分子生物学実験の便利帳 - 花井@産総研
■クローニング・PCR関係プロトコール
■ショウジョウバエ分子生物学実験プロトコール
■目的別遺伝子情報ツール
■クローニング・PCR関係プロトコール
●30分ミニプレップ
アルカリSDS法による少量のプラスミド調整法です。
キットは使わずに、小数なら30分で終わります。
オリジナルプロトコルから冷却やインキュベートをほとんど削除してあります。
Solution I, II, IIIの量は200microLに統一してあります。
右にPDF, JPGファイルを置いておきます。(2009.07.15修正し、和訳を追加しました)
時間指定がない操作は、直ちに次のステップに進んで構いません。
Solution
IIIの後に加えるクロロフォルムはデブリをコンパクトにするためです。
使わないと遠心分離後にデブリが浮きますので、デカンテーション(チューブを転倒して注ぐこと)で移すとデブリが混じってきます。
少量であれば問題ありませんが、気になる場合はピペットマンで丁寧に移して下さい。
多数の制限酵素処理はお金が有れば96穴プレートが便利です
(もっとも、お金が有ればコロニーPCRがお薦めです)。パラフィルム上で制限酵素処するのが便利で安価です
(密
閉できるプラスチック製PCRチューブラック又はチップラックの底に濡らしたペーパータオル等を敷く。穴の空いた間仕切りに剥離紙付パラフィルムを紙を上
にしてのせ、紙の上から強く押しつける。そっと紙を剥がすと、マイクロプレート状の凹みが出来る。材質や構造によってはフィルムが剥がれる場合がある。凹
みにサンプルと反応液をのせる。ピペッティングなどで強いて混ぜなくても自然に混合できる。密封して孵卵器に入れ反応する。オーバーナイトでは多少乾燥す
るのでスター活性に留意する)。
●PCRダイレクトシークエンス
PCRダイレクトシークエンスとは、増幅後のPCR産物の塩基配列をクローニング無しに決定する事です。
クローニングベクターに入れるより、PCRダイレクトの方が幾つか有利な点があります。
利点:早い。取込間違いの影響は無視できる。遺伝子組換え実験が必要ない。
欠点:変異が末端から遠いと新たなプライマーが必要になる。データが汚い場合がある。PCR産物ごとに異なるプライマーが必要である。
抽出はUltraClean 15(Mo Bio Lab, フナコシ扱い)が便利です。スタンダードなGeanCleanより安く、早く、扱える鎖長レンジも広く、シークエンス結果も安定しています。
古いですが簡易マニュアルを置いておきます(
UltraClean15 英語版PDF)
誤解しやすいのですが
普通のゲノムPCR(Primer-F AND Primer-R)
→精製(プライマーの除去。ゲル電気泳動 or スピンカラム*)
→シークエンシング反応のPCR(Primer-F OR Primer-R)
であり、ゲノムDNAから直に読めるわけではありません。
シークエンシング反応はユニバーサル(M13系プライマー)のTmは低め
です。カスタムプライマー(目的遺伝子のプライマー)はユニバーサルよりTmが高いので、プロトコール通りの条件でシークエンシング反応を行うとノイズが
強くなる場合があります。アニーリング温度を高めにした方がノイズが減る場合があります。
*バンドが単一ならゲルで泳動せず適当なスピンカラムでプライマーを除去できます。
●PCR産物のベクターへの組み込み
PCR産物をベクターに組み込むには幾つかの方法があります。
TA cloning
単純にクローニングベクターに入れる場合には、各社からTAクローニングキットが発売されています。普通の実験では
pGEM T easy が安価で便利です。PCR産物が少ない場合は
TOPO TA クローニングキットが
極めて高効率で有用です。発現ベクターになっているものもあります。他は使ったことがありません。
また、T vectorは自作が可能です。pUC系プラスミドに特殊なXcmIカセットを入れたものを、XcmIで切断するとTのオーバーハングが生じます。
必要な方はご連絡下さい。
なお、PCR酵素の種類によってはAのオーバーハングが付かない平滑末端を生じるので注意が必要です。
