発表年 | 記事 | 生物 | 発表者(責任著者) |
1729年▼ | 概日リズムを記述した最初の学術論文 | オジギソウ | ドゥメラン |
1962年▼ | 時間隔離実験(洞窟実験) | ヒト | アショフ |
1964年▼ | 視床下部破壊による血中コルチゾールの日内リズムの消失 | ラット | Slusher |
1971年▼ | period変異体 | ショウジョウバエ | コノプカ(ベンザー) |
1972年▼ | 視交叉上核(SCN)破壊による概日リズムの消失 | ラット | Stephan, Moore |
1984年▼ | period遺伝子の単離 | ショウジョウバエ | 複数 |
1989年▼ | frq 遺伝子の単離 | アカパンカビ | McClung (Dunlap) |
1994年▼ | Clock 変異体の単離 | マウス | Vitaterna(タカハシ) |
1997年▼ | Clock 遺伝子の単離 | マウス | (タカハシ) |
period ホモログの単離 | ヒト | 複数 | |
1998年▼ | Kai 遺伝子群の単離 | 藍藻 | 石浦 (近藤) |
培養細胞での概日リズム誘導 | Rat1細胞 | Balsalobre (Schibler) | |
1999年▼ | ヒト概日時計は24時間 | ヒト | Czeisler |
2001年▼ | ヒトPeriod多型と睡眠障害 | ヒト | Tohら、海老沢ら |
最初の報告生き物が一日のリズムを持って行動している事は古くから知られており、アレキサンダー大王の文書にも記述が残されているそうです (SCHILDKNECHT H., 1957, Zur Chemie des Bombardierk'a'fers. Angew. Chem. 69: 62-63に記述があるようですが、未確認です(ドイツ語(英訳有り)))。概日リズムについての初めての学術論文は、1729年にフランスのドゥメラン(Jean-Jacques d'Ortous de Mairan. フランスの地球科学者)が報告しました。 以下から原著論文のpdfpngファイルを入手可能です。 http://gallica.bnf.fr/?lang=en
オジギソウ(フランス語で la Sensitive)などマメ科植物には夜になると葉を閉じる(就眠運動)をするものがあります。
ドゥメランはオジギソウを暗所に置いても就眠運動が続くことを記載しました。その後、ダーウィンなどにより植物での観察が報告されました。De Mairan,. Observation botanique. Histoire de l'Academie Royale des Science 35–36 (1729) (in French) (リンク修正090511。こちらのページに英訳の一部がありました) 参考: ハワードヒューズ医学研究所によるオンライン博物館 TIME MATTERS: Biological Clockworks(英語) |
洞窟実験洞窟にこもる実験は、アショフ以前にもありました。
ただし、自由活動リズム(Free run)ではなく、28時間で生活するという実験でした。
洞窟に入ったのは、シカゴ大学のクレイトマン (Nathaniel Kleitman. 1895 - 1999シカゴ大学生理学教授)43才と、学生のリチャードソン (Bruce Richardson)25才でした。
彼らがケンタッキー・マンモス洞窟の地下36メートルに入ったのは1938年6月4日の事でした。
結果はリチャードソンは28時間に同調し、クレイトマンは同調できず、24時間の体温リズムが続いたようです(TIME誌の記事)。
結果的に、後に「強制脱同調」と呼ばれる実験と近いようです。
人間の一日のリズムは25時間である。これはユルゲン・アショフ(Jurgen Aschoff. 1913 - 1998. 独の生理学者)らの隔離実験で得られた結果の一部です。
文献はこちら(本文は有料。ドイツ語)。
ただし後述のように、別の条件で測定すると人間の概日リズムは24時間であることが示されています。
なお、アショフは人以外に様々な動物での研究も行いました。参考:生体リズムの研究 本間研一、本間さと、 広重力 1989 北海道大学図書刊行会 |
体内時計の座:視交叉上核(SCN)ほ乳類の体内時計の中枢は視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus, SCN)に有ります。視床下部は様々な自律機能の中枢です。 視床下部破壊がコルチゾールの日内リズムを消滅させることはSlusherにより示され(Pubmed AJP)、後に、SCN破壊が行動やホルモンの日内リズム・概日リズムを消失させることが示されました(Stephan1972, Moore1972)。 |
