局所クリーン化技術と従来クリーン化技術


・クリーン化技術の2つの方向性
従来、清浄化を必要とする工業製品の製造においては、クリーンルームを利用する方法がとられてきた。しかし、この方法では、LSIの様な微細化で商品価値を高めて行くものについては、微細化が進展するとより高い清浄度が必要になってくる。クリーン化性能の向上がうまく行かなければ、製品の良品率(歩留まり:yield)は減少し、利益を上げることができなくなる。また、クリーン化清浄度を向上するためのクリーンルームの建設コストと運転コストが膨大なものとなってくるので、これも利益減少に直結する。この問題は、1980年初頭の段階で、かなり重要な問題としてすでにごく一部では認識されていた。それは2つの流れを生んだ。

・スーパークリーンテクノロジー ■参考資料:クリーン化技術(1985〜2000年頃)
スパークリーンテクノロジー 一つは、クリーンルーム(Clean Room: CR)という集約的製造技術をもっとアグレッシブに高度化し、それをベースにしてLSIの集積化を推し進めるという考え方である。 東北大学の大見忠広教授によって提唱、一部企業の協力を得て実験施設として実現された。 その概念が理解されるにつれ、現実のCR技術への応用が進み、技術体系全体がスーパークリーンテクノロジー (Super Clean Technology: SCT)と呼ばれるようになった。 今では半導体製造技術の基幹技術となっている。 歴史的には、この技術はまず、CRの高性能化を目指して発展した。 例として、CR内で利用する液体窒素の液体に不純物が混じっていると、それがCR内に拡散してしまうという問題がある。 これを防ぐためには、液体窒素の汚染源をなるべく源流から排除する必要があるだろう。 そこで、液体窒素搬入用タンクローリーのタンク内についても、鏡面研磨を行った効果が示されている。 他にもCRの高性能化を目指して、超純水、窒素ガス等CR内原料の高純度化を中心に様々な技術開発が行われた。 半導体集積回路の製造工程においては、このようなリソースの高純度化は必須であるが、プロセス装置のユースポイントまでの経路において汚染が進行してしまえば、意味が半減してしまう。 そこで、あらゆるガス配管や継ぎ手・バルブについても、内壁の金属組織構造に工夫を凝らし、ガスがしみ出してくるのを防ぐ技術的工夫が施されるようになった。 リソース供給の超クリーン化が完成すると、次のステップとして検討すべき課題は、装置内での汚染による歩留まり低下の問題になってくる。 その原因として考えられるゴミ・チリ・ガスのあらゆる発生源を断ち切るために、あらゆる部品・装置類の高純度化・清浄化・ガス発生抑制のための技術開発も行われた。 超クリーン化は金属系の高性能化だけに留めておいたのでは不十分である。 広くCRや装置内で利用されるプラスチック材等も、もろい物は汚染の原因にもなりかねない。 大変固く耐薬品性に優れたPEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)などは、積極的に利用されるようになっている。 CR技術とSCTという2つの技術体系の指し示す技術範囲の明快な違いの一つは、SCTがこのような半導体プロセスのあらゆる箇所のクリーン化技術を含むことである。 また、SCTは時に、大見教授を中心とするコミュニティーにおいて開発されてきた個別技術群とその技術体系〜ウルトラクリーンテクノロジを指して言う場合もある。

