体内時計・睡眠についての良くある質問

  1. 生物時計・体内時計とは何ですか?
  2. 人は寝ないとどうなりますか?
  3. 眠らなくても良い薬はありますか?
  4. 人間の体内時計は25時間ですか?
  5. 体内時計が無いほうが、24時間社会や海外旅行には好都合ではありませんか?
  6. 体内時計はどこにあるのですか?
  7. 何時間寝るのが健康によいですか?
  8. 一日の長さはずっと同じですか?
  9. 睡眠と体内時計は同じものですか?
  10. 自分の体内時計の時刻を知ることは出来ますか?
  11. メラトニンは睡眠薬代わりになりますか?
  12. ショウジョウバエは眠りますか?
  13. 体内時計と発がんに関係はありますか?

1. 生物時計・体内時計とは何ですか?

生き物が体内に持っている時計で、人間はもちろん、多くの動物や植物、バクテリアでも見つかっています。
一日24時間で繰り返される体内のリズム、その元となる、時計遺伝子のリズムが主に研究されています。
それ以外にも、潮汐・一年といった繰り返される自然のリズムと同調する体の仕組み体内時計として研究されています。
広い意味では、ストップウォッチの様な時間感覚から、一生(寿命)という繰り返されない時計も体内時計・生物時計に含まれます。
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2. 人は眠らないとどうなりますか?

人が自分の意志で起き続ける試み(断眠)は11日間という記録があります。
断眠を続けると思考能力が落ち、妄想や幻覚が出てくるそうです。
昔の動物実験の記録では1〜2週間の断眠でネズミは死亡すると報告されています。
人間でも強制的に眠らせなければ恐らく死んでしまうでしょう。
断眠の挑戦は危険なので、現在ではギネスブックに認定されません。
また、実験動物の場合も現在では動物愛護の観点から致命的な断眠実験は行われません。
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3. 眠らなくても良い薬はありますか?

有りません。
その名の通り「覚せい剤」という薬がありますが、言うまでなく有害で違法な薬物です。
上述のように人間には睡眠は必要不可欠です。仮に脳の活動を強制的に保つような薬が出来ても、必ず深刻な副作用を起こすでしょう。
なお、動物実験では覚せい剤を投与しても「眠らずに動き続ける」事はありません。本来よりも長い周期で活動と睡眠を繰り返すようになります(条件により一日が30時間近くにも成る)。
覚せい剤(メタンフェタミン)の体内時計の影響は本間研一教授(北大)が先駆的な仕事をされています(参考: 時間生物学事典p170、PubMedの文献: Honma K[au] methamphetamine)
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4. 人間の体内時計は25時間ですか?

「普通に」生活すると人の生活リズムは平均で約25時間になります。
これは、ユルゲン・アショフ教授が行った、「洞窟実験」の成果です。
(時々睡眠の周期が48時間になる現象も起こる)
【私の経験】
大学時代に、生活リズムが乱れていました。そこで、眠気や睡眠、空腹感、食事などの時刻をグラフに記録してみました。定規を当ててみると、約25時間の周期になっていました。
現在は、出来るだけ日光を浴びるように心がけ、朝は電灯にタイマーを付けたり、夜は暗めにする(電球色の電球型蛍光灯1つ)などの工夫で24時間で生活できています。
ただし、最近の研究では、24.18時間であることが報告されています(Czeislerら1999年Science)。
どちらも間違っているのではなく、条件の違いです。
後者では被験者に20時間や28時間という無理な一日のリズムで生活してもらった場合に、体内時計が生活リズムから分離して自発的なリズムを保つ現象を利用しています。

人間は本来約24時間の時計を持っているのに、自由に日常生活すると25時間に伸びてしまうのです。
そのため、朝の日光を浴びるなどしてリセットしないと人間の体内時計が実際の時計とずれてしまう事があります。

洞窟実験では被験者は自由に電灯を使っていました。 あまり知られていませんが、真っ暗で過ごして貰った場合や、盲人の被験者では、生活リズムは約24.5時間と記録されています。
電灯の光が体内時計を遅れさせた原因の一つかも知れません。
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5. 体内時計が無いほうが、24時間社会や海外旅行には好都合ではありませんか?

