局所クリーン化技術:21世紀の戦略的環境分離技術


・あいまいな現状認識に問題
「局所クリーン化」という用語と技術は従来から存在したので、ここ数年俄に脚光を浴びている局所クリーン化技術についても、 既存技術・既存概念の延長線上で捉えられてしまうことが多い。 特に既存技術に精通したプロフェッショナルほど、そうした傾向がある。 しかし、現在注目されている局所クリーン化技術は、そうした既存技術とは概念的に異なるものである。 このような新技術と既存技術の混同した理解は、局所クリーン化技術の発展とその利用産業の競争力向上の妨げともなる。 ここでは、その違いを明確にしてゆきながら、局所クリーン化の発展途上の全体像を明らかにする。

・新世代技術は新生産方式である
局所クリーン化概念:従来技術vs新世代技術 既存の局所クリーン化技術は、クリーン化技術の一つの要素技術であり、いわばクリーン(CR)化補助技術である。 たとえば、CRの一部をビニールシートなどで囲い、その内部の清浄度をより高める「垂れ壁式」作業室や、 装置全体を覆うような大きさの小部屋(エンバイロンメンタルチェンバなどと呼ばれたりする)がその代表的技術例である。 従って、製造工程全体にわたるような技術ではなく、必要な部分、特に一部だけの清浄度を高めるのが、既存の局所クリーン化技術である。 いわば製造の加工中及びその装置内での製造物の装置との脱着過程だけの清浄度を高く保持する。 これはその性質上、導入が簡易であり、工場の現場のQC対策レベルの技術である。その簡便性のおかげで、かなり古くから製品品質向上技術として、広く利用されてきた。 今後もあらゆる製造工程で利用される有用な要素技術である。

これに対して、新世代の局所クリーン化技術は、全工程を局所クリーン化する技術である。 従って、製造物の搬送空間も局所クリーン化される。すなわち、密閉性の高い容器による搬送ないし、外界から隔離された空間内の搬送が必須技術要素となる。 QCレベルの対策技術とは違い、クリーン化など外界とは異なる環境を必要とするあらゆる工程に関わる。 別の解説ページでも述べているように、町工場と半導体工場という、既存2大生産方式に対して、 第3の生産方式と呼ぶべき、新世代の生産方式である。 従来技術と言い分けるためには、局所クリーン化"生産方式"と呼ぶべきであろう。 局所クリーン化生産方式のメリットとして、まず、清浄度維持性能の点で、既存局所クリーン化技術と比較にならない高性能なものであることは自明である。 さらに、その生産品の品質が極めて高まること、局所環境のみに、製造物に適した環境を与えれば良いことから、生産原料コストと空調コストを飛躍的に改善し、 また、ロボット工場化へのバリアを大幅に低減する重大な副次効果を持つことから、 従来の生産方式では考えられなかった高性能・高効率生産が可能になる。 このことから、製造企業の視点から言えば、導入に当たっては、質の高い経営判断が必然的に伴うことになる。

・局所クリーン化を行うための構成要素
局所クリーン化構成:従来技術vs新世代技術 1. 前室  新世代技術では、製造物を搬送容器と装置の間で受け渡しする際に、製造物、容器内、そして装置内が外界に触れないようにすることが、 技術の大前提になる。そこで、受け渡しを清浄な閉空間で行うために前室が必要となる。
2. 密閉性容器 従来は、CR内では、オープンカセットなどの開放型の容器に製造物を入れて搬送を行っていた。 これは、ボールルームが十分に清浄であることを前提条件としていた。 実際には、人が容器を持って搬送することが多く、その無防備なウェーハ表面では、どうしても搬送中に汚染が進行してしまう。 新世代技術では、搬送容器を必須(装置間搬送チューブなどでも良い)とすることで、全工程外界遮断が実現する。
3. 清浄度向上方式 清浄度向上方式として、従来は、FFU(Fan Filter Unit:ファンとフィルターを組み合わせたモジュール)で清浄化を行い、 この清浄化空気を循環させることを基本とする方式を採ってきた。 それに対して、新世代技術では、清浄ガスや清浄空気などを局所空間に導入し、排出後は使い捨て排気するということも、その空調容量が非常に小さいことから可能である。 さらに、発塵の無い密閉(無風)環境も、清浄度維持の観点から実用的である。 少なくともシリコンウェーハを使った製造工程では、搬送容器に小型FFUを装着する必要は無い。 従来密閉空間というのは、内壁からの発塵・汚染ガス揮発の可能性が大変大きく問題を引き起こすと短絡的に信じられてきたが、 最近の新素材に置いては発塵性及びガス揮発性は、実用上問題にならなくなってきていることは重要である。 素材吟味により、限られた搬送時間におけるその間の汚染をのちの洗浄工程で除去できるなら、 密閉型容器を導入することは容器内汚染の観点からほとんどデメリットがないということになる。 それよりも、主にパーティクルをほぼ完全にブロックできる事が、様々な波及効果も含め甚大なメリットをもたらす。 300mmウェーハの半導体工場での密閉容器(FOUP)導入実績および、筆者の実験システム(ハイパーミニプロセスシステム)での高い清浄性の実証から、 清浄化には、FFUと空気循環が必須という常識は、すでに過去のものとなっているのである。

