北海道中央部を南北方向に伸びる白亜紀の収束域である空知-エゾ帯は,前弧海盆堆積物,超苦鉄質岩類 と高圧型および低圧型の変成岩類(神居古潭帯)を含む付加体から構成される.
これらのうち超苦鉄質岩類は,北海道内の面積比で1%を越える広い分布を示し,ジュラ紀後期から白亜紀にかけての海洋地殻起源の火山性岩石と堆積物がさまざまな程度に変成したものとともに,
構造的に混合したものとされている (Komatsu et al., 1992).この混合体には,場所によって蛇紋岩メランジュ(知駒岳:加藤ほか,1979;夕張岳: Nakagawa and Toda, 1987)や
オフィオライト断片(幌加内:Asahina and Komatsu, 1979)としての露出が認められる.
岩内岳周辺地域に分布する超苦鉄質岩類は本帯の中でも大規模な分布を示し,残存鉱物や組織によりハルツバージャイトとダナイトを原岩とする構造的に安定した層状岩体であることが知られている(新井田・加藤,1978). 沙流川岩体と名づけられたこの蛇紋岩体は,加藤(1978)により詳細な記載がなされ,岩体が西へ傾斜していることや蛇紋岩化の過程が明らかにされた.これらによれば,岩体の東側の部分は岩内岳の露天掘り鉱山(耐火性のかんらん石鉱山)を含み, 新鮮なダナイトが多く分布している.また,ハルツバージャイトはダナイトとの層状構造を示しながら,採掘 場へ至る岩内林道沿いにほぼ連続的に露出し,完全に 蛇紋岩化したものから新鮮なかんらん岩まで段階的に産出している. この部分の残存かんらん石は,フォルステライト(Fo)成分が89から94と高い.さらに,全岩組成のアルミニウム(Al2O3:0.20-1.50wt%)やチタン(TiO2:<0.01wt%)が極端に低い値を示す(通産省,1990,1991). こうした特徴から,本岩体の由来については,マグマ成分を吐き出したために強度に枯渇したオフィオライトを形成していたダナイトやハ ルツバージャイトであると推定された(加藤・中川, 1986).
その後,マントル内におけるマグマ形成と母岩であるかんらん岩との反応の観点からの検証(e.g. 田村ほか,1999, Tamura and Arai, 2005)が多く進められている. これに関連して,岩体内に胚胎するクロム鉱床の形成 モデル(Arai, 1997)や,白金族元素に関する研究(中川,1999)が進められたが,蛇紋岩化に関する研究は滞った状態にある. さらに岩石磁気学的には,Gautam et al.(1998)による予察的な報告がなされただけに留まっている.
岩内岳周辺地域に分布する超苦鉄質岩類は本帯の中でも大規模な分布を示し,残存鉱物や組織によりハルツバージャイトとダナイトを原岩とする構造的に安定した層状岩体であることが知られている(新井田・加藤,1978). 沙流川岩体と名づけられたこの蛇紋岩体は,加藤(1978)により詳細な記載がなされ,岩体が西へ傾斜していることや蛇紋岩化の過程が明らかにされた.これらによれば,岩体の東側の部分は岩内岳の露天掘り鉱山(耐火性のかんらん石鉱山)を含み, 新鮮なダナイトが多く分布している.また,ハルツバージャイトはダナイトとの層状構造を示しながら,採掘 場へ至る岩内林道沿いにほぼ連続的に露出し,完全に 蛇紋岩化したものから新鮮なかんらん岩まで段階的に産出している. この部分の残存かんらん石は,フォルステライト(Fo)成分が89から94と高い.さらに,全岩組成のアルミニウム(Al2O3:0.20-1.50wt%)やチタン(TiO2:<0.01wt%)が極端に低い値を示す(通産省,1990,1991). こうした特徴から,本岩体の由来については,マグマ成分を吐き出したために強度に枯渇したオフィオライトを形成していたダナイトやハ ルツバージャイトであると推定された(加藤・中川, 1986).
その後,マントル内におけるマグマ形成と母岩であるかんらん岩との反応の観点からの検証(e.g. 田村ほか,1999, Tamura and Arai, 2005)が多く進められている. これに関連して,岩体内に胚胎するクロム鉱床の形成 モデル(Arai, 1997)や,白金族元素に関する研究(中川,1999)が進められたが,蛇紋岩化に関する研究は滞った状態にある. さらに岩石磁気学的には,Gautam et al.(1998)による予察的な報告がなされただけに留まっている.
文献一覧
- Arai, S.(1997) Control of wall-rock composition on the formation of podiform chromitites as a result of magma/peridotite interaction. Resource Geol., 47, 177-187.
- Asahina, T. and Komatsu, M.(1979)The Horokanai ophiolitic complex in the Kamuikotan tectonic belt, Hokkaido, Japan. Journal of Geological Society of Japan, 85, 6, 317-330
- Gautam, P., Katoh, T. and Tanaka, K. (1998) On the use of Anisotropy of Magnetic Remanence to Estimate the Rotation of Faulted Blocks Within the Mukawa Serpentinite Body in Hokkaido, Japan. Proceedings of the 3rd International Symposium on Recent Advances in Exploration Geophysics in Kyoto, RAEG’98
- 加藤孝幸(1978)神居古潭帯の沙流川超塩基性岩体について.地球科学,32,273-279.
