現在の研究



H22年開始の新領域研究「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象」において、さまざまな凝縮形に対して、トポロジカルという視点から系統的な物性研究がおこなわれることになっており、その中で主に時間反転対称性の破れた超伝導体に関する研究を行っていく予定である。


リンク:

新学術領域研究「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象」へ


新学術領域研究「トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア」へ




研究の概要

銅酸化物超伝導体の発見以来、多種の新奇超伝導体が発見されてきたが、その多くはいわゆるBCS超伝導体とは異なる複雑な発現機構を有すると考えられている。これらの超伝導体のペアポテンシャルは、電子構造を反映した異方的な内部構造を有しているが、この性質は超伝導体内部においてはそれほど顕著な異常は生じない場合が多い。一方電子構造の並進対称性を破った界面や表面(エッジ)では、ペアポテンシャルの内部構造を反映したきわめて複雑な物性が出現し、これが接合系の輸送特性として特異な性質を発現させる。その代表的なものがdx2-y2超伝導体に形成されるゼロバイアス束縛状態であり、この形成によりd波超伝導体のジョセフソン接合はきわめて特異なIc-Tを有する。

我々が研究対象としているSr2RuO4のペアポテンシャルは、スピン3重項カイラルp波と呼ばれる、スピンとカイラリティに関する内部自由度を有する対称性であると考えられている。この超伝導性を担っている2次元RuO2面内で、準粒子とa軸のなす角度をθとしたとき、Δ=Δ0 exp(iθ)という形に表され、ペアポテンシャルは巻き数型の位相(winding phase)を有する極めてユニークな構造のトポロジカル超伝導である。近年、この超伝導体を舞台に、凝縮系に関する新しい概念を検証しようとする試みが始まっている。



カイラルp波のエッジ状態の説明に入る前に、近年広く注目を集めているグラフェンの電子状態を参照する。グラフェンはグラファイトの1層のみが取り出されたハニカム構造のカーボンシートであり、2次元の電子構造を有する。バンド構造は通常の金属や半導体と異なり、フェルミ面近辺でEk=±vF・Kという、いわゆるディラックコーン型の構造を有する。その結果、伝導電子は質量の無いディラックフェルミオンとしての性質を有し、ポテンシャル障壁に対する透過率や、不純物散乱プロセスに特異な性質を持つことが知られている。マンチェスター大学での単層サンプル作成の成功以来、多くの研究者が興味を持って研究を進めており、実際に多様な輸送特性が実験で観察されるようになってきている。




ここで鍵となったのはリニアな波数依存性を有するディラックコーン型のフェルミ面であったが、実は超伝導体にも類似の電子構造を持つ系が存在する!



それはカイラル超伝導体、ヘリカル超伝導体。

カイラルp波超伝導体は、超伝導体内のバルク状態としてはフルギャップ状態(ノードの無い状態)であり、d波超伝導体とは異なり、フェルミ面近辺には準粒子は存在しない。しかし並進対称性を破った界面、すなわちエッジ状態(ab面に関するエッジ状態)としてはアンデレーフ束縛状態がギャップ内に形成される。形成されたエッジ状態の波数依存性は、界面に平行な波数成分をkyと書いたときに、束縛状態のエネルギーレベルEk=Δ・ky/kFとなり、入射角にリニアな波数依存性を持って形成される。この状態は見かけ上、上記グラフェンの片側のブランチのみを取り出した状態に近い。ただし、完全には等価ではなく、グラフェンのディラックコーン型のフェルミ面はサンプル全面に形成されるのに対して、カイラルp波超伝導体のエッジ状態は2次元面に対するエッジに形成され、実空間では1次元であることなどが異なり、また自由度も制限されている(マヨラナコーンと呼ばれることもある)。このアンデレーフ束縛状態は、時間反転対称性を破った状態として形成されるが(片側のブランチのみが存在することに対応)、下に列記するように、多くの特異な性質を有することが理論的に予想されている。


また同じく近年注目されている超伝導体として、中心対称性の破れた超伝導体(Non-centrosymmetric Superconductors, NCS)がある。NCSはヘリカルと呼ばれるタイプのペアポテンシャルを有し、(s波成分が無い場合には)超伝導体のエッジにアンデレーフ束縛状態Ek(↑or↓)=±Δ・k(↑or↓)/kFが形成される。この超伝導体のエッジ状態は時間反転対称性は破っておらず、スピンに依存して逆向きの電流方向を持つ2成分にて形成される。

参考文献:Tunneling effects on surface bound states in unconventional superconductors,
S.Kashiwaya and Y. Tanaka,
Report on Progress on Physics, Vol. 63, pp.1641-1724, (2000).
参考文献:Theory of topological spin current in noncentrosymmetric superconductors
Yukio Tanaka, Takehito Yokoyama, Alexander V. Balatsky, and Naoto Nagaosa
PHYSICAL REVIEW B 79, 060505(2009).

