岩石磁気の基礎の基礎 その3

産総研
last updated 2023.9.22
昔の地球磁場の強さを推定する
the successive triple heating method(Coe, 1967)
  • Ogishima et al.(2000)の例
    • STEP1:温度T1のNRMを決める
      • 温度T1にセットした電気炉(空気中)で20分熱する。
      • μメタルのような低磁場環境を作り、室温まで冷却する。
      • 冷めたら磁化と帯磁率を測定する。
    • STEP2:温度T1で+X方向のTRMを付加する
      • 温度T1にセットした電気炉(空気中)で20分熱する。
      • +X方向に50μTの磁場をかけた中で、室温まで冷却する。
      • 冷めたら磁化を測定する。
    • STEP3:温度T1で-X方向のTRMを付加する
      • 温度T1にセットした電気炉(空気中)で20分熱する。
      • -X方向に50μTの磁場をかけた中で、室温まで冷却する。
      • 冷めたら磁化を測定する。
    • STEP1-3の作業を例えば50℃きざみで700℃くらいまで繰り返す(室温、100℃、150℃、200℃、、、など。ものによる。)
    • いくつかの段階でpTRMチェックを行う。
      • 例えば300℃でSTEP1-3の測定を行った後に、250℃でSTEP1-3の実験を行う。
      • データが前にやった250℃の実験と合うかどうかチェックする。
    • a Roman ruin in Slovakia
      • (a) Arai diagram,
        (b)NRMの段階熱消磁と付加したTRMの磁化強度,
        (c)方位付なしのサンプルでの段階熱消磁における磁化方位


    • Arai diagram(Arai,1963)
    • 縦軸:各温度ステップでの消磁後のNRM 強度
      室温での値を1とする。
      NRM(Ti) = NRM(Ti)/NRM(T0)
      横軸:各温度ステップでの着磁後のPTRM 強度
      PTRM(Ti) =(TRM(Ti)-NRM(Ti))/NRM(T0)
      磁化の向きは多少変化するので、PTRM の大きさを求めるときは、ベクトルの引き算をする。
    • 直線の傾きを求める。この時代の古地球磁場強度は現在の地球磁場強度×直線の傾きになる。
      当然ながら複数のサンプルで実験し平均と分散を計算する。
  • Tauxe(2012)より

    • Figure 10.3: Illustration of step-wise heating method for determining absolute paleointensity.
      a) Thermal demagnetization of NRM shown as filled circles and the laboratory acquired pTRM shown as open symbols.

      b) Plot of NRM component remaining versus pTRM gained at each temperature step.
      Triangles are the second in-field heating step (pTRM check step) at a given temperature.
      The difference, e.g., δ300, is an indication of possible alteration during the heating experiment.

  • 熱に弱いサンプルではTRMを付加する代わりに、交流消磁をしてARMを付加するやり方もあるらしい。

磁性鉱物を化石のように使って層序を復元する
  • いろいろな測定パラメータがあり、測定が容易なものから、高度で高価な装置が必要なものまでいろいろある。
    論文を参考にして、どういう研究ではどのようなデータがとられているのか参考にするとよい。
  • 例えば、「火砕流堆積物」研究で必要なデータは→例)
    この研究例で出されたデータは(多分標準的)
    NRM、磁化率、段階交流消磁、段階熱消磁の測定。(各サイトの偏角、伏角、α95、k、VGP)
  • 「火山灰層の対比」研究で必要なデータは)
    NRM、磁化率、段階交流消磁、段階熱消磁の測定。(各サイトの偏角、伏角、α95、k、VGP)
磁性鉱物がたまった環境を復元する
        
  • 研究で必要なデータは→例)

    • 試料採取
      • 磁性測定用試料は、船上でコアを縦方向に半割
      • その表面に1辺約2.2cmのポりカーボネイト製の立方体容器 (キューブ : 内容積7cc) を連続的に挿入して採取する。
      • キューブ試料は乾燥による変形や変質を防ぐため, 100 個 ずつプラスチックケースに収納し,厳重にシールして分析するまで冷蔵保存する。
    • 基本測定
      • 自然残留磁化(NRM)
        • 磁化強度によってスピナー磁力計や超電導磁力計を使って測定する
          ピストンコパラーやグラビティーコアラーを用いて採取されたものは、 チューブの中で堆積物が回転している可能性があるので通常偏角データは用いない。
      • 初磁化率(χ)
        • Bartington社製MS2磁化率計などを使って測定する。
          機械によっては低周波モードと高周波モードがあり、通常、低周波モードでの測定結果を初磁化率として採用する。

