時計遺伝子 - 花井@産総研

ここでは動物の時計遺伝子をリストアップしました。その他の生物はEUCLISを御覧下さい(英語)。
遺伝子の大文字小文字イタリックなど表記方法は「遺伝子の記述方法」に移動しました。
ノックアウト・変異体の一覧は別ページを参照。List of KO mouse and mutant fly

動物の時計遺伝子

機能
遺伝子(↓は下の説明へ)
Human ヒト
Mouse マウス
Drosophila ハエ
(Flybase)
転写調節
per↓
(パー、ピリオド)
PER1
PER2
PER3
Per1
Per2
Per3
per (period)
CG2647
tim↓
(ティム、タイムレス)
-
-
tim (timeless) CG3234
TIMELESS Timeless timelout CG7855
clk↓ (クロック)
CLOCK
NPAS2
Clock
Npas2
Clk (Clock) CG7391
BMAL↓
(ビーマル)
ARNTL(BMAL1)
ARNTL2(BMAL2)
Arntl(Bmal1)
Arntl2(Bmal2)
cyc (cycle) CG8727
cry↓ (クライ, クリプトクロム)
CRY1
CRY2
Cry1
Cry2
cry (cryptochrome) CG3772
vrille↓ (ヴリル)
E4BP4 (E4 binding lambda-P4)
NFIL3(E4BP4) Nfil3(E4bp4) vri (vrille) CG14029
Pdp1↓ (ピーディーピーワン)
HLF
TEF
DBP
Hlf
Tef
Dbp
Pdp1 CG17888
DEC↓(デック ) BHLHE40(DEC1)
BHLHE41(DEC2)
Bhlhe40(Dec1)
Bhlhe41(Dec2)
Not found -
cwo↓ (clockwork orange) Not found Not found cwo CG17100
ID2↓ ID2 Id2 Emc (extra macrochaetae) CG1007
Rev-erb α↓(レブアーブアルファ) NR1D1(Rev-erb A) Nr1d1(Rev-erb A) Eip75B CG8127
ROR α↓(アールオーアールアルファ) RORA(NR1F1) Rora(Nr1f1) Hr46? CG33183
SIRT1(サートワン) SIRT1 Sirt1 Sir2 CG5216
修飾

分解
sgg(シャギー) GSK3B Gsk3b sgg (shaggy) CG2621
dbt(シーケーワンデルタ・イプシロン、ダブルタイム)↓ CSNK1D(CK1delta)
CSNK1E(CK1epsilon)
Csnk1e(Ck1delta)
Csnk1e(Ck1epsilon)
dco(dbt)
 discs overgrown, Double-time
CG3412
Protein Phosphatasesプロテインフォスファターゼ --- --- --- ---
slmb(スリム)↓ BTRC(FWD1A)
FBXW11(FWD1B)
Btrc(Fwd1)
Fbxw11(Fwd1b)
 slmb (slimb)
(supernumerary limbs)
CG3412
Fbxl3 (after-hours (Afh)/Overtime(Ovtm))
FBXL21
FBXL3
FBXL21
Fboxl3
Fboxl21
Not found -
Jetlag(ジェットラグ) FBXL15 Fbxl15 jet CG8873
出力



Pdf
-
-
Pdf
  Pigment-dispersing factor
CG6496
fmr1 ▼ (エフエムアールワン)
FMR1 Fmr1 Fmr1 CG6203
lark▼(ラーク)
RBM4
RBM4B
Rbm4
Rbm4b
lark CG8597
ebony(エボニー)
-
-
e (ebony)
CG3331
光入力

無脊椎動物型オプシン▼

OPN4(melanopsin) Opn4(melanopsin) Rh1(ninaE) (R1-6, 青-緑480nm)
CG4550
Rh2 (Ocellus単眼, UV-紫420nm) CG16740
Rh3 (R7 (DM-R8), UV347nm) CG10888
Rh4 (R7, UV375nm) CG9668
Rh5 (R8,HB, 青436nm) CG5279
Rh6 (R8,HB, 緑508nm),  CG5192
Rh7(不明) CG5638
脊椎動物型オプシン▼ RHO(rhodopsin, OPN2)
OPN1LW(赤565nm)
OPN1MW(緑535nm)
OPN1SW(青440nm)
encephalopsin(OPN3)
NEUROPSIN(OPN5)
Rho(rhodopsin,OPN2)
Opn1mw(緑508nm)
Opn1sw(UV358nm)
- -
Pinopsin▼ピノプシン
ほ乳類にはないので
-
-
-
遺伝子名をクリックすると、NCBI Geneのページに飛びます。

睡眠に関わる遺伝子

遺伝子名 生物 機能 特徴、変異の影響
DAT (fmn) ショウジョウバエ ドーパミン 輸送体 機能喪失で不眠になる(粂2005)。
Sh (Shaker) ショウジョウバエ K+チャネル 点突然変異の nimisleep(mns)で睡眠が短くなる(Cirelli2006)。
sss (sleepless, CG33472) ショウジョウバエ Shaker の調節 短い睡眠時間(正常の20%)。断眠後のリバウンドにも必要()。(Koh2008)
Prostaglandin D2
Ptgds(合成酵素(脳))
マウス・サルなど 生理活性物質 PGD2の脳内投与で睡眠を誘発する(上野1982)(尾上 1988)。
逆に、PGE2には覚醒作用がある。日本語総説(尾 上1998)。
Hcrt(hypocretin ( orexin) neuropeptide precursor) マウス 神経伝達ペプチド ノックアウトでナルコレプシー (narcolepsy) 症状が起きる(Chemelli1999)。
Rarb (retinoic acid receptor, beta) マウス 核内受容体
(ビタミンA受容体)
変異系統やノックアウトマウスで、睡眠時のδ波の割合が減少する(Maret2005)。
Homer1 マウス 神経初期応答遺伝子
神経可塑性遺伝子
変異系統で、睡眠時のδ波の割合が減少する(Maret2007)。

