これまでの研究概略

研究分野

超伝導体の局所状態、輸送特性などの研究
トンネル効果、ジョセフソン効果
異方的な超伝導体のエッジ状態(アンデレーフ束縛状態)
マクロな量子トンネル効果(MQT)
超伝導体のトポロジカル量子現象


実験技術
輸送特性、トンネル分光、トンネル接合、ジョセフソン接合
希釈冷凍機 (8mK)、He3冷凍機(280mK)、自作ワンショットHe3冷凍機(0.5K)、超伝導マグネット(15T)、回転磁場(2T)
極低温下でのマイクロ波技術、フィルタ、チューニングフォーク
RFスパッタ、レーザースパッタ、収束イオンビーム(FIB)、フォトリソグラフィー
低温走査型トンネル顕微鏡(STM)、超伝導量子干渉素子(SQUID)


研究対象物質
金属超伝導体、銅酸化物超伝導体、Ru系超伝導体、鉄系超伝導体



1 低温走査型トンネル顕微鏡(STM)の研究(1990年から)


研究開始の1990年当時市販装置は存在せず、自作により低温STM装置の立ち上げを行い、それを用いて、金属超伝導体の局所状態密度、磁束量子[1]、近接効果[2]の観察などを行った。またBi系超伝導体の不均一な電子状態の観察を行った[3]。

共同研究者(敬称略) 小柳正男、田仲由喜夫、杉本彰、永崎洋、土浦宏紀

[1] Low-Temperature Scanning Tunneling Spectroscopic Observation of Vortex in a NbCxN1-x Thin Film
Appl. Phys. Lett. 61,pp.1847-1849(1992).
[2] Proximity Effect in NbC0.3N0.7/Au Bilayers Observed by Low-Temperature Scanning Tunneling Microscopy
J. Phys. Soc. Jpn,63,pp. 3098-3106(1994).
[3] Enhancement of electronic inhomogeneities due to the out-of-plane disorder in Bi2Sr2CuO6+d superconductors observed by scanning tunneling spectroscopy,
Physical Review B,Vol. 74,No.9,094503_1-5,(2006)
解説:STMによる近接効果の研究,電子情報通信学会超伝導エレクトロニクス研究会技術報告,59~64,1992/7
解説:銅酸化物超伝導体における不純物束縛状態、日本物理学会 日本物理学会誌、58、254-257、土浦宏紀,小形正男,田仲由喜夫,柏谷聡、2003
解説:高温超伝導体のTcを上げるには?:銅酸化物超伝導体の不均一性とTc,日本物理学会誌,64-8,pp.602-610、2009/8





2 異方的超伝導体のトンネル効果、ジョセフソン効果、位相検知性(1994年から)

準粒子トンネル効果は超伝導体の状態密度を観測する極めて重要な手法であるが、1990年以前においては金属超伝導体の研究が中心であり、ペアポテンシャルの有する異方性や内部位相の効果の影響については理解が不十分であった。銅酸化物超伝導体のペアポテンシャルの対称性をトンネル効果によって決定しようとする試みから、d波超伝導体に対するいわゆるBTK公式を2次元に拡張し、異方的超伝導体に対するトンネルコンダクタンスの表式の見直しを行った。その結果は、金属超伝導体の場合と異なり、異方的なペアポテンシャルを有する超伝導体では、並進対称性が失われる界面に特異なアンデレーフ束縛状態が形成され、dxy波対称性の場合にはゼロエネルギー束縛状態が形成されることを理論的に示した[4,5]。アンデレーフ束縛状態とは、異なる振幅、位相を持つペアポテンシャル間に形成される準粒子束縛状態である。非均一系超伝導体においては、アンデレーフ束縛状態がすべての低エネルギー励起を支配している。得られた拡張BTK表式と銅酸化物超伝導体における実験結果の整合性を検証するために、YBCO配向膜をSTM観察することにより、 (110)配向を有する膜でのみゼロバイアスピークが顕著となる結果をえて、YBCOがdx2-y2対称性を有すること、およびトンネル分光が本質的に位相検知性を有することを実験的に検証した[4,7]。さらにこの位相検知性の考え方をジョセフソン効果や超伝導/強磁性体の接合系へと拡張し、異方的な超伝導を含む接合系におけるスピン流を含めた輸送現象を予言し[6]、その一部を実験により確認した [7]。現在までにジョセフソン効果を含めて、この予言が多くのグループにより検証されており、これらはレビュー論文[8]にまとめられている。これらの一連の研究は、準粒子トンネル効果は位相検知性が無いという過去の常識を覆し、トンネル効果により超伝導の内部位相の検出が可能であることを明確にした。現在までにゼロバイアスピークは各種銅酸化物超伝導体を始めとし、ルテニウム系、有機物超伝導体、重い電子系などで観察が報告されており、超伝導ペア決定に関する重要は手段として確立している。

