小笠原海域を地磁気モデリングの対象海域とした。大水深基礎調査では平成10年度(D98測線)を除き、
毎年度反射地震探鉱調査と同時に、重力及び地磁気調査が実施されてきた。
ここでは平成16年度に1)すべての年度にまたがる全データ(重力・磁力・水深)のミスタイ補正、 及び2)測地系の統一(WGS84、UTM[Central Meridian=135°])がなされたコンパイルデータを使用した。
ここでは平成16年度に1)すべての年度にまたがる全データ(重力・磁力・水深)のミスタイ補正、 及び2)測地系の統一(WGS84、UTM[Central Meridian=135°])がなされたコンパイルデータを使用した。
以下は大水深基礎調査の報告書からの抜粋であるが、要約すると、海山の磁気異常モデルから、
この海山のもつ磁化の方向は磁化方位は偏角-18度、伏角0度と推定された。現在の海山の位置におけるIGRFの方位は
偏角-3.6度、伏角36度であるから、この海山は現在の緯度よりも赤道に近いところで磁化を獲得したと推察される。
すなわち、ここでは海山の履歴を磁気異常からざっくりと辿る簡単な例を示した。
- 当該海域を含む広域的な3次元重力解析が既に行われており、平成18年度の報告書Ⅳでその結果が報告されている。 また、同様に報告書Ⅳで広域的な地磁気異常の解析・解釈も既に実施されている。 ただ、広域的な磁気異常の解析では、四国海盆の拡大テクトニクスの解釈に主眼を置いたもので、局所的な地殻構造の解釈はなされていなかった。 そこで、ここでは、測線ごとに反射法地震探査で得られた音響基盤プロファイルを参考にして、磁気異常の解釈を行うこととした。 今回検討した測線は、D00-1、D00-2、D00-3、D01-6、D00-A、D00-B、D00-C、D00-Dである。 1,2,3はほぼ地殻構造に直交する東西の主測線、A、B、C、Dは構造に平行な南北の交差測線となる。
図10.当該海域の測線分布。
- 今回は、D00-C測線について地磁気異常の検討を行った。図11のプロファイルでグラフの左が南端である。
図11.測線D00-Cにおける地磁気異常(nT)にしてある。
- このD00-Cは、小笠原海台から東へ連なっている海山を南北に横切っている。
また、この海山列に沿っている東西測線がD00-2である(図12)。
図12.測線D00-2における地磁気異常(nT)、海底地形(m)、音響基盤深度(m)プロファイル。
距離(m)は測線の始点から。便宜上図では左を西、右を東にしてある。
- 始めに、測線D00-Cについて、地震探査で求められた音響基盤深度を磁化層の上面深度で厚さ5km、
外部磁場と平行な磁化(磁化強度は5A/m)を持つとしてラインソースの足し合わせによって磁気異常を計算した(Calc)。
- 図中、水深が浅くなっている部分が、小笠原海台から東へ延びている海山列に相当する。
ここで観測される磁気異常値は、計算値(D=-3.6、I=36)に比べてかなり伏角が浅いパターンを示すと考えられる。
測線D00-2において、★印をつけた基盤の高まりが、この海山に相当する(図14)。
D00-2はほぼ東西測線だが、測定値からリニアトレンドを引いた値を示した。
図14.測線D00-2に沿って、音響基盤深度を磁性体上面としてラインソースをおいた場合の計算磁気異常。
磁化方位は、当該海域の平均的な外部磁場と平行とし、磁化強度は5 A/mとした。
オレンジ色の観測磁気異常は測線データにおけるリニアトレンドを引いたもの。
測線D00-Cとの交点付近のみを示す。★をつけた山体はD00-Cで見ている山体と共通。
- 今、この山体に相当する部分を海洋情報部のデータから抜き出してみると、平面で見ても、典型的な伏角が非常に浅いパターンを示していることがわかる(図15)。
そして山体のみが、強い磁化を持つと考えられる。四角で囲んだところが、おそらく山体による磁化である。
そこで様々にパラメータを変えてフォワードモデリングによってこの山体の磁化を検討する。
ただし、観測される磁気異常は、ほぼ孤立した磁性体によるものと考えるとしても、実際には、いくつかの周辺の磁気異常の影響が重なっている。
そこで、ここでは、負のピークを説明することを主眼に置く。
図15.測線D00-Cと測線D00-2の交点付近の磁気異常図。
データは海洋情報部のもの。青が測線。黒い四角で囲った部分を山体による磁気異常と考えた。
- まず、一様磁化のプリズムモデルを仮定する。磁気異常のパターンと磁性体の上面深度の関係は振幅に現れる。
音響基盤の深度は海面下およそ1.5kmであるので、これを磁性体の上面深度の目安とする(図16)。
図16.測線D00-Cに沿った磁気異常モデル。山体のうち線で区切った部分(17kmから-7kmまで)のみ磁化強度5 A/mとした。
磁化方位は偏角-18度、伏角0度。モデルは磁性体上面を音響基盤深度+0.5kmとし、東西方向に30kmの幅を持つプリズムの組み合わせで考えた。
- ここで、点線で区切った-7 kmから17 kmの間だけ5 A/mで磁化しているものとして計算した。
偏角は-18度、伏角は0度とした。
マッピングのときに常に問題になることだが、観測する測線の密度が磁気異常に対して空間的なフィルターとなる場合がある。
ここでは、測線上のデータを用い、構造モデルも2.5次元モデルで考えた。
そのため、磁気異常の表れ方が実際とは異なるのかもしれない。
また、ここでは磁性体の上面深度は音響基盤深度とした。
山頂付近の基盤深度は1km強であり、これはかなり浅い。
そこで、磁気異常に音響基盤深度の揺らぎが敏感に反映されてしまう結果となった。
それを避けるためにモデルでは0.5km深くして計算した。磁化層の厚さは、15 kmとした。
海山であればもっと根は深いはずであるが、距離が遠くなれば海面で観測される磁気異常への影響は小さいという判断による。
このモデルによって、観測される磁気異常の負異常は説明できるだろう。
- 振幅を小さくするには磁化強度をわずかずつ小さくすれば良い。
通常、伏角0度の場合、北と南の正異常は負異常のピークの半分ほどの振幅で対称に現れる。
この観測値の場合、北側の正異常が南側と非対称であるのは、北側に他の磁性体が存在し、その影響と考えられる。
このとき、北側の磁性体は伏角が0度よりも深いのではないかと予測される。
- また、ここでは具体的には示さないけれども、D00-BとD00-Dにおいても、
測線の北側の山体と磁気異常プロファイルを見れば、小笠原の外部磁場の伏角(36度)よりも浅い伏角をもつことを示唆する(図17、図18)。
図17.測線D00-Bにおける地磁気異常(nT)、海底地形(m)、音響基盤深度(m)プロファイル。距離(m)は測線の始点から。
便宜上図では左を南、右を北にしてある。
図18.測線D00-Dにおける地磁気異常(nT)、海底地形(m)、音響基盤深度(m)プロファイル。距離(m)は測線の始点から。
便宜上図では左を南、右を北にしてある。