根室:古地磁気のデータ

産総研
last updated 2023.9.22
採取地点
高重力異常を説明できるほど密度の高い岩体の候補として,根室層群中に小規模ながら噴出相として産出するアルカリかんらん石粗粒玄武岩を想定した.採取地点をシームレス地質図上にプロットしたものを第1図に示す.シームレス地質図基本版ではアルカリかんらん石粒玄武岩の分布は明瞭に記されてはいないが、上遠(1985BS)に根室半島の玄武岩についての詳細な記載がある.サイトDG1,DG2は採石場になっており,玄武岩が採取されている.それぞれのサイトから方位は付けずに,ブロックサンプルを採取し,合計45個の試料片を得た.

第1図 サンプリングサイト
磁化率測定
  • 密度はガス置換式の密度測定装置(Accupyc 1330; Micrometrics Inc.)で測定した.これには,各ブロックサンプルから小片を粗く砕いたものを用いた.
  • 磁化率と自然残留磁化(NRM)はブロックサンプルを直径2.0-2.5cm,高さ2.0-2.5cmの円筒形に成型した試料片を用いた.
    磁化率は試料片すべてについて磁化率計(MS-2; Bartington)で測定した.
    磁化率対密度(a),磁化率対NRM(b)をプロットしたものを第2図に示した.
    (a)
    (b)
    第2図
段階交流消磁(AFD)
  • NRMの測定では,試料片に段階交流消磁(AFD)を実施するものと段階熱消磁(ThD)を実施するものに分けた.
    さらに,段階交流消磁は,交流消磁装置(夏原技研製)とスピナー磁力計(SMM85;夏原技研)を用いて実施したものと,パススルー型超伝導磁力計(model760; 2G Enterprises)を用いて実施したものがある.前者は0,2.5,7.5,15,20,30,45mTの7段階の測定を行い,後者は0-70mTまで5mTずつ15段階の測定を行った.
    代表的な段階交流消磁結果のザイダーベルド図(Zijderveld, 1967)を第3図(a)~(f)に示した.
    (a)
    (b)
    (c)
    (d)
    (e)
    (f)
    第3図 サイトDG1,DG2,NKM1,NKM2,NSP2,NSP3(第7図参照)から得られたサンプルの交流消磁(AFD)結果のザイダーベルド図(Zijderveld, 1967)の例.Ei:水平面投影(●),Zi:鉛直面投影(○),北が下.試料は方位付されていない.(a)DG1,(b)DG2,(c)NKM1,(d)NKM2,(e)NSP2,(f)NSP3

段階熱消磁(ThD)
  • 段階熱消磁(ThD)はサンプルに応じて変えたものもあるが,基本的に室温(約20℃),100,200,300,350,400,450,500,550,600℃の10段階の測定を行った.
  • 残留磁化はスピナー磁力計(SMM85;夏原技研)で測定した.方位をつけずにサンプリングを行っているので,結果に示される磁化方位は相対的なものである.
  • 代表的な段階熱消磁結果のザイダーベルド図を第4図(a)~(b)に示した.
    (a)
    (b)
    第4図 サイトNKM1,NSP3(第7図参照)から得られたサンプルの熱消磁(ThD)結果のザイダーベルド図(Zijderveld, 1967).Ei:水平面投影(●),Zi:鉛直面投影(○),北が下.試料は方位付されていない.(a)NKM1,(b)NSP3
  • 段階交流消磁の結果から求めたMDF(median destructive field)と,段階熱消磁の結果から磁化強度がNRMの10%になる温度(Tb)を密度,磁化率,NRMと共に第1表にまとめた.
    表には測定が不安定だったデータも含めてある.なお,消磁曲線にはVDS(the vector difference sum; Tauxe,1998)を採用した.
    第1表の末尾に参考値として,岩石物性値データベース(PROCK; https://gbank.gsj.jp/prock/welcome.html, 2014年3月28日確認)に収録されている花咲岬で得られた粗粒玄武岩の密度,磁化率,NRMを付けた.
ARM着磁実験

パススルー型超伝導磁力計を用いて段階交流消磁を行った試料片を用いて,非履歴性残留磁化(ARM)を着磁したのちに同様の段階交流消磁も行った. ARMの着磁実験の結果は第5図に,そののちの段階交流消磁を行った磁化強度変化を第6図に示した.

