骨導超音波知覚特性、知覚メカニズムの解明

Characteristics of auditory perception of bone-conducted ultrasound

1999.10.1 中川誠司

 

Abstract  超音波であっても骨導(骨伝導)経由で音として知覚することができる.我々は骨導超音波聴覚について,聴覚健常者および難聴者を対象とした聴覚心理実験および脳磁界計測を行った.その結果,(i) 対象とした最重度難聴者の半数以上が骨導超音波を知覚可能であることを確認した.また脳磁界計測より,(ii) 骨導超音波知覚時に大脳皮質聴覚野が活動すること,(iii) 振幅変調された骨導超音波によって単語や周波数の弁別が可能であること,および (iv) 骨導超音波の音像定位が可能であることを示した.これらの結果は,高度難聴者のための新型補聴器(骨導超音波型補聴器)開発の可能性を示唆するものである.さらに骨導超音波聴覚特性を詳細に検討した結果,(v) 超音波の最適周波数は約 27 kHz であることを示した.

 

1. はじめに

 ヒトの可聴周波数の上限は24 kHz 程度であり,気導ではそれより高域の周波数の音は知覚することができないと言われている[1].しかし1948年,24 kHz 以上の高周波音であっても骨導経由で知覚できるという報告が Gavreau らによってなされると[2],その知覚できる部位,音色,知覚メカニズムの検討などの報告が相次いだ[3-6].1991年,Lenhardt らは骨導超音波による周波数や単語の弁別が高度難聴者であっても可能であると発表した[7].このことは,高度難聴者を対象とする骨導超音波を用いた新たな補聴システムの開発を示唆するものであったが,Dobie らは Lenhardt らの心理的手法による主観的な実験結果に対して否定的な見解を示した[8].

 骨導超音波の知覚メカニズムについては,生体の非線形性により復調された可聴音を知覚しているとする説[8],蝸牛の有毛細胞が超音波そのものを知覚しているとする説[3,6,9],球形嚢などの平衡神経系の関与説[5,7]などが提案されているが,定説となるものは現在はまだない.

 本報告では,聴覚心理実験(2,3章)や脳磁界計測(magnetoencephalography: MEG)(4,5章)を用いて,骨導超音波知覚が高度難聴者のコミュニケーション手段として成立する可能性を検討した[10-15].また,骨導超音波知覚を利用した補聴システム(骨導超音波型補聴器)の開発に向けて,骨導超音波聴覚特性をさらに詳細に検討した(6章).

 

2. 骨導超音波の聴取実験

 聴覚心理実験により,難聴者でも骨導超音波が聴取可能であるのか,その聞こえ方に聴力レベルの影響があるのかを調べた.

2-1 方法

 被験者は聴覚健常者 20 名,中等度感音難聴者10 名,および高度感音難聴者(平均聴力レベルが両側100 dB 以上) 32 名とした.高度感音難聴者のうち,3 名は人工内耳使用者であった.

 /サカナ/,/ヒコーキ/,/キタキツネ/などの3個以上の音節で構成される言語音で振幅変調した 28 kHz の超音波を骨導で与え,聴取可能かどうかを被験者自身に述べさせた.聴取可能であった被験者に関しては,各言語音の弁別が可能かどうかを調べた.また,純音の周波数を 20 kHz 〜 50 kHz の間で 1 kHz ごとに変化させた場合についても,同様に聴取の可否を調べた.それぞれの実験おいて,骨導刺激は乳様突起上に与えられた.

2-2 結果

 変調音についての結果を Table 1 に示す.聴覚健常者 および中等度感音難聴者に関しては,全員が変調された骨導超音波を聴取でき,各言語音の弁別が可能であった.また,純音については呈示周波数によって知覚されたピッチが異なっていたが,いずれも全員が聴取することができた.

高度難聴者に関しては,32 名中 18 名が変調された骨導超音波を知覚でき,内 6 名が一部の単語を弁別することができた.それらの中には,完全難聴者(全周波数帯域でスケールアウトとなる症例)や人工内耳装用者も含まれていた.純音に関しては,呈示周波数によって聴取可能なもの,そうでないものがあった.また,それらの周波数は被験者によって異なった.

 

 

Table 1. Results of bone-conducted ultrasound hearing tests. 28 kHz ultrasounds amplitude-modulated by spoken words were delivered to the right mastoid. Half of the profoundly deaf subjects tested were able to perceive bone-conducted ultrasound.

