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電子エネルギー損失分光と電子分光結像法

高エネルギーの電子を薄膜試料に入射すると、試料元素の原子核により進行方向を大きく変えられた弾性散乱電子と試料内の電子との相互作用によりエネルギーを損失した非弾性散乱電子が生じる(図1)。通常のTEM像は、試料から発生する弾性散乱電子のみを対物絞りによりカットすることでコントラストを得ている。EFTEMは、対物絞りにより散乱角度に基づきカットされた電子線を、さらに電子線フィルターにより損失エネルギーレベルにより振り分ける。非弾性散乱電子をフィルターにより分光し、損失エネルギー値を測定、解析する手法を電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy: EELS)と呼ぶ。EFTEMは、非弾性散乱電子を分光する電子プリズムであるエネルギーフィルター(EF)を組み込んだTEMであり、特定の微小領域からEELSスペクトルを得ることにより、ナノレベルでの化学構造解析を可能にする。さらに、分光した非弾性散乱電子の中の特定のエネルギー損失電子を取り出し、結像する手法を電子分光結像法(Electron Spectroscopic Imaging: ESI)と呼び、元素マッピング像を得ることができる。

EELSスペクトルは、試料との相互作用無しに透過したゼロ・ロスピーク、外殻電子との相互作用によるプラズモン・ロス、及び、高損失エネルギー領域に内殻電子との相互作用によるコア・ロス、の3つの特徴あるピーク群を与える.通常のTEM像では、これら全ての電子線をまとめて結像に用いるのに対し、ESIでは、特定の損失エネルギー電子により結像することが可能である.

図2EELSスペクトルに現れる代表的なピークを示す.高分子試料から得られる情報のほとんどは、内殻電子の励起によるコア・ロスであるが、ポリスチレン(PS)の様な共役二重結合を有する試料では、プラズモン・ロス領域に特徴的なピークを示すため、結合状態の識別も可能となる(図2a).コア・ロスピークの形状は、元素の電子配置を反映するため、元素により異なる特徴を示し、同一元素においても、結合状態や価数によりエネルギーシフトや形状の変化がみられる.炭素のK殻電子励起によるコア・ロスピークは、π結合とσ結合では、異なるエネルギー値にピークが現れる.そのため、PSとポリメチルメタクリレート(PMMA)では異なるスペクトルを示す(図2b).高分子の解析の際によく利用する窒素と酸素のコア・ロスピークの試料厚み依存性を示す(図2c, d).窒素はスチレンーアクリロニトリルランダム共重合体(SAN)からであり、酸素はPMMAからである.窒素は400、酸素は535eV付近にK殻電子の励起によるコア・ロスピークが現れる.EELSスペクトルにおいて、有用な情報を与えるコア・ロスピークの強度は極めて微弱であり、ゼロロスピークの10-3?10-4のシグナル強度である.さらに、試料が厚くなると多重散乱の効果により、BG強度が上がり、コア・ロスピークが小さくなっていく.よって、解析のためには、薄い試料を作製することが重要となる.

元素マッピング

図3にPSとオリゴチオフェンを側鎖に有するジブロックコポリマーフィルムの断面(厚さ約50nm)に対する硫黄によるマッピング像作成例を示す7)PEELSにより得た硫黄のスペクトルは、160eV付近にエッジを有するブロードかつ微弱なピークであり、BGを除去することにより初めて明らかになる。しかし、電子分光像においては、プレエッジ像(?E=150±10eV)からコアロス像(?E=200±10eV)へ損失エネルギー値が上昇すると、明確に画像が変化し、ミクロドメイン構造が明らかになる。元素マッピング像から分散ドメインがオリゴチオフェンを有するブロックであることが確認できるが、2-window法では、図中矢印で示した不純物と考えられる部位がマッピング像に現れているのに対し、3-window法ではそれらが正確に除去されている。2-window法では、画像全体に一律の定数を適用するため、BGの著しく異なる成分が含まれる場合、マッピング像にアーティファクト(偽像)が現れる恐れがある。そのため、染色などによる重金属を含む試料や極端な厚みむらがあるものでは注意が必要である。3-window法による結果は、より正確ではあるが、画質は2-window法に劣る。これは、硫黄のコアロスピークが160eVと低エネルギーにあるためプラズモンロスの影響をBGが受けること、及び、コアロスピークの信号強度が低いことが原因となり、フィッティングの精度が悪いためと考えられる。