- 加藤孝幸・新井田清信・渡辺暉夫(1979)神居古潭構造帯,知駒岳周辺の蛇紋岩メランジ帯.地質雑,85,279-285.
- 加藤孝幸・中川 充(1986)神居古潭構造帯超苦鉄質岩類の由来.地団研専報,31,119-135.
- Komatsu, M., Shibakusa, H., Miyashita, S., Ishizuka, H., Osanai, Y. and Sakakibara, M.(1992)Subduction and collision related high and low P/T metamorphic belts in Hokkaido (C01). 29th IGC Field Trip Guide Book,5, Geological Survey of Japan, 1-61.
- Nakagawa, M. and Toda, H.(1987)Geology and petrology of Yubari-dake serpentinite melange in the Kamuikotan tectonic belt, central Hokkaido, Japan. Journal of Geological Society of Japan, 93, 733-748.
- 中川 充(1999)神居古潭構造帯超苦鉄質岩類の白金族元素存在度.地質学論集,52,69-76.
- 新井田清信・加藤孝幸(1978)北海道中軸帯の超苦鉄質岩類.地団研専報,21,61-81
- 田村明弘・牧田宗明・荒井章司(1999) 北海道,神居古潭帯のかんらん岩の成因.地質学論集,52,53-68
- Tamura, A. and Arai, S.(2005) Unmixed spinel in chromitite from the Iwanai-dake peridotite complex, Hokkaido, Japan: A reaction between peridotite and highly oxidized magma in the mantle wedge. American Mineralogy. 90, 473-480.
- 通商産業省(1990)平成元年度希少金属鉱物資源の賦存状況調査報告書,日高南部地域,通商産業省,205p.
- 通商産業省(1991)平成 2 年度希少金属鉱物資源の賦存状況調査報告書,日高南部地域,通商産業省,156p.
- ※
- 中川 充・渡辺 寧・紀藤典夫・酒井 彰・駒澤正夫・広島俊男(1996) 20万分の1地質図幅「夕張岳」. 地質調査所.
- Miyoshi, A., T. Kogiso, N. Ishikawa and K. Mibe (2014) Role of silica for the progress of serpentinization reactions: Constraints from successive changes in mineralogical textures of serpentinites from Iwanaidake ultramafic body, Japan. American Mineralogist, Vol. 99, p. 1035-1044.
- 磁化を担っている鉱物は蛇紋岩化作用で形成されたマグネタイトである
- インパルスマグネタイザーを用いてZ軸に沿ってIRMの着磁実験を行ったところ、400mT近辺で飽和した。
- 3軸IRMの段階熱消磁実験を行った。低保磁力成分と中保磁力成分は550-600℃で磁化を失っている。
- 振動型磁力計を用いて得られたJs-Tカーブから推定されるキュリー温度が560-620℃。平均すると590℃でマグネタイトの理論値の580℃に近い。
- 低温磁化測定装置(MPMS-XL5)を用いた磁化測定の結果、110-120Kで磁化の急変点(フェルウェイ点に相当する)が見られた。
- Reaction (1)
2Mg1.825Fe0.175SiO4+3H2O=1Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4+1Mg0.75Fe0.25(OH)2
olivin + water = serpentine + brucite
- Reaction (2)
Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4 + Mg0.75Fe0.25(OH)2 + X SiO2(aq) =
(1+0.5X)Mg2.8Fe0.2Si2O5(OH)4 + (0.944-1.556X)Mg0.9Fe0.1(OH)2 +
0.019(1+X)Fe3O4 + (0.036+0.536X)H2O + 0.02(1+0.02X)H2
serpentine + brucite + silica = serpentine + brucite + magnetite + water + hydrogen
- Reaction (3)
3Mg0.9Fe0.1SiO3+2H2O=Mg2.7Fe0.3Si2O5(OH)4+SiO2
orthopyroxene + water = serpentine + silica
- Reaction(4)
2Mg1.8Fe0.2SiO4+2.6H2O + 0.6SiO2(aq)= 1.3Mg2.76Fe0.24Si2O5(OH)4 + 0.0432Fe3O4
olivin + water + silica = serpentine + magnetite
- DuniteとHarzburgiteの違い:
同じ条件のときかんらん石のほうがopx(斜方輝石)よりも蛇紋石になりやすい。最終的にはopxも蛇紋石になってしまう(Reaction 3)。
- かんらん石はFoが大部分でFaが混じるわけだが、Faの方に鉄が入っているので、原岩のFaの割合が生成されるマグネタイトの量に効いてくる。
- しかし、マグネタイトのできる量は蛇紋岩のほんの数%であるので、おおざっぱな見積もりでは密度はかんらん石3.3g/cm3から蛇紋石2.5g/cm3へのリニアな変化と考えてよい。
- 蛇紋岩化作用(Fo90)の一般式(Eckstrand,1975)
