コストを低減する切り札的技術として既に導入が進んでいる。現在の局所クリーン化技術については後述するが、現在のところ、半導体業界では、コストダウンの要求が厳しく、この有望技術を発展させる余裕がない。それで、業界の専門家以外ではこの新技術の認知が進んでおらず、全くその価値が知られていないのである。しかし、必要なところだけとても綺麗にするという発想自体大変普遍的で、高品質化に向いているだけでなく、省エネルギーであり、かつエコロジカルな概念である。綺麗にするということについても、現行ミニエンバイロンメント技術で制御されている唯一の要素は、パーティクル(チリ)だけであるが、可能性として、水分、酸素、その他のあらゆるガスについて制御することは可能である。生産現場だけでなく、開発段階でも、それ相応のミニエンバイロンメントを使ったシステムを構築して、最先端研究をもっとスマートに推進することができる。このような一般性を持ったシステムを、ここではハイパーミニエンバイロンメント技術と呼ぶことにする。この技術を使って、製造システムを構築することができるわけで、それ全体は、従来よりもずっとミニチュアな空間で製造されることになるだろうから、ハイパーミニプロセスシステムと呼ぶことができる。



局所クリーン化技術と従来クリーン化技術

解説は別ページに。上のタイトルをクリックして下さい。




局所クリーン化技術:21世紀の戦略的環境分離技術 (プロ・経営向け解説)

解説は別ページに。上のタイトルをクリックして下さい。




メリット

ハイパーミニプロセス生産方式 右図に局所クリーン化を具現化したハイパーミニ・プロセスシステムのメリットについて、まとめてある。安くつき省エネであるが品質に問題のある町工場と、高品質な製造が可能だが、超高コストで多品種に向かず、エネルギーを大量消費する上に人と製品が同一環境にある問題を抱える半導体工場という2つの典型的生産方式がこれまで主流であった。これに対して、局所クリーン化を施したハイパーミニ・プロセスシステムでは、人と製造物の環境を分離するため、これらの問題点のほとんどを解決できる。さらに、半導体工場よりも、ずっと高品質化が追求しやすくなる。中型のシステムであるから、柔軟性があり、他品種・少量生産にも向いており、ナノテクやバイオテクノロジのような今後の主流技術において、最も利用されるべき製造環境である。

詳細は別ページに Click 「ハイパーミニ・プロセスシステムのメリット」



応用分野

局所クリーン化の手法は、実際に半導体工場に於いてすでに実用化段階に入っている。しかし、「局所クリーン化技術と従来クリーン化技術」の項でも述べたように、工場建設・運営コスト高が、導入動機であったことから、コストダウンに主眼が於かれ、局所クリーン化手法の広範なメリットを生かした成熟した技術体系となっていない状況にある。現状技術では、パーティクルの制御のみを行っており、他のあらゆるガス・湿度(水蒸気)の制御を全く行っていない。具体的に指摘すると、ウェーハ搬送ボックスには、パーティクルフィルターが装着されており、ガスについてはフリーに出入り出来る構造になっているのである。このような第一世代の技術に対して、早晩ガスコントロール可能な第二世代の局所クリーン化技術が導入されるようになるだろう。ハイパーミニプロセスシステムは半導体工場の実用技術を第一世代とすれば、その第二世代のプロトタイプと言うことが出来る。

半導体よりもさらに重要な分野は、ナノテクノロジー応用分野である。ナノテクは、「研究の方向性」の項でも述べたように、要素技術であり、それを組み合わせて初めて実用製品に仕上がってくる。ナノレベルであるが故に、構成する原子数が極端に少ないので、不純物原子や欠陥に大変敏感になることは、ナノ構造をきちんと機能させて行く上で大変重要なポイントになる。本当に生産できるようになるかどうかは、原子レベルの品質管理の質で決まってくることになる。少量他品種に向いた場合が多いナノテクに対しては、半導体工場型は、必ずしもナノテク応用生産にベストフィットした生産方式とは言えないだろう。数千億円というのでは、コストがかかりすぎる。それに、原子分子の不純物管理が、場合によっては半導体工場以上にシビアになってくる。そこで、局所クリーン化技術を応用した手軽に高品質を実現できる生産方式が現実的な解となるだろう。

次に挙げなくてはならないのは、バイオテクノロジー応用分野である。これまでバイオ分野では、酸素の存在については、野放しで制御されてこなかった。それは、化学反応場に大気中の20%酸素が常にあらゆる形で入り込んでいたので、それを排除しようと言う考え方自体が生まれてこなかったからに他ならない。しかし、局所クリーン化技術の導入により、酸素だけでなく、化学反応場の溶媒の性質をこれまでとは次元の違うレベルで制御することが可能になる。また、生産段階でのバイオ物質の拡散リスクなど、人体・地球に影響のある物質の発生についても、隔離された局所反応場での生産に於いては、問題処理が容易になる。遺伝子操作などにおいては、すでにずっと以前から、ハザード回避の観点から、グローブボックスが利用されている。今後は、ガス雰囲気の制御等により、化学反応環境自体のコントロールという高次元での実験が可能になること。また、生産工場において、トータルに局所環境システムを導入することは、完全なハザード対策と、生産コストの観点からも重要となることなど、積極的な局所環境の導入が望まれる。