Pfu, KOD, Prime Starなど取込間違いの少ない酵素は平滑末端を生じます(末端を除去できるので正確なのです)。
制限酵素切断後のcloning
PCR産物を制限酵素で切断し、
発現ベクターにクローニングする手順を右のGIFファイルに示しました。
プライマーの両端に制限酵素サイトを付けます。高次構造を起こさないように気をつけましょう(
詳しくプライマーデザインのページを御覧下さい)。
付加する制限酵素の条件は
- インサートの内部を切断しないもの(一箇所くらいなら部分消化で乗り切れます)。
- ベクターのクローニングサイト(MCS)にあるもの(BamHI/BglIIの様に、Compatible endsを含めて)。
- 二つ(5', 3')のサイトは異なる突出末端にします。
- 平滑末端は極力避けましょう。
- 片方が突出、他方が平滑なら△(突出と平滑はライゲーションするので、脱リン酸化処理(BAP, CIAP)すべき)
- NotIの様なGCリッチなサイトは避ける(高次構造が生じやすい)
- PCR産物の末端は切れにくいので、外側に2塩基以上の余白を付けます。
●大腸菌培地に抗生物質を入れる
大腸菌培地用の抗生物質は、500〜2000倍程度の濃度のストック液を用意し使用時に添加します。大量培養では元の粉末のまま加える場合もあります。
ストックの作成
粉末のボトル(+4℃又は-20℃保存)を室温に戻します。秤量し適当な溶媒に溶かします(アンピシリンなら5〜10gを100mlに溶解=1000〜2000倍)。
水溶液は0.22μmシリンジフィルターで濾過滅菌します。エタノール溶液は滅菌不要です。
ストックは-20℃で保存します。水溶液は分注して凍結しましょう。
エタノール溶液は滅菌や溶解の手間が無くて大変便利ですが、引火の危険があるのでガスバーナー付近での操作には注意が必要です。
寒天培地(プレート培地)
寒天が溶けた状態で55℃以下まで冷却してからストック液を約1/1000加えます。
培地1Lなら抗生物質1mlです。アンピシリンなど熱に弱い抗生物質では良くさますよう(できれば45℃)に気をつけましょう。
ビーカーを素手に載せて持てるくらいなら大丈夫です。
初心者はアルコールで良く消毒した温度計を突っ込んでみると良いでしょう。
無添加寒天培地に後から抗生物質を塗るという方法もあります。
作り置きを切らした時や、一枚だけ必要な場合に便利ですが濃度の調節が好い加減になるのであまりお薦めできない緊急避難的な方法です。
無添加寒天培地は室温で長期保存できます(冷蔵すると結露して傷む)。
使用量は液体と同じで寒天培地20mlなら抗生物質20μLを滅菌水100μL程度で希釈してからプレートにコンラージ棒(スプレッダーとも。
曲がったガラス棒)で塗布します。かなり乱暴ですが大腸菌と同時に蒔いてしまう手もあります。
抗生物質 |
ストックmg/ml (溶媒) |
最終濃度 μg/ml |
特記事項 |
アンピシリン (ampicillin, Amp) |
50〜100 (50% EtOH) |
20〜200 |
熱に特に不安定。細胞壁合成阻害。 |
カルベニシリン (carbenicillin, CBPC) |
50〜100 (water) |
50〜100 |
安定なAmpアナログ。値段は約50倍。 |
カナマイシン (kanamycin, Km, Kan) |
10〜50 (water) |
10〜50 |
熱にかなり安定。ストックは+4℃保存可。翻訳阻害。 |
テトラサイクリン (Tetracycline, Tc, Tet) |
10 (50% EtOH) |
10〜20 |
塩の種類により溶媒が異なる。黄色い。遮光。翻訳阻害。 |
クロラムフェニコール (Chloramphenicol, CP, CM) |
10〜50 (100% EtOH) |
10〜20 |
培地に加えた後は失活が早いらしい。翻訳阻害。 |
参考:
シグマ「大腸菌の培養方法 抗生物質について」
ちなみに、薬剤耐性プラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションする時、熱ショック後の無添加培地で予備培養は必要でしょうか? アンピシリンなど細胞