第5図 ARMの着磁実験

第6図 サイトDG1,DG2,NKM1,NKM2,NSP2,NSP3(第1図参照)から得られたサンプルにARMを付加し(第5図),それを交流消磁(AFD)したもの.

熱磁気分析

5サンプルについてヒステリシスの測定と熱磁気分析を行った.これには0.1-0.2gの試料を取り,振動型磁力計(VSM, BHV-55LH;理研電子)を用いた.熱磁気分析はほぼ真空中で行った.ヒステリシスは熱磁気分析を行う前と後にそれぞれ測定した.
加熱前のヒステリシスパラメーターをDay-Plot(Day,1976;1977)上にプロットしたものを第7図に示した.

第7図 加熱前のサンプルについて,ヒステリシスパラメーターをDay-Plot(Day,1976;1977)上に示したもの.ただし,エリアの境界線はDunlop(2002)による.
Hcr:残留保磁力,Hc:保磁力,Mr:飽和残留磁化,Ms:飽和磁化
そして典型的な磁化温度曲線(Js-T曲線)を第8図(a)~(e)に示した.
(a)
  (b)
  (c)
  (d)
  (e)
  第8図 真空中の熱磁化曲線(Js-T)からキュリー温度を読み取ったもの.(a)DG1, (b)DG2, (c)NKM1, (d)NSP1, (e)NSP3
また,キュリー温度とヒステリシスパラメーターを下の表に示した.

                   
Sample Tc(℃) Hc(mT)before Hcr(mT) Mr(Am2/kg) Ms(Am2/kg)
Hc(mT)after Hcr(mT) Mr(Am2/kg) Ms(Am2/kg)
NSP353011.79 21.77 0.2989 2.4344
13.98 27.11 0.3202 2.2934
DG248512.64 26.93 0.2546 2.0961
9.26 failed 0.1712 1.8127
NSP15406.2 16.9 0.1682 3.057
11.22 29.73 0.25872.7729
NKM14803.6 13.21 0.1287 3.7468
11.21 28.19 0.3283 2.9361
DG150011.21 24.36 0.2935 3.047
10.13 21.86 0.2585 2.7397

低温磁化分析

加えて,NSP1とNKM1のサイトから得られた試料片を低温磁化測定装置(MPMS-XL5; Quantum Design)で磁化を測定して頂いた(中井,2007私信).
この低温磁化温度曲線を第9図に示した.
(a)
(b)
第9図 得られた試料片の規格化された磁化と無磁場中の温度曲線ならびにその微分.温度は10°Kより1分間に2°Kずつ上昇させている.(中井,2007私信)
(a) NKM1, (b)NSP1
これらの結果から,根室層群中に小規模に噴出相として産出するアルカリかんらん石粗粒玄武岩は強く安定した磁化を持っていると言える. そして,熱磁化曲線によるキュリー温度やフェルウェイ点から,磁化を担うのは主としてマグネタイト(あるいはチタノマグネタイト)であろうと考えられる.
ただし,中には第9図(b)に示すようにマグネタイトではない磁性鉱物が磁化を担っている可能性があるものもある. これは異質なものが噴出していると考えるよりも,地表に現れた後で風化によって変化したものと考える方が妥当であろう. 同じサイトから得られたサンプルの高温磁化曲線(第8図(d))からは,磁化を担うのは主としてマグネタイト(あるいはチタノマグネタイト)であろうと判断できる.
以上のことから,露岩を採集したサンプルであることを勘案しても,密度も磁化率も大きいサイトがあり(第2図(a)),高重力、高磁気異常の原因として根室層群中のアルカリかんらん石粗粒玄武岩は有望である.

