岩石磁気→磁化の主たる担い手の推定

産総研
last updated 2023.9.22
磁化温度曲線を得る
  • 磁性鉱物には特定の温度で磁気的に急激な変化(相変態)を示す場合がある。キュリー点などは代表例。
  • 磁気的相変態点は鉱物ごとに異なった温度で起こるので、磁性鉱物の種類をきめるための非常に有力な方法となる。
  • よく使われる機器
キュリー温度
  • キュリー温度の求め方
    • (a) 磁化温度曲線で、急激に磁化が落ちるところについて、二本の接線の交わるところを読み取る。
    • (b)(c) 磁化温度曲線の二次微分のピークを読み取る方法もある。
    • これらは同じデータでも微妙にずれる。

      Figure 8.3
      : a) Ms - T data for magnetite. Inset illustrates intersecting tangent method of Curie temperature estimation.
      b) Data from a) differentiated once.
      c) Data from a) differentiated twice.
      Peak shows temperature of maximum curvature, interpreted as the Curie temperature for this specimen.
      http://magician.ucsd.edu/Essentials_2/WebBook2ch8.html

  • VSMではなく、例えば 磁化率異方性測定システム(Kappabridge system MFK1-FA, AGICO)を用いる
    • -196℃から700℃くらいまで磁化率を測定することができるので、磁化率ー温度曲線からキュリー温度を読み取る場合もある。これも微妙に温度がずれる。

      b) Behavior of ferromagnetic susceptibility (solid line) as the material approaches its Curie temperature (Ms - T data shown as dashed line).
      http://magician.ucsd.edu/Essentials_2/WebBook2ch8.html

  • 代表的な高温相変態点
    • 575-586℃:マグネタイト(Fe3O4
    • ~600℃:マグヘマイト(γ-Fe2O3
    • 675℃:ヘマタイト(α-Fe2O3
    • 320℃:ピロータイト(Fe7S8
    • ~120℃:ゲーサイト(α-FeOOH)
  • 可逆性
    • 磁化温度曲線は加熱と冷却で1サイクル。
    • このパターンを見ることによって、磁性鉱物を推定する。
    • (最近では、磁性から推定するだけでなく化学分析を求められることも多い。)
(ちょこっとチェック)鉱物の構造の呼び分け
  • α相:ヘマタイト
  • β相:マグネタイト
  • γ相:マグヘマイト
真空中の磁化温度曲線

マグネタイト(Fe3O4):模式図(小嶋・小嶋,1972)
真空中の磁化温度曲線が可逆的で、キュリー温度が580℃付近であればマグネタイト。
可逆的な磁化温度曲線で、キュリー温度が580℃より低い時は、チタノマグネタイト(ウルボスピネルの割合が高いほどキュリー温度が下がる)。
チタノマグネタイト(Fe3-xTixO4)の組成とキュリー温度の関係 (河野(1982)より)
チタノマグネタイトは、マグネタイト(Fe3O4)とウルボスピネル(Fe2TiO4)の固溶体

マグネタイト(Fe3O4):磁化温度曲線模式図 小嶋・小嶋(1972)「岩石磁気学」より
(a)のように、真空中の磁化温度曲線が可逆的であればβ相(マグネタイトまたはチタノマグネタイト)。
(b)と(c)のように空気中で加熱した場合はマグネタイト(Fe3O4)→ヘマタイト(αFe2O3)の反応が起きる。
ただしヘマタイト(αFe2O3)のJsはマグネタイト(Fe3O4)に比べて無視できるほど小さい。

チタノマグネタイト:一つの岩石試料の中でもβ相の部分や粒子によってTiの含有量が異なれば、キュリー点や飽和磁化Jsも異なる。
真空中加熱模式図 小嶋・小嶋(1972)「岩石磁気学」
(a)塁帯構造がある場合は最も高いキュリー点のみ決まる。
(b)石基と斑晶で組成が違う場合はキュリー点も2つ現れる。

高温酸化:6Fe2TiO4+O2→6FeTiO3+2Fe3O4
ウルボスピネル+酸素→イルメナイト+マグネタイト
イルメナイトはラメラーになる。
この反応は結晶ができた直後の高温(1000℃から500℃)で起こる。
高温酸化を受けると、Tiの少ないマグネタイトと、Tiの多いイルメナイトに分かれる。
常温のイルメナイトは磁性を持たないので、β相のTi量が少なくなる。
すなわち、高温酸化を既に受けているもの(イルメナイトのラメラーを持つマグネタイト)は、受けていないものに比べてキュリー点も高く飽和磁化(Js)の値も大きい。