壁合成阻害の抗生物質での選択では必要ありません。カナマイシンなど遺伝子発現を阻害する抗生物質での選択では、予備培養がないと耐性遺伝子が発現できま
せんから十分な(30~60min)の予備培養が必要とされます。
■ショウジョウバエ・分子生物学実験プロトコール
●ショウジョウバエ羽からのPCR

HotSHOT法によるショウジョウバエ羽DNAライセートの調整

羽ライセートのPCR結果の例。通常Taqでは短い産物は良く増幅したが、2キロではTx100が無いと厳しい。KOD-FXでは5キロまで増幅した。

TX100の効果。増えなかった約3キロのアリル(b)が TX100添加で増幅された(c)。aは同一サンプルの短いプライマーセット。
ショウジョウバエのPCRによるGenotyping(ジェノタイピング、遺伝子型判定)では、ハエ丸ごとからDNAを取ると判定後に繁殖が出来ません。ハズレのハエでも繁殖させてからDNAをとるのでバイアルやバージンが無駄になります。
そこで、
生かしたままPCRを掛けるため、羽一枚で試してみました。
生の羽からも多少は増幅しましたが結果が不安定で実用になりませんでした。
HotSHOT法(アルカリ法,
Truett2000)
でショウジョウバエの羽一枚のライセートを作成したところ、短いPCR産物(<1.5 kb程度)は通常のTaq (Promega GoTaq使用)でも十分に増幅できました。
TritonX100を0.002〜0.01%加えると2kb程度までいけそうです(TX100は特性を下げノンスペを増やすので要注意)。数百羽試して、失敗やキャリーオーバーの疑い例は皆無です。
さて、新規欠失変異体作成などでは、もっと長いPCRが求められます。
そこで、東洋紡の
KOD-FXを用いたところ、5kbのLong PCRも可能でした。それ以上は適当なプライマーが無かったので試していません。
羽以外にも、平均棍や頭でも同じ結果が得られました。
丸ごと一匹のライセートを作る場合、ノイズが強くなる傾向がありました。丸ごとの場合は溶液を100μLに増やし、チップで突くかビーズを入れて良く振り
(手芸用で可)外骨格を破壊します(
必須)。
試薬
アルカリ液: 50mM NaOH
中和液: 0.2M Tris-HCl (pH8.0) ※アルカリ液と同量になるように改変しました。
機器
95
度のヒートブロックまたは沸騰水
1.5ml or 0.5 ml microtube
カミソリ(両刃を斜めに折って使う)
ピンセット(細いもの)
手順
1.
ショウジョウバエを麻酔し、仰向けに置いて羽を付け根からカミソリで切ります。同じカミソリを続けて使ってもキャリーオーバーはありませんでした。
頭を右手前に向け左手のピンセットで左羽を持ち、右手のカミソリで切断するのが楽でした。羽の末端側半分では結果が安定しないので必ず根本を含めます。ショウジョウバエはマイクロプレートなどに保
管します。
2. チューブに予め20μLの50mM NaOH液を入れておき、羽を表面に浮かべます。沈めたり破砕する必要はありません。
3. 95℃ で10分間保温します。乾燥しやすいのでキャップ側を保温するなど気をくばりましょう。
4. 軽くスピンダウンし、中和液を20μL加えます。
(溶液の量を減らしたい場合、オリジナルの通り1M Trisを2μL)
5. 軽く混合し、スピンダウン。2〜5μLの羽ライセートを10〜50μLのPCR反応に用います。
6. PCRは98℃ (10 s), 68℃ (5 min), 35〜40サイクルの2ステップが良いです(写真中)。プライマーのTmが低いと出にくいので
(写真の3.2kbセットは悪い例)、Long PCRにはやや長めのプライマーがお薦めです。
東洋紡サイト実施例19 KOD FX を用いたキイロショウジョウバエの羽からの簡便なロングPCR法●ショウジョウバエ一匹からのDNA抽出
BDGP方式(
I-PCR用)のショウジョウバエDNA抽出法です。
PCR目的ならば前述のHotSHOTで十分です。
この方法ではI-PCRやサザンブロットが可能なゲノムDNAがとれますので、参考までに残しておきます。
試薬
Buffer A
100
mM Tris-HCl, pH 7.5
100 mM EDTA
100 mM NaCl
0.5% SDS