もし、一時的に止めることが出来れば便利でしょう。
しかし、ずっと無くなってしまうと不都合の方が多くなるでしょう。
体内時計は睡眠だけでなく体の様々な機能を調節しています。
例えば人体では目が覚める前に「コルチゾール」という体の活力を高めるホルモンが出て目覚めの準備をします。また、血圧や体温も目覚める前から上がり始めて起床の準備をします。
逆に、夜は「コルチゾール」が減り、血圧や体温も下がります。
もし、体内時計がなくなると、朝起きれない、夜眠れない、という事が起こるかも知れません。
例えば、体の活力を上げるホルモンが出続けてしまう病気(甲状腺機能亢進症、クッシング症候群)では眠れなくなってしまう場合があります。
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6. 体内時計はどこにあるのですか?

全身にあります。
ほ乳類の場合、体温や活動・睡眠をつかさどる「時計中枢」は脳の視交叉上核という部分に有ることが分かっています。
体内時計の正体は、時計遺伝子が作り出す24時間周期の振動だということがわかってきました。
視交叉上核では時計遺伝子が沢山出ている事が分かっています。
全身の細胞一つ一つにも時計遺伝子はあり、体から取り出してシャーレで培養した細胞でも一日のリズムを観察することが出来ます。
肝臓など末梢組織の体内時計は食事によって大きく影響されます。規則正しい食生活は、脳の時計と体の時計をずらさないためにも大切です。
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7. 何時間寝るのが健康によいですか?

7±1時間の睡眠を取っている人が一番健康的です。
長すぎても短すぎても死亡率、BMI (体格指数)とも上がりました。
これは、死亡率と睡眠時間の調査で分かりました。
日本、ヨーロッパの研究で同様でした。
日本のデータは、玉腰先生@名古屋大の報道をご参照下さい。

もちろん、睡眠時間には個人差があり、一概に「7時間寝れば長生きできる」というものではありません。
ただし、睡眠不足は様々な病気のリスクを高めることが知られていますので、寝不足を感じない程度に十分な睡眠を取りましょう。

なお、長時間睡眠でも死亡率やBMIが上がる理由は不明ですが、体調が悪い人は長く寝てしまう為かも知れないと推測されています。

眠れない、十分に寝たつもりでも疲れが取れないというときには、睡眠専門医にかかることをお薦めします。→日本睡眠学会の睡眠認定医
特に、睡眠時無呼吸症が疑われる場合は、睡眠時無呼吸外来などを受診しましょう。
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8. 一日の長さはずっと同じですか?

現在の一日は24時間ですが、歴史的には変化しています。

月と地球
地球の自転は月の影響で遅くなる
一日の長さは、太陽が最も高くなる時間の間隔を元に決められ、24時間です。今では「原子時計」で国際標準時が決まっています。また、パルサーも利用しているようです。
(※昼の時間の長さという意味では、緯度や季節によって昼の時間は変化します。)

実は、地球の自転速度は徐々に遅くなっています。
一日の長さは、地球の自転(約23.93時間)+公転(24時間/365日)によって決まってきます。
地球の公転速度は一定ですが、自転速度には揺らぎがあり、基本的には徐々に遅くなっています。これは、月の潮汐力によってブレーキがかかる為です。

最近の標準時は一年で0.6秒ほど訂正されています。 短期的な変化は氷河や地震による地球の形の変化、一秒の定義の問題も影響します。
月の潮汐によるブレーキはここ数億年では、数万〜10万年に1秒程度です。
地球の歴史は46億年といわれ、また、生命誕生は38億年前と言われています。億年単位になると、自転の変化は大きくなります。生命誕生当時の一日は6〜8時間程度と考えられています。

「時間の化石」ともいうべきものがあり、その変化を裏付けています(Clausen1974)。 珊瑚は毎日成長するので、成長の跡が日輪として残ります。珊瑚の化石から一日の長さを測定した研究では6億年前で一年=424日、一年の長さは変化しない ので当時の一日は 24.0 x 365 / 424 = 20.7 時間となります。この頃に様々な動物が爆発的に進化しました。今の動物は基本的に同じ時計遺伝子を持っているので、この頃には今の仕組みが獲得されていた のでしょう。


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9. 睡眠と体内時計は同じものですか?