低温酸化:酸化が400℃程度より低温で進行する場合は、Fe2+→Fe3+という変化が起こる。
γ相(マグヘマイト:γFe2O3またはチタノマグヘマイト)が存在するということは、2次的に酸化されている証拠。
ただし、Tiが少ない場合は、ほぼ可逆的な磁化温度曲線が得られる。
典型的な例は、海底玄武岩:
小嶋・小嶋(1972)「岩石磁気学」
上図の(a)はイルメナイトラメラーを持たない=Tiをある程度含むチタノマグヘマイト。
下図の(b)と同じ。
加熱時に300度付近で分解が起こって x = 0 に近いチタノマグネタイトが生成し,300→400℃にかけての加熱で磁化の増加が見られる。
冷却時はチタノマグネタイトの曲線をたどる。
上図の(b)のようにイルメナイトラメラーがある場合は、ウルボスピネル+酸素→イルメナイト+マグネタイトの反応が起きているから、マグネタイトの可逆曲線になる。
Dunlop and Oezdemir(1997)「Rock Magnetism」
上図の(a)は低温酸化を受けていない海底玄武岩で、塁帯構構造があるパターン。

熱水変質を受けた海底玄武岩の磁化温度曲線。
Dunlop and Oezdemir(1997)「Rock Magnetism」

真空中で加熱して、非可逆的な磁化温度曲線が得られた場合は、まずγ相の存在を考える。
(a)γ相(マグヘマイトまたはチタノマグヘマイト)は真空中であっても高温で分解されるので、可逆的にならない。
(b)マグヘマイトを空気中で加熱すると、分解され、酸化されてヘマタイトになる。
(c)マグヘマイトとマグネタイトの混合体を真空中で加熱すると、マグヘマイトがキュリー点に達する前に分解されてγ相のキュリー点は現れない。
冷却時の飽和磁化はマグネタイトが増えるのでやや増加する。
小嶋・小嶋(1972)「岩石磁気学」

火山岩
実際の地質試料中では,β相(マグネタイトおよびチタノマグネタイト)とγ相(マグヘマイトおよびチタノマグヘマイト)は、共存している場合が多い。
「酸化被膜」というイメージ。
そこで、真空中加熱したときに、特徴的な非可逆的磁化温度曲線が得られる。
小嶋・小嶋(1972)「岩石磁気学」
加熱したときのキュリー点よりも冷却時のキュリー点が低く、途中まで冷却時のほうが磁化が小さいのが特徴。
小嶋・小嶋(1972)では、TiO2が10-15%含まれる安山岩に見られるとしている。
含まれるTiO2がこれより少ないとキュリー点が高くてγ相のキュリー点まで加熱されないうちに分解されてしまう。
これより多いとキュリー点が低すぎてγ相はキュリー点より上の温度でも存在可能となり、見かけのキュリー点低下は見られない。

蛇紋岩の磁化温度曲線
マグネタイト:Dunlop and Oezdemir(1997)「Rock Magnetism」

ピロータイト(空気中)
天然のピロータイト(Fe1-xS)は,単斜晶系でフェリ磁性のFe7S8と,六方晶系で反強磁性のFe9S10やFe11S12の混合体として産することが多い。
Fe7S8のキュリー点は約320度であり,室温における自発磁化はマグネタイトの約1/6である。
六方晶系のFe9S10は,約200~265度の範囲でフェリ磁性を示す。
その影響はJs-T曲線の加熱カーブで局所的な磁化の増加として観察され,「λ転移」と呼ばれる。
Magnetic phase diagram of pyrrhotite, Nagata(1961) より

コアスクールのテキスト
2008年8月改訂: 山本 裕二, J-DESCコアスクール・古地磁気コースの講習資料として.
初版: 石川 尚人 氏, 2004年3月「若手研究者・学生のための掘削コア磁性測定技術習得ショートコース」講習資料として.より

低温相変態点を測る。(MPMSを使う)
120K:マグネタイト(Fe3O4
~260K:ヘマタイト(α-Fe2O3
34K:ピロータイト(Fe7S8

フェルベー点を得る
マグネタイト(Fe3O4)のフェルベー相変態(Tv):マグネタイトは120 K付近で、低温で獲得させたIRMがシャープに減少する。

マグネタイトのフェルベー相変態(Tv)コアスクールのテキスト

モーリン点を得る
ヘマタイト(Fe2O3)のモーリン点:ヘマタイトはField coolingしたIRMを暖めていくと、260 K前後でIRMが増えるのがはっきり見える。
Dunlop and Oezdemir(1997)「Rock Magnetism」