体内時計が狂った生き物最初に体内時計が狂った動物を見つけたのは、シーモア・ベンザー(Seymour Benzer.米国の物理学者。1921年〜2007年)のグループでした。 彼らはショウジョウバエをモデル動物として選び、ランダムに作った突然変異の中から、概日リズムが無かったり、周期が狂った変異体を見つけました。 これらは同じ遺伝子が原因であると分かり、無周期を period0、長周期を periodL、短周期を periodSと名付けましたKonopka1971。 |
period 遺伝子の発見最初の時計遺伝子 period を見つけたのは誰か? ほぼ同時期にジェフリー・ホールとマイケル・ロスバッシュのグループ(Reddy1984)(Zehring1984)、マイケル・ヤングのグループ(Bargiello1984)から報告されました。このころ時計遺伝子ハンティングの競争は熾烈で、PERIODの機能についても混乱が見られました。 |
frq 遺伝子の発見第二の時計遺伝子は、アカパンカビ(Neurospora)の frequency (frq) でした。 frq 変異体は 1973年に単離され(Feldman1973)、原因遺伝子は1989年にダンラップのグループによって単離されました(McClung1989)。 frqは perと同様にPASドメインを持つ抑制因子です。 |
Clock 遺伝子の発見哺乳類で初めての時計遺伝子は Clock です。日系アメリカ人のタカハシらは、マウスでランダムな変異体作成を行って時計が狂った変異体を発見しClock (circadian locomoter output cycles kaput)と名付けました。 1994年に変異体(Vitaterna1994)、1997年に原因遺伝子を特定しました(King1997, Antoch1997)。 ショウジョウバエに比べて飼育や測定が大変なマウスでスクリーニングをしたことや、遺伝子単離の早業には当時の行動生物学者は大変驚いたそうです。 |
ほ乳類Per 遺伝子ホモログの発見1997年に哺乳類の per ホモログがようやく単離されました。これはゲノムプロジェクトの進展により得られたものでした。同時期に論文が相次いだため、一番乗りを強いて決めるのは難しいでしょう。 |
Kai 遺伝子群の発見名古屋大学の近藤らは光合成細菌である藍藻(シアノバクテリア)からKaiA, KaiB, KaiCという遺伝子群を単離しました。これらはそれまでの時計遺伝子とは全く似ていませんでした。KaiCには2つのキナーゼのモチーフがあります。その後、KaiA, KaiB, KaiCとエネルギー源のATPだけで、試験管内で概日リズムを再現することに成功しています石浦2005。藍藻の収集から、リアルタイム測定装置の開発、遺伝子の単離、試験管内再構成という一連の成果はオリジナリティー・クオリティーが高い研究といえます。 |
培養細胞での概日リズム誘導スイスのシブラーらのグループは普通のラット由来培養細胞であるRat1細胞に血清刺激を加えるだけで時計遺伝子の24時間周期での振動が始まることを示しましたBalsalobre1998。それまで体内時計の研究は実験動物に頼っていましたが、培養細胞での様々な実験手法が可能になりました。その後、 Per2::luc などを導入した培養細胞の時計リズムをリアルタイムで観察するシステムも販売されるようになりました。刺激の種類は、血清以外にも様々な刺激が概日振動を起こせることが分かっています。現在ではより内在性の時計制御を反映すると期待できる Per2::lucのノックインマウス(Yoo2004)からの培養細胞を用いる方法が普及しつつあります。 |
ヒト概日時計は24時間チャールズ ・ツァイスラー(Charles A. Czeisler, チェスラー, チェイスラーとも読まれる)らグループは「強制脱同調」プロトコールによってヒト体内時計の周期が24.18時間である事を示しました(Czeisler1999)。アショフの洞窟実験で得られた25時間と異なりますが、どちらも正しい結果であり、測定条件の違いです。アショフの実験で「自由生活では25時間になる」 というのは、自由な生活では人は夜更かし朝寝坊になり易いことを意味します。意識的に規則正しい生活をすることが大事と言えるかもしれません。 |
ヒトPeriod多型と睡眠障害ヒトの家族性睡眠位相前進症候群(FASPS)で、Per2リン酸化部位の多型 (S662G) が原因であると報告されています (Toh2001)。また、睡眠位相後退症候群におけるPer3の多型が報告されています (Ebisawa2001)。 |