冬眠・休眠に関わる遺伝子

哺乳類の冬眠(hibernation)はリスなどに見られる大きな体温低下が数日以上続く状態です。 トーパー(torpor,休眠,活動低下)は冬眠しない動物に見られる半日程度、若干体温が落ちた状態で、冬眠に近い仕組みが働いていると考えられます。 どちらの場合も、外海の温度低下と食物の減少もしくは脂質依存への変化が契機になると考えられています。マウスは冬眠はしませんが、トーパーを観察することができます。
最近のレビュー: Nelson 2009  J Physiol
遺伝子名 生物 機能 特徴、変異の影響
Ppara, peroxisome proliferator activated receptor alpha説明文 マウス 核内受容体 PPAR にリガンドが結合するとRXRと二量体を形成し、PPREに結合して下流遺伝子の転写を活性化する。

生理的なリガンドは遊離脂肪酸など。
フィブラート系薬剤(高脂質血症治療薬)はPPARαのアゴニスト(作動薬)。
Pparg, peroxisome proliferator activated receptor gamma マウス 核内受容体 生理的なリガンドはプロスタグランジンJ2。
チアゾリジン系インスリン抵抗性改善薬はPPARγのアゴニスト。
Fgf21, Fibroblast growth factor 21 マウス 線維芽細胞増殖因子 絶食や低炭水化物食(ケトンダイエット)によりPPARαにより誘導される。肝臓から血中に放出される。

「時計遺伝子」の定義は困難です。「機能を失うと、時計が止まる」なら一目瞭然ですが、哺乳類ではファミリーを形成していて補いあう場合もあります。「出力」「入力」「睡眠」は厳密には時計遺伝子には含まれません。
遺伝子名や学名は本当はイタリックです(見難いので標準で表記します)。規約に基づく正式名称で表示します。通称名はカッコで。カタカナは日本での一般的呼び名です。
遺伝子命名規約によりヒトの遺伝子名は全て大文字(HUGO)、マウスは最初だけキャピタライズして後は小文字となっています( MGI: Mouse Genome Informatics)。規約は生物ごとに異なるので一様ではありません。詳しくは遺伝子の記述方法を御覧下さい。



時計遺伝子の各論

時計遺伝子の明確な定義は有りません。その遺伝子が変異すると体内時計(概日リズム)が無くなったり、周期の長さが変化する場合、その遺伝子を時計遺伝子 と呼べると思います。ただし、動物の概日リズムは主に行動のリズムで観察しますが、変異体で行動リズムが失われても、時計遺伝子のリズムなど他のリズムが 残っている場合は、その遺伝子は「時計出力遺伝子」と呼ばれます。

feedback loop
ほ乳類とショウジョウバエのフィードバックループの比較。
ヒトではPER-CRY複合体を形成して核に移行し、後述のCLK-BMAL複合体の活性を抑制します(概念図1<GIFアニメ>)。
Rev-erbやVRILLRは第二のループを形成します。Sato2004年を参考に描画。実際には転写制御のみでなく、リン酸化など修飾による核移行や安定化・分解など様々な制御が行われます。

マウス末梢でのコア時計遺伝子の発現振動。
生物種や臓器によって位相(ピーク位置)は異なります(マウス副腎のアレイ データ(Oster2007)を参考に作成)。その他の遺伝子は「発現振動する遺伝子」のページをご参照下さい。
*ZTとCT。ZTは明暗など時刻情報のある環境下での時間でZeitgeber time (ZT, ドイツ語のZeitgeberは英語でTime giver)の略。CTはCircadian Timeの略で、恒常条件での周期。CTで観察されるリズムが、概日リズム(circadian rhythm)であり、ZTでの振動は日周リズム(daily rhythm, diurnal rhythm)です。末尾の図も参照。

Period

Periodは最初に見つかった概日時計変異体です(Konopka&Benzer1971)、 最初にクローニングされた時計遺伝子でもあります。
Periodはショウジョウバエで見つかりました。他にも多くの時計遺伝子はショウジョウバエで最初に見つかっています。これは行動測定によるスクリーニングが容易なことと、遺伝子ファミリーが少なく、遺伝子変異の影響が観察しやすい利点があります。
なお、哺乳類Periodはゲノムプロジェクト・ESTプロジェクトの進展により発見されました。
Per1, Per2 は体内時計で重要ですが、Per3はノックアウト動物の解析から必須ではないとされています(ノックアウトの一覧ページを参照)。
PER/CRY複合体を形成して核に移行し、CLK-BMAL複合体の活性を抑制します。
哺乳類ではショウジョウバエのように単純ではなく、Per2は直接にCLK/BMALを抑制する訳ではないとされています。

Timeless

timelessはショウジョウバエ行動変異体の解析で得られた時計遺伝子です。 ショウジョウバエではPER-TIM複合体を形成し概日時計制御のコア振動体の一員です(Myers1995)。
一方で、ほ乳類でもTIMが見つかり「timeless」と命名されましたが、それらはショウジョウバエでのtimeout(timeless2)のホモログでした。 timeoutが時計に関与するかは議論の分かれているところですが、ショウジョウバエtimelessほどの重要な役割はなさそうです。
哺乳類ではショウジョウバエTIMの位置に抑制型CRYが来ます。 後述のようにミツバチ・蚊など他の昆虫では抑制型のCryがあり哺乳類との共通性が示されています(Zhu2005)。 timelessはショウジョウバエ属以外ではウニや蚊でしか見つかって居らず(Rubin2008)、TIMを時計に用いるショウジョウバエは少数派なのかもしれません。

Clock

CLOCKはBMALと複合体を形成してEボックス(E-Box: CACGTG, CACGTT) に結合し、転写を活性化します。このシステムはPer,Tim遺伝子の転写のみでなく、多くの「時計支配遺伝子(Clock Controled Gene: CCG)」のリズミックな発現を支配しています(概念図1<GIFアニメ>)。
日系アメリカ人のジョー・タカハシは多数の変異体マウスを行動測定スク リーニングするという離れ業をおこないました。ショウジョウバエではJrk変異体の原因遺伝子が Clockと判明しました。 なお、Clockは circadian locomoter output cycles kaputの略です。