30*(Mg0.9Fe0.1)2SiO4 + 41*H2O = 15*Mg3Si2O5(OH)4 +2*FeOFe2O3 + 9*(Mgx,Fe1-x)(OH)2 + 2H2
- 帯磁率→マグネタイトの体積比にほぼ比例
- マグネタイトの体積比→原岩が同じであれば、ほぼ蛇紋岩化度に比例するはず
- Miyoshi et al.(2014)によりBach et al.(2006)で言われているような、2段階の蛇紋岩化が確認された。
- ハルツバージャイトの蛇紋岩化作用
初期(40 Mol %くらいまで)には、比較的鉄に富む蛇紋石と鉄に富むブルース石が生成する(磁化率が小さい)
- 2Mg1.825Fe0.175SiO4+3H2O=1Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4+1Mg0.75Fe0.25(OH)2
olivin + water = serpentine + brucite Reaction(1)
Reaction(4)のsilicaはReaction(3)の反応から供給される。
- Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4 + Mg0.75Fe0.25(OH)2 + X SiO2(aq) =
(1+0.5X)Mg2.8Fe0.2Si2O5(OH)4 + (0.944-1.556X)Mg0.9Fe0.1(OH)2 +
0.019(1+X)Fe3O4 + (0.036+0.536X)H2O + 0.02(1+0.02X)H2
serpentine + brucite + silica = serpentine + brucite + magnetite + water + hydrogen
- 3Mg0.9Fe0.1SiO3+2H2O=Mg2.7Fe0.3Si2O5(OH)4+SiO2
orthopyroxene + water = serpentine + silica
- 2Mg1.8Fe0.2SiO4+2.6H2O + 0.6SiO2(aq)= 1.3Mg2.76Fe0.24Si2O5(OH)4 + 0.0432Fe3O4
olivin + water + silica = serpentine + magnetite
- 2Mg1.825Fe0.175SiO4+3H2O=1Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4+1Mg0.75Fe0.25(OH)2
- Miyoshi et al.(2014)によりBach et al.(2006)で言われているような、2段階の蛇紋岩化が確認された。
- ダナイトの蛇紋岩化作用
磁鉄鉱を産出せず、Reaction(1)だけが起きている
- 2Mg1.825Fe0.175SiO4+3H2O=1Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4+1Mg0.75Fe0.25(OH)2
olivin + water = serpentine + brucite
- 2Mg1.825Fe0.175SiO4+3H2O=1Mg2.9Fe0.1Si2O5(OH)4+1Mg0.75Fe0.25(OH)2
露頭写真
採石場.(2005年9月当時)index-map | |
岩内林道のNo22あたり。index-map | |
岩内林道のNo33-36あたり。index-map | |
岩内林道のNo45-46あたり。index-map | |
岩内林道露頭。index-map | |
岩内林道露頭。index-map | |
岩内林道のNo29。蛇紋岩化は表面から起こる。最終的には岩体全部に及ぶはずであるが29で見られるように途中で止まってしまったものもある。 左:蛇紋岩化が高いχ=38.7SI、右:蛇紋岩化が低いχ=1.4SI。磁化率は表面を磁化率計(SM30 ZH-instruments)で測定。 index-map |
|
岩内林道のNo30。HarzbergiteとDuniteは混在している。 上:Harzbergite;χ=4.23SI、下:Dunite;χ=3.11SI。磁化率は表面を磁化率計(SM30 ZH-instruments写真下の方に写っている)で測定。 index-map |
サンプリングサイト
○印が森尻・中川(2009)、□印がMiyoshi et al.(2014)
超苦鉄質岩体の分布(日本シームレス地質図より)
右から糠平岩体、沙流川岩体、鵡川岩体
サンプルは岩内岳採石場(Iw92)、岩内林道(Ir89)、ボーリングサイト(2MAHN-3)の3カ所で得られたものを使った。
Iw92からは17個、Ir89からは50個、2MAHN-3からは12個。いずれも方位付はなされていない。
表面の磁化率
- 林道部分 赤:高磁化率;白:低磁化率
採石場部分の蛇紋岩化度(鏡下観察によって低、中、高の3段階に分けた)
サンプルの内訳
- Site_Iw89
岩内林道で最も露頭が連続する区間約120mの長さに亘って1989年に得られた岩石試料50個。 - Site_IR92
岩内岳採石場で1992年に得られた岩石試料17個。 - Site_2MAHN-3
日東鉱山で1990年に得られたボーリングコアのうち、北海道支所の岩石庫に残されていた岩石試料12個。
No(depth in m) Rock type lithofacis 67.0 serpentinite Harzbergite 90.5 serpentinite Harzbergite 92 serpentinite Harzbergite 98.6 serpentinite Harzbergite 101.5 serpentinite Harzbergite 106.7 serpentinite Harzbergite 114.7 serpentinite Dunite 117.6 serpentinite Dunite 125 serpentinite Dunite 139.4 serpentinite Dunite 148.5 serpentinite Dunite 199.4 serpentinite Dunite
岩石磁気データ
整理中