さらに、省エネルギー・エコロジカルメリットそして高品質を追求した生産システムは、もっとずっと広い分野で優位性があり、導入メリットがあることは言うまでもない。



構築例と性能

ハイパーミニプロセスシステムの構成例を図に示す。本システムは、窒素雰囲気の密閉容器で試料洗浄・表面処理用のハイパーミニファブ(グローブボックス)を中核として、超クリーンな金属堆積が可能な超高真空仕様のe-beam型の蒸着装置、原子一つ一つを観察できる超高真空走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy:STM)、その他汎用表面分析装置(AES電子分光、X線光電子分光、低速電子線回折、直衝突低速イオン散乱分光)と、空間的に離れたそれらの間の試料転送を行う超高真空仕様のステンレス製ミニ搬送ボックスにより構成される。一部改良を施したSTM装置を除き、全て自前の設計であり、ほとんどが手作りである。本ローカルシステム中で大気圧部分は115literであり、部屋全体をクリーン化した場合に較べ、1/2000程度の体積になっている。この115literの部分に真空を用いない理由の一つは、超高真空技術を利用すると製造に非常にコストがかかることである。1気圧であれば、リークに対して、大変ローコストな設計が可能である。肝心なことは、有害な不純物分子・パーティクルは何かを判定し、それらを分圧比の観点から除去することである。本システムは、局所クリーン化のトータルシステムとしてのモデルケースであるから、常圧の局所クリーン空間としての可能性を示すために、中核部分のみ敢えてプラスチック素材のグローブボックスを用いて構成している。

ハイパーミニ・プロセスシステム

本システムが持つ環境物理量の特性は表にまとめてあるが、最新のLSI工場を遙かに凌ぐ基本性能を持っていることが明らかとなった。まず、パーティクルは、実際にパーティクルカウントが観測されなくなるレベルに到達している。ISO Classに換算して、Class 1以下のパーティクルゼロ環境であり、スーパークリーンルームのClass 3〜4よりも1/100〜1/1000以下という極めてクリーンな環境を実現している。酸素濃度は、通常のクリーンルームでは、人間の作業空間でもあるので、制御することは出来ないが、本システムでは、大気濃度21%に対して、5桁低い2ppmに到達している。相対湿度は、現状では特段の工夫無しで1/100程度まで低減できている。また、グローブボックス内で利用される液体については、溶存酸素濃度を、0.2ppbという超低濃度の状態を作り出すことが出来る。通常の大気中での水中の溶存酸素濃度は、飽和状態で8ppmであるから、やはり、5桁低減できている。これはグローブボックス内の酸素濃度が5桁低くなるので、それに比例して液体中の濃度も下がってくることによる。また、消費ガス量についても、LSI工場では、フィルタリングされかつ温調されてコストのかかった空気を一分間に100m3程度のオーダーで消費するが、本システムでは、窒素を0.005m3 /分消費するに留まる。これだけの高性能が、一人の研究人員で構築できてしまうところが、酸素等ガス制御と並んで、LSI工場と比較した時の大きな優位点の一つである。

ハイパーミニプロセスシステムと最新鋭LSI工場の環境性能比較表

ハイパーミニプロセスシステム最新鋭LSI工場
パーティクル [0.1µm/m3]no count〜 1,000 (最適環境にて)
酸素濃度2 × 10-60.21 (非制御)
超純水中溶存酸素濃度 [ppb]0.21-100 (不安定)
相対湿度 [%]0.3530-35
大気圧部分の比容積〜 0.00051
消費ガス量 [m3/min]
200m3のミニクリーンルームの場合
窒素 0.005空気 100-200
(設計・運用による)




応用例

本システムを半導体シリコンウェーハの洗浄に応用してみた。その結果、洗浄環境であるハイパーミニファブ内の酸素濃度とその中にある洗浄ビーカー中の洗浄薬液(40%NH4F)中溶存酸素の濃度の両方を5桁低減した環境において、シリコン表面の洗浄は非常に理想的なものとなり、洗浄後金属堆積によって形成したSchottky電極においては、リークの全くない理想電極が実現された。比較のため、環境酸素と溶存酸素のどちらか一方だけ、または両方とも、通常濃度にした場合は、多量のリーク電流が発生し電極性能が大幅に劣化した。また、パーティクルだけ取り除いた人工大気雰囲気での実験から、リーク電流は、パーティクル量とはほとんど無関係であることも見いだされた。以上のように、従来全く制御されてこなかったが、環境物理量の制御は非常にドラスティックな化学反応変化をもたらす場合があることが見いだされている。

本システムの性能と応用例の詳細については、以下の文献に掲載されている。

  1. 原 史朗, 「ULSI工場を越える環境性能を持つ局所クリーンシステムの開発」, 電総研ニュース, 603, 2-7 (May, 11, 2000). [PDF] (1.1MB)
  2. 原 史朗,「局所クリーンシステムの環境性能とその応用」, 電子材料, 39, 10-14 (8月号, 2000).
  3. 原 史朗, 「新世代の局所クリーン化技術の最新動向」, 電子材料, 44(8),24-32 (August 2005).
  4. 原 史朗, 「局所クリーン化の世界」, Kブックスシリーズ,工業調査会(December, 2006).

関連解説とビューグラフ

■ Mooreのビジネスモデルの破綻
■ クリーン化技術(1985〜2000年頃)
■ ジーパンでのIC製造を可能にする局所クリーン化技術(ビューグラフのみ)
■ コーヒーブレークコラム「局所クリーン化がミニブレーク状態に」 (H16.9.1)


平成15年8月12日 (H16.4.13, H16.9.22, H18.10.27リンク追加)




[Home]
Last updated: Dec. 13, 2006. Shiro HARA's Web Site