Clockはマウスで見つかった哺乳類で最初の時計遺伝子です。
Clockによる転写活性化にはC末側の従来「Qリッチ」領域で発見されたHAT(histone acetyltransferase) 活性が関与している事が示されています(Doi2006)
NPAS2はBMALと結合してClockと同様に働き、配列も全体に渡ってマッチする第二のClockともいえる存在なので同じ枠に入れました。 Clock単独のノックアウトマウスは活動リズムを維持できますが(Debruyne2006)、NPAS2&Clock のダブルノックアウトでは概日活動リズムは完全に失われます(Debruyne2007)
中枢ではClock, NPAS2両方の影響が強いようですが、末梢ではClockの影響が強いようです。
発現振動は、マウスではNpas2に明瞭なリズムがありますが、Clockのリズムは明確ではありません。
なお、CLOCK-BMALによる転写制御は動物の時計遺伝子・時計被制御遺伝子のリズムに重要ですが、ホヤのようにこれらが見つからない動物もいます(ClockBase (要認証))。ゼブラフィッシュの培養細胞ではClock3のドミナントネガティブ存在下で、Cry1a遺伝子の概日振動が示されておりCLOCK-BMAL非依存的な時計機構の存在が示唆されています(宮村憲央2009)。

BMAL (ARNTL)

ショウジョウバエでは先にcycle変異体が見つかっていて、後にそれがBMALと分かったので、cycleが正式名称です。
時計分野でよく使う"BMAL"の名前は Brain and Muscle Arnt-Like protein から命名されました (池田正明1997)。 ただし、同時期にMOP3(BMAL1), MOP9 (BMAL2)という命名もされており(Hogenesch1997) 、公式な命名は「aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator-like」の略でARNTL(=BMAL1), ARNTL2 (=BMAL2)となっています。
PAS
ショウジョウバエのPER, CLK, CYC(BMAL)の模式図。A, B: PASドメイン、b: bHLHドメイン

Clock, BmalはPASドメインと、bHLHドメインを持ちます。PASドメインは Period-Arnt-Sim に共通してみられる約100アミノ酸のドメインで、タンパク間の相互作用に働きます。
bHLH(basic Helix Loop Helix)は二つのアルファヘリックスがループで繋がり、塩基性アミノ酸を持ちます。DNAのE-Boxに結合します。
bHLH-PAS構造を持つ遺伝子はARNT(アーント, aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator )ファミリーとも呼ばれ、 HIF1alphaAHRSIM1SIM2ARNT などが含まれます。

Cry

初めに植物でCryが見つかり、光を受けて体内時計をリセットする事が分かりました。
ショウジョウバエでもCRYは青い光を受容して概日リズムの変化を起こします (Stanewsky1998)。 ハエCRYタンパクは光を受けるとTIMタンパク質と結合して分解に導きます。
ハエではcry変異体でも、概日リズムの維持はできますので、厳密にはハエcryは時計遺伝子ではなく「入力系」といえます。
ショウジョウバエでは時計中枢を含めた全身の細胞でCRYが光を受容します。なお、cry変異体でも視覚入力により明暗リズムに順応する事が報告されています。
一方で、ほ乳類ではCRYタンパクはPERタンパクと結合して核に移行し、CLOCK/BMALを強力に抑制する機能を持ち、光受容はしません。
ショウジョウバエ以外の昆虫ではほ乳類型(抑制性)とハエ型(光感受性)の両方のCryを持っています(Zhu2005)。
Cryはフォトリアーゼ(光回復酵素:紫外線でできるチミンダイマーの修復など)の一員ですが、残念ながらDNA修復活性はありません。 DNA修復と体内時計は無関係に見えますが、生命誕生当時の強い紫外線環境下では「紫外線による突然変異を避ける」という目的が一致しています。 細胞分裂中にDNAが損傷すると突然変異の危険が高まるので「日の出を予想して分裂を止める」=体内時計の必要があったはずです。 我々の細胞分裂にも一日のリズムがあるのは、その名残かもしれません。ただし、当時の一日は今よりもずっと短かったので時計機構も異なったかもしれません(FAQ#8参照)。
CRYS
Cry・光回復酵素(Photolyase)ファミリーの進化
なお、昆虫ではショウジョウバエだけは抑制型Cryを持たない。(Zhu2005を参考に作図)

Pdp1 Dbp

この一群はPAR bZIP (proline and acidic amino acid-rich basic leucine zipper)型転写因子ファミリー(PAR and C/EBP familie)に属します。
哺乳類での体内時計との関係の解析はDBPの発見者である ジェノバ大学Schiblerのグループ によって先駆的な仕事がなされました: Dbp (Wuarin1990), HLF (Falvey1995)、 Tef (Fonjallaz1996)。 (HLFは小文字だと紛らわしいので大文字で書きました)
Dbp (D-site of albumin promoter (albumin D-box) binding protein)はアルブミンプロモーターのDサイトに結合する転写因子として同定されました( Mueller1990)。 結合のコンセンサス配列は、5'-RTTAYGTAAY-3'です(R,Yについては下の表↓を参照)( Falvey1996)。 Dbpは発見直後からシャープな概日振動が報告されています (Wuarin1990)。 ノックアウトマウスがほぼ正常な活動リズムを維持できたことから、Schiblerらは時計遺伝子というよりも出力遺伝子としていました (Lopez-Molina1997)。Per1プロモーターへの影響から、岡村均らのグループはフィードバックループでのDbpの働きを示しており (山口瞬2000)、 「時計遺伝子」か「時計出力遺伝子」か議論が分かれるところです
TEF (thyrotroph embryonic factor)は ラットの胚発生において、thyroid-stimulating hormone (TSH beta)からの転写を誘導する転写因子として同定されました ( Drolet1991)。
HLFはHepatic leukemia factor の略で、 ヒトの白血病でE2Aと融合した遺伝子として同定されました(稲葉俊哉1992) (Hunger1992)。
Dbp,TEF,HLFのトリプルノックアウトでも活動リズムやPer1など時計遺伝子の発現量は正常だった事はこれらがリズムの維持に必須な時計遺伝子でない事を示しています (Gachon2004)