LiCl/KAc Solution
9g
LiCl(塩化リチウム), 7g KAc(酢酸ナトリウム) を50 ml tubeに入れ、水に溶かし50mlに合わせれば原典の濃度になる。
Isopropanol (IPA)
70% EtOH
TE8
機器
65
度のインキュベーターかヒートブロック、水槽
微量高速遠心機(遠心条件は室温、15k rpm程度)
丸底1.5 ml tube とそれに合うマイクロ乳棒(
写真下)
手順
1. ショウジョウバエ一匹を1.5 ml tubeに入れる(*1)。
2. 100 microLのBuffer Aを加える(*2)。
3. ショウジョウバエをマイクロ乳棒で軽く潰す(*3)。
4. 65度で30分〜一晩静置(*4)。
5. 200 microL LiCl/KAc Solutionを加え、十分に転倒混和。氷上に10分*5。
6. 15分間遠心する。
7. 上清250 microLを新しい1.5 ml tube (150 microL
IPA入り)に移す(*7)。十分に転倒混和。
8. 15分間遠心する(*8)。
9. 上清を除く(*9)。
10. 70% EtOH を適当量加え、 ~5分間遠心し、上清を除く。少し乾かす(*10)。
11. 適当量(50
microL/fly)のTEバッファーに溶解する(*11)。短期的には室温で保存可能。長期的には冷蔵、冷凍庫へ。
12. 2 microLをFinal 20 microL のPCRに用いる。
*1
三匹程度はこの容量で可。容量を増やす場合は、100-200 microL のBuffer Aで潰した後に、Buffer
Aを追加する。最初から大量に入れるとハエが浮いてしまって潰しにくい。ハエは逃げないように一度凍結するか、tubeを氷上に置く。
Buffer Aを予め入れておいても良い。Buffer Aに適量のエタチンメイト(若しくは代替品)を入れても良い。
*2 多数処理では連続分注機がないと辛いです。コンビチップはOne push = 50 microLが必須。可能なら100も準備。
*3 完全に潰す必要はない。乳棒が無ければ黄チップで突き崩すだけでも十分である。
*4 ヒートブロックやウォーターバスでは、蒸発してキャップ裏に結露するので一時間程度で回収する。
*5 長時間でも可。その場合は冷蔵庫に入れて帰る。
*6 待ち時間に、新しい1.5 ml tube
を準備する。チューブ内壁のpptが来る位置に注射針で傷を付けておくとpptが浮きにくい(写真上)。
*7 沈殿は外骨格、タンパクとRNA。表面のゴミ(脂質?)は取らないようにする。
*8 エタチンメイト等を入れてあれば、5分間で良い。
*9
エタチンメイト等が無いと、雄一匹の沈殿は見えにくい。
沈殿は浮きやすいが、チューブ内壁に適当な傷を付けてあれば剥がれることはないので、水流アスピレーターを使える。
*10 70%
EtOHリンスでpptが剥がれることがあるので、激しく混和しない。十分に上清を除けば乾燥させなくて良い。
理想的にはpptの周辺が透明になってきた程度でTEを加える。
*11
この条件では純度はあまり高くないので、TEを多めにした方がPCRが掛かりやすい。
RNAを含む(特にエタチンメイト類を加えた場合に多くなる)ので、分光光度計での濃度測定は出来ない。回収したDNAを確認したい場合は、一部をアガロースゲルで分離する。
■目的別遺伝子情報ツール
- DNA配列同士、アミノ酸配列同士のアライメントを行いたい
- 制限酵素マップを作りたい
- アガロースゲルで分離したDNAのサイズを計算したい
- DNA配列中の遺伝子(ORF)を予測したい
- DNA配列・シークエンス結果ファイルを開きたい
- 遺伝子またはアミノ酸配列からタンパクの分子量=MWを知りたい。
●DNA配列同士、アミノ酸配列同士のアライメント(alignment)を行いたい
2つの配列のアライメント(※後述のマルチ用ツールは一対一でも計算できます)
- NCBI BLAST - nucleotide blast, protein blast で「□ Align two or more sequences」のチェックを入れると下に「Enter Subject Sequence」の窓が出ます。Subjectに複数配列を入れた場合、上段(Query)に対する一対一のアライメントが表示され、マルチにはなりません。
