雲仙火山1991-96年火砕流の堆積構造と流動機構
宝田晋治(地調)
Depositional features and emplacement mechanism of the 1991-96 Unzen pyroclastic flows, Japan
Shinji Takarada (GSJ)
地球惑星科学関連学会2000年合同大会,代々木,2000. 6.
長崎県の雲仙火山では1991年5月24日〜1996年5月1日の間に,9400回以上のメラピ型火砕流がデイサイト溶岩ドームの部分的崩落によって発生した(総計0.2 km3).雲仙岳東部の赤松谷,水無川,おしが谷,垂木台地での現地調査の結果,下記のことが明らかになった.全体で1万回近い火砕流が発生したにもかかわらず,各露頭での火砕流堆積物のフローユニットの数は30以下であった.各フローユニットの厚さは20 cm〜5 mであった.ほとんどのフローユニットでは粗粒岩塊の逆級化構造がみられた.冷却節理の発達した直径13 m以下の巨礫が含まれていた.
おしが谷の代表的な露頭では,厚さ43cm〜2mの9枚のフローユニットが見られた.岩塊の最大3個の最大粒径(ML)は,13〜105cmであった.また,比較的大きい岩塊はフローユニットの上部に集まっており,粗粒岩塊の逆級化構造が顕著であった.比較的大きい岩塊の円磨度は大部分が角礫〜亜角礫であった.いくつかのフローユニットの下部には,厚さ7-15cmの粗粒岩片を含まないlayer 2aが見られた(ML=3〜8cm以下).Layer 2aと上部の本体との境界は漸移的であった.Layer 2aの円磨度は大部分が亜角礫から亜円礫であり,上部の火砕流本体の中の岩片よりもやや円磨度が高い傾向があった.また,その下位には厚さ5mm〜5cmの部分的にクロスラミナが発達した灰雲サージ堆積物が見られた.比較的粗粒のサージ堆積物(Md=1.6)と比較的細粒のサージ堆積物(Md=3.2)がセットになっている場合も見られた.この露頭では,淘汰度は火砕流本体では2.8〜3.5と比較的高かったが,layer 2aでは2.1〜2.8,灰雲サージでは1.3〜2.1であった.
農水省森林総合研究所九州支所と長崎県総合農林試験場が,合同で垂木台地西部で行った深さ2mのトレンチでは,1991-96年の噴火全期間に発生した火砕サージ堆積物の露頭が見られた.1991年9月15日の灰雲サージ,1991-93年の小規模な灰雲サージ,1993年6月23日・24日の火砕流・火砕サージの堆積物が観察できた.灰雲サージ堆積物は各層厚2mm〜11.5cmが大部分であり,側方向の層厚変化がみられた.また,波長数mm〜36cm,波高1〜22mmのデューン構造が見られた.デューンは同相関係のものと異相関係のものがあった.最大粒径は,細粒砂〜32mmであった.円磨度は亜角礫〜亜円礫が大部分であった.初期のサージ堆積物には多量の炭化木片が含まれていたが,長さ数cm以上の小枝は表面が炭化しているだけであった.代表的な比較的粗粒な灰雲サージ堆積物は,Md= 2.2,Sigma=1.7,F1(1mm以下の粒子の割合)=87.9%,F2(1/16mm以下の粒子の割合)=9.3%であり,比較的細粒な灰雲サージ堆積物は,Md=4.5,Sigma=0.8,F1=100%,F2=77.2%であった.トレンチの上部には,93年6月23日・24日の厚さ48〜51cmの粗粒な火砕サージ堆積物があった.最大粒径は13cmでシルトサイズ以下の粒子が少ない傾向があった.上部には直径2.5cm以下の火山豆石が多量に含まれていた.その上には2枚の薄い灰雲サージ堆積物を挟んで,厚さ23cm,ML=13.7cmの6月24日の火砕流堆積物が存在し,幅15cm以下のパイプが多数見られた.
1997年の現地調査では,直径5〜10 m大の巨礫のクラックから高温(40〜100oC)の水蒸気がでていた.巨礫の周囲や炭化木片の周囲には,比較的細粒物に乏しい部分や脱ガスパイプが観察できた.これらの細粒物に乏しい部分や脱ガスパイプは火砕流の堆積後にできた可能性が高い.堆積物の地表面では,幅15 m以下,高さ3 m以下のローブ地形が見られた.また,幅3 m以下,高さ3.5 m以下の自然堤防も観察できた.
雲仙火砕流堆積物の粗粒岩塊の逆級化構造,基底部のlayer 2aの存在,マトリックス中の多量の細粒物の存在は,岩塊の相互作用を示しており,火砕流中の岩塊が跳躍やトラクションによって運ばれ,基底部にトラクションカーペットを作りながら堆積したことを示唆している.したがって,雲仙火砕流の流走メカニズムは,“高密度乱泥流モ (Lowe, 1982)モデルでうまく説明できる.しかし,地表面のローブ地形は,堆積時に103〜104 Paの降伏強度があったことを示唆している.したがって,雲仙火砕流の流動・堆積メカニズムは,緩斜面で運びきれなくなった岩塊が基底部に濃集して比較的低速な多数のローブを作りながら堆積するような,低速な基底部での"密度緩和型粒子流"と,流れ全体を構成する"高密度乱泥流"の組み合わせでうまく説明できる.
More than 9400 Merapi-type dacitic pyroclastic flows (totaling 0.2 km3) were produced from lava dome collapse at Unzen Volcano, western Japan from May 24, 1991 to May 1, 1996. The number of flow units at each locality was less than 30, even though thousands of pyroclastic flows occurred. The thickness of a flow unit ranges from 20 cm - 5 m. Some flow units show reverse grading of larger clasts. The clasts are angular to subrounded. Big boulders (<13 m) with cooling joints were observed in the deposits. Steam was sometimes observed from cracks in the big boulders. Grain size analysis show the matrix of the deposit to be coarse grained (Md=-1.8 - 0.4) and poorly sorted (Sigma=2.6 - 3.3). Around big boulders and carbonized wood fragments, a fines-depleted part (Md=-3.2 - -0.1, Sigma =2.0 - 3.5), segregation pipes and pods were seen, indicating they formed after deposition of the flow. Layer 2a (Md=-0.8 - 1.8, Sigma =1.7 - 2.9, <18 cm thick), and surge beds (Md=-0.7 - 3.7, Sigma=0.6 - 2.5, <20 cm) occur at the bottom of the deposit. Lobes (<10 m wide, <2 m high) and levees (<3.5 m high) were observed at the surface of the deposit. Estimated yield strengths of the flow based on lobes and levees were 103 -104 Pa.
The reverse grading, layer 2a at the bottom, containing angular to subrounded clasts, and fine materials in the matrix suggest that larger clasts in the Unzen pyroclastic flows were transported by saltation, traction, and collisional dispersive force. Therefore, the transportation mechanism of the Unzen pyroclastic flows can be explained by the high-density turbidity current model (Lowe, 1982). However, well-defined lobes and levees on the surface indicate that the matrix of the Unzen pyroclastic flows had a yield strength at least at the time of deposition. Therefore, the higher density, density-modified basal grain flows are considered to have formed due to accumulation of clasts on a gentle slope.