共同研究者(敬称略) 田仲由喜夫、L.Alff、柏谷裕美、小柳正男、M.R. Beasley、田沼慶忠

[4] Origin of zero-bias conductance peaks in high-TC superconductors,
Physical Review B Vol. 51, No.2, pp.1350-1353, (1995).
[5] Theory of tunneling spectroscopy of d-wave superconductors,
Physical Review Letters, Vol. 74, No.17, pp.3451-3454, (1995).
[6] Spin current in ferromagnet /insulator/superconductor junctions,
Physical Review B, Vol. 60, No. 5, pp.3572-3580, (1999).
[7] Tunneling effects on surface bound states in unconventional superconductors,
Report on Progress on Physics, Vol. 63, pp.1641-1724, (2000).
[8] Anomalous magnetic field tunneling of YBCO/LSMO junctions: Possible detection of non-Fermi-liquid states,
Physical Review B 70, pp.094501_1-5, (2004).
解説:d波超伝導体とトンネル効果,田仲由喜夫、柏谷聡,応用物理,64,4号,pp.344-348、1995/4
解説:酸化物超伝導体分光実験におけるゼロバイアス異常 (異方的超伝導体のトンネル分光と表面状態),柏谷聡,田仲由喜夫,小柳正男,梶村皓二,固体物理,30,pp.1034-1041,1995/12
解説:異方的超伝導体のジョセフソン効果,浅野泰寛、田仲由喜夫、柏谷 聡,固体物理,38-2,pp.125-139、2003/2
解説:銅酸化物超伝導体接合の実験の新展開,柏谷 聡,井口家成,固体物理,40-10,pp. 699-711、2005/10




同一の超伝導体(YBCO)でも表面の方位によりトンネルスペクトルが変化する。
これはYBCOの超伝導ペアポテンシャルが内的位相を持っていることに対応する。




3 異方的超伝導体の接合系におけるマクロなトンネル効果(2003年から)

ノード準粒子が存在するような異方的超伝導体においては、ノード準粒子がもたらす散逸効果のためマクロな量子トンネル効果(Macroscopic quantum tunneling MQT)の観測は極めて難しいと考えられ、ごく最近までMQTに関する理論、実験ともに存在しなかった。そこで銅酸化物超伝導体におけるMQTレートの影響を評価し、銅酸化物超伝導体のギャップの大きさによるゲインと比較して、ノード準粒子による散逸の効果は十分小さいことを理論的に明らかにした[9]。後にこの理論を検証するために実験を開始し、収束イオンビーム(FIB)を用いた微小素子作成プロセスを構築し、Bi系銅酸化物超伝導体の固有ジョセフソン接合において実際にMQT現象の観測を行い(ただし世界で3番目の成功例で、初ではない)[10]、さらにセカンドスイッチの特性解明、マイクロ波アシストMQT,パルスバイアスによる量子化レベルの観察、結合系における複数接合の同時MQTの制御などに成功し[11]、現在Bi系銅酸化物超伝導体において現在ラビ振動の観察の準備を進めている。
さらにFeAs系超伝導体に関して、世界で初めて固有接合の作製に成功し、従来のヘテロ接合より1桁大きいIcRn積を実現し[12]、今後の量子ビットや電圧標準への応用利用するための準備を進めている。