睡眠の2プロセスモデル
サージ・ダーンによる睡眠の2プロセスモデル。
表現方法は原図と異なる。
睡眠と体内時計(概日リズム)は異なるものです。
密接に干渉していますが、両方を分離することも出来ます。
睡眠には多くの要因が関係しています。
体内時計はその重要な要因の1つです。
サージ・ダーン (Serge Daan)が提唱した2プロセスモデル (two-process model) は現在でも支持されています。
それは、SプロセスとCプロセスからなり、起き続けることでたまる睡眠負債と、体内時計からの眠気(覚醒刺激)の合計で眠気が決まるという考え方です。
昼寝をしすぎると夜寝付けなくなるのは、睡眠負債が減るためです。
徹夜の翌朝にサッパリと眠気がなくなるのは、体内時計からの眠気が減るためです。
睡眠負債の本体は確定していませんが、プロスタグランジン(prostaglandin, PG)D2が有力な候補として報告されています。PGD2については大阪バイオサイエンス研究所の早石修名誉所長らが先駆的な仕事をされています。
睡眠の原理については、日本睡眠学会睡眠に関する基礎知識が参考になるでしょう。
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10. 自分の体内時計の時刻を知ることは出来ますか?

残念ながら体内時計の時刻を家庭で簡単に知る方法・装置はありません。
実験室レベルでは多くの方法があります。一部をあげます。
  • 体温のリズムは比較的良い指標になるので、古くからの洞窟実験でも使われていました。ただし、振動幅は約1度と小さく、深部体温(直腸温)を継続的に測らなければなりません。
  • メラトニンなど幾つかのホルモンのリズムも指標になりますが、濃度が薄いので測定は簡単ではありません。
  • 時計遺伝子の発現量を血液や毛根細胞などで測定する取り組みもあります。
  • また、代謝産物の網羅的解析(メタボローム, Metabolome)で明らかにしようという取り組みもあります(南陽一2009PNAS, 理研の発表「代謝産物から「体内時刻」を簡便かつ定量的に測定する新手法を確立」)。
人の活動や睡眠パターンの記録装置なら、家庭・労働管理・医療レベルで販売・実用化されている装置が幾つかあります。ただし、睡眠リズムは体内時計と一致しない場合があるので体内時計の完璧な指標になりません。また、本来は眠りの深さは脳波で調べます。
  • スリープトラッカー (sleeptracker) - 目覚まし腕時計です。睡眠の深さを体の動きから推測し、眠りが浅い時(レム睡眠)にアラームを出します。2〜2.5万円。(家庭)
  • aXbo - 上と同様の製品です。測定器(リストバンド)と目覚まし時計が分離しています。約4万円。(家庭)
  • 眠りSCAN - ベッドのセンサーによって睡眠の深さを測定する装置だそうです。リストバンドが不要です。(介護・医療)
  • アクティウォッチ (Actiwatch) - 体の動きと光環境を記録する腕時計型の装置です。睡眠中だけでなく一日中装着し連続したデータが得られます。(労働管理・医療)
  • 歩いてわかる 生活リズムDS - 任天堂DS用のソフト・万歩計(生活リズム計)です。ホビーですが案外と健康管理に役立つかも知れません。三千〜5,800円(DSは含まない)(家庭)
  • ZZZ checker - 音と動きで睡眠の深さを記録する装置だそうです。レムを狙った目覚まし機能はなさそうです。説明図のレム・ノンレム睡眠が逆に見えますね。(家庭)
24時間で血圧変化を測定する装置が医療・研究用に使われていますが、体内時計のリズム自体を知る目的ではありません。睡眠中の測定が可能な家庭用もあります。
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11. メラトニンは睡眠薬代わりになりますか?

効果がある人もいるそうですが、お薦めしません。
まず、メラトニンは米国でサプリメントとして流通し、日本では個人輸入でしか購入できません。
つまり、アメリカではFDAに医薬品としては認可されていませんし、日本ではサプリとしても売ることすら認められていません。医学的な安全性は保証されていません。
個人の責任で使われるのを止めませんが、メラトニンは性腺(精巣や卵巣)の抑制(萎縮)作用が知られています。また、ホルモン剤一般に言えることですが、長い間使い続けると本来のホルモン分泌腺が萎縮してしまう可能性があります。