          マグネタイトの粒径と磁化率の関係(鳥居(2005)より)
      • 非履歴性残留磁化(ARM)
        • 川村ほか(2003)の例:交流消磁装置 ( 夏原技研製 DEM-93 ) の消磁コイル内の中心に置いた小さなソレハイドコイルに,ピーク時 1OOmT の交流磁場の振動方向と同じ方向に 0.lmT(80A/m) の 直流磁場を同時に作用させることで獲得させた。
        • ARM の値は、同じ方向の自然残留磁化成分を補正し直流磁場の値で割って単位 乾燥重量当たりの ARM磁化率(χARM:m3/kg) に換算した。
        • マグネタイトの粉末を用いた実験(Maher,1988):χARM~8×10-3m3/kgは粒子の直径の平均が0.05×10-6m。8×10-4m3/kgは粒子の直径の平均が1×10-6m。
      • 等温残留磁化(IRM)
        • ARMと直交する方向にパルスマグネタイザーを用いて2.5Tの磁場をかけて着磁させた。(飽和等温残留磁化;SIRM)
          ここでかける磁場は機械の出力にもよる。1Tの例もある。
        • SIRMと反対方向に0.3Tの磁場をかけて着磁した。(IRM-0.3T
        • Bloemendal et al(1988,1992)に従って、S比とHIRMを計算する。
          • S比:S-0.3T={(-IRM-0.3T/SIRM)+1}/2
            S-0.3T比は値が 1 に近いほど、試料中に0.3Tより残留保磁力の低い強磁性鉱物 (通常はマグネタイト) の相対的含有量が多いことを意味している。
          • HIRM (hard IRM):HIRM=(SIRM+IRM-0.3T)/2
            HIRMは、残留保磁力が 0.3T以上の強磁性鉱物 (―般的にはへマタイトやゲーサイトなど) の絶対量を反映している。
    • データの整理
磁化温度特性
サンプルに含まれている磁性鉱物の種類を推定する。(鳥居,2005)
  • 低温相変態点を測る。(MPMSなどを用いる)
    • 120K:マグネタイト(Fe3O4
    • ~260K:ヘマタイト(α-Fe2O3
    • 34K:ピロータイト(Fe7S8
  • 高温相変態点を測る。(熱磁気天秤、VSMなどを用いる)
    • 575-586℃:マグネタイト(Fe3O4
    • ~600℃:マグヘマイト(γ-Fe2O3
    • 675℃:ヘマタイト(α-Fe2O3
    • 320℃:ピロータイト(Fe7S8
    • ~120℃:ゲーサイト(α-FeOOH)
ヒステリシス
飽和磁化(Ms)、飽和残留磁化(Mrs)、保磁力(Bc)、残留保磁力(Bcr)を測定。
Day Plot(第2歩参照):横軸にBcr/Bc、縦軸にMrs/Msとするグラフを作る。 軸は線形にとる人もいれば対数でとる人もいる。

Evans(2003)より
実際の例→(鳥居,2005)
粒径分布
Banerjee-King Plot
  • Banerjee Plot:横軸にχ、縦軸にARMというグラフにデータをプロットすると、勾配が大きいほどマグネタイトの粒径が小さくなっていることがわかる。
  • Banerjee-King Plot:横軸にχ、縦軸にχARM(=ARM/H)というグラフに改良した。

    • Evans(2003)より
  • Banerjee-King Plotをもとに、χARM/χをコアの深さに対してプロットし、粒度変化の目安に使うことができる。
ARM/SIRM
  • 大きいほうがマグネタイトの粒子サイズは小さくなる。
  • ARMは単磁区(SD)、なかでも単磁区ー超常磁性(SD-SP)境界付近の粒径で獲得効率のピークがある。
    それに対してSIRMはあまり粒子サイズに依存しない。という特徴がある。
  • ただし、マグネタイトの含有量が少ない場合でも大きな値になる。
その他いろいろな比が堆積物によってさまざまにとられている