上段: ショウジョウバエ Pdp1 e (284 aa), 下段: ヒト HLF (295 aa)
ショウジョウバエPdp1はPARdomain protein 1の略です(Lin1997)。 Pdp1の時計機能を初めて指摘したのはBlauとCyran(2001 CSHL meeting)ですが、初めての論文はClk依存的な概日振動をマイクロアレイで発見し、時計への関与を示唆した Rosbashらのグループでした( McDonald2001)。 同様の指摘は別のグループからも出ています(上田泰己2001)。 変異体等でPdp1の時計機能を明らかにし「第二のフィードバックループ(second feedback loop)を示唆したのはBlauらのグループでした(Cyran2003)。 ただし、vri, Pdp1による制御には異なる議論もあります。ハエPdp1のnull mutant (機能喪失変異体)は致死ですが、選択的スプライシングによるε(イプシロン)アイソフォームだけを欠失させた場合、致死に成らず概日行 動リズムの喪失が報告されています(Zheng2009)。
ショウジョウバエPdp1の哺乳類ホモログはHLFと登録されています(Homologene31074)。

vrille, E4bp4

vrille, E4bp4は、 basic leucin zipper (bZIP,塩基性ロイシンジッパー。bZIP同士でホモorヘテロ二量体を形成する)を持つtranscriptinal repressor(転写抑制因子)です(下図、左)。 bZIPの領域以外にはドメインや他の遺伝子産物との相同性は知られていません。
vrillrの時計機能がショウジョウバエで示されました(Blau1999)。 彼ら(ロックフェラー大学のYoung研究室)はディファレンシャルディスプレイ法(まだマイクロアレイが広まる前の時代です)によって、mRNAの日内振動が大きい遺伝子を検索してvrilleを得ました。 vrilleの発現振動はClock,cycleに依存的でした。vrilleはショウジョウバエの時計中枢で発現しており、+/-のヘテロで活動リズムが短縮し時計中枢での過剰発現では長周期化した、period, timelessの発現を抑制した結果などから、時計制御に必要な因子であるとしています。総説ではVRILLEの結合サイトは"V/P-box (VRI/PDP1epsilon-box)"とも表記されています(Hardin2005)。
なお、vrilleは1997年に報告され(George1997)、 フランス語で「キリ、ドリル」の意味だったと思います。変異体の幼虫が捻れて見える為でしょうか。
E4bp4はvrilleに最も近い哺乳類遺伝子であるとBlauらは指摘しました。E4BP4が時計制御に関与する事は 2001年に報告され(Mitsui2001),(Doi2001)、 私の属するグループの大野らもE4bp4によるPer2遺伝子の制御について報告しています(Ohno2007)(Ohno2007)。
もともとはadenovirus E4 (early region 4) promoter(アデノウイルスのE4プロモーター)に結合する因子の検索によって得られ、E4 binding lambda-P4と命名されました(Cowell1992)(P4 はcDNAクローンのシリアル番号なので、E4BP1〜3はありません)。その論文で、コンセンサス配列は(G/A)T(G/T)A(C/T)GTAA (C/T) = RTKAYGTAAY と報告されています。
E4bp4とvrilleはbZIPで高い相同性を示しますが(下図、右)、NCBIホモログには登録されていません

(左)bZIP型転写因子の模式
(ppt原図)(右) Query: mouse E4BP4, Sbject: Drosophila VRI

cwo, DEC1, 2

PAS
マウスDEC1とショウジョウバエCWOの模式図。b:bHLHドメイン、O: Orengeドメイン
cwoはショウジョウバエで報告されました(Lim2007松本2007, Kadener2007)。 変異体でも完全にはリズムが失われませんが、時計遺伝子と見なして加えました。DNAに結合するORENGEドメインを持つことから、小説・映画の「時計じかけのオレンジ」に引っ掛けて命名されました。 詳しくは理研の発表などをご参照下さい。
DEC1,DEC2は先に哺乳類で時計への関与が示され(本間2002)、 cwoと同様にORENGEドメインを持ちます(日本語総説鬼島2007)。 ただし、DEC1, 2のダブルノックアウトマウスでは概日リズムはほぼ正常であり、光によるリセットに異常があるので「時計入力遺伝子」に分類すべきかも知れません。一方 で、DEC2のP385R(385番目のプロリン→アルギニンの点突然変異=SNP)アリルを持つヒトが短時間睡眠になるという報告もあります (He2009Science)。
同名遺伝子(deleted in esophageal cancerDEC1)と混同した論文も散見するので注意!
時計機構に関与するDEC1, DEC2は"differentiation of human embryo chondrocytes"に由来し(Shen1997)、 正式シンボルはBHLHE40(=DEC1), BHLHE41 (=DEC2)です。
分岐図はClockBaseにあります(都合により要認証→パスワードはお問い合わせ下さい。)

ID2

ID2 (inhibitor of DNA binding 2, dominant negative helix-loop-helix protein)はHLHを持つ、転写抑制タンパクです。
Id2 のKO マウスは新しい光周期への順応が促進しており、また、1/4 がDD↓で無周期となりました。Id4 KO マウスの活動は正常でした (Duffield2009)。
ID1-4は、ほ乳類でHLHを持つドミナントネガティブな転写抑制タンパクとして単離されました。IDは他の転写因子とHLHで結合しますが、DNA結合に必要な塩基性領域を持たないので転写を阻害します(Sun1991)。ID遺伝子は免疫細胞や神経細胞の増殖分化に必要な遺伝子です。
ショウジョウバエでID のホモログと見られるのは emcです。この遺伝子は細胞の分化に必要ですが  (van Doren1991)、ショウジョウバエでの時計機能は未知です。