 

・局所クリーン化の本質は環境分離技術
局所クリーン化:環境分離技術 「局所クリーン」と聞くと、その時点からクリーン化に関する技術と思いこんでしまう可能性が高い。 しかし、実際には、新世代局所クリーン化生産方式での本質は、局所的に清浄化することにあるのではなく、外界と製造物の環境を全工程分離する点にある。 その意味で、これは環境分離技術であり、また、その汎用性から、単なるクリーン化技術でなく、生産方式という広い技術体系としての革新的技術と言うことができる。 右図では、人と製造物が如何に違った環境を理想としているかを図示している。 局所クリーン化生産方式は、全工程環境分離を行うので、原理的に双方の理想環境を同時に実現できてしまう。 一方、ボールルーム方式のCRでは、人との共存が必須なことから、パーティクルの低減など、製造物に理想的な環境を作り出すには、高度な技術が却って必要となっていた。 局所クリーン化生産方式では、環境を完全分離するので、人と製造物のプライオリティ(優先度)の差はもはやなくなっている点は特質すべきことである。 通常、工場においては人より製造物が優先である。 その結果として人が理想環境を妥協することは、人への悪影響を無視することにつながっている。 しかし、環境を完全に分離することで、それぞれへの理想環境は従来よりずっと構築しやすくなる。 また、21世紀に入り、地球環境への配慮(エコロジーの重要性)及び、 微量物質の人体への影響(環境物質問題、シックハウス問題、ウイルス管理問題など)の顕在化克服の重要性は、 世界のコンセンサスとなりつつある。この地球問題への対応には、本質的なところで、環境分離技術がキーとなってゆくだろう。 局所クリーン化生産方式は、半導体工場という実験場で初めて導入されたばかりの新生産方式であるが、 このような地球全体のニーズを背景として、中期的から長期的には、環境分離技術として、さらに飛躍的に発展してゆくことになるだろう。

・広範な技術体系へと変貌を遂げた局所クリーン化
局所クリーン化:環境分離技術 以上述べてきたように、局所クリーン化には、既存技術と新世代技術があるが、それぞれ排他的なものではなく、技術的には新世代生産方式は既存技術を包括している。 従って、局所クリーン化は、QCに有用な1要素技術から、生産方式へと大きく発展したと理解するのが最も自然である。 より効果的な生産性を狙うには、生産システムレベルでの検討を行い、全工程分離型の局所クリーン化を導入すれば良いし、 歩留まり改善レベルであれば、一部の工程への導入も、意味のあることである。 留意すべき事は、生産システムに関わることは、専用装置の導入が必要になることから、 1事業部での意志決定で可能になることではなく、経営レベルの判断が必要になることである。 経営判断にも2種類ある。300mmウェーハ工場では、標準化が先に進んだことから、業界標準として局所クリーン化が実用化された。 これは、基盤技術(共通プラットフォーム)と言える物で、これがなくては始まらない広く認知された技術である。 このような共通プラットホーム技術では、そのプラットホーム上での先行者利益の確保が愁眉の急である。 競争は、標準化会議の場ではすでに佳境に入っている。 周到な技術的準備と資金調達についての上層部の決断力がキーとなる。 一方、200mmウェーハ工場では、標準化は未だに進んでいないのが現状で、そのような状況での局所クリーン化の導入には、 共通プラットフォーム技術でなく、差別化技術としての認識が重要であり、この導入により、他社に先駆けるという点が最も大切になる。 現に200mm工場に局所クリーン化(SMIFシステム)を真っ先に導入したAMDやソニーなどはその導入を自社企業戦略として喧伝している。 メーカーにおいては、差別化技術の開発及び導入は元来コア・コンピタンス(競争力の源泉)として重要であるが、 300mm工場以外における局所クリーン化がコア・コンピタンスとして極めて有効な時代が今後到来するであろう。 以上の視点が半導体工場に限らない広く他の製造業に当てはまる概念である事は、改めて強調しておくこととする。

■参考:コーヒーブレークコラム「局所クリーン化がミニブレーク状態に」 (H16.9.1)

平成16年9月21日 初稿、H17.3.9一部改訂

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Last updated: Aug. 24, 2006. Shiro HARA's Web Site