メラトニンは夜間に松果体から大量に分泌される「夜のホルモン」です。しかし、夜行性の動物はメラトニンの多い時間に活動しますので一概に「睡眠のホルモン」とは言えません。メラトニンで眠気が起こる人と、そうでない人がいるようです。
メラトニンは睡眠誘発でなく、体内時計のリセットには役立つと考えられます。海外旅行で体内時計のズレを直すときに一時的に使うには効果が期待できますが、寝付きが悪いなどの理由で使うのは如何なものかと思われます。

なお、薬品としては、メラトニンアナログが睡眠改善薬として開発されてきました。
ラメルテオン (Ramelteon, 武田薬品工業, 米国で承認済, 日本で申請中, 欧州で取り下げ)。
タシメルテオン (Tasimelteon, Vanda Pharmaceuticals Inc, 米国で申請中=Phase III 2009.06時点)。

なお、深刻な不眠に悩まされている場合、睡眠の専門医にご相談下さい。専門医は日本睡眠学会睡眠医療認定医から探すことが出来ます。
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12. ショウジョウバエは眠りますか?

ショウジョウバエも眠ると考えられています。
ほ乳類では眠りやその深さを脳波で定義します。昆虫のように脳波を取れない(その試みはあります)昆虫では、ジッとしていても休んでいる(rest)のか眠っている(sleep)のか区別することは難しいのです。
ショウジョウバエの眠りは2000年に精密な測定や薬剤・変異体を使った報告がされました。2000年サイエンス誌のShawらはショウジョウバエの動きを超音波(ultrasound, supersonic)で測定しました。赤外線センサー式の測定器では歩行活動など大きな動きしか観察できないので、それと併用して超音波で「ハエが手 をする足をする」ような動きまで観察したのです。その結果、微動だにしない時間は確かにありました。静止する時間の割合はカフェイン(caffeine= 覚醒を促す)で減り、ヒドロキシジン(hydroxyzine=抗ヒスタミン薬。覚醒中枢を抑制し眠気を促す)で増えました。
Hendricksらは2000年ニューロン誌に、歩行活動とビデオ撮影による詳細な行動観察による睡眠(sleep-like state)を報告しました。やはり睡眠はカフェインで減少し、アデノシン(睡眠物質とされる)で増えました。
何分以上静止すれば睡眠なのかについては、九州大学の谷村禎一教授らのグループが興味深い報告をしています。ビデオモニタでショウジョウバエの歩行を 測定し(一日450m歩くそうです)、静止時間を継続時間と頻度でグラフにすると二種類の成分に分けられ、10分以上静止していれば眠 りとして良いと提唱しています。この測定法による「睡眠」もカフェインで減り、アデノシンで増えました(2005年JDRC)。
従って、ショウジョウバエでもほ乳類でも睡眠の基本的な仕組みは同様であろうと考えられています。
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13. 体内時計と発がんに関係はありますか?

体内時計と発がんには関係があると考えられています。
疫学調査(多人数の医学的統計調査)では、シフトワーク(日勤・夜勤などで勤務時間がコロコロかわる)の労働者では乳ガンなどの発がんリスクが1.5〜1.7倍高い事が以前より報告されています(Hansen2001, 総説, 英語, 無料)。
他に前立腺概(三倍, Kubo2006)、大腸がん(Schernhammer2003)のリスクがシフトワークで高まると報告されています。
夜間に光に当たることによるメラトニン抑制の影響が議論されてきましたが、結論は得られていないようです。(メラトニンにはガンを抑制するとする説がありますが、上述のようにガンを防ぐ健康食品としての常用はお薦めしません。)

腫瘍(悪性の癌ガンと良性腫瘍を含める)の第一の特徴は、細胞分裂が過剰に起こることです。細胞一つ一つが持っている体内時計と細胞分裂には密接な関係が あることが知られています。例えば、細胞が増えやすい時間帯があるので、夜間に抗ガン剤を投与すると治療効果が上がるという報告もあります。
<以下専門的な話>
分子レベルでは、PER2が癌抑制遺伝子として働くことが報告されています(Fu2002Cell)。
また、時計遺伝子の多型により、がんのリスクが高まるという報告もあります。
  • NPAS2 - 乳ガン (Yi2009)
  • CRY2 - 非ホジキンリンパ腫 (Hoffman2009
    • 一方、p53 KOマウスの発がんがCry変異により抑制され、CRYの発がんにおける働きが注目されるところです(Ozturk2009)。

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