REV-ERB alpha, ROR alpha

ROR, REBERVは核内受容体(Nuclear Receptor, NR)のNR1ファミリーに属します。 両者とも、リガンドが不明か存在しないオーファン受容体で、RORE(後述)に結合します。他にPPARもNR1に 属します。詳しくはMaglichら 2001図2を御覧下さい。
REV-ERB alphaはBmal1のリズミックな発現に必要であるとマウスで示されました (Preitner2002)。 彼ら(スイス・ジェノバ大学シブラーSchibler研究室)は、マウスBmal1遺伝子の転写開始点を調べ、プロモーターに2つの RORE(ROR responsible Element: WAWNTRGGTCA)配列( W, R, Nについては▼を参照)が有ることに注目しました。 ROREに結合する転写因子としてはROR(α、β、γ),REV-ERB(α、β)が知られていました。 その中で発現の振動などからREV-ERB alphaに着目してノックアウトマウスを作成しました。REV-ERB alpha KOマウスでは一部の時計遺伝子の発現振動が小さくなりましたが、Per2, Cry2の振動は正常でした。KOマウスの活動リズムは恒常条件(DD=恒暗, LL=恒明)で正常より短いリズムを示し、明け方の光に対する反応が高まっていました。
REV-ERB alphaの語源はウイルス遺伝子 v-erbAのラットホモログ(Thra/c-erbA) を同定したところ、c-erb alpha遺伝子の逆向きに別の遺伝子がありRev-Erb alpha と名付けられました ( Lazer1989)(明示はないがREVerse-ERB alphaの略か)。両方ともNRなので興味を引いたのでしょうか。
なお、REV-ERB ALPHA のリガンドはヘム(heme, haem)であると報告されています (Yin2007)。
ROR alpha ROR はRAR-related orphan receptor の略です。マウスで時計の維持に必要な事が示されました(Sato2004)。 彼ら、(ホゲネシュHogenesch 研究室。当時スクリプス研究所。2008年現在ペンシルベニア大学医学部)はマイクロアレイ解析により複数の臓器で発現振動している遺伝子に注目して新規時計遺伝子のスクリーニングを試みました。 マウスBmal1遺伝子のプロモーターに蛍ルシフェラーゼをつないだBmal1::luc(::は異種間の融合を示す記号)を作成してHeLa細胞に導入し、さらに複数の臓器で発現振動している遺伝子を導入して、 Bmal1の発現への影響を観察しました。その結果、RORのalpha, gammaが強い発現誘導を起こしました。この発現増強はRev-erb alphaによって抑制されました。Roraには既存の変異マウスstaggerer系統 (Rorasg) が知られています(Sidman1962)。 staggererではBmal1などROREをもつ遺伝子の発現は下がりましたが、Per1,2には影響しませんでした。 staggererの行動はDDでの周期が短くなっていました。 RoraのプロモータにはE-Boxが複数有り、その発現振動はClock依存的でした。

Sirt1

NAMPT -SIRT ループ
SIRT1 - NAMPT ループ
(クリックで拡大。 パワーポイントファイルのDL)
単純な線の矢頭は遺伝子発現を示す。 ▼の矢頭は促進を示す。 楕円の矢頭は抑制を示す。 転写抑制タンパクは青系、正の転写因子は赤系で示した。 Wijnen 2009を参考に作図。 PER:CRYによる抑制ループは実際にはさらに複雑である事が指摘されている。
Sirt1(sirtuin (silent mating type information regulation 2 homolog)1)は元々酵母で見つかった遺伝子で、NAD+依存的なヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase,HDAC)です。
Clockにはヒストンアセチルトラスフェラーゼ(Histone acetyltransferase, HAT)活性が報告されています(土居雅夫 2006)。 HATは結果的に転写を促進しますが、逆にSirt1は転写抑制に働き時計遺伝子の発現調節への関与が示されています(Asher 2008中畑泰和 2008)。ただし、アセチル化の標的は時計遺伝子産物のようです。
詳しくはこちらのレビューへ→Foley 2008 Sicence Editor's Choice  (和文), Belden 2008(英文)

また、細胞内NAD+には概日リズムがあり(マウスでZT15頃に凸)、NAD+合成の律速酵素 NAMPT はCLOCK:BMALに依存した概日リズムがあります。NAMPT がNAD+をSIRT1に供給するというループが提唱されています (Ramsey 2009, 中畑泰和 2009, Wijnen2009概説, Eckel-Mahan&Sassone-Corsi2009総説)。

Sirt/Sir2は寿命との関係が古くから注目されてきた遺伝子でもあります。(寿命を含めた最近のレビュー:Imai2009 BBA

ただし、これらの時計機能は動物モデルでは示されていません。

Protein Kinase

リン酸化制御は多くのタンパク質で知られており、時計分子も例外ではありません。
dbt (dco)
Kinaseの時計機能はショウジョウバエdouble-time (dbt dco)で報告されました(Kloss1998, Price1998)
CKSN1E (CKIepsilon)
その後、ほ乳類ホモログであるCKI(カゼインキナーゼ1)の時計機能も明らかにされつつあります。実は、ほ乳類で初めて見つかった概日時計変異体はハムスター の tau 変異体でし たが (Ralph1988)、 その原因遺伝子は後になってCKIeと判明しました(Lowrey2000)。 マウスに遺伝子操作で tau 変 異を導入した場合でも同様に周期異常が観察されました(Meng2008)。
CSNK1D (CKIdelta)
Csnk1d (デルタ)はCsnk1e (イプシロン)とよく似ています。デルタについてもPER2のリン酸化(Camacho2001)など時計制御への関与が示されました。ヒトFASPS↓の原因遺伝子の一つとして報告されています(Xu2005)。
CKSN1ECSNK1Dの違い
イプシロンのノックアウトマウスの活動周期(Meng2008)や時計遺伝子のリズム(Etchegaray2009)には正常です。肝臓特異的なデルタのノックアウトマウスでは Per2 の発現周期に2時間の延長が見られ、デルタの役割の方が重要ではないかと議論されています(Etchegaray2009)。また、EpsilonとDelta両方に作用する阻害剤PF-670462、または、Epsilonに特性が高い阻害剤PF-4800567を培養細胞・マウスに与えたところ、前者だけリズムの遅延が見られた事も、Deltaの重要性を示しています(Walton2009)。
CKI変異体の活動周期は別ページ(ノックアウトの一覧) をご参照下さい。
なお、ほ乳類のカゼインキナーゼは6〜7つ、昆虫では3〜4つが知られています。

CK2alpha
Allada研究室では、pers 系統に対するEMSスクリーニングにより、ヘテロで3時間の長周期(野生型とくらべ)を示すTimekeeper (Tik)変異体、を得ました。そのTikの原因遺伝子はCK2alpha (casein kinase 2 の触媒サブユニット)でした(Lin2002)。
CK2の概日時計への関与は植物(スガノ1999)やカビ(Yang2002, Yang2003) 、ほ乳類(土屋2009)でも示されており、動植物の垣根を超えた共通時計遺伝子の一つです。