第1表

Sample Density
(10-3kg/m3)
Susceptibility
(SI)
NRM(A/m) MDF(mT) Tb(℃)
DG-1 1 2.7220 0.04800 1.80740 8 NONE
DG-1 2 2.7220 0.04304 0.76760 NONE 561
DG-1 3 2.7220 0.04330 1.02940 1.4? NONE
DG-2 1 2.6530 0.03600 1.43960 1.4? NONE
DG-2 2 2.6530 0.03417 0.97896 NONE 553
DG-2 3 2.6530 0.03590 0.75311 8.2 NONE
DG-2 4 2.6530 0.03480 0.36346 NONE 554
NSP-1 1 2.3697 0.05930 1.20160 1.4? NONE
NSP-1 2 2.3697 0.05924 1.36730 NONE 554
NSP-1 3 2.3697 0.05860 1.21670 1.4? NONE
NSP-1 4 2.3697 0.05093 1.76330 NONE 520
NSP-2 1 2.9739 0.07680 NONE NONE NONE
NSP-2 2 2.9739 0.07176 0.651280 NONE 542
NSP-2 3 2.9739 0.07480 1.406600 4.6 NONE
NSP-2 4 2.9739 0.07710 1.525600 NONE 538
NSP-2 5 2.9739 0.07570 0.640530 1.9? NONE
NSP-2 6 2.9739 0.07343 0.636410 NONE 541
NSP-2 7 2.9739 0.07340 1.147600 4.9 NONE
NSP-3 1 2.6544 0.04300 1.919900 13.6 NONE
NSP-3 2 2.6544 0.05286 2.144800 NONE 535
NSP-3 3 2.6544 0.05190 2.546400 1.5? NONE
NSP-3 4 2.6544 0.05020 3.381700 NONE 479
NSP-3 5 2.6544 0.05320 1.514700 13.4 NONE
NSP-3 6 2.6544 0.05101 2.688900 NONE 505
NSP-3 7 2.6544 0.04890 1.938200 12.6 NONE
NKM-1 1 2.7751 0.01510 0.761440 32.1 NONE
NKM-1 2 2.7751 0.01694 1.212700 NONE 570
NKM-1 3 2.7751 0.01820 0.738370 28.2 NONE
NKM-1 4 2.7751 0.01415 1.348700 NONE 559
NKM-1 5 2.7751 0.01480 1.369200 38.3 NONE
NKM-1 6 2.7751 0.00425 2.811200 NONE 583
NKM-1 7 2.7751 0.01094 1.553400 25.3 NONE
NKM-2 1 2.7320 0.06285 0.768120 35.1 NONE
NKM-2 2 2.7320 0.05653 0.598310 NONE 578
NKM-2 3 2.7320 0.06167 0.787520 28.5 NONE
NKM-2 4 2.7320 0.05783 0.322380 NONE 565
NKM-2 5 2.7320 0.06108 0.522820 28.5 NONE
1005-1 1 2.7104 0.06406 NONE NONE NONE
1005-1 2 2.7104 0.06096 15.91 NONE 532
TBl -1 1 2.0655 0.04740 0.39188 3.2 NONE
TBl -1 2 2.0655 0.04816 0.14661 NONE 546
TBl -1 3 2.0655 0.04982 0.34842 1.3? NONE
TBl -1 4 2.0655 0.04706 0.18383 NONE 475
TBl -1 5 2.0655 0.04877 0.17317 2.8 NONE
TBl -1 6 2.0655 0.04681 0.01859 NONE 539
花咲 2.5900 0.04700 0.954 NONE NONE
花咲 2.6500 0.06160 0.404 NONE NONE

試料の密度,磁化率,NRM,MDF,ならびに磁化強度がNRMの10%になる温度Tb.MDFはVDSより推定した.