- EMBOSS - DNA, アミノ酸配列。Moleculeのメニューで切り換える(デフォルトはアミノ酸)。
複数配列のアライメント(マルチプルアライメント)
ClustaW, T-Coffeeが有名な計算プログラムです。幾つかサイトでこれらのサービスが提供されています。個人的にはEBIのサービスが分かり易くてよく使っています。
●制限酵素マップを作りたい
パソコンにソフトをインストールして解析する
- ApE - 高機能だが、制限酵素マップは見づらい。MacOSX, Windows, Linuxで使える。
- EnzymeX - 直感的で使いやすい。反応条件の表示や二重消化の条件検索も可能。MacOSXのみ。
- Sequence Analysis - MacOSX, Windows, Linuxで使える。
ウェブ上で解析する
●アガロースゲルで分離したDNAのサイズを計算したい
※通常の電気泳動ではλマーカーなどの大きいバンド(10kb以上)は上手く検量線に乗らないので計算できません。
手作業

DNAサイズ計算の例
- 一度はやってみましょう。片対数方眼紙(若しくは表計算ソフト)が必要です。マーカーDNAの移動距離を測り通常目盛り(X軸)に、マーカーのサイズを対数目盛(Y
軸)に取ってプロットします。線を結ぶとほぼ直線(検量線)に乗るはずです。目的の断片の移動距離を検量線と比較して、サイズを推定します。
- 上と同様の作業は、エクセルでも可能です。
パソコンにソフトをインストールして解析する
- 無料ツールは見つかりませんでした。(古いGelyMacを見つけたが使えず)
- ゲル写真撮影装置に解析ソフトが付属している場合があります。
- BASシステムや蛍光イメージスキャナなどの付属ソフトには、バンドサイズの計算ツールが入っています。別に撮影した電気泳動の画像を取り込ませて解析できます。
ウェブ上で解析する
なお、バンドが太い場合EtBr入りゲルではバンドの後方、後染めゲルではバンドの前方の位置を測ります。サイズを正確に知りたい場合には、EtBr入りゲルはお薦め出来ません。量を比べたい場合はEtBr入りゲルをお薦めします。
●DNA配列中の遺伝子(ORF)を予測したい
パソコンにソフトをインストールして解析する
ウェブ上で解析する
- GENSCAN - 基本的に塩基配列をペースとしてスタートするだけです。エクソン構造図、見つかった遺伝子ごとの予想アミノ酸配列を作成してくれます。
- GeneMark - 真核生物はEukaryotic GeneMarkへ。設定は簡単で、基本的に塩基配列をペースとしてスタートするだけです。見つかった遺伝子ごとの予想アミノ酸配列を作成してくれます。
- ORF Finder - 部分的なORFを検出してくれます。
- Splign - cDNAとゲノム配列が分かっている場合に、両者のアライメント・エクソン構造の描画をしてくれます。ダウンロードアプリ(Win, Linux)ですが、少数ならばこちらの try outでオンライン検索できます。ファイル形式はFASTAで、一行目 (>name return)は必須です。ヒト、ハエなどゲノムが解読済みで、"Whole genome:"のプルダウンから選べる生物ではゲノム側の塩基配列の入力は省略できます。
●DNA配列・シークエンス結果ファイルを開きたい
遺伝子情報のファイルでよく使われる拡張子とエディット可能なフリーソフトは以下の通りです。
拡張子 |
形式 |
内容 |
ApE |
Sequence
Analysis |
EnzymeX | BioEdit |
Chromas
Lite |
4peaks |
.gb |
GenBank 形式
詳細は別ページへ |
DNA |
○ |
× |
× | ○ |
- |
× |
タンパク |
× |
× |
× | ○ |
- |
× |
.fasta
.fas |
FASTA 形式の
詳細は別ページへ |
DNA |
○ |
○ |
○ | ○ |
- |
× |
タンパク |
× |
○ |
× | ○ |
- |
× |
.ab