GSK3, SGG
sgg が概日リズムの維持に必要なことはショウジョウバエで示されました(Martinek2001)。 sggの機能喪失はショウジョウバエ・マウスともに致死ですショウジョウバエでは熱誘導トランスジェニックを用いて機能喪失変異体を成虫まで育て、そ の後に熱誘導を止めることで機能喪失の行動解析が行われました。
ほ乳類培養細胞でもGSK3の時計機能が示されています。GSK3BETA (GSK3B, GSK3β, グリコーゲン合成酵素キナーゼ3ベータ) の阻害剤として知られているリチウムにより、体内時計の周期が長くなることが示されています(飯高千里2005)。
GSK3Bは、REV-ERVA (REV-ERVα)の 55番目と 59番目のセリン残基をリン酸化することでREV-ERVAを安定化することが示されています (Yin2006)。
リチウムは躁うつ病の治療薬として有名ですが、投薬によるヒトの体内時計への影響はあまり報告されていません。

現在報告されている時計遺伝子産物(時計タンパク質)のリン酸化・脱リン酸化。
矢印は標的である事を示し、活性化を意味しない(Hamilton&Kay2008を元に作図)。

Protein Phosphatase (PP)

Protein phosphatase(PP, プロテインホスファターゼ, タンパク質脱リン酸化酵素)とはタンパク質からリン酸を除去する修飾酵素です。 PP1, PP2A, PP5について時計機構への関与が報告されています。 (ちなみに真核細胞のPPは約25種類 Honkanen2002)。
PPは基質特異性により、セリンスレオニン特異的、チロシン特異的、両方を認識する特異性の3タイプがあります。 時計遺伝子制御への関与が指摘されているPPはセリンスレオニン特異的タイプです。
PP1,PP2Aは複数のサブユニットから成り、触媒サブユニットはPP1c, PP2Ac(もしくはα)と呼ばれます。

特定の遺伝子というより阻害による解析が多く(ショウジョウバエではDN型の過剰発現実験Sathyanarayanan2004もある)、特定の「遺伝子」へのリンクは割愛しました。

Protein phosphatase (プロテインホスファターゼ, タンパク質脱リン酸化酵素)の種別

slmb

slmb(スリム) はショウジョウバエ概日リズムに必須の遺伝子です(Grima2002, Ko2002)。その機能喪失変異体は致死ですが、熱誘導型トランスジェニックにより限定回復を行って、成虫の行動が測定されました。その成虫は多くが無周期となり、活動リズムを示した個体も周期が延長していました。
1つのF-Boxと7つのWD40ドメインを持つユビキチンリガーゼです。DBTによりリン酸化されたPERとSLMBが結合し、PERをユビキチン化することが示されています。
ほ乳類のslmbホモログは2つあり、一方の Btrc KOマウスはDDで正常な活動リズムを示しました。他方のFbxw11KOマウスは致死です。
slmb は元々、 Hh/Wg 経路の調節因子として同定された遺伝子で、supernumerary limbsの略です(Jiang1998)。

Fbxl3, Fbxl21, jetlag

Fbxl3, Fbxl21はF-Boxタンパクで、SCF複合体 (Skp1, Cullin, F-Box)で標的タンパク質の認識に働きます。
Fbxl3の時計機能は、マウスの長周期変異体Overtime(Siepka2007), After-hours (Godinho2007) の原因遺伝子として同時に発見されました。
Fbxl21はFbxl3と非常によく似た遺伝子で(ヒトでのアミノ酸相同性は70%)、恐らくパラログだと思われます。時計への関与が示されています (Dardente2008)。
jetlagの変異体は光刺激によるCRY依存的なTIM分解ができなくなる新規遺伝子で、ジェットラグ(時差ぼけ) と名付けられました(Koh2006)。 やや遅れて発表された論文では、jetlagの作用はTIMの多型に依存します。その論文ではハリー・ポッターと炎のゴブレットにちなんで Veela と名付けられましたが先にjetlagとされたので正式名称にはなりませんでした(Peschel2006)。 jetlagはほ乳類ではFbxl15として登録されていますが、時計への関与は分かっていません。

時計出力遺伝子の各論

時計出力遺伝子とは遺伝子変異したときに、活動リズムが無くなったり変化しますが、概日リズムリズムは正常な遺伝子を指します。ショウジョウバエの時計出力遺伝子の場合、歩行活動はリズムが失われても羽化のリズムやPerなどの発現リズムが正常だったりします。

Fmr1

Fbxl3, Fbxl21はF-Boxタンパクで、SCF複合体 (Skp1, Cullin, F-Box)で標的タンパク質の認識に働きます。
Fbxl3の時計機能は、マウスの長周期変異体Overtime(Siepka2007), After-hours (Godinho2007) の原因遺伝子として同時に発見されました。
Fbxl21はFbxl3と非常によく似た遺伝子で(ヒトでのアミノ酸相同性は70%)、恐らくパラログだと思われます。時計への関与が示されています (Dardente2008)。
jetlagの変異体は光刺激によるCRY依存的なTIM分解ができなくなる新規遺伝子で、ジェットラグ(時差ぼけ) と名付けられました(Koh2006)。 やや遅れて発表された論文では、jetlagの作用はTIMの多型に依存します。その論文ではハリー・ポッターと炎のゴブレットにちなんで Veela と名付けられましたが先にjetlagとされたので正式名称にはなりませんでした(Peschel2006)。 jetlagはほ乳類ではFbxl15として登録されていますが、時計への関与は分かっていません。

Lark

larkはRNA結合タンパク質をコードする遺伝子です。時計出力にかかわるショウジョウバエ遺伝子として発見されました (Newby1991)。 P因子(トランスポゾン=動く遺伝子)をランダムに挿入した1063系統の変異体の中から羽化リズムに変(羽化の時刻が早くなる)化のある系統の原因遺伝 子としてlarkが単離されました。変異体の歩行活動は明暗や温度周期に同調し、恒常暗でも正常なリズムを示しました。
ほ乳類では、larkがPer1 mRNAに結合して翻訳を調節する可能性も指摘されています(程肇2008第31回日本神経科学会大会)。

時計機構に関与するRNA結合タンパクの遺伝子としてはNONO(ヒト, NONO; マウス, Nono; ショウジョウバエ, nonA)が報告されています(Brown2005)。ショウジョウバエnonA変異体は活動やtim遺伝子のリズムがほぼ消失し時計機構に重要であることが示されましたが、「時計遺伝子」か「出力遺伝子」とすべきか確定的ではありません。