共同研究者(敬称略) 川畑史郎、柏谷裕美、松本哲郎、田仲由喜夫、柴田肇、永崎洋、白井一実

[9] Macroscopic quantum tunneling and quasiparticle dissipation in d-wave superconductor Josephson junctions,
Physical Review B 70, pp132505_1-4, (2004).
[10] Switching Dynamics of Bi2Sr2CaCu2O8+? Intrinsic Josephson Junctions: Macroscopic Quantum Tunneling and Self-Heating Effect,
J. Phys. Soc. Jpn. vol.77,pp.104708-1~8,(2008)
[11]Multi-Junction Switching in Bi2Sr1.6La0.4CuO6+d Intrinsic Josephson Junctions,
Applied Physics Express, Vol.3, pp.043101, (2010).
[12] C-axis critical current of a PrFeAsO0.7 single crystal
Appl. Phys. Lett. 96, 202504 (2010)。
解説:高温超伝導体における巨視的量子トンネルと量子ビットへの応用,川畑 史郎、柏谷 聡,固体物理,40-10,pp.755-761、2005/10








4 スピン3重項超伝導体Sr2RuO4の物理(2007年から)

京都大学前野教授の発見したSr2RuO4はNMR測定などに基づき、カイラルp波対称性を有する、スピン3重項状態の電子対の超伝導と考えられ、従来方の金属超伝導や銅酸化物超伝導体とは著しく異なる、特異な輸送特性を示すことが期待される。この超伝導体の接合系では、内部位相を反映したアンデレーフ束縛状態形成に加えて[13]、スピン1重項超伝導とは全く異なる異常な近接効果発現が期待され、さらにはその起源が奇周波数電子対であることを理論的に証明した[14]。また奇周波数電子対がT型素子により検出できることを理論的に示した[15]。これらの性質を実験的に検証するために、Sr2RuO4の単結晶から収束イオンビームを用いた微小素子およびトンネル接合系の開発に着手し、世界で初めてSr2RuO4単独でのジョセフソン素子の開発に成功し、内部自由度であるカイラリティが輸送特性に及ぼすヒステリシス特性を観測した[16,17]。

共同研究者(敬称略) 前野悦輝、田仲由喜夫、神原浩、矢口宏,、浅野泰寛

[13] Theory of tunneling spectroscopy in superconducting Sr2RuO4, Phys. Rev. B 56, 7847 (1997)
[14] Anomalous Josephson effect between even- and odd-frequency superconductors,
Physical Review Letters, Vol. 99, 037005_1-4, (2007).
[15] Conductance Spectroscopy of Spin-Triplet Superconductors
Physical Review Letters,99,pp.067005-1-067005-4,(2007)
[16] Anomalous Transport through the p-Wave Superconducting Channel in the 3-K Phase of Sr2RuO4
Physical Review Letters, Vol.101, 267003_1-4 (2008).
[17] DC Current Driven Critical Current Variation in Sr2RuO4?Ru Junction Proved by Local Transport Measurements
J. Phys. Soc. Jpn. 79,074708 (2010)
解説:不均一超伝導体におけるクーパー対の新たな可能性,田仲 由喜夫、柏谷 聡,日本物理学会誌,64-7,pp.527-534、2009/7
解説:超伝導ハンドブック,超伝導ハンドブック,田仲 由喜夫,柏谷 聡,朝倉書店,2009/12/10,p204-213





5 nano-SQUIDの開発(2007年から)

nano-SUQIDは微小領域の磁束状態を検出する超高感度センサーであり、将来的にナノ粒子のスピン状態、2次元電子ガスのエッジ状態などの極限的な計測が可能になると期待されている。FIBを用いたプロセスにより、Nbの弱結合型DC-SQUIDの開発に成功しており、1T程度の磁場中での直接使用が可能なデバイスを作成した。現在さらなる高感度化を目指してプロセスの開発を行っている。

共同研究者(敬称略) 高柳英明、野村晋太郎、山口明、松本哲郎、柏谷裕美





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