・局所クリーン化技術 ■参考資料:ジーパンでのIC製造を可能にする局所クリーン化技術
現状の局所クリーン化技術@半導体工場 一方、その対極的な考え方も生まれた。 1985年にヒューレットパッカードが出した特許がそれで、半導体ウェーハを箱に入れ、そこだけを特に清浄な環境にするアイデアである。 特許で命名されたStandard Mechanical Interface (SMIF:スミフ)という名前は、現在の直径200mmのシリコンウェーハ用の搬送ボックスシステムの固有名詞になって残っている。 この局所クリーン化技術は当初アイデア倒れの状態であり、そのうち、SCTが全世界のトレンドとなり、ほとんど忘れられた技術であった。 ところが、2000年前後になると、LSI工場の建設コスト・製造コストの増大が、資金調達の面からメーカーの工場建設を妨げ、メーカーの死活問題となってきた。 この頃から製造コスト削減が最優先課題として浮上し、そのためにあらゆるコストダウン技術が検討されるようになったのである。 その有力な要素技術が、SMIF等の搬送ボックスと、それと組み合わせで用いられる狭義のミニエンバイロンメント技術である。 搬送ボックスを利用する弱点としては、ウェーハを搬送ボックスと装置との間でやりとりする時に、その受け渡しの機械的工夫が必要であり、かつそこではどうしてもパーティクルが発生しやすくなるということがある。 その技術が簡単でなかったので、なかなか実用化されなかった。 そこで、受け渡しの雰囲気を、クリーンルーム内とは別のミニの部屋を装置に直付けする形で設け、搬送ボックスと装置仲介してウェーハの受け渡しを行う、一種の仲介室の考え方が広まってきた。 これを狭義にミニエンバイロンメント技術という。 つまり、一連の局所クリーン化技術は、搬送ボックス+ミニエンバイロンメント室という技術要素で成り立っている。 なお、現状理解のために言及すると、現在最も生産効率が良いとされている実生産されているシリコンウェーハは直径300mmである。 これ用の搬送ボックスは、FOUP(Front Opening Unified Pod)と呼ばれている。 世界に先駆けて2000年に日立製作所と台湾UMCの合弁ファウンドリ工場であるトレセンティテクロノジーズ(2005年現在ルネサステクノロジに中核ファブとして再統合されている)で、小池淳義生産技術本部長を中心とした推進体制で導入された。 2004年に入ると、我が国においては景気回復基調が経済全体に広がりつつあり、各社ともFOUPを用いた最新鋭工場の建設ラッシュが続いている。 また、世界的には、200mmのトータルで手頃な生産性も重要であり、既設工場への後付けが可能であることも手伝って、 SMIFシステムが、台湾やAMD等、次いで一部の日本メーカなどで導入されている。

 

・現在利用されている局所クリーン化技術のメリット
クリーン化方式 搬送ボックス+ミニエン方式を全装置に対して導入すれば、ボックス内と装置内に対して相対的にクリーンルームの清浄度を意図的にグレードダウンすることができることになる。実際、最新の工場では、そのようなクリーンルームのグレードダウンがなされるようになってきている。従来グレーティングという金属格子をはめ込まれた床構造は床全体に渡って採用されていたが、このような局所クリーン化を積極的に取り入れた工場では、すでに、グレーティングは床面積の数十パーセント以下に絞り込まれている。つまりそれだけ、クリーンルーム風量を抑制することが出来、運転コストも削減できるようになっている。グレーティングの無い、つまり床下構造のない簡易クリーンルームでの生産が始まるのも時間の問題である。感覚をつかむために数値的な表現をしてみよう。現在 ISO CLASS 3-5 (0.1μm以下のパーティクルが1m3 内にある数が103-105個)のクリーンルームがこれまでの最新鋭工場であり、たとえばCLASS 4以下はスーパークリーンルームと呼ばれている。これが、床下構造の無い場合には、CLASS 6以上となってくる。10倍から1000倍も汚れた雰囲気である。なお、通常の大気では、CLASS 9程度と考えて良いが、完全な技術が確立すれば、大気中レベルでの局所クリーン化導入も可能となろう。そのような局所クリーン雰囲気では、ウェーハに接しない部品・装置類をクリーン化する必要がないので、恐ろしくコストダウンできることになる。クリーンルームの清浄度だけをとってみれば、コストダウンニーズの追い風に乗って、局所クリーン化の技術発展とともに今後は退化が加速するということになる。SCT技術については、その技術的蓄積は大変裾野が広がっており、形を変えて、局所クリーン化内の清浄化に対して益々高度に適用されるようになるだろう。

■参考:コーヒーブレークコラム「局所クリーン化がミニブレーク状態に」 (H16.9.1)

平成15年8月4日 (H15.9.5, H16.3.19, H16.4.13, H17.3.9 一部改訂)

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Last updated: May. 16, 2006. Shiro HARA's Web Site