時計入力遺伝子の各論

時計入力遺伝子(Clock input genes)には、「時計中枢細胞で働く遺伝子」「視覚器官(主に目)で働く遺伝子」があります。
入力遺伝子が失われても恒常条件での行動リズムは維持されますが、短い光パルスによる位相のズレ、光周期のズレへの順応(時差ぼけ実験)に変化が見られます。
「時計中枢細胞で働く遺伝子」としては、ショウジョウバエでは時計中枢細胞で光を受容するCRYやその下流にあるJETが、鳥類では松果体のピノプシンが該当するでしょう。
ほ乳類では時計中枢細胞による光受容は知られておらず、眼球からの情報に頼っています。なお、DEC1, 2やPER1は光によるリセットに関与することが報告されています。

Opsin

見えない光受容色素の最大吸収波長と分布
波長(λmax) ヒト トリ ハエ
メラノプシン 481 nm(マウス)*1 △*2
ピノプシン 468 nm(ニワトリ)
光受容型Cry 450 nm(ハエ)
* 1.rd clマウス網膜(桿体錐体細胞がない)の光応答(Hattar2002)。 ラット神経節細胞の特性も同様で484nm(Berson2002)。 培養細胞にマウスメラノプシンを導入した実験では424 nmが報告されている(Newman2003)。
*2. 昆虫の視覚オプシンはメラノプシンと同様の無脊椎動物型。
オプシン(ロドプシン)は視覚に必要であるほか、体内時計への光情報の入力にも重要です。
ほ乳類では時計リセットに必要なのは眼球で、眼球を失うと体内時計を正しくリセットするのは難しくなります。(なお、網膜変性で全盲になられた方でも後述のメラノプシンが機能していれば体内時計のリセットは可能であると考えられています。)
ほ乳類の眼の網膜には桿体細胞(rod cell)と錐体細胞(cone cell)があり、これらの細胞にあるオプシンによって物の形や色を見ることができます。
最近、網膜神経節細胞の一部(2%未満)でメラノプシンが発現していることが分かりました。メラノプシンは物が見えないオプシンですが、網膜の視覚オプシンととのみ体内時計のリセットに働くことが分かりました(Hattar2002, 2003)。
鳥類では松果体(頭頂部にあり「第3の目」とも呼ばれれる)にピノプシンがあり、直接光を受容して時計をリセットできます(岡野1994)。

晴天の青空のスペクトル。今回のピークは537 nm(緑)。
700以上は正確に測れていない。着色は正確ではない。
横軸は波長(nm), 縦軸は平均を1としたときの相対強度。
これらのメラノプシン、ピノプシン、さらに上述の昆虫Cryは「物は見えないが、時計をリセットする色素」で、共通して「青〜緑の光」に最も強く反応します。これは太陽光のピークと同じです。太陽に合わせて進化したのかもしれません。




オプシン進化1
オプシン進化の模式図
オプシンの進化は右図のように考えられています。進化的にはメラノプシンは昆虫のオプシンと同類の「無脊椎動物型」に分類されます( メラノプシンはカエル皮膚の色素細胞で見つかりました)。
我々は「ヒト視覚オプシン」「メラノプシン」を持ち、昆虫は「昆虫型オプシン」を持つ事が分かっています。
無脊椎動物型と脊椎動物型では下流のシグナル伝達も異なり、何時どのように分岐したかは謎です。光受容(特に視覚)の進化には光受容細胞の構造的にも大きな特徴があり、 ハエ・イカなど無脊椎では感桿型、ヒトなど脊椎動物では微絨毛型です。両者の共通祖先に近い特徴を持つとされるゴカイは両方のタイプが見つかっています  (Arendt2004)。 また、軟体動物であるホタテ貝では網膜に感桿・絨毛タイプを持っています(小 島2006総説参照)。
オプシン進化2
ヒトの視覚オプシン進化の模式図
我々の祖先(魚だった時)は5つのオプシンを持ってい ました。多くの脊椎動物は5つとも持っていますが、哺乳類には青と緑を失い、色が分かりません。ヒトはUVを青に、赤を重複させて一方を緑にして「RGB (赤緑青)」の三原色フルカラーの視覚を取り戻したと考えられています(厳密には、黄緑、緑と青で比率はR:G:B = 3:6:1)。
 赤緑色盲(多型と呼ぶべきか)は赤・緑が1つに戻った状態で、先祖返りともいえるでしょう。色盲について詳しくは「 色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション 」「色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法」をご参照下さい。
ちなみに、マウスでは錐体細胞は緑とUVのオプシンを持ちます。網膜の下半分UVに、上半分に緑が多く、下半分で青空を、上半分で緑色の大地を見るのに適しているのかもしれません(網膜では上下反転→想像図)。普通は一つの細胞に1つのオプシンが出るのですが、一つの細胞に緑とUVが両方出るので色は分からないでしょう(Applebury2000)。
昆虫では複眼(compound eye)、単眼(ocelli)、HB eyelet、時計中枢のCRY(CRYの説明へ▲)が時計のリセットに働きます。 眼と、HB eyeletはロドプシンで光を受容します。
色覚はオプシンの波長で決まり、我々人間の三原色は赤・青・緑ですが、昆虫では紫外線・青・緑です。 昆虫オプシンの進化系統樹はこちらの論文Velarde2005に分かり易い図があります。 ショウジョウバエオプシンの波長については、こちらの論文Salcedo2003に分かり易い図があります。 ショウジョウバエ複眼の構造やオプシンの発現パターンはDesplan博士のpdfファイルやこちら( Desplan研の山口聡子さんの報告)に分かり易い説明があります。なお、HB eyletでは、幼虫では(BOと呼ばれる)Rh5, Rh6の両者が出ていますが、成虫では細胞死とオプシンスイッチ現象により、最終的にRh6細胞となる事が最近報告されました(Sprecher2008)。
ショウジョウバエ概日時計の オプシンレベルの研究はほとんど無く、我々はRh1(ninaE)とRh6が赤色光の受容に必要な事を示しました(花井修次2008)。また、CRY, Rh1, Rh5, Rh6が緑〜黄色光への順応にかかわることを示しました(花井修次2009)。
ショウジョウバエの体内時計への光入力を研究するのによく使われる変異体には以下のような遺伝子突然変異があります。

