八甲田火山の地質
Geology of Hakkoda Volcano
Shinji Takarada (GSJ), Hirofumi Muraoka (GSJ) and Takashi Kudo (Hokkaido University)
日本火山学会1998年度秋季大会,山形大,1998.
10.
青森県の八甲田火山は,先カルデラ火山の南八甲田火山群,八甲田第1期・第2期火砕流堆積物,後カルデラ火山の北八甲田火山群からなる(村岡・他,1983).今回,地質調査によって,八甲田火山の噴火形成史を明らかにする上で重要な下記の点が明らかになった.
1.八甲田第1期火砕流堆積物と下位の層
八甲田第1期火砕流堆積物(Ht1; 0.53-0.65Ma)の下位には,厚さ4mの降下軽石堆積物が存在する(南八甲田南東の黄瀬川入り口).淘汰のよい最大粒径8cmの白色軽石,灰色軽石,スコリア,岩片からなる.5枚の降下ユニットでできている.この軽石層の下には,厚さ40-60cmの再堆積物と土壌の互層をはさんで,厚さ2m以上の南八甲田火山起源のスコリア質火砕流堆積物が露出している.10cm以下のスコリアや扁平化した軽石を多量に含んでいる.スコリア質火砕流堆積物は,南八甲田火山西の青荷沢や袖川沢付近でも露出している.また,Ht1の中には,直径4cm以下の斜長石巨晶を含む南八甲田溶岩流の岩片や,岩片から遊離した斜長石巨晶が取り込まれている(南西の青荷川上流など).
2.八甲田第2期火砕流堆積物と下位の層
八甲田第2期火砕流堆積物(Ht2; 0.25-0.40Ma)の下には,数mの土壌をはさんで,厚さ2.5mの黒雲母を含む降下軽石堆積物が存在する(南東部の大幌内川取水口).淘汰のよい直径3cm以下の白色軽石と少量の2cm以下の灰色軽石でできている.この降下軽石層は,東方の上北平野で七百面を形成しているBoP(0.22-0.33Ma; 宮内, 1985, 1988)に対比できる(八甲田カルデラ起源である)可能性が高い.また,南八甲田西の大小川沢,青荷沢周辺では,Ht2の下に南八甲田の溶岩流やスコリアを母材とする多量の土石流堆積物(大小川沢層; 新称)が存在する.この流域に岩屑流堆積物は分布していない.
3.北八甲田火山の堆積物
北八甲田火山井戸岳爆裂火口のリム東側では,厚さ10-15mの凝灰角礫岩層がみられる.角礫はやや円磨された同種の溶岩片でできている.上部では厚さ約30cmの層が積み重なった構造を示す.この層は,水蒸気爆発でできた可能性が高い.赤倉岳の上部には,少なくとも3枚の厚さ5-8mのアグルーチネート層が存在する.最上部には,厚さ1.5mの水蒸気爆発堆積物が存在する.冷却節理が発達した50cm以下のガラス質の岩片を含む.また,降下スコリアも多数分布している.アグルーチネートを母材とする岩屑流堆積物が東北東の田代平に分布している.北八甲田火山では,厚さ5cm以下の十和田火山起源の毛馬内火砕流堆積物(AD915)が広く分布している.赤倉岳の山頂(標高1521m,給源から25km)でも,厚さ約1.5cmの堆積物がみられる.南八甲田火山の上部でも,厚さ10cm以下の堆積物が広く分布している.このことは,毛馬内火砕流が比較的低密度で,火砕流と火砕サージの中間的な特徴をもつ流れであったことを示唆している.また,十和田火山起源の八戸火砕流堆積物(13,000y.B.P.)も広く分布している.赤倉岳と田茂萢岳の鞍部(標高1300m)では,厚さ10cm以上の堆積物が存在している.