■ Q&A半導体を傷つけるとどうなる?

■Q. 鉱石検波器で、針で結晶(鉱石)を傷つけることに関連して、
「昔は、ダイオードの代わりに、鉱石を使っていたと聞きました。 なぜ鉱石に整流作用があるのか知りませんでした。 「整流作用の発見とダイオードの発明」を読み納得しました。 また、以前より点接触トランジスタになぜ増幅作用があるのか疑問でした。 そして、点接触トランジスタから、どうやって普通のトランジスタへ発想が、 進んだのかも、不思議でした。この2点も納得できた気が、しました。 新たな疑問として、半導体を、傷つけると、欠陥が大量発生し、 それがなぜ、PからN、またはNからPへの変質につながるのでしょうか。」

■A. 発明・発見など人間の歴史については、調べて行くことで、ほぼ間違いのない所 を知ることができますが、自然現象については、わからないことも沢山あります し、現象が元来複雑ですので、それを解説することは難しいことでもあります。

ご質問の点については、実際解説しにくく、複雑な現象で、かつ詳細にはわかっ ていない現象でもあります。それで、あまり詳しく解説していません。 ただ、こういうことね、というような原理のレベルはわかっていると言ってもい いので、以下に説明しましょう。

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「傷つける」という行為は、虫眼鏡レベルで何が起こっているかを想像すれば、 それは、固体を壊しているということになっているはずです。ガリガリと針で固 体をひっかけば、ひっかいた部分やその周辺の物質がこそげ取られます。 次に、光学顕微鏡でそのひっかいて出た削り粉やひっかいた固体を観察すると、かな り乱れた規則性もさほどあるように思えないような破壊の跡を見ることになるでしょう。 では、もっと微視的に、電子顕微鏡レベルではどうなっているのでしょうか? ご質問の例では、固体は単結晶ですから、引っかかれた場所の近所では、原子同士の整然とした並びが破壊され、クラックのようなものも走っているかもしれ ません。それと、微視的には、室温とはいえ、原子の再配列なども起こっているでしょう。再配列の結果は、単結晶とは違った構造をとっているかもしれません。 このようなクラックや単結晶からの構造変異などが起こっているところでは、規則正しく並んだ原子配列とは、原子間の距離が違ってきますので、原子間結合、 すなわち化学結合の状態が変わります。化学結合は、原子と原子の間を電子が飛 び回ることで成り立っています。ですから、原子間距離が変われば、電子の飛び 回り具合も変わってきて、中には、電子はいらない状態になる未結合も発生しますし、逆にもっと結合に電子が必要になる場合も出てきます。このように、マク ロに結晶を破壊すると、ミクロには、結晶の随所で、電子の必要数が変わってき ます。言い換えると、原子レベルの欠陥は、電子の収容状態にも変化を引き起こします。

電子が余計に必要になる時、よそから電子をもらって中性になるなら、それは、 ホールを発生する欠陥と呼ばれます。それが結晶内全体の挙動になっているなら、 それは、pタイプと呼ぶべき半導体です。逆に、原子と原子の間に囚われていた電子がいらなくなって放出され中性に成るような欠陥は、電子を発生する欠陥と呼び、結晶内全体が放出された電子で一杯になっているのなら、それは、nタイプです。

シリコンなどでは、傷つけることで、どうしてn型がp型になるのかという点ですが、まず、 傷つける前のn型はどうなっているかというと、欠陥はなく、逆に意図的に電子が多く出るためのアンチモンやリンなどの"不純物原子"を埋め込んである、単結晶なわけです。それに傷が付いて、ホール(+)が大量発生すると、埋め込んであっ た不純物原子数に相当する電子(-)数はプラスマイナスで相殺されてしまい、足 し算で多い方の電荷の性質になります。ホールが山程できれば、p型になります。 もちろん、欠陥から電子も発生していることもあるでしょうが、結果的にp型なら、ホール発生が多かった、ということです。

なぜ、傷つけるとp型になるか、ということについては、残念ながらわかっていないと思います。半導体の種類によって、傷つけた結果は違うでしょうし、傷付け方が違えば、電導性のタイプもまた違ってくるでしょう。ミクロには大変複雑 に結晶を破壊しているので、あらゆることが同時に起こっています。それをミク ロに一つ一つ検証し、量的な解析も行うのは、現代科学ではまだ不可能です。そ れで、不可解で難しい現象に立ち入らないように半導体技術は発達してきた、というこ ともできます。実用上は、n型とp型の制御は、傷つけて行うのではなく、結晶半導体原子と違った種類の"不純物原子"を結晶内に導入し て、電子とホールの量の制御を行います。これはシリコンやゲルマニウムでは極めて制御性良くできますし、新しく開発しようとしている半導体では、その制御に成功した時から、その半導体材料が実用になるということです。

ただ、おもしろいことに、半導体結晶を傷つける方法は、それ自体非常に簡単です。 そこで、半導体に電気を流したい時など、ちょっとした実験には、ガリガリっと表面を傷つけて、大量にホールや電子を発生させ、事実上金属と同じくらい電気を流しやすくして、電極をきちんと形成する代わりにすることは良くあります。 また、結晶を破壊することで界面抵抗を減らせるわけですから、金属を層状に堆積した後、加熱で意図的に半導体結晶中に金属原子を大量に侵入させて一旦結晶を破壊し、その後界面を合金化するオーム性電極形成方法も、GaAsなど一部の半導体では開発されています。

科学の方法論では、大変複雑な自然現象を紐解いて行く時、いきなり自然そのもの(傷つけるとかいう複雑な行為も含め)に手をつけると理解が進まないので、 たとえば単結晶のような整然と並んだものを利用してそこからちょっといじった時の変化を調べて、物理現象を解明し、また、実用品を作って行きます。それを 繰り返す内、複雑な物事が結果として理解されるようになってゆきます。(Nov. 20, '03)




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Last updated: Jun.29, 2004. Shiro HARA's Web Site