ショ ウジョウバエ複眼変異 Eyeless mutants of Drosophila
gene mutant 複眼(Compound eyes) 単眼(Ocelli) HB eyelet
so (sine oculis) so [1] (浸透度悪い) O - X X O
gl (glass)  gl [60j]他  X X X
eya (eyes absent)  eya [2] X O O

Ppar

Ppar (peroxisome proliferator activated receptor ペルオキシソーム増殖因子、ピーパー、ピー・ピー・エー・アール)にはα・β(=δ)・γのよく似たファミリー遺伝子があります。 脂質代謝に極めて重要な核内受容体で、PPAR alphaのアゴニスト(作動薬)は高脂血症の治療薬にもなっています。 当研究グループの大石らが肝臓でmRNAの発現量に概日振動のある遺伝子をマイクロアレイで解析した結果、Ppar alphaなど脂質代謝に関わる遺伝子群が顕著なリズムを持つことが分かりました 大石勝隆2003。 Ppar alpha作動薬であるフィブラート系高脂血症治療薬にはマウスの活動リズムを早める(=早起きにする)働きが有ることが分かりました 白井秀徳2007報道発表2007年4月産総研 TODAY2007年7月
Ppar ファミリーの結合配列はPPRE (peroxisome proliferator response elementsペルオキシソーム増殖因子応答配列)と呼ばれ、PPREのコンセンサス配列は5'-AGGTCA N AGGTCA-3' ( Kliewer1992Zhang1992Osumi1992Tugwood1992) です。 PPARはRXR (retinoid X receptor レチノイドX受容体)とヘテロ二量体でPPREに結合して転写を活性化します。 なお、RXRはRAR (Retinoic acid receptor レチノイン酸受容体)とも二量体を形成します。 なお、レチノイド、レチノイン酸はビタミンA誘導体です。 核内受容体の系統樹は詳しくはMaglich2001図2を御覧下さい。
Clock/Bmal複合体にRARα、RXRαが結合して転写を活性化するという報告もあります(McNamara2001)。
遺伝子 PPAR RXR RAR
αβγ alpha delta (beta) gamma alpha beta gamma alpha beta gmma
Mouse Ppara Ppard Pparg Rxra Rxrb Rxrg Rara Rarb Rarg
Human PPARA PPARD PPARG RXRA RXRB RXRG RARA RARB RARG


注釈・用語

核酸の略号

IUPACによる核酸の略号は以下の通りです。原典はこちら (Eur. J. Biochem. vol:150, pp:1-5 1985)
転写因子の認識サイトのWやRが分かりづらいという声があるので追記しました。
(なおRNAではTがUです。念のため)
略号
Abbreviation
塩基
Meaning
由来(原著の記述に準ずる)
Origin
A A Adenine アデニン
B G or T or C not-A アデニン以外(Aの次でB。以下同様)
C C Cytosine  シトシン
D A or G or T not-C シトシン以外
G G Guanine  グアニン
H A or C or T not-G グアニン以外
K G or T Keto  ケトン
M A or C aMino  アミノ
N A or C or G or T aNy  全て
R A or G puRine  プリン
Y T or C pYrimidine  ピリミジン
S G or C Strong interaction 強い水素結合
T T Thymine チミン
V G or C or A not-T, not-U チミン以外、ウラシル以外
W A or T Weak interaction 弱い水素結合
Nは「どれでも良い」という意味ですが「不明」でも使われます。
ゲノム配列の不明部分によくNNNNと使われています。
Xを使わないのは Xanthine (キサンチン※基本的に核酸には含まれない)という塩基との混同があり得るからです。
tRNAなどの核酸にはACGTU以外の修飾塩基も含まれています(DDBJ のModified Base Abbreviations一覧表を参照)。

DD (Dark: Dark), LD (Light: Dark), LL (Light: Light)

Zeitgeber time と Circadian time
明暗条件(Zeitgeber time)と恒常条件(Circadian time)を示すタイムバー。
明暗1日分、恒暗1日分を示した。
主観的昼はグレーや斜線で示される事が多い。
DD は恒常暗黒条件を意味します。
LD は明暗条件を意味します。一般的に12時間の明期、12時間の暗期を用います。LDは時刻を与えられている、という意味でZeitgeber time (ZT、読み方はツァイトゲーバータイム、ズィーティー、ゼットティー)で時刻を表記します。一般にLDでの時刻は明期の始まりをZT0とします。実時間(Clock Time)で06:00(=ZT0)〜18:00(=ZT12)を明期とする表記法も見受けます。
LL は恒明条件を意味します。植物は光が必要なので、DDではなくLLで概日リズムを観察します。鳥類は暗黒だと生活できないので、暗めのLLで恒常条件の解析を行います。

DD若しくはLL条件での時刻は、 CT (Circadian Time) で示します。CT0〜CT12を主観的昼(Sunjective day)、CT12〜CT24を主観的夜(Subjective night)と呼びます。
観察されたリズムや変動が、自律的な「概日性」を持つと示すためには、DD、LLでの観察が必要です。LDでのリズムは概日リズムではなく日周リズム、日内変動と呼ぶべきですが、曖昧に使われている場合も見られます。

FASPS

Familial Advanced Sleep Phase Syndrome (家族性睡眠相前進症候群)は睡眠時刻が一般と比べて3〜4時間早まる睡眠障害です。ただし、日常生活の周期はほぼ24時間です。
常染色体優性の遺伝形式を取り、その原因遺伝子としてPER2(↑)Toh2000)、 およびCSNK1D(↑) (Xu2005)の多型(SNPs)が報告されています。

時計遺伝子の多型(SNPs)

上記のFASPSの他、多くの時計関連遺伝子に多型が報告されています。
概日リズムへ以外では19の遺伝子を解析した結果、 NPAS2 と PER2 の多型がメタボロックシンドロームのリスク因子になる(NPAS2→高血圧、PER2→高血糖)と報告されています(Englund2009)。


遺伝子変異の表記

1つの遺伝子には正常遺伝子を含めて様々なアリル(allele, 突然変異, 多型など)が存在する場合があり、以下のように記述します(Hermann J Muller (マラー)による分類1932年、文献は多分こちらのpdf)。ただし、アリルは遺伝子自体を指します。
一対の遺伝子の場合その表現型は、おおむね以下のようになります。