2-3 考察

 半数以上の高度難聴者が骨導超音波を聴取できたこと,さらには異なる言語音で変調された骨導超音波の弁別が可能であったことから,骨導超音波型補聴器の開発の可能性が示唆された.また,完全難聴者および人工内耳装用者でも骨導超音波が聴取できたことは,蝸牛を経由しない伝導路の存在を示唆するものであった.

 

3. 骨導超音波の呈示部位に関する検討

 骨導超音波の呈示部位による知覚変化を検討した.

3-1 方法

 被験者は,聴覚健常者 20 名,中等度感音難聴者 10 名および骨導超音波の聴取が可能な高度感音難聴者 18 名とした.振動子を置く部位を変え,28 kHz 純音,および変調した超音波がどのように聴取されたかを調べた.

3-2 結果

 聴覚健常者については,全員が鼻,耳,甲状軟骨などの軟骨部,上口唇部を除く顔面,頚部などで独特な高周波音として聴取することができた.また,胸骨,肩甲骨,鎖骨,僧帽筋などでも聴取可能であった.最も感度が高かった部位は胸鎖乳突筋上(Fig. 1),乳様突起上であった.

難聴者に関しては,全員が胸鎖乳突筋上もしくは乳様突起上で聴取できたものの,その他の部位では感度が低い,もしくは聴取不能であった.

 

 

Fig. 1. Ultrasound waves were delivered to the sternocleidomastoid by a ceramic vibrator.

 

4.骨導超音波知覚時の脳磁界計測(1)

 -脳内活動部位の推定-

 現在までに骨導超音波知覚の末梢メカニズムに関する研究はいくつかなされている[3-9]ものの,その中枢メカニズムはほとんど明らかにされていなかった.また,超音波が骨導経由でのみ知覚されることから,振動を知覚しているのではないかという疑問も完全には払拭されていない.本章では,骨導超音波聴取の脳内活動部位を推定することを目的に脳磁界計測を行った.

4-1 方法

 被験者は聴覚健常者 10 名および完全難聴者3名とした.周波数 40 kHz のトーンバースト(長さ 100 ms, 立ち上がり・立ち下がり 10 ms,刺激呈示間隔 700 ms)を骨導で右胸鎖乳突筋上に与えた際の誘発脳磁界を計測した.most clearly perceiving (MCP) レベルとなるように骨導超音波の音圧を調整した.また,聴覚健常者には 1 kHz トーンバーストを気導で呈示した際の脳磁界も計測した.

 脳磁界計測は 122 ch 全頭型 SQUID システム(Neuromag-122TM, Neuromag Ltd., Finland)を用いて行った.計測された誘発脳磁界は 0.03 - 100 Hz のアナログバンドパスフィルタを通してサンプリング周波数 497 Hz で A/D 変換し,加算平均後に遮断周波数 0.1 - 30 Hz のディジタルバンドパスフィルタを通した.加算回数は100 回 以上とした.

4-2 結果および考察

1 kHz 気導音および40 kHz 骨導音それぞれのトーンバーストに対して聴覚健常者 (Subject N1) の右側頭部で計測された脳磁界波形を Fig. 2 に,脳磁界トポグラフィを Fig. 3 に示す.気導音,骨導音,ともに刺激の onset から約 100 ms 後の反応 (N1m)が観察された.骨導超音波によって得られた等価電流双極子(Equivalent current dipole: ECD)は,気導音のそれの近傍に位置し,ともに聴覚野内に推定された(Fig.4).40 kHz 骨導音に対して難聴者 (Subject D1) で得られた脳磁界トポグラフィを Fig. 5 に示す.聴覚健常者のものと同様なパターンを示し,ECD も同様に聴覚野内に推定された.

これらのことから骨導超音波は聴覚健常者,高度難聴者に関わらず,音声として知覚されていることが改めて示された.

 

 

 

Fig. 2. MEG waveforms of normal hearing subject N1 measured in the left temporal region.

Fig. 3. MEG topographies of normal hearing subject N1 for 1 kHz air-conducted tone burst (upper), and 40 kHz bone-conducted tone burst (lower). A= anterior, P=posterior.

 

 

 

Fig. 4. ECDs of N1m superimposed on magnetic resonance image for normal hearing subject N1. ECDs were localized in the left auditory cortex. Circle: air-conducted tone burst, Square: bone-conducted ultrasound. A= anterior, P=posterior.

Fig. 5. MEG topographies of profoundly deaf subject D1 for 40 kHz bone-conducted tone burst. A= anterior, P=posterior.

  

5.骨導超音波知覚時の脳磁界計測(2)

 -基礎的な聴覚弁別能についての検討-

 骨導超音波聴覚の新型補聴器への応用を考えるとき,言語音の識別能,音像定位能の有無が重要となる.例えば,高度難聴者であっても骨導超音波による周波数や単語の弁別が可能であるとする報告が Lenhardt ら[7]によってなされているが,客観的データが示されていないため,否定的な見解も存在する[8].また,従来,骨導音によっては音像定位はできないと言われてきたが,骨導超音波では振動子の位置を変えることにより,微妙な音像変化を経験することも多い[12].本章では,骨導超音波による言語音の識別能,および音像定位能の有無を客観的に評価することを目的として脳磁界計測を行った.

5-1 方法

(1)言語音識別能の検討

被験者は聴覚健常者 5 名および完全難聴者 3 名とした./a/ と /i/ で変調した骨導超音波を刺激として用いた./a/ と /i/ の出現比率は 1:7 として,刺激間隔 700 ms でランダムに呈示した(Fig. 6).被験者が低頻度で出現する /a/ を検出できれば,ミスマッチ反応*(Mismatch Field: MMF)が誘発されるはずである.比較のため,気導可聴音の /a/ と /i/ を用いて同様の計測を行った.

*ミスマッチ反応 (Mismatch Field): 出現頻度に差のある2種類の刺激をランダムに呈示した際,低頻度刺激のみに対して潜時 100-200 ms で誘発される反応.聴覚性感覚記憶の更新を反映するとされる.

 

 

Fig. 6. A schematic illustration of stimulus sequence in the words discrimination test. Probabilities of appearance were /a/: 12.5%, /i/: 87.5%.

(2) 音像定位能の検討

被験者は聴覚健常者 10 名とした.左右の胸鎖乳突筋に 1 kHz トーンバースト(長さ100 ms, 立ち上がり・立ち下がり10 ms)で変調した 40 kHz 骨導超音波を呈示した.高頻度側(右または左)に刺激を 1 s に 1 回の速さで呈示し,8 回に 1 回の割合でランダムに低頻度側に刺激を変更した.高頻度側および低頻度側を交替して,各被験者につき 2 回の計測を行った.また,比較のため,1 kHz 気導音を用いて同様の実験を行った (Fig.7).高頻度刺激(standard)および低頻度刺激(deviant)によって誘発された反応(N1m)の活動強度(ECDモーメント)を推定し,比較した.

 

 

Fig. 7. Two channel stimuli given in the localization test. Bone-conducted ultrasounds were delivered to the left and right sternocleidomastoid by a ceramic vibrator. Air-conducted 1 kHz tone bursts were presented to both ear through plastic tubes.

5-2 結果

(1)言語音識別能の検討

 聴覚健常者と高度難聴者,気道可聴音と骨導超音波に関わらず,低頻度刺激から高頻度刺激 を差し引いた波形において,潜時 100 - 200 ms でMMFが観察された(Fig. 8).

(2) 音像定位能の検討

 気導可聴音および骨導超音波によって誘発された N1 の活動強度の大きさを,それぞれ Fig. 9に示す.気導可聴音,骨導超音波に関わらず,低頻度刺激に対する活動強度は高頻度刺激のそれに比べて有意に大きかった.また,気導可聴音の場合,刺激頻度によらず,刺激の反対側の聴覚野の反応の活動強度が有意に大きかったが,骨導超音波では刺激側による活動強度の差は見られなかった.

Fig. 10 に気導可聴音と骨導超音波の低頻度刺激,高頻度刺激に対する N1m のピーク潜時を示す.気導可聴音では低頻度刺激,高頻度刺激の差は見られないものの,骨導超音波では両者に有意差が見られた.また,気導可聴音に比べて,低頻度刺激では約 36 ms,高頻度刺激では約 70 ms潜時が遅かった.

 

 

 

Fig. 8. Results of the words discrimination test: MEG waveforms evoked by bone-conducted ultrasound modulated by vowel /a/, and /i/, measured in the left temporal region. (Left: air-normal hearing subject N2, Right: profoundly deaf subject D2)

 

 

Fig. 9. Results of the localization test: mean ECD moment estimated in the left and right auditory cortex evoked by (a) air-conducted 1 kHz tone burst, and (b) bone-conducted 40 kHz ultrasound amplitude modulated by l kHz tone burst. LH: left hemisphere, RH: right hemisphere.

 

 

Fig. 10. Results of the localization test: latencies of N1m for deviant and standard stimuli.

5-3 考察 

 骨導超音波でも言語音の違いにより気導可聴音と同様のMMFが観察された.高度難聴者でもMMFが観察され,Lenhardtらの報告を裏付ける結果となった.また,刺激側の違いにより誘発されたN1mの活動強度が低頻度刺激と高頻度刺激で異なっていたことは,刺激側の違いが検出されたことを示している(低頻度刺激に対しては,N1mにMMFが重畳して,N1m活動が見かけ上大きくなったと考えられる).これらの結果は,骨導超音波でも言語音の弁別および刺激側の弁別(音像定位)が可能であることを客観的に示すものである.つまり,複数の刺激チャネルに異なる信号を入力して情報を伝達できることを示唆しており,骨導超音波がコミュニケーションの手段として成立する理論的根拠となるものと考えられる.

 さらに,刺激側の違いを検出できたことから,少なくとも聴覚健常者については骨導超音波が上オリーブ核より末梢の段階で聴覚路に入ることが示唆された.

 

6.骨導超音波知覚時の脳磁界計測(3)

 -補聴器開発のための聴覚特性の検討-

 前章までの結果から,骨導超音波型補聴器開発の可能性が示された.補聴器の開発にあたっては,超音波の周波数,骨導振動子の出力音圧,さらには信号変調方式などの細かい検討が必要になると考えられる.

 本章では,最も知覚されやすい骨導超音波の周波数を脳磁界計測を用いて調べた.

6-1 方法

 被験者は聴覚健常者 4 名とした.1 kHz トーンバースト(長さ100 ms, 立ち上がり・立ち下がり10 ms)で変調した骨導超音波を被験者の左胸鎖乳突筋上に呈示した.超音波(搬送波)の周波数を 21 kHz - 39 kHz まで 3 kHz ずつ変化させ,その都度,誘発脳磁界を計測した.刺激呈示間隔は 1.8 - 2.2 s でランダムとした.

 骨導刺激に用いた振動子は周波数に対して非線形な出力特性を持つため,各周波数での出力(振動面の偏位)が一定になるように印加電圧を調整した.振動子の出力の計測にはレーザードップラ振動計(小野測器製,LV-1610)を用いた.

 各周波数で誘発された反応(N1m)の活動強度を推定し,比較した.なお,活動強度は各被験者内での最大値を 1.0 として正規化した.

 

6-2 結果

Fig. 11 に右側頭部で計測された脳磁界波形を示す.どの周波数でも明瞭なN1m反応が観察された.Fig. 12 にN1m活動強度と超音波周波数の関係を示す.周波数が27 kHz付近で最も強い活動が得られた.

 

 

 

Fig. 11. MEG waveforms evoked by bone-conducted ultrasound modulated by 1 kHz tone burst. The frequency of ultrasound (career) was changed with the intensity kept constant.

Fig. 12. Mean ECD moment as a function of ultrasound frequency. The bars indicate the mean standard of error. The ECD moment reached maximum at about 27 kHz.

 

7.まとめ

 聴覚心理学的手法および神経生理学的手法(脳磁界計測)を用いて骨導超音波聴覚特性を評価し,骨導超音波型補聴器開発の可能性について検討した.

補聴器の発達によって,軽中度〜重度の難聴者はその恩恵を受けることができるようになってきた.しかし,通常音が全く聞こえない最重度難聴者が使用可能な補聴器は存在しない.骨導超音波型補聴器開発の意義は大きいと思われる.

 

参考文献

  1. Wever et al., Physiological Acoustics (Princeton Uviv. Press, Princeton, N.J., 1954)
  2. Gavreau V., Compt. Rendu 226, 2053 (1948)
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  8. Dobie A. et al., Science 255, 1584 (1991)
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