.ab1 |
ABI format |
シークエンシング結果 |
△※ |
× |
× | ○ |
○ |
○※ |
ソフトのOS対応 (M=Mac, W=Windows, L=Linux) |
M,W,L |
M,W,L |
M |
W (XP) |
W |
Mac |
※ApEでは波形データ上で塩基配列の修正が出来ません。4peaksでは配列修正、アミノ酸配列の表示などが可能です。
なお、gb, fastaはテキストなので、開くだけならワープロでも可能です。他に .pep .dna .seq などもテキストで開くことができれば、上記のソフトでも扱える場合があります。
遺伝子またはアミノ酸配列からタンパクの分子量=MWを知りたい。
便宜的には、アミノ酸の数×平均分子量(110Da)で計算します。正確な計算は遺伝子解析ソフトかツールがないと面倒です。
以下のツールはアミノ酸配列の情報が入手できる場合に限ります。また、結果に修飾などは考慮されていません。
遺伝子情報が登録されている場合
遺伝子ページ(NCBI Gene)を開きます。方法は
NCBIからの遺伝子・DNAデータの検索と取得を御覧下さい。
例:ショウジョウバエ
Clock遺伝子。
RefSeq protein(
NP_001014576.1)の下にある、タンパク質番号(UniProtKB/Swiss-Prot:
O61735)のリンクを開くと「
Sequence」の一行目に分子量の表示があります(Mass (Da)の真下)。
遺伝子情報が登録されていない場合・自前のアミノ酸配列を解析したい場合
配列のみ、又は
Fasta形式のアミノ酸配列を準備しましょう。
パソコン上で操作する場合
Sequence Analysis で解析できます(Win, Mac, Lin対応)。
File メニューから、New Sequence(新規ファイル作成)、Proteinのラジオボタンを選択。OK。
File メニューから、目的ファイル(
Fasta形式が良い)を Open。またはCopy&Pasteで入力。
塩基配列の下側にあるメニューから、Composition を選択します。
Molecular weight: の右に予想分子量が表示されます。
WEB上で解析する場合
アミノ酸配列・タンパクの機能ドメイン・モチーフを調べたい。
既知データベースの参照では、Uniprotの表示が分かり易く感じました。
時計遺伝子産物の場合は、
ClockBaseにまとめてあります (論文発表を検討中でロックしてあります。お急ぎの方はご連絡下さい。)
配列から検索する場合、SMARTが分かり易く感じました。
タンパク質データベースを参照する(遺伝子情報が登録されている場合)
アミノ酸配列から検索する(自前の配列・遺伝子情報が登録されていない場合)
以下のサイトで解析できます。
- NCBI_CDART - テキスト形式、FASTA形式、GenBankアクセッション番号を用いて下さい。縮尺や配色は変化するので注意。
- SMART - テキスト形式、FASTA形式、Swiss-Prot タンパク ID を入力して下さい。結果が分かり易く縮尺や配色が一定です。ドメインの検出感度は他よりも低いように感じました。
- InterProScan - 高感度と感じましたが、解析に時間が掛かります。
ノックアウトマウス・ショウジョウバエ変異体がいるか調べたい。
時計遺伝子については、
時計遺伝子変異体のページにまとめました。ClockBaseにはより詳しくまとめてあります。
PubMedや
Google Scholarで論文から探すのも大切ですが、データベース(DB)からの確認方法を記します。
ただし、ごく最近の変異体はDBに登録されていない場合がありますので文献で探しましょう。
なお、
OMIM(オーミム。人類遺伝学のオンライン教科書)にはモデル動物(ANIMAL MODEL)についても端的に記載されているので大変便利です(
例: CLOCK)。
主にマウスですが、ショウジョウバエモデルの記述もあります(例: PARG)。
Clock遺伝子を例に、簡単に図にしてみました。図中の項目ごとにリンクを設定して有ります。詳しくは後の文章を御覧下さい。
ノックアウトマウスが報告されているか?