同様のエッジ状態は冷却原子気体、超流動ヘリウムにも形成され、基本的な概念には半導体とのアナロジーが成立することが指摘されている。これらの凝縮系のエッジ状態の持つ特異な性質は、トポロジカル量子現象としての立場から、連携して研究が進められると期待される。


参考文献:Topological Superconductivity and Superfluidity
Authors: Xiao-Liang Qi, Taylor L. Hughes, Srinivas Raghu, Shou-Cheng Zhang
cond-mat arXiv:0803.3614




@自発的なエッジ流の検出
トポロジカル絶縁体やカイラルp波超伝導体には、時間反転対称性を破るエッジ状態形成に伴う自発的なエッジ流の発生などの現象が期待されている。特にカイラルp波超伝導体にはカイラルドメインが存在し、ドメイン境界においても自発電流が期待されるが、実際にその検出はなされていない。これに対して、ヘリカル超伝導体やトポロジカル絶縁体のエッジには、自発スピン流の存在が期待される。これらのエッジ流はトポロジカルな電子状態が並進対称性を失った結果として出現する状態であり、これを検出することにより、バルク中での時間反転対称性の破れや、カイラル、あるいはヘリカル内部自由度を検出するプローブになると期待される。

参考文献:M. Matsumoto and M. Sigrist, J. Phys. Soc. Jpn. 68, 994 (1999).
参考文献:J. Goryo and K. Ishikawa, J. Phys. Soc. Jpn. 67 (1998) pp. 3006-3009



A奇周波数電子対の探索
奇周波数電子対と呼ばれる新しい準粒子状態(周波数領域において奇パリティを有する)の存在が、近接効果や超伝導/強磁性接合系において特異な輸送特性を引き起こすことが理論的に予言されている。この効果は特にp波超伝導体を含む接合系において顕著に表れることが予想されている。例としてはp波と正常金属の接合系において、形成されたs波奇周波数トリプレットペアが正常金属中に安定に存在し、異常な近接効果やジョセフソン効果を引き起こす。この効果をSr2RuO4を用いた接合を用いて検証し、従来あまり注目されてこなかった奇周波数成分の接合系の輸送特性に及ぼす影響を解明する。

参考文献:Y. Tanaka, A. A. Golubov, S. Kashiwaya, and M. Ueda
Anomalous Josephson Effect between Even- and Odd-Frequency Superconductors
Phys. Rev. Lett. 99, 037005 (2007)
参考文献:Y. Asano, Y. Tanaka, A. A. Golubov, and S. Kashiwaya,
Conductance Spectroscopy of Spin-triplet Superconductors",
Phys. Rev. Lett. 99, 067005(2007).

  p波対称性を持つスピン3重項クーパー対(2つの矢印)がエッジで反射される際に、
  奇周波数成分(赤)が形成される。左上がエッジ、右下はバルクにつながった状態での概念図。

  p波対称性を持つスピン3重項クーパー対(2つの矢印)が近接効果により
  正常金属へしみ出す際にs波の奇周波数成分(赤)が形成される様子を示した概念図。
  左側がp波超伝導体、右側が正常金属。


Bマヨラナ型準粒子の探索
カイラル超伝導体では、エッジ状態や磁束量子のコアなどに、粒子と反粒子が特定の関係を有するマヨラナ型準粒子が形成されることが理論的に明らかになってきている。通常の金属、半導体では電子とホールの持つ電荷は反転しておりこの状態は存在しないが、バックグランドに超伝導の海が存在することを考慮すると、電子とホールがほぼ等価になると見なせる。カイラルを始めとして、ヘリカル超伝導体、超流動ヘリウム、トポロジカル絶縁体と超伝導体の接合系などにも、エッジ状態としてマヨラナ型準粒子が出現することが予測されている。しかしこの粒子をどのような手法で検出すればよいのかに関しては、明確な指針はない。トンネル分光を通してこれらの準粒子の検出が可能できると考え、理論実験の両面からマヨラナ準粒子検出の研究を進める。

参考文献:Tewari S, Das Sarma S, Lee DH.
Index theorem for the zero modes of Majorana fermion vortices in chiral p-wave superconductors.
Phys Rev Lett. 037001(2007).
参考文献:Y. Tsutsumi, T. Kawakami, T. Mizushima, M. Ichioka, and K. Machida
Majorana Bound State in Rotating Superfluid 3He-A between Parallel Plates
Phys. Rev. Lett. 101, 135302 (2008)



C半整数磁束量子の検出
カイラルp波超伝導体には、通常の単一磁束量子(Φ0)とは異なる性質を有する半整数磁束量子の存在が理論的に予言されている。この半整数磁束量子は磁束量子一つあたりに内包される磁束量が通常の磁束量子の半分になっており(Φ0/2)、金属超伝導体のように内部自由度の無い超伝導体では存在しえない状態であり、多自由度超伝導の強い証拠となることが期待される。この半整数磁束量子のコア中には自由度の制限されたマヨラナ準粒子状態が存在し、磁束量子の交換に関して非アーベル統計に従う(右回転と左回転の入れ替えが交換しない)ことが予言されている。同様の性質は5/2の分数量子ホール状態においても研究されており、この性質が将来的にトポロジカルにプロテクトされた量子情報として、トポロジカル量子ビットに利用されることが期待されている。我々はSr2RuO4を用いたループ構造の輸送特性(SQUIDとしての磁場応答)の精密測定により、その検出を行う試みを進めている。

参考文献:D. A. Ivanov, Phys. Rev. Lett. 86, 268271 (2001)
Non-Abelian Statistics of Half-Quantum Vortices in p-Wave Superconductors.




収束イオンビーム加工装置(FIB)を用いたプロセスにより、Sr2RuO4のマイクロデバイスを作成する技術はすでに確立しつつあり、この技術により作成されたデバイスを用いた実験を進める。







Topへ