MGI (Mouse Genome Informatics) の目的遺伝子ページへ行きます。
ルートは主に2つです。Clock遺伝子を例に説明します。
1. MGIで検索する
MGIトップのQuick Search で「Clock」を検索
Genome Features に Type=Gene, Symbol=Clock というのが見つかります。
(Tg…という結果も見えますが、これはトランスジェニックの挿入箇所なので無視します)
Symbolをクリック→
Clock遺伝子のページへ
(Symbolとは遺伝子記号を意味します)
2. NCBI Geneのマウス遺伝子ページから進む
MGIの目的遺伝子ページ(
例:Clock)に着いたら、「Phenotypes」のカラムを探します。なければ変異マウス・遺伝子操作マウスはありません。
All phenotypic alleles(
2) : Targeted, knock-out(1) Chemically induced(1)
Clockの場合2つの変異体が登録されています。
Targetedはノックアウト・ノックインで、この場合 knock-outが1系統あります。
Chemically inducedはENU ()などDNAに傷を付ける化学物質によって誘発した変異体を示し、ここでは1系統あります(この例はジョータカハシのいわゆるクロックマウス)。
All phenotypic alleles(
2) を開くと、既存変異体のリストが表示されます。
- Clockm1Jt - Clockは遺伝子シンボルで、肩書きのm1Jtはアリルです。m1は "mutation number 1" だと思います。Jtは責任著者(Joseph Takahashi)の名前から由来です。(論文ではClockdelta19)
- Clocktm1.1Drw - 同様に、targeted mutation 1.1, David R Weaverの略です。「1.1」「2.1」などコンマはCre-Loxによるもので、フリップアウトする前が「1」「2」、フリップアウトしたものが「1.1」「2.1」のようになるようです。
表示される変異体(アリル名)は、論文で一般的に使われる名称とは異なるので注意が必要です。
例:Clockm1Jt=Clockdelta19。リンクを開くとこのような一般名(Synonyms)や原著論文など表示されます。
変異ショウジョウバエが報告されているか? 存在するか?
FlyBase の目的遺伝子ページへ行きます。
ルートは主に2つです。Clk (Clock)遺伝子を例に説明します。
1.
FlyBaseで検索する。
FlyBaseのQuick Search で目的遺伝子(例=clock, clk, cg7391など)を検索。Data Classはデフォルト=genes。
Symbol=Clk というのが見つかります。
ヒットが一件だと、目的遺伝子ページが自動的に開きます。
Symbolをクリック→
Clock遺伝子のページへ
2. NCBI Geneのショウジョウバエ遺伝子ページから進む
FlyBaseの目的遺伝子ページ(例:
Clock)に着いたら、「Alleles & Phenotypes」のカラムを開きます。
そこに変異体がなくてもP因子などの挿入変異体が存在する場合があります。マップ=Genomic Locationの「
FlyBase GBrowse」
を開きます。水色の▲▼、◆がトランスポゾンの挿入を示しています。P{**}****はP因子、PBac{**}****はピギーバック、Mi{**}
****はミノス因子です。{**}はコンストラクトの名称、後の番号はアリルや挿入系統のシリアル番号を示しています。これらが機能喪失変異体であった
り、小欠失を作成する材料になる場合があります。
(過剰発現やFRTなど方向性のあるトランスポゾンでは、▼は順方向、▲は逆方向を示します。◆は特に方向が決まっていないものです。挿入の位置は稀にデータと異なるので入手したらPCR、シークエンシングしましょう)
登録された系統が入手可能とは限りません。バンクから入手できる系統は Stocks & Reagents→ Stocks Listed in FlyBaseに表示されます。
FlyBaseに出ていない系統がストックセンターに有る場合もあるので、諦めずに個別のストックセンターでも検索しましょう。特に日本のオリジナルラインはFlyBaseに未登録な事があります→日本のFlyStock検索。
3.
GS系統データベースから探す。
首都大学東京の
GS系統データベースにからChromosome Map Viewの頁を開きます。
CG or gene
symbolに、遺伝子名、CG番号などをいれます。
デフォルトでは大小文字を区別するので気をつけましょう。
見つからない場合はallow
partial match, ignore case, include synonym のチェックを入れてみます。
CG番号とは、computed gene identifier の略です。ショウジョウバエ遺伝子には既知未知を問わずCGが与えられています。既知遺伝子でも複数の名前があったりするので、特定遺伝子を明示する為にCG番号は便利です。
目的遺伝子がヒットしたら、symbolのリンクを開きます。(例:
Clock)
△
が挿入部位と発現誘導する方向を、△の色はベクターのバージョンを示します。
なお、ほぼ同じ場所に複数のデータが重なっている場合があるので、「ZOOM
IN」で拡大して確認しましょう。
△をクリックすると、詳しい情報が別窓で開きます。
4. RNAiを探す。
NIG-Fly(日本の国立遺伝研)のRNAi系統はFlyBaseに登録されていない様なので、個別に探せば目的遺伝子のRNAiが見つかるかも知れません。
京都DGRCの
